事例が依拠している原因帰属のモデルを判断する問題です。
事例の登場人物(大学生)が活用している原因帰属モデルを判断するという風変わりな問題になっています(どんな大学生やねんと思いますが…)。
問137 20歳の女性A、大学生。アルバイトをしている。Aはアルバイト先の店長Bが特定の従業員Cをひいきして手伝ったことについて、その原因を判断しようとしている。その際、BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報に基づいてBの行動の原因を判断しようとした。
Aが依拠している原因帰属のモデルとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 連続体モデル
② 3段階モデル
③ 感情混入モデル
④ 分散分析モデル
⑤ 自己評価維持モデル
解答のポイント
原因帰属に関連する各モデルを把握している。
選択肢の解説
① 連続体モデル
私たちが他者についてその人の性格や好みなどを推論する過程で用いる情報には、その個人が属する集団カテゴリー(たとえば、性別、職業、人種など)に関する情報と、その人個人についての情報があります。
前者は一般的情報で私たちが知識としてもっている情報であり、記憶から取り出されて推論の対象となる個人に当てはめられる形でトップダウン的に働きます。
後者は個人の持つ個別の情報であり、それらをまとめて人物像が描かれるようにボトムアップ的に働きます。
この2種類の情報が、どのように利用されて他者についての評価や判断が行われるかを説明する代表的なモデルとして、Fiskeらの連続体モデルがあります。
連続体モデルでは、他者の所属する集団カテゴリーに関する情報に基づいて印象を形成するカテゴリー依存型処理と、他者の個別の詳細情報に基づいて印象を形成するピースミール処理を想定しています。
このモデルでは、対象となる人物に出会ったときに、まず服装や髪型、振る舞い方などの瞬間的に目で捉えることができる情報をもとにその人物の性別や職業などのカテゴリー化が行われ、その人物について関心がなかったりそれ以上知る必要がない場合は、その人物に関する情報処理はここで終了します。
目標や動機と照らし合わせてその人物についてさらに知る必要がある場合には、次の段階であるピースミール処理へと進みます。
ここでは相手の詳細な情報について吟味し、カテゴリー情報との一致が検討され、一致した場合はそこで処理は終了するが、一致しない場合は他のカテゴリー情報と照合され再カテゴリー化が行われます。
ここでその人物のカテゴリー化が困難であると判断されると、1つずつ個別の属性を分析し統合するピースミール統合が行われ、印象が形成されます。
このように他者の印象形成においてはカテゴリー依存型処理とピースミール処理の2つが働くわけですが、カテゴリー依存型処理はわずかな情報から相手の印象を形成でき、効率的で認知資源を節約できるため、カテゴリー依存型処理が優勢になりやすいと考えられています。
また、ピースミール処理は目標や動機がないと働かず多くの認知資源を使用するため、あまり興味のない相手の第一印象が変わりにくいということも示しています。
こうした連続体モデルの説明は、本事例の「BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報」という処理とは合致しないことがわかると思います。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 3段階モデル
状況の影響力に比較して行為者の内的属性を過大評価する傾向を、「根本的帰属エラー:根本的な帰属の誤り」もしくは「対応バイアス」と呼び、状況の影響力を明らかにしようとする社会心理学において特に重要な概念とされています。
こうした対応バイアスの生起を説明するプロセスモデルは複数存在しますが、その中の代表例としてGilbertらの3段階モデルがあります。
3段階モデルとは、対応バイアスのような属性推論の過程を、同定の段階(〇〇さんが怒った)、属性推論の段階(〇〇さんは怒りっぽい人だ)、状況要因を考慮する修正の段階(誰でもああ言われれば怒るかもしれない)からなるものを指します。
同定段階では、観察された他者の行動がどういった行動化が判断され、判断された行動に基づき、次の属性推論の段階で、同定された行動に対応する属性が推論されます。
その後で、例えば、その人が怒った状況を検討し、誰でも起こっても仕方がない状況であったのかという点が検討され、そうであるなら、先の「怒ったのだから、怒りっぽい人」という推論は修正されるわけです(誰でも怒るような状況だったから、それほど怒りっぽい人というわけではないな)。
ここで重要なのは、属性推論の段階では認知資源はあまり必要ではなく(つまり頭をあまり使わなくても良い)、同定された行動から対応された属性は、ほぼ自動的に推論されるが、その後の修正は、認知資源を必要とするということです。
そのため、修正が不十分になりがちで(つまり、楽をしすぎ)、状況の要因が十分に考慮されず、対応バイアスが生じることになります。
このように最初に自動的な推論があり、それを認知資源が必要な家庭によって修正していく推論過程を「係留と調整」と呼びます。
こうした3段階モデルの説明は、本事例の「BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報」という処理とは合致しないことがわかると思います。
「3種類の情報」とあるので、どうしても本選択肢を選びたくなりますが(正答がわからなければ、こちらを選択してしまいそうです)、内容を考慮すると合致しないということは明らかですね。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 感情混入モデル
人間は受動的に感情の影響を受けるだけでなく、自らの感情所帯を積極的に制御し、変容させようともします。
また、処理されるべき課題が容易であったり、慣れていたりする場合には感情の影響が小さくなることも知られており、要求される課題に応じて処理方略を積極的に選択していると考えられます。
このような観点からForgasは、感情と判断の関係を包括的に説明する感情混入モデルを提唱しました。
感情と判断の関係を包括的に説明する「感情混入モデル」では、処理される課題の難易度や重要度などの条件によって、主体の判断への感情の影響の大きさが異なることを示しました。
このモデルでは、感情の影響を受けにくい(感情混入の少ない)2種類の処理方略と、感情の影響を受けやすい(感情混入の多い)2種類の処理方略が考えられています。
このうち「直接アクセス処理」は、過去の経験や知識、信念などをそのまま呼び出して判断に適用します。
例えば、選挙のときに過去にある政党に投票したことを思いだしたり、この政党を支持しているというこれまでの信念に基づいて、投票を決定することがこれに該当します。
また、「動機充足処理」は、はっきりした目標や動機づけがある場合、それを最優先させるような判断が行われます。
例えば、高齢な扶養家族を持ち経済的に苦しい状況にある人は、たとえ普段は支持していない政党でも、高齢者問題を改善してくれそうな候補に投票する、といった具合です。
この2つの処理方略は、感情の影響をほとんど受けません。
これに対して、強固な信念や動機づけがなかったり、正しい決定が不明確であり判断の手がかりがなかったり、熟考して判断を行う余裕がなかったりする場合には、判断対象のごく限られた情報だけに基づいた簡略な処理が行われ、これを「ヒューリスティック処理」と呼びます。
無党派層の人が、候補者の外見や第一印象だけに基づいて投票するのがこれに該当し、この場合には、情報としての感情仮説が想定するような強い感情の影響が生じると考えられています。
一方、同じように信念、動機づけ、明確な判断手がかりがなくても、課題が重要である場合には「実質的処理」が行われます。
ゴミ処理場や原発の受け容れに賛成の候補と反対の候補が争う自治体選挙のような場合、その選挙結果は自分の生活に直結します。
このような場合には、新たに多くの情報を取り入れ、既存の知識と照合しながらそれらを評価する心的作業が必要となります。
こうした場合には、感情ネットワークモデルが想定する過程が優勢になり、情報の評価、記憶に感情の影響が混入しやすくなります。
このように、感情混入モデルとは、処理される課題の難易度や重要度などの条件によって、主体の判断への感情の影響の大きさが異なることを示したものになります。
これは本問の「BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報」という処理を説明するものではないことがわかりますね。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 分散分析モデル
分散分析モデルとはKelleyが提唱した帰属理論であり、複数ある原因のうち、結果が起こった時には存在し、起こらなかった時には存在しない要因に、原因が帰属されるとする理論です。
分散分析モデルでは、一致性(合意性)・一貫性・弁別性があるか否かで、対象・行為主体・状況のいずれに原因が帰属されるのかが異なることになります。
- 一致性(合意性):
ある刺激・出来事・状況に対する行動を行った対象者が、他の人の行動とどれくらい一致しているのかという基準。対象者が、他の人たちと同じ行動(結果)を取っている場合には、行動が外的原因に基づく可能性が高くなる。
対象者が、他の人たちと異なる行動(結果)を取っている場合には、行動が内的原因に基づく可能性が高くなる。 - 一貫性:
特定の刺激・出来事・状況に対する行動が、一回限りではなく、それ以外の機会にも同じように一貫して見られるかという基準。対象者の行動(結果)が、一回限りしか起きなかった場合には、行動が内的原因・外的原因の両方に基づく可能性が高くなる。
対象者の行動(結果)が、一回限りでなく、それ以外の他の機会にも同じように一貫して見られる場合には、行動が内的原因に基づく可能性が高くなる。 - 弁別性:
対象者の行動(結果)が、特定の刺激・出来事・状況だけに対して見られるのか、それ以外の刺激・出来事・状況に対しても見られるのかという基準。対象者の行動(結果)が、特定の刺激・出来事・状況だけに対して見られる場合には、行動が外的原因に基づく可能性が高くなる。
対象者の行動(結果)が、それ以外の刺激・出来事・状況に対しても見られる場合には、行動が内的原因に基づく可能性が高くなる。
上記を例を踏まえてまとめると…
「ある料理店を「美味しいわ」と言うO杉さん」について考えていくと以下のようになります
1-1:誰もがその料理店を「美味しい」と言う=一致性(合意性)あり
→原因を料理店(対象)に帰属
1-2:他の誰もその料理店を「美味しい」と言わない=一致性(合意性)なし
→原因をO杉さん(行為主体)に帰属
2-1:O杉さんはいつもその料理店を「美味しい」と言う=一貫性あり
→原因を料理店(対象)に帰属
2-2:O杉さんはいつもその料理店を「美味しい」と言うわけではない=一貫性なし
→原因を状況に帰属
3-1:O杉さんは他の料理店は美味いと言わない=弁別性あり
→原因を料理店(対象)に帰属
3-2:O杉さんは他の料理店も美味いと言う=弁別性なし
→原因をO杉さん(行為主体)に帰属
このように「複数ある原因のうち、結果が起こった時には存在し、起こらなかった時には存在しない要因に、原因が帰属されるとする」という考え方に基づき、帰属先を選定していくということになるわけですね。
本問では「BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報」で帰属先を考えようとしています。
これを分散分析モデルに基づいて捉え直すと、BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか(=一致性:合意性)、BはいつもCを手伝っているかどうか(=一貫性)、他の従業員もCを手伝っているかどうか(=弁別性)といった形になるわけです。
以上を踏まえれば、本問のAが依拠している原因帰属のモデルは「分散分析モデル」であることがわかります。
よって、選択肢④が適切と判断できます。
⑤ 自己評価維持モデル
Tesserが提唱した社会的比較に関するモデルです。
自分の遂行や能力などを他者と比較する際、Tesserは遂行の他に、他者との心理的近さ、自己関連性(そのことの自己にとっての重要性)を加えた3つの要素が自己評価の維持に関わっていることを示し、その自己評価への影響の仕方には、比較過程と反映過程の2種類が存在することも提案しました。
自己関連性が高い場合には、心理的に近い他者に遂行で勝ることは自己評価の高さにつながるが、劣ることは自己評価への脅威になるという「比較過程」が生じ、対処行動がとられるとされています。
そうしたときの対処として、自己関連性の見直し、自身の遂行の向上、心理的に距離を取るなどの調節が図られ、自己評価が維持されます。
一方、自己関連性が低い場合には、心理的に近い他者の高遂行は、自身より優れたその他者を誇りに思うことで自己評価を高めるという「反映過程」が働き、これを栄光浴現象と呼びます。
親密な関係では、自己が勝るだけで安寧に至るわけではないという、より相互関係を重視した知見も見出しています。
このように、自己評価維持モデルとは、人は肯定的な評価を維持することに動機付けられていると考えており、自己評価を維持するために「心理的に近い他者」「その他者が自分より能力が優れているという認知」「活動への自身の関与度」の3要素を変容しようとすると考えます。
組織での仕事で失敗が起こったときに「自分はあまり関わっていなかったな」と発言する人は、上記のうち「活動への自身の関与度」を変容することで肯定的な評価を維持しようとしているわけですね。
このモデルにおける3要素は、本事例の「BがCではない他の従業員の手伝いをしているかどうか、BはいつもCを手伝っているかどうか、他の従業員もCを手伝っているかどうか、という3種類の情報」とは合致しないことがわかると思います。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。