突然の動作停止後にぼんやりとなり、口をもごもご動かしながら舌なめずりをして、自分の服をまさぐる動作が数分間見られる状態が月に数回あり、この状態があったことを覚えていない。
この状態について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
こちらはまずは「てんかん」の症状であることがわかることが第一に求められています。
てんかんは、かつては統合失調症、うつ病と併せて3大精神病とされてきました。
もちろん、こうした枠組みは見直されています。
例えば、木村敏先生のフェストゥム論などは、こうした3大精神病に関する精神医学的時間論となります。
てんかんは「イントラ・フェストゥム」ですね。
てんかんについては「人体の構造と機能及び疾病」の枠組みにします。
てんかん発作に関しての大まかな分類は覚えておきましょう。
こちらのサイトにある表になりますが、非常に見やすいです。
また、てんかん親和的な人とのコミュニケーションについては、中井久夫先生の「看護のための精神医学」に詳しいです。
これらを踏まえ、各選択肢の解説に入っていきます。
解答のポイント
てんかんの発作の種類と、各発作の症状の違いを把握していること。
選択肢の解説
『①せん妄』
以下にせん妄の特徴を挙げていきます。
せん妄は軽度の意識障害による精神症状です。
患者は少し眠そうな様子をみせますが、話しかけると応答が可能です。
しかし注意力や集中力は低下し、判断も混乱していて、後でせん妄のときに体験したことを思いだすことはできません。
思考もまとまりが悪く、周囲に対して関心が乏しく無気力になり、行動も混乱し動き回ったり、逆に無動になったりします。
また時間の見当識(何日の何時ごろか)、場所の見当識(ここがどこか)、人物の見当識(目の前にいるのは誰か)と言った認識が障害されます。
こうした見当識障害が、時間・場所・人物に関して一気に、しかも突然に障害されるのがせん妄の特徴です。
その辺が認知症の見当識障害との違いと言えます。
主観的な体験として、対象を間違ったものとして認識する錯視は頻度の高い体験です。
また、実際には存在しない人や動物が見えるといった幻視の体験もあります。
せん妄は、一日の内にも症状の変化があります。
たいていは夜間に症状が悪化することが多く、夜間せん妄と呼ばれます。
精神運動性活動が活発になることが多いのがせん妄の特徴ですが、一方で、逆に不活発になることもあるとされています。
それでも日内変動が大きいのが特徴です。
これらのせん妄の症状と、問題の症状で合致しているのは「この状態があったことを覚えていない」という点くらいです。
「突然の動作停止後にぼんやりとなり」というのが、せん妄の不活発なタイプであることも考えられますが、それでも「数分間見られる状態が月に数回あり」という頻度に関する記述は明らかにせん妄のそれとは異なります。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
『②解離症状』
そもそも解離は「人間が動物に食べられる時代」からある対処法であり、自分に生じた出来事を「他人事」として認識することによって苦しみをやり過ごしたり、パニックになって生き延びる機会を失うのを防ぐための機能です。
その表出として、いわゆる「解離性障害」の症状である健忘や離人症、同一性障害などがあるわけです。
健忘は記憶を切り離すことで、離人症は現実感を切り離すことで、同一性障害は人格を切り離すことで乗り切ろうとしているわけですね。
事例の「この状態があったことを覚えていない」というのは解離症状の一つである健忘でよく見られるものです。
ただし、記憶がない、という状態については、まずはてんかんという外因から探り、そのあと内因、心因と見ていくのが適切な順序ですから、記憶のなさだけで解離症状と断定することはできません。
「突然の動作停止後にぼんやりとなり」というのはあり得るかのしれません。
ただし、「口をもごもご動かしながら舌なめずりをして、自分の服をまさぐる動作」については解離性障害で見られる反応ではありません。
更に、解離症状については「数分間見られる状態」といった短い状態変化ではないことが多いように思えます(こちらについてはあり得ないわけではないので、参考程度に)。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③欠神発作』
数十秒間にわたり意識がなくなる発作ですが、けいれんを起こしたり、倒れたりはしません。
脳波では3ヘルツの棘徐波結合が見られるのが特徴とされています。
話をしたり、何かをしているときに、突然意識がなくなるので、急に話が途切れたり動作が止まったりします。
発作が終われば、また同じ行動を続けることが多く、例えば、食事をしていて急に箸を止め、眼球を上転させますが、数秒後、何事もなかったかのように箸を使いだします。
発作時間は5~20秒くらいと短いために周りの人にてんかん発作と気づかれず、集中力がない、注意力散漫などと勘違いされることもあります。。
学童期や就学前に症状が現れることが多く、女児に多い発作です。
成人になるにつれて起こらなくなる発作であるとされています。
具体的には、以下のような症状がみられます。
- 突然意識がなくなり、ぼんやりした目つきになる
- 眼球が上転する
- まぶたがピクピクする(1秒間に3回程度の頻度)
- 動作を停止する
- 呼びかけにも反応しない
これらの特徴を踏まえると、「突然の動作停止後にぼんやりとなり」は合致するものの、動作を停止する点から事例を「欠神発作」と見るには矛盾があります。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
『④単純部分発作』
てんかんの部分発作では、意識がはっきりしているかどうかで「単純部分発作」と「複雑部分発作」に分かれます。
いずれも脳の一部分の病変による発作であり、「焦点発作」とも呼びます。
単純部分発作は、患者の意識がはっきりしているなかで起こる発作を指します。
意識がはっきりしているため、発作中、どんな症状があったか覚えています。
部分発作については、これらは脳の機能局在と関連した症状を示します。
よくある症状として、運動機能の障害(手足や顔がつっぱる、ねじれる、ガクガクとけいれんする、体全体が片方に引かれる、回転する等)、視覚や聴覚の異常(輝く点や光が見える、ピカピカする、音が響く、耳が聞こえにくい、カンカンと音が聞こえる等)、自律神経の異常(頭痛や吐き気を催す等)など多彩な症状がみられます。
事例の「この状態があったことを覚えていない」という記述は、単純部分発作とは明らかに矛盾があります。
また、示されているその他の症状も、単純部分発作に見られるものとは異なることがわかりますね。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
『⑤複雑部分発作』
複雑部分発作は、意識が徐々に遠のいていき、周囲の状況がわからなくなるような意識障害がみられる発作で、患者には記憶障害がみられます。
発作は通常1~3分続き、単純部分発作から続くこともあれば、突然複雑部分発作から始まることもあります。
脳のどの部分が興奮するかにより、意識障害に伴ってどのような症状があらわれるか異なります。
たとえば、側頭葉から興奮がおこった場合、衣服をまさぐる、口をもぐもぐする、口をぺちゃくちゃ鳴らす、ウロウロ歩くといった一見無意味な動作(自動症)があらわれます。
前頭葉から興奮がおこった場合、身体をバタバタさせたり、自転車をこぐような動きをします。
上記の記述は、事例の内容と合致することがわかります。
おそらく事例の記述は側頭葉で起こった複雑部分発作であると思われます。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。