学校文化の説明として適切なものを選択する問題です。
こういう問題っていろんな概念を不正解の選択肢として挙げているので、解説が厄介なんですよね。
問128 学校文化について、最も適切なものを1つ選べ。
① ソシオメトリック・テストを用いて把握される集団構造のことである。
② 学校の構成員によって共有され、伝達される行動様式や生活の様式のことである。
③ 児童生徒間における校内の地位や序列関係などの集団内の人間関係のことである。
④ 児童生徒の認知的・人格的発達を目標とし、教師‐生徒間の活発な相互作用を含む活動のことである。
解答のポイント
学校文化の定義を把握している。
選択肢の解説
② 学校の構成員によって共有され、伝達される行動様式や生活の様式のことである。
こちらの論文から引用しつつ解説していきましょう。
学校文化とは「学校集団の全成員あるいはその一部によって学習され、共有され、伝達される文化の複合体」であると定義され、①物理的要素(学校内で見られる物質的な人造物)②行動的要素(学校内におけるパターン化した行動様式)③観念的要素(教育内容に代表される知識・スキル、教師ないし生徒集団の規範、価値観、態度)の三要素に分類されています。
また、「学校文化は、学校という組織ないし制度が普遍的に有する文化項目としての性格と、それらが各学校の歴史や社会的文脈の中で独特の展開を示す中で形成された特質の、双方を併せもつ」と述べられ、伝統ないし校風というものは後者に属します。
志水(2002)は、学校文化を、1:近代の制度としての学校がもつ文化、2:国・時代・段階別の学校文化、3:個別学校の文化と、1→3への3層構造ととらえ、第1の層は「すべての「学校」に共通して見られる特徴」、第2の層は「国ごとや時代ごとあるいは学校段階ごとレベル」、第3の層が「各校の校風や伝統」としています。
この校風という用語について、久富(1996)は、「学校の統一性を象徴し、教師・生徒の関係性を規定して、それがこの統一の下にあるのだと意味づける」ような「象徴や儀礼」の蓄積だとして、前者の例として制服や校歌、後者の例として入学式や体育祭などの祭典、始業時の礼や教室等への神聖視を挙げています。
このように教育学領域における「学校文化」は、非常に大きな広がりを持った概念と言えます。
スクールカウンセラーとして働く上では、こうした学校文化の把握が重要になってきます。
上記を踏まえると、学校文化の説明として、本選択肢の「学校の構成員によって共有され、伝達される行動様式や生活の様式のことである」が適切であることがわかります。
よって、選択肢②が適切と判断できます。
① ソシオメトリック・テストを用いて把握される集団構造のことである。
③ 児童生徒間における校内の地位や序列関係などの集団内の人間関係のことである。
④ 児童生徒の認知的・人格的発達を目標とし、教師‐生徒間の活発な相互作用を含む活動のことである。
これらの選択肢についてはまとめて解説していきましょう。
まずは選択肢①の「ソシオメトリック・テストを用いて把握される集団構造」ですが、これはソシオグラムを指していると考えられます。
「ソシオメトリー (sociometry)」とは、「socius(仲間)」「metrum(測定)」というラテン語を語源とし、集団構造や人間関係の測定法であり、ユングの弟子であるモレノ(心理劇で有名ですね)により提唱されました。
ソシオメトリー理論における集団内の人間関係およびその構造を分析するためのテストの中で、もっとも普及し、発展しているのは、モレノによって考案されたソシオメトリック・テストになります。
このテストは、集団の成員に、一定の条件の下で、選択あるいは排斥の感情を抱く他の成員を指名させることにより、集団内の成員間における選択・排斥・無関心といった心理的関係や、集団の心理的構造を捉えようとするものです。
このテストを活用することにより、集団のリーダーの測定、個々の成員の社会的地位の測定、社会的適応性の診断、集団の凝集性の測定、集団における偏見の測定などを行うことができます。
ソシオメトリック・テストによって調査した結果は、①ソシオマトリックス、②ソシオグラム、③統計的数量化の3つの方法で整理することができます。
上がソシオマトリックス、下がソシオグラムの例になります。
ソシオグラムは成員相互の選択・排斥関係を図示したものであり、集団内の人間関係を視覚的に把握することが可能です。
選択肢①の「ソシオメトリック・テストを用いて把握される集団構造」は、こうしたこうしたやり方で示されますから、ソシオグラムなどのことを指していると考えるのが妥当であり、これらは学校文化とは異なることがわかりますね。
選択肢③の「児童生徒間における校内の地位や序列関係などの集団内の人間関係」とは、おそらくスクールカーストのことを指していると考えられます。
スクールカーストとは、学校において自然発生する児童生徒間の固定的な序列、また、序列の近い児童生徒らが小集団を形成し、学校社会が階層化しているという仮説であり、学校における生徒間の序列を、インドの固定的・階級的な身分制度であるカーストになぞらえた和製英語になります。
スクールカーストという語の初出は、雑誌AERA2007年11月19日号の、スクールカーストという言葉を2年ほど前に初めてインターネット上に登録したと述べている当時29歳の男性への取材記事になります。
はじめはあくまでもネットスラングのような扱いであったが、のちに国会での言及や大手メディアでの報道などが続き、社会に一定の定着をみせた言葉となり、2017年の調査では、大学生のスクールカーストという語の認知度は8割を超え、中学生時代に学校内に序列があったという回答の割合も7割にのぼっています。
選択肢④の「児童生徒の認知的・人格的発達を目標とし、教師‐生徒間の活発な相互作用を含む活動」とは、おそらく生徒指導のことを指していると考えられます。
生徒指導提要によると、生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです。
すなわち、生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目指すとともに、学校生活がすべての児童生徒にとって有意義で興味深く、充実したものになることを目指しています。
ニュアンスとして似ているのが教育相談で、こちらは「児童生徒それぞれの発達に即して、好ましい人間関係を育て、生活によく適応させ、自己理解を深めさせ、人格の成長への援助を図るもの」とされています。
ただ、教育相談は生徒指導に含まれており(校務分掌でもそうなっています)、選択肢の包括的な表現はどちらかと言えば生徒指導に近いものではないかと考えています。
以上のように、これらの選択肢は「学校文化」の説明にはなっていないと言えます。
よって、選択肢①、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。