公認心理師 2024-19

全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査を選択する問題です。

こちらは過去問で出題がありますから、解きやすい問題と言えますね。

問19 全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① BDI-Ⅱ
② GAD-7
③ PDS
④ PHQ-9
⑤ TEG

選択肢の解説

① BDI-Ⅱ

BDI-Ⅱはベック抑うつ質問票のことで、認知療法の始祖であるベックのグループが作成した自己記入式質問紙です。

13歳〜80歳の抑うつ症状の有無とその程度の指標として開発されました。

DSM-Ⅳに準拠したうつ病の症状を網羅しており、全21項目から構成されており、それぞれに4つの反応形式が設定されています。

BDI-Ⅱを定期的に行うことによって、自分自身の気分の傾向を数値として測定でき、自分自身を客観的に見つめることが可能になります(この辺が認知療法っぽいですね)。

BDI-Ⅱの評価項目についてですが、こちらはインターネット上で見ることができます。

ですが、BDI-Ⅱに関しては検査用紙が販売されているという点から、評価項目を公開して良いものか判断がつきませんでした。

ですから、ここでは検査項目の大まかな内容を述べておくことにしましょう。

  1. 憂うつ
  2. 悲観
  3. 過去の失敗
  4. 喜びの喪失
  5. 罪責感
  6. 被罰感
  7. 自己嫌悪
  8. 自己批判
  9. 自殺念慮
  10. 落涙
  11. 激越
  12. 興味喪失
  13. 決断力低下
  14. 無価値観
  15. 活力喪失
  16. 睡眠習慣の変化
  17. 易刺激性
  18. 食欲の変化
  19. 集中困難
  20. 疲労感
  21. 性欲減退

これらがBDI-Ⅱの評価項目であり、各項目4件法(0-3)で回答していきます。

BDI-Ⅱはその名の通り、前の版があるわけですが、初版のBDI(BDI-IA)とBDI-Ⅱの主な相違点は以下の通りです。

  • 質問項目の削減と追加
    「体重減少」「容貌の変化」「身体症状」「仕事の困難」が削減され、新たに「激越」「無価値観」「活力喪失」「集中困難」が追加された。
  • 回答選択肢の修正
    「食欲」「睡眠」では、減少だけでなく増加についても評価できるよう変更されている。また、初版のBDIと比べて、多くの文章表現が改訂された。
  • 症状の対象期間
    「過去1週間」から、DSM-IVの大うつ病性障害診断基準に従い、「今日も含めて2週間」に変更された。

上記の通り、DSM-Ⅳの診断基準に従って「今日も含めて2週間」になっています(ちなみに、検査の教示は「この2、3日のあなたの気分にもっともよく当てはまるものを選択」になっています)。

DSM-Ⅳ-TR(我が家にあるDSMでは、TR版までしか遡れませんでした…)の「大うつ病エピソード」の基準Aには「以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている」という一文が存在しますし、DSM-5の大うつ病性障害の基準Aでも同様の期間が示されています。

ですから、これに合わせてBDI-Ⅱでは「最近2週間の状態を評価する」ということになるわけです。

上記を踏まえれば、BDI-Ⅱは「全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② GAD-7

GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)は、Spitzer、Kroenke、Williams&Löweによって作成された、全般性不安障害を簡易に評価するための質問票になります。

末尾の「7」は質問項目の数になりますね。

GAD-7では、「この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?」という教示に始まり、不安関連の問題に関する7項目の質問に4件法(「全くない=0 点」「数日=1 点」「半分以上=2 点」「ほとんど毎日=3 点」)で答えていく自己記人式質問票になっています。

合計点は 0~21点で、0~4点は全般性不安障害がなく、5~9点は軽度、10~14点は中等度、15~21 点は重度と評価されます。

上記を踏まえれば、GAD-7が「全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査」であることがわかりますね。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ PDS

PDSとは、おそらくこちらのサイトで公開されているPDS-Ⅳのことを指していると思われます。

PDS-Ⅳは、PTSDのDSM-Ⅳ診断基準に準拠した形でPTSD診断と重症度評価を行うための自己記入式評価尺度です。

国際的に評価が高く、国内外の数多くの研究で使用されています。

持続エクスポージャー療法の開発者のFoa教授が作成したこともあり、同治療の臨床、研究では特によく用いられています。

PTSDの代表的な構造化面接であるCAPS(DSM-Ⅳ版)日本語版を外的指標とした優れた妥当性が検証されています

PDSでは、以下の全てを満たすときにPTSDと判定します。

なお、全て、一番悩まされているトラウマ的出来事(問14:こちらで検査用紙をご確認下さい)について回答した場合です。

  • A基準
    →負傷または命の危険:問 16~19 「ハイ」が一つ以上
    →出来事の最中の無力さまたは恐怖:問 20、21 「ハイ」が一つ以上
  • B 基準(再体験) 問 22~26で1以上の評定値が一つ以上
  • C 基準(回避・麻痺) 問 27~33で1以上の評定値が三つ以上
  • D 基準(過覚醒) 問 34~38で1以上の評定値が二つ以上
  • E 基準(1ヶ月以上の症状持続) 問 39が2以上の評定値
  • F 基準(生活機能障害) 問 41~49 「ハイ」が一つ以上

17症状項目(問22~38)について、評定値の合計を求めます(得点レンジ:0~51)。

重症度の目安は、0=評価なし、1–10=軽度、11–20=中等度、21–35=中等度から重度、36以上=重度となります。

以上を踏まえると、PDSは「全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査」ではないことがわかりますね。

ちなみにエジンバラ産後うつ病質問票の略称がEPDSになりますが、混同しないようにしたいですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ PHQ-9

PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)は、うつ病の評価尺度になります。

Sitzerらは、米国で多忙なプライマリケア医が、短時間で精神疾患を診断・評価するためのシステムPRIME-MD(Primary Care Evaluation of Mental Disorders)を開発し、さらに実施時間の短縮化のためにPRIME-MDの自己記入式質問票版としてPatient Health Questionnaire PHQを開発しました。

PHQはプライマリケア医が日常診療において遭遇する8種類の疾患の診断・評価ができるようになっています。

PHQの中から、大うつ病性障害モジュールの9個の質問項目を抽出したものが「PHQ-9」であり、身体症状にかかわる身体表現性モジュール13個とうつ病性障害モジュールから2個の質問項目を抽出した自己記入式質問票が「PHQ-15」になります。

また、不安障害に関わる質問項目を抽出し別途の自己記入式質問票として開発したものが「GAD-7」になります。

PHQ-9はインターネットで検索すれば、実際の検査項目を見ることが簡単にできますから、一度チェックしておくと良いでしょう。

上記を踏まえれば、PHQ-9は「全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ TEG

TEGはTokyo University Egogramの略で、質問紙法による性格検査の一つです。

アメリカの精神科医E.Berneが創始した交流分析理論を基礎としています(バーンの弟子、J.M.Dusayがエゴグラムを考案しました)。

TEGの基礎となる交流分析理論の概略は以下の通りです。

人の内部には、親の自我状態(Parent:Pと略す)、成人の自我状態(Adult:Aと略す)、子どもの自我状態(Child:Cと略す)の3つの自我状態があると考えます。

このP・A・Cのバランスを知ることで性格特性を知ることができるというものです。

このような構造をより深く理解するため、PをCP(Critical Parent:CP;批判的な親)とNP(Nurturing Parent:NP;養育的な親)に分け、CをFC(Free Child:FC;自由な子ども)とAC(Adapted Child:AC;順応な子ども)に分け、全部で5つの機能側面としてこれらがどう機能しているかを分析します。

  • P(Parent):親の自我状態。親や養育親から取り入れた状態・行動の自我状態。精神分析における超自我に相当する。以下の2つの要素がある。
    CP(Critical Parent):批判的な親。父親のような厳しい部分。つまり理想、良心、責任、批判などの価値判断や倫理観を主にしている。
    NP(Nurturing Parent):養育的な親。母親のような養育的な部分。つまり共感、思いやり、保護、受容など子どもの成長を促進するような部分。
  • A(Adult):成人の自我状態。事実に基づいて物事を客観的、論理的に判断する自我状態。現実を客観視し、情報収集し、それらを基に冷静に計算し推定して意思決定を行い、判断を下す。PやCをコントロールし、統合的で創造的、自律的な活動を促進する役目を担っている。精神分析で言う自我に相当する。
  • C(Child):子どもの自我状態。子どものころに感じ、行動した自我状態。人間が持って生まれたままの本能的な欲求や感情などの生命の原点である。それと共に、人生早期の体験から学んだ周囲への対応様式も含まれている。精神分析で言うエスに相当し、以下の2つの要素がある。
    FC(Free Child):自由な子ども。親の影響を全く受けていない生まれながらの部分である。快感を求めて天真爛漫に振る舞い、直感的な感覚や創造性に長け、表現力豊かである。
    AC(Adapted Child):順応的な子ども。親の期待に沿うような従順な子どもの部分。人生早期に周囲の人たちの愛情を失わないために、子どもなりに身につけた処世術で、親の期待に沿うように常に周囲に気兼ねし自由な感情を抑える「良い子」である。

それぞれの自我状態には肯定的側面と否定的側面があり、各尺度の高低を見た上で解釈するのが基本であり、その上で、各尺度間の相互関係を考えることが重要になります。

上記でも述べているように、TEGの目的はP・A・Cのバランスを知り性格特性を把握しようとすることです。

TEGの検査結果は正常~異常の判別をすることを目的としておらず、自己分析・自己成長の為に役立てられるように工夫されたものです。

CP~ACの5尺度の高低をパターンとして類型化し、各尺度の高低の示す意味と各尺度の相互関係からエゴグラムを把握します。

それにより、性格特性、行動パターンや交流パターンが理解できるということです。

上記を踏まえれば、TEGは「全般不安症/全般性不安障害が疑われる成人に用いられる心理検査」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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