公認心理師 2024-6

示されている手法に該当する研究法を選択する問題です。

過去問でも出題されている領域ですから、しっかりと答えられるようにしておきたいですね。

問6 ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① SD法
② 順位法
③ 一対比較法
④ 多肢選択法
⑤ 二項選択法

選択肢の解説

① SD法

SD(Semantic Differential)法は、コンセプトに対する情緒的意味を測定する技法であり、Osgoodにより考案されました。

このSD法における「コンセプト」とは、直訳となる「概念」に限定せず、広く評定対象全般を指します。

SD法はもともとオズグッドの提唱する意味論を定量的に検証するために開発された技法であったが、その後オズグッドの意味論の是非とは独立に「刺激に対して人々が抱くイメージ(印象)を簡便かつ多次元的に測定する技法」として、色・形・資材などのデザイン要素、音や音楽、製品、建築物、都市景観などさまざまなコンセプトの印象評価に適用されてきました。

SD法では多数の形容詞対尺度を用いるが、因子分析により少数の因子に要約できます。

オズグッドらは、言語圏・文化圏を超えた基本的な因子、すなわち情緒的意味次元として「価値(評価性)」「力量性(潜在性)」「活動性」の3次元が抽出されると主張しました。

この3次元構造は多くの研究で確認された一方で、用いられたコンセプト・尺度によっては必ずしもこの因子構造と一致しない場合もあります。

例えば、色、形、映像、音楽など複数の感覚刺激に共通する因子構造を検討した研究では、力量性の因子が「軽明性」と「鋭さ」に分離した4因子構造が確認されています。

形容詞対の選択においては、コンセプトに対する関連性が高く、被験者にとって語彙的に馴染みがあり、単語の意味が個人の意味感に左右されないことに留意する必要があります。

オズグッドらはコンセプトに関連性が高い語を自由連想法や類語辞典検索により収集していますが、現在では多くのSD法研究が蓄積されていることから、先行研究で妥当性が確認された尺度を用いることが有効になっています。

形容詞対の配置は一般的に以下の図のようになっています。

評定尺度の段階については、「微細な感性印象の差異を判別できること」と「段階が細かすぎると回答に時間がかかる被験者の負担が増える(結果的に真面目な回答が得られにくい)こと」のバランスを考慮すると、5段階か7段階が採用される場合が多いです。

SD法ではこれらの段階を等間隔(間隔尺度)と見なした分析を行うことから、評定尺度用語(「とても」などの程度量表現語)のみでなく線分尺度を明示して被験者に評定段階の心理的等間隔性がわかるようにする必要があります。

尺度の提示順序はランダムに配置されることが多いが、「最初に好みに関する尺度を配置しない方が良い」「類似した情緒的意味をもつ尺度を連続させない方が良い」「形容詞対の左右配置順を一定にしない(『暗い‐明るい』『弱い‐強い』など常に尺度左側の語がマイナス方向、右がプラス方向の語になることを避ける)」などの工夫がなされる場合もあります。

このようにSD法とは、対立する形容詞の対を用いて、多段階選択肢のアンケートを取り、回答者があるトピックへ抱く感情を測定する手法ですから、本問の「ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法」に合致することがわかります。

なお、本問の全体的なイメージとして上記を踏まえておけばわかりやすいと思います。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

② 順位法

順位法は品等法とも呼ばれます。

比較的多数の刺激を互いに関連させて判断することは簡単であり、適用範囲が広いです(この考え方は一対比較法でも述べます)。

一対比較法に基づく尺度構成もこれと同様の特性を持ちますが、系列的な順序に並べることができる刺激であれば、比較的簡便に順位法を用いることが可能です(それに、観察者としては一対比較法よりも順位法の方がわかりやすい)。

順位法においては、多数の観察者に刺激を特定の基準に従って順位を決めさせ、その結果を統計的に処理します。

順位の決め方は、最も程度の著しいものを1番とし、その他の刺激を次々と配列します。

刺激の数が多い時は、いちいち比較を行うのは時間と労力を要するという問題もあります。

こうして得られた順位法の各数値は、特定の刺激に与えられた順位を示すに過ぎませんから、平均は意味を持たず、中央値も順序尺度数でしかありません。

すなわち、順位法で得られるデータは順序尺度に属するものと限定されるということです。

ちなみに順序尺度とは、測定値の順序関係や大小関係を表す尺度であり、順序は付きますが、各順序間の差は心理的に等距離であることが保証されませんから、名義尺度と同様に四則演算することはできません。

よって、順序尺度には、名義尺度の統計量に加え、中央値、パーセンタイル、順位相関係数といった統計量を用いることになり、マン・ホイットニーの検定、符号つきの順位検定などの分析を実施できます。

なお、順位相関係数の基本的な考え方を軽く述べておくと、2人の評定者が3つの事柄について評定を行ったとき、全く同じ評定(123・123)と完全に逆の評定(123・321)では、同じ順位を掛け合わせた数の総和(同じ評定:1×1+2×2+3×3、逆の評定:1×3+2×2+3×1)では、全く同じ評定の総和の方が大きくなりますね。

この特徴を生かして相関係数に持っていくのが「順位相関係数」になるわけです。

上記を踏まえれば、順位法は「ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法」ではないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 一対比較法

普段の生活で感覚の量的特性を直観的に理解することは、一般的には起こりません。

例えば、明るさに関しては暗さから明るさへの質的に変異する連続性がありますが、そこに直観的に数値を対応させることができるような強弱を感じることはありません。

すなわち、感覚的に体験しているのは、観察対象の質的な特性であり、量的な特性ではないということですね。

これらを踏まえ、自分の感じた感覚量を直接表現するのではなく、質的な判断から間接的に感覚尺度を構成する方法が提案されており、こうした方法は「間接的尺度構成法」と呼ばれます。

そして、この「間接的尺度構成法」のうち、利用頻度が高いのがサーストンの一対比較法になります。

特定の、個別の対象の観察で生じた感覚や印象の強さを数値で表現したり、複数の対象について感覚や印象の強さを一度に比較したりするのは難しいことです(上記の例の通りですね)。

ところが、それらの対象を2個ずつ組み合わせて対を作って、それら2つの間で個別の感覚や印象の強さを比較することは、それほど難しくありません。

一対比較法は、このように2つの対象を組み合わせて作った対にたいして、より強い感覚や印象を生じる対象を選ぶことで、尺度構成する方法です。

この方法を用いれば、例えば、複数ある刺激の明るさや大きさ、重さといった感覚に関する尺度構成も比較的簡単にできます。

また、絵画や音楽などの芸術作品における好悪や美しさ、快適感、調和、バランスなどの印象に関する尺度構成も可能になります。

まとめると、一対比較法とは、多くの属性を持つ複数の評価対象すべての組み合わせについて、対象を一対ずつ組み合わせて提示し、快不快や好き嫌いなどの判断基準によっていずれか一方を選択させ、その比較判断に基づいて、評価対象を順序的に位置づける方法です。

感覚的印象の大小や好嫌などについて評定・選択させて刺激の主観的価値を計量化する方法で、人間の感覚的判断以外に計測法がないような分野で用いられる官能検査法の一つになります。

例えば、10個の物の好悪を順番に並べるという状況において、10個の物を1対1で比較することによって、それぞれの商品の選好度の微妙な差を適切に反映した順位付けが可能になるというのが「一対比較法」であるわけですね。

これらを踏まえれば、一対比較法は「ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法」ではないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 多肢選択法

調査票や質問紙において、3つ以上の回答の選択肢を被調査者に提示し、そのいずれか1つ、ないしは1つ以上を選ばせる形式のもの指し、 2項選択法などとともに選択的回答法と総称されます。

多肢選択法は、実施の容易さ、時間当たりに実施できる問題の多さ、採点の容易さ、また採点基準の客観性などの利点から、様々な試験や学習の場で多用されています(よく知ってますよね。そうマークシート試験が代表です)。

このように多肢選択法とは、複数の選択肢を提示し、その中からあてはまる選択肢を選択してもらう方法のことを指しますから、本問の「ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法」ではないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 二項選択法

調査において2つの選択肢を示し、そのうちのいずれかをとらせる質問の形式であり、二分質問法とも呼ばれます。

「はい」か「いいえ」かをたずねる場合(賛否質問法)、真か偽かをたずねる場合(真偽質問法)をこのなかに含めることもあります。

ちなみに、複数の選択肢の中から最もよくあてはまる選択肢を一つ選んでもらう方法が「単数回答法」、特に「はい」と「いいえ」など二つの選択肢の中から選んでもらう方法を「二項選択法」、三つ以上の選択肢の中から選んでもらう方法を「多項選択法」と呼びます。

上記を踏まえれば、二項選択法は本問の「ある事柄に対する印象やイメージを複数の形容詞対を用いて段階的に評定させる方法」ではないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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