心理学研究法に関する問題です。
参加者にも実験者にも、というところが特徴ですね。
問7 独立変数がどのように操作されているかを参加者にも実験者にも知らせないことを表す用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① 準実験
② 標準化
③ 二重盲検法
④ ディセプション
⑤ 無作為割り当て
選択肢の解説
① 準実験
実験計画法では、実験者が独立変数を他の変数と交絡させることなく操作することが前提となっています。
しかし、現実には、実験者が統制や操作ができない変数を独立変数として扱いたいことがあります。
例えば、年齢や性別、パーソナリティなど、参加者に備わった特性は操作できないし、疾病への罹患など、倫理的に操作することが認められない変数もあります。
このような場合、従属変数に影響を及ぼすことが予想される他の交絡変数をできる限り統制した上で、関心のある変数を独立変数と見なして実験を行う方法を「準実験法」と呼びます。
(※剰余変数=独立変数以外に従属変数に影響を与える恐れのある変数、交絡変数=独立変数と従属変数の両者に影響を与える(両者と関連がある)変数、なので微妙に違いはあるが、同じものとして表記されていることもある)
よく用いられるのは、あらかじめある特性を測るテスト課題を行い、この得点に基づいて参加者を高得点群と低得点群に分け、この群の違いを独立変数の水準の違いとして扱うなどの方法です。
全ての参加者の特性をできるだけ等しくする斉一化、比較する群の間でマッチングなどの方法があります。
これらを踏まえると、本問の「独立変数がどのように操作されているかを参加者にも実験者にも知らせないことを表す用語」として準実験は該当しないことがわかります。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② 標準化
学力テスト、知能検査、性格検査など、さまざまなテストにおいて、実施の手続き(受験者への指示、回答形式、テスト時間、採点方法)が厳密に規定されています。
また、基準となる集団の分布における相対的な位置をもって、テスト得点の解釈を行うことがも多いです。
このように、テストの実施手続きや得点の解釈方法などを厳密に規定することをテストの「標準化」と呼びます。
また、数値データについて、平均が0、標準偏差が1になるように変換することも、同じく「標準化」と呼ばれます。
標準化が行われたテストは、標準テストと呼ばれます。
標準化は、テストの実施手続きや仕様(測定する構成概念、項目数やテスト時間など)が何を根拠にどのように決定されたのかや、基準集団となった集団はどのような属性であったのかについて、項目分析や各種テスト理論に基づく分析結果などを明示することによってなされます。
これはテストの妥当性および信頼性を検討することと大きく関連します。
これらを踏まえれば、標準化は本問の「独立変数がどのように操作されているかを参加者にも実験者にも知らせないことを表す用語」ではないことがわかりますね。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 二重盲検法
実験や調査の参加者は、良い参加者であろうとして、自然な反応ではなく、研究者の期待や仮説を自分で推測して、それに合わせた反応や、社会的に望ましい反応をしてしまうことがあります。
また、研究者は無意識のうちに、研究仮説を参加者に悟られるような態度をとってしまったり、データ分析において研究仮説に沿うように分類や解釈をしてしまうことがあります。
これらのように研究結果を歪める要因を排除するため、研究目的や仮説を知られないようにして研究を実施する方法を「ブラインドテスト」「盲検法」「盲目テスト」などと呼ばれます。
参加者のみに研究目的や仮説を知らせない場合を「シングルブラインドテスト」、参加者に加えて実施にあたる研究者にも知らせない場合を「ダブルブラインドテスト:二重盲検法」と呼びます。
参加者へのブラインド方法は、観察や測定が実施されていることを知らせないことや、偽の研究目的や仮説を知らせることが挙げられるが、デブリーフィングの実施など注意が必要になります。
上記を踏まえれば、本問の「独立変数がどのように操作されているかを参加者にも実験者にも知らせないことを表す用語」は、ダブルブラインドテスト=二重盲検法であることがわかりますね。
よって、選択肢③が適切と判断できます。
④ ディセプション
「ディセプション」とは、他者に対して意図的に偽であることを真であるように信じ込ませることを指し、大別すると以下のパターンに分かれます。
- ウソをついてだますこと。
- 不正確・不完全な情報の伝達。
- 必要な情報や事実の隠ぺい。
社会心理学では、有力な研究法の一つとして用いられてきました。
ディセプションの目的と機能としては、「複雑で流動的な現実の社会的状況を実験室に再現し、実験参加者のさまざまな不安や期待が実験室での反応や行動に影響されるのを防ぐこと」とされています。
社会心理学では、人が置かれる状況を操作する(変化させる)ことによって生じる態度や行動の変化を知ることが重要です。
しかし参加者が、状況が「操作されている」と認知することで態度や行動を変化させることがあり得ます(例えば、要求特性:要求に応えようとする、など)。
デセプションは、真の目的を伝えることによって参加者に実験参加に対する「構え」が生じることで、結果に影響がでることを避けるための手続きとなります。
以上のように、研究目的等を伝えることで、研究結果が歪まないように被験者に偽りの仮説や目的を告げることを「ディセプション」と言います。
これだけを見ると、何となくディセプションが正解かなと思ってしまいそうですが、本問の「参加者にも実験者にも知らせない」というところが異なりますね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ 無作為割り当て
あえて積極的な統制をせず、独立変数の各条件における剰余変数の値を全くの偶然に任せて決定する方法が「ランダム化」です。
なお、ランダム化という表現よりも「無作為化」という表現の方が一般的であろうと思います。
ここでは、ランダム化を「無作為抽出」と「無作為割り当て」の2つに分けて説明していきます。
「無作為抽出」とは、実験参加者を対象とする母集団内から無作為に選ぶことを指します。
実験を行う際には、実際に実験に参加した人だけでなく、より多くの人に当てはまる結論を導くことが望まれます。
そのためには、その実験で明らかにしたい母集団の設定と、その母集団全体から無作為に参加者を抽出することが重要になってきます。
例えば、成人男性の記憶能力を調べたいのであれば、母集団内のすべての男性が等しい確率で選ばれるように、成人男性全体の母集団から無作為に参加者を抽出する必要があります。
しかしながら、実際の実験では想定する母集団のすべてから参加者を抽出することは難しいのが一般的です。
「無作為割り当て」とは、各条件に参加者の割り当てを行う際に、無作為に参加者を割り振るという方法です。
無作為割り当ては、多くの剰余変数に対してある程度の統制を行うことが可能ですが、どの剰余変数の影響も完全には統制することができないという特徴があります。
これらを踏まえると、本問の「独立変数がどのように操作されているかを参加者にも実験者にも知らせないことを表す用語」として無作為割り当ては該当しないことがわかります。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。