公認心理師 2024-30

HbA1cが管理の指標に用いられる疾患を選択する問題です。

こちらは明確に過去問で出題されている内容になりますね。

問30 HbA1cが管理の指標に用いられる疾患として、適切なものを1つ選べ。
① 糖尿病
② 気管支喘息
③ 脂質異常症
④ 慢性心不全
⑤ 関節リウマチ

選択肢の解説

① 糖尿病

公認心理師 2020-29」で出題されている内容ですね。

グルコース(ブドウ糖)は、人体の活動のエネルギー源となる物質の一つであり、正常な状態では、血中濃度(=血糖値)が一定範囲に調節されています。

膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンのインスリンは、血糖値を下げる働きをもち、血糖値のコントロールにおいて重要な役割をもちます。

インスリンの分泌には、通常の「基礎分泌」と、食事により血糖値が上がった場合に起こる「追加分泌」があり、両者により血糖値は一定に保たれています。

インスリンの産生や機能が異常になり、血糖値が上昇した状態が「糖尿病」です。

空腹時血糖126mg/dL以上および、1か月の血糖値の平均を反映するヘモグロビンA1c(HbA1c)6.5%以上の場合に糖尿病と診断されます。

すなわち、HbA1cとは、ヘモグロビン全体の何%が血糖と結合しているかを示した値であり、日々の血糖値は食事やその他の影響で刻々と変化していますが、HbA1cは最近3か月間の血糖の平均的な高さを表していると考えられています。

なお、血糖が正常で健康な人では、HbA1cの値は5%台前半またはそれ以下です。

日本糖尿病学会によれば、糖尿病の管理目標としては、①血糖正常化を目指す場合:6.0%未満、②合併症予防のため:7.0%未満、③治療強化が困難な際:8.0%未満、の3段階に分類しています。

HbA1c値は血糖の平均をおおまかに知ることができ、糖尿病の診断や治療の評価に利用されていますが、限界もあります。

日々の血糖値の変動幅が大きい人とそうでない人で血糖の平均レベルが同じだと、HbAlc値は同じになってしまいます。

最近では、HbA1c値が同じでも、日々の血糖変動が激しい人は心臓・血管合併症や低血糖を起こしやすいのではないかと考えられています。

また、貧血がある人もヘモグロビンが少ないためHbA1c値を正確に評価できません。

こちらのサイトでより詳しく理解しておくと良いでしょう。

上記を踏まえれば、本問の「HbA1cが管理の指標に用いられる疾患」は糖尿病であると言えます。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

② 気管支喘息

気管支喘息の患者は、年齢、症状、その重症度において、極めて多様性に富んでおり、さらには患者個人においても、症状が経時的に変化することから、気管支喘息と診断するためには、①発作性もしくは反復性の気道閉塞症状(呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳など)が存在すること、②その気道閉塞は部分的であってもよいが可逆性を有していること、③他の心肺疾患など鑑別可能な疾患を除外できることの3点が必要とされています。

これらは、医療面接による病歴の聴取、患者の身体所見、ならびに臨床検査所見の結果から総合的に判断されます。

気管支喘息の診療は、外来が中心となるが、医療面接と診察により得られる身体所見から、呼吸状態の把握と他疾患との鑑別が大切です。

外来診療において必要な基本検査として、動脈血ガス分析による呼吸状態の把握や肺機能検査による一秒量(FEV1.0)、一秒率(FEV1.0 /FVC)やピークフロー値(PEF)の測定は、気道閉塞の程度と重症度を判定する上で必要な検査とされています。

  1. 呼吸状態の把握と重症度判定に必要な検査
    ①動脈血ガス分析(もしくはパルスオキシメーターによる酸素飽和度の測定)
    ②肺機能検査(FEV1.0 /FVC or PEF)
  2. 全身状態の評価と鑑別診断に必要な検査
    ①胸部 X 線写真
    ②末梢血液検査:RBC、Hb、Ht、赤血球恒数、WBC、WBC分画、血小板
    ③血液生化学:血清総蛋白、A/G 比、総コレステロール、AST、ALT、LD、ALP、γGT、UN、クレアチニン、尿酸、Na、K、Cl
    ④CRP
    ⑤尿検査:蛋白、糖、潜血、沈渣
    ⑥喀痰検査:細菌塗抹・培養、細胞分画(好酸球の有無など)

上記は気管支喘息の診断に必要な検査ですが、アレルギー状態の評価として血清総IgEの測定(RIST)や吸入抗原に対する特異的IgEの測定(RAST)は専門施設以外でも可能な検査です。

息切れ・呼吸困難呼吸数/分脈拍数/分肺機能
軽度・歩行時
・苦しいが横になれる
増加<100■PEF(%予測値 or 自己最良値):>80%
■PaO2 :正常
■PaCO2:<45mmHg
■SaO2%:>95%
中等度・会話時
・苦しくて横になれない
増加100~120■PEF :60~80%
■PaO2 :>60mmHg
■PaCO2:<45mmHg
■SaO2%:91~95%
高度・安静時
・苦しくて動けない
>30>120■PEF :<60%
■PaO2 :≦60mmHg
■PaCO2:≧45mmHg
■SaO2%:<91%
重篤状態・チアノーゼ
・意識障害
・呼吸停止
徐脈■PEF :測定不能

また、こちらは「喘息急性増悪重症度分類」になります。

これらの中に、本問のHbA1cは含まれておらず、気管支喘息の何らかの指標として活用されているとは言えないですね

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 脂質異常症

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。

脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があり、これらはいずれも動脈硬化の促進と関連します。

LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドのうち、メタボリックシンドロームの診断基準に用いられる脂質の指標は、HDLコレステロールとトリグリセライドです。

しかし、LDLコレステロールは単独でも強力に動脈硬化を進行させるため、メタボリックシンドロームの有無に関係なく、LDLコレステロールの値にも注意する必要があります。

脂質異常症の診断基準は以下のとおりですが、この基準に当てはまる場合でも、すぐに治療が必要というわけではありません。

  • LDLコレステロール
    140mg/dL以上:高LDLコレステロール血症
    120~139mg/dL:境界域高LDLコレステロール血症
  • HDLコレステロール
    40mg/dL未満:低HDLコレステロール血症
  • トリグリセライド
    150mg/dL以上(空腹時採血):高トリグリセライド血症
    175mg/dL以上(随時採血):高トリグリセライド血症
    ※基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。
  • Non-HDLコレステロール
    170mg/dL以上:高non-HDLコレステロール血症
    150~169mg/dL:境界域高non-HDLコレステロール血症

LDLコレステロールの高値の原因として、まず第一に食事中の飽和脂肪酸のとりすぎがあげられます。

飽和脂肪酸は、肉の脂身(赤身ではなく白い部分。バラ肉、ひき肉、鶏肉の皮も含む)・バターやラード・生クリームなどに多く含まれます。

パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。

一般的には、冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸の多い油脂であることが多く、サラダ油や魚油のような液体の油は、不飽和脂肪酸の多い油脂であることが多くなっています。

上記の脂質異常症の診断に用いる指標、その増悪の指標に本問のHbA1cは含まれていないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 慢性心不全

「心不全」とは「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されます。

従来「急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全をきたし、それに基づく症状や徴候が急性に出現、あるいは悪化した病態」を急性心不全とし、「慢性の心ポンプ失調により肺および/または体静脈系のうっ血や組織の低灌流が継続し、日常生活に支障をきたしている病態」を慢性心不全と定義し、区別していましたが、明らかな症状や兆候が出る以前からの早期治療介入の有用性が確認されている現在では、この急性・慢性の分類の重要性は薄れています。

そもそも「心不全」は心腔内に血液を充満させ、それを駆出するという心臓の主機能のなんらかの障害が生じた結果出現するため、心外膜や心筋、心内膜疾患、弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、不整脈、内分泌異常など、さまざまな要因により引き起こされるものです。

しかしながら、心不全の多くの症例においては、左室機能障害が関与していることが多く、また臨床的にも左室機能によって治療や評価方法が変わってくるため、これに則った定義、分類をしていくことが必要とされています。

そこで日本循環器学会でも、急性心不全・慢性心不全のガイドラインを示すにあたり、アメリカ心臓病学会財団のガイドラインを参考に、心不全の分類として左室収縮能による分類が多用されることになっています。

以下が、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)ならびに、LVEFの保たれた心不全
(HFpEF)の定義になります。

  • LVEFの低下した心不全(40%未満)
    収縮不全が主体。現在の多くの研究では標準的心不全治療下でのLVEF低下例がHFrEFとして組み入れられている。
  • LVEFの保たれた心不全(50%以上)
    拡張不全が主体。診断は心不全と同様の症状をきたす他疾患の除外が必要である。有効な治療が十分には確立されていない。
  • LVEFが軽度低下した心不全(40%以上50%未満)
    境界型心不全。臨床的特徴や予後は研究が不十分であり、治療選択は個々の病態に応じて判断する。
  • LVEFが改善した心不全(40%以上)
    LVEFが40%未満であった患者が治療経過で改善した患者群。HFrEFとは予後が異なる可能性が示唆されているが、さらなる研究が必要である。

なお、一回拍出量を左室拡張末容積で割り、100をかけたものが左室駆出率(LVEF)です。

1回の収縮で左室拡張末期容積の何%が駆出されるかを表しており、心臓(左心室)の収縮能の体表的な指標です(なお、正常値は55〜80%です)。

LVEFの計算で必要な左心室の容積は、心プールシンチグラフィー・左室造影・MRI・CTなどで測定した指標に基づいて計算しますが、最も多用されているのは心エコーで計測した指標です。

心エコーで求めたLVEFは、循環器専門医だけでなく、一般内科医や外科医にも馴染みのある心機能の指標です。

さて、上記を踏まえた上で、慢性心不全の診断について見ていきましょう(図は、慢性心不全の診断フローチャートです)。

心不全の診断では、自覚症状、既往歴、家族歴、身体所見、心電図、胸部X線をまず検討します。

既往歴とは、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病、化学療法歴など、心不全発症のリスク因子として知られているものを指します。

家族歴では遺伝性疾患の有無などをチェックします。

健康診断を除くと、患者はなんらかの自覚症状、あるいは心電図や胸部X線の異常があるために医療機関を受診するので、医療現場ではここまでの段階で心不全を否定できることは少ないです。

慢性心不全を疑う場合、次に行うべき検査は血中BNP/N末端プロBNP(NT-proBNP:心臓にストレスが加わったときに血中に増加する「心筋ストレスマーカー」のこと)値の測定とされています。

カットオフ値は存在するものの、軽度の心不全患者や高度肥満を有する心不全患者などではこの値を下回ることもあるので、BNP35~40pg/mLあるいはNTproBNP125pg/mL以上の値を認め、症状、既往・患者背景、身体所見、心電図や胸部X線などから心不全の可能性が強く疑われる場合も、心エコー法を行うことは妥当です。

BNP/NT-proBNPは年齢、性、腎機能などにも影響を受けるため、患者に応じてカットオフ値を考えるべきであると同時に、この値のみで短絡的に心不全の有無を判断すべきではなく、総合的に評価し、追加検査の要否を判断すべきです。

BNP/NT-proBNPが異常値である、身体所見で弁膜症を疑わせる心雑音が聴取される場合は、心エコー図で左室の構造的/機能的異常を認めるものの原因疾患の診断に至らない場合などは、疑う疾患に応じてコンピュータ断層撮影(computed tomography:CT)、磁気共鳴像magneticresonance imaging:MRI)、核医学検査など他のモダリティーを用います。

こうした各指標を用いて慢性心不全の診断を行っていくわけですが、これらは本問で問われているHbA1cは含まれていないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 関節リウマチ

関節内に存在する滑膜という組織が異常増殖することによって関節内に慢性の炎症を生じる疾患で、進行すると関節が破壊され様々な程度の機能障害を引き起こします。

関節が炎症を起こし、軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれ、放っておくと関節が変形しますが、 腫れや激しい痛みを伴っており関節を動かさなくても痛みが生じるのが他の関節の病気と異なる点です。

最初は両方の手や足の指の関節が対称的に腫れて、とくに朝、こわばるようになります。

また、人によっては膝関節や股関節など大きな関節にも病変が進み、水が溜まり、動きにくくなり、痛みのために日常生活に困難をおぼえるようになります。

どの年代でもおこりますが、特に30~40歳代の女性に多く発症します。

軽症の人もいれば重症の人もいて症状も多彩です。

遺伝的要因や細菌・ウイルスの感染などが考えられていますが、原因はまだよくわかっていません。

関節リウマチの病態は、自己免疫疾患(自分の身体の一部を自分のものではないとして、これに対する抗体をつくって反応を起こす)と考えられており、このために関節液をつくる滑膜という組織にリンパ系細胞が集まって反応が生じます。

そして、滑膜はさまざまな破壊物質の産生工場となって、しだいに自分の軟骨や骨を破壊してゆきます。

最近は治療薬の進歩により関節リウマチの進行を抑えることが可能となったので、発病してなるべく早い時期に診断して、治療を始めることが重要になってきました。

関節リウマチの診断には、長い間1987年の米国リウマチ学会による分類基準が使われてきましたが、この基準では早期の患者を関節リウマチと診断できないことが多く、早期診断には適していませんでした。

このような状況から、2010年に米国および欧州リウマチ学会が合同で新しい分類基準を発表しました。

この基準では、少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う炎症(滑膜炎)がみられ、その原因として関節リウマチ以外の病気が認められない場合に、

  1. 症状がある関節の数:罹患関節数
  2. リウマトイド因子(RF)または抗CCP抗体:血清学的検査
  3. CRPまたは赤沈値:急性期反応物質
  4. 症状が続いている期間:症状の持続期間

の4項目についてのそれぞれの点数を合計し、6点以上であれば関節リウマチと診断、抗リウマチ薬による治療を開始することになっています。

日本リウマチ学会でもこの基準が検証され、早い時期での関節リウマチの診断に役立つことが示されました。

ただし関節リウマチ以外の病気でも合計6点以上になってしまうことがあるため、点数をつける前に他の疾患の可能性がないか十分に検討する必要があります。

上記を踏まえれば、関節リウマチの指標として本問のHbA1cは含まれていないことがわかります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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