公認心理師 2024-51

いじめ防止対策推進法の内容に関する問題です。

いじめの対応には、その人が「いじめをどう捉えているのか」が強く反映される気がします。

問51 いじめ防止対策推進法の内容として、不適切なものを1つ選べ。
① 児童等は、いじめを行ってはならないとされている。
② いじめ被害者・加害者が通う「学校」には、幼稚部を除く特別支援学校が含まれる。
③ 私立学校は、いじめ重大事態が発生したときは、都道府県教育委員会に報告しなければならない。
④ 保護者は、児童等がいじめを行わないよう、児童等に対し規範意識を養う指導を行う努めがある。

選択肢の解説

① 児童等は、いじめを行ってはならないとされている。
④ 保護者は、児童等がいじめを行わないよう、児童等に対し規範意識を養う指導を行う努めがある。

これらの内容については、明確に法律で規定されております。


(いじめの禁止)
第四条 児童等は、いじめを行ってはならない。
(保護者の責務等)
第九条 保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする。
2 保護者は、その保護する児童等がいじめを受けた場合には、適切に当該児童等をいじめから保護するものとする。
3 保護者は、国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力するよう努めるものとする。
4 第一項の規定は、家庭教育の自主性が尊重されるべきことに変更を加えるものと解してはならず、また、前三項の規定は、いじめの防止等に関する学校の設置者及びその設置する学校の責任を軽減するものと解してはならない。


上記の通り、児童等は明確に「いじめを行ってはならない」と規定されています。

ですから、子どもたちには「いじめを行ってはならないと法律で決められており、いじめを行えば、法律で決まっていることを破っているということになる」という説明が可能になります。

こうした説明を否定的に捉える人もいるようですが、それは間違いです。

子どもたちがいじめをしない、していてもバレるとマズいと思うのは、あくまでも損得の問題であって、道徳的感情とは別個のことです(コールバーグの道徳性の発達段階でも、そういう「叱られるからやらない」という段階は存在するわけですしね)。

子どもに善性があると考えるのは自由ですが、この確固たる事実から目を逸らす限り、いじめを行う子どもたちの周囲にいる大人にいじめの対応をすることは困難でしょう。

とにかく、子どもたちには毅然と「いじめは行ってはならないことである」と明確に伝え続けることが重要なのは間違いありません。

ちなみに、私自身は我が子に「もしもあなたがいじめを行った場合、そして、その子が学校に来れなくなった場合、①その子が家にいるために、その子の親が働けないぶんのお金を出さねばならない、②その子が学校に来やすくするために、あなた自身は転校しなければならない。どんなことがあってもあなたを見捨てることはないが、あなたと一緒に親も責任を取らねばならないほど、人をいじめるというのは重たいことなんだ。自分で責任を取ることができないほどひどいことを、他人にしてはならない」と伝えています。

ついでなので、いじめ場面でよく見られる誤解を紹介しておきましょう。

「力が強すぎて、悪気はないのに相手にとって痛いことをしてしまう」「何気ない関わりなんだけど、力が強いのか相手が痛いと感じる」という場面があります。

こういう場面であっても、相手が嫌だと感じればいじめなわけですが、上記のような表現で問題に発展する場合、その子どもは「力が強すぎる」のではなく、単に「自分の内側にある怒り・攻撃性・悪意に気づいていないだけ」という見立ても棄却せずにおくことが重要です。

例えば、過去に身体的虐待を受けた経験のある子どもの場合、内側に怒り・攻撃性・悪意があったとしても、それを認識する力が育ちません(そういう陰性感情を抱くこと自体が、親から捨てられること、更なる虐待を生むなどの悪循環になるため)。

そういった過去があるなどして、自身の怒り・攻撃性・悪意に蓋をしてきた子どもほど、日常的な他者との関わりで、そうした陰性感情が漏れ出る形で暴力的な言動が出てしまうことがあるのです(無自覚に殴る、すれ違いざまに手が出る、など)。

怒り・攻撃性・悪意に蓋をせねばならない当該児童生徒の苦しみが最重要支援対象であるのはもちろんですが、いじめの対応をしていく上で、こうした仕組みをわかっていないと、何度でも問題を繰り返し、訴訟などに発展する等の取り返しのつかない状況になることもあるのです。

もう一つ、発達障害が絡むいじめ事案についても私見を述べておきましょう。

まず、空間把握が苦手などの発達障害由来の問題で起こるいじめ(机に身体がぶつかってしまう、それを嫌がる子ども、などの構図)の場合、ある意味仕方がない面はありますが、こうした状況を「子ども自身が、自らの特徴を適切に理解するための良い機会」と捉え、家庭と連携しながら関わっていくことが重要になります。

また、感情的になりやすいという場合もあり得るでしょうが、その場合は本人だけでなく周囲も含めて、そういった機会を通して「その子との関わり方」を学び、考えていく良い機会にしていくことが重要です(場合によっては、保護者と本人とに確認を取った上で、その子の特徴を周囲に伝えるというのもあり得る。だが、こうしたアプローチが、発達障害児に対する過剰な配慮にならないよう気をつけていく必要はある。例えば、明らかに問題となるような行動をしているのに、周囲が我慢せねばならない等は間違い)。

一方で、明確な悪意や攻撃性を含んだ行動については、これを「発達障害由来の問題」と見なすのは間違いです。

よくあるのが、意図的に暴力をふるっているのに、親から「この子は発達障害があって、空気が読めないので」「力の加減がわからなくて」などが報告されることです。

空気を読む・読まない以前に「意図的に暴力をふるってはいけない」ですし、力の加減云々以前に「意図的に暴力をふるってはいけない」のです。

まるで発達障害=意図的に暴力をふるっても仕方がない、という論理を成り立たせるような言説には、毅然と「その考え方は間違っている」というスタンスで接することがいじめ対応では求められます。

私が前述したような毅然とした言い方を我が子にするのは、発達障害の有無にかかわらず、親のいじめに対する厳然とした考え方を伝え続けることが、子どもがいじめを行う抑止力になると強く確信しているためです。

障害の有無にかかわらず、どんな人であろうが、他者の安全や尊厳を意図的に侵害するような行為を許容してはならないですし、それが法律で定められている「児童等は、いじめを行ってはならない」ということなのです。

さて、第9条に「保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする」とありますから、選択肢④の内容もいじめ防止対策推進法と合致したものと言えます。

意外と知られていませんが、保護者には「第一義的責任」があることが明記されているのです。

ですから、いじめをする・受けるのいずれの場合においても、「子どもの自己責任」という考え方は通用しません。

私は親が「子どもの自己責任」と述べたのであれば、「この年齢の子どもの「自己」には、親も含まれていることをお忘れなく」と伝えるようにしています(特に思春期に差し掛かる前の子どもであれば、親と精神的に同一の面が少なからず存在するわけで)。

一義的責任がある以上、親は子がいじめを行っているなら指導をする努力義務がありますし、いじめを受けているのなら保護する努力義務があるのです(「努力義務だから、別にしなくてもいいんでしょ」という親は、そもそも親としての精神性に乏しいと言わざるを得ませんね)。

当然と言えば当然なのですが、当然のことを強調せねばならない世の中になってきているということですね。

上記の通り、選択肢①および選択肢④はいじめ防止対策推進法の内容として適切と判断でき、除外することになります。

② いじめ被害者・加害者が通う「学校」には、幼稚部を除く特別支援学校が含まれる。

こちらについてはいじめ防止対策推進法の第二条を見ていきましょう。


(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
2 この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。
3 この法律において「児童等」とは、学校に在籍する児童又は生徒をいう。
4 この法律において「保護者」とは、親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。


第2項にある通り、いじめ防止対策推進法における「学校」とは、「小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く)」とされています。

ですから、「幼稚部を除く特別支援学校が含まれる」という選択肢②の内容は適切と言えますね。

なぜわざわざ「幼稚部を除く」という但し書きがあるのかというと、保育園と幼稚園の所管の違いがあります。

保育園は厚生労働省所管の児童福祉施設ですから、この法律における「学校」の枠組みに最初から入ることはありませんので、条文に保育園が入ってくることも無いわけです。

一方で、幼稚園は文部科学省所管の学校教育施設ですから、法律的には「学校」の枠組みに含まれてきます。

ですから、わざわざ「幼稚部を除く」としておかないと、単に「学校」という記述だけだと幼稚園も含まれてしまうことになるのです。

いじめ防止対策推進法を読み進めてもらえればわかりますが、明らかに内容が小学校以降の状況を想定して作られており、幼稚部には馴染まない内容も多くなっていますから(例えば、重大事態の対応など)、いじめ防止対策推進法の対象に「幼稚部を除く」となっているのは自然なことと言えます。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 私立学校は、いじめ重大事態が発生したときは、都道府県教育委員会に報告しなければならない。

こちらについてはいじめ防止対策推進法の第31条を見ていきましょう。


(私立の学校に係る対処)
第三十一条 学校法人(私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条に規定する学校法人をいう。以下この条において同じ。)が設置する学校は、第二十八条第一項各号に掲げる場合には、重大事態が発生した旨を、当該学校を所轄する都道府県知事(以下この条において単に「都道府県知事」という。)に報告しなければならない。
2 前項の規定による報告を受けた都道府県知事は、当該報告に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のため必要があると認めるときは、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、第二十八条第一項の規定による調査の結果について調査を行うことができる。
3 都道府県知事は、前項の規定による調査の結果を踏まえ、当該調査に係る学校法人又はその設置する学校が当該調査に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のために必要な措置を講ずることができるよう、私立学校法第六条に規定する権限の適切な行使その他の必要な措置を講ずるものとする。
4 前二項の規定は、都道府県知事に対し、学校法人が設置する学校に対して行使することができる権限を新たに与えるものと解釈してはならない。


上記の通り、私立学校においていじめ重大事態が発生した場合、当該学校を所轄する都道府県知事に報告することになります。

公立学校では「学校の設置者」に報告することが求められますが、これに教育委員会も含まれてくるわけですから、この辺が私立学校との違いとなります。

このように、私立学校の場合、いじめ重大事態においては「都道府県教育委員会」ではなく「都道府県知事」に報告する義務があります。

よって、選択肢③が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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