公認心理師 2023-150

事例の段階を踏まえた学校の対応に関する問題です。

事例の見立てを前提としておくことで、あり得ない対応が明白になりますね。

問150 13歳の男子A、中学1年生。Aは、中学校入学直後は特に体調に問題はみられなかったが、5月中旬頃からしばしば頭痛や腹痛を担任教師に訴えるようになった。遅刻が増え、帰宅後も頭痛や腹痛を保護者に訴えている。6月になった現在、連続して学校を欠席している。Aは、成績は中程度であり、担任教師との関係は良好である。友人関係のトラブルも現時点では確認されていない。これまでのところ、医療機関や相談機関は利用されていない。
 この段階での学校の対応として、不適切なものを1つ選べ。
① 医療機関の受診の提案
② 校内での支援会議の開催
③ 担任教師による家庭訪問
④ 個別の教育支援計画の作成
⑤ 児童生徒理解・支援シートの作成

解答のポイント

事例に対して取り得る可能性のある対応を理解している。

選択肢の解説

① 医療機関の受診の提案
② 校内での支援会議の開催
③ 担任教師による家庭訪問

まず本事例の見立てをやっていきましょう(正確には、出題者が本事例をどう見立てさせようとしているかを考えていきましょう)。

「5月中旬頃からしばしば頭痛や腹痛を担任教師に訴えるようになった。遅刻が増え、帰宅後も頭痛や腹痛を保護者に訴えている」という箇所からは、本人の体調不良が「帰宅後」も生じており、単に学校という要因によってのみ生じているのではないと暗に示されています。

正直、学校要因であっても「帰宅後にも症状を訴える」ということはいくらでもあり得るので、判断材料としては弱いのですが、とりあえず現時点で「学校と関連せずに生じている症状の可能性」を考えておくことが試験においては大切です。

また、「Aは、成績は中程度であり、担任教師との関係は良好である。友人関係のトラブルも現時点では確認されていない」とあり、ここでも学校要因の症状であることを否定させようとする情報が提示されています。

実際には、本人が自覚・無自覚を問わず抱えている「自己イメージ」と「現実」との乖離具合が重要にはなるので(例えば、60点が平均点だとしても、本人が90点のイメージでいれば30点差分のダメージがあるわけです)、成績が「中程度である」という相対評価は当てにならないのですが、出題者の「学校要因以外も考えようね」というメッセージとして読み進めていきましょう。

こうした学校以外の要因を想定することが求められる事例、すなわち、身体的疾患の可能性も考慮せねばならない状況において「これまでのところ、医療機関や相談機関は利用されていない」わけですから、当然ながら、支援の方針として、選択肢①の「医療機関の受診の提案」が入ってくるわけです。

また、学校の要因があまり絡んでいないように見えるからこそ、選択肢③の「担任教師による家庭訪問」もあまり抵抗なく実行することが可能です。

この「担任教師による家庭訪問」をする中で、担任に会うことができない、なぜか拒否をする、という事態が起これば、本当に「学校と関係がない症状なのか」という点に疑義が差し挟まってくることになりますから、「担任教師による家庭訪問」は見立てを行う上でも重要なアプローチと言えます。

なお、私は前述の通り、学校と絡んで出てきている症状(学校が悪いという単純な話ではなく、本人の内に学校環境と適応しづらい何かがある可能性なども含む)である可能性を捨てていませんが、こういう「一見して学校と関連していないように見える症状」の場合は、選択肢①のように医療機関受診を勧めるのは大切なことです。

そもそも、身体疾患の可能性を真っ先に検証しておくことが重要ですし、心理的要因が絡んでいたとしても、身体的要因の可能性を検証しておかねば「集中して心理的要因に取り組めない」ということが起こります。

さて、上記のようないくつかの方針について、誰かが単独で行うことはできません。

本事例はあくまでも学校で起こっているものであり、本問自体が「この段階での学校の対応」を問うているものになっていますね。

ですから、こうした「学校組織としての対応」をするにあたっては、選択肢②の「校内での支援会議の開催」を経てからになります。

校内での支援者(管理職、担任、学年主任、養護教諭、教育相談担当、生徒指導担当、スクールカウンセラーなど)が集まり、この事例への対応を話し合い、組織として「こういうアプローチでやっていこう」ということを定め、それぞれの役割に応じた対応をしていくことになるわけです。

こうした支援会議を経て、医療機関を勧めるなり、担任が家庭訪問を行うなりをしていくわけですね。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ 個別の教育支援計画の作成
⑤ 児童生徒理解・支援シートの作成

これらの選択肢では「個別の教育支援計画」と「児童生徒理解・支援シート」がどういったときに作成されるのかを知っておく必要があります。

文部科学省によると、「個別の教育支援計画」は、障害のある児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うことを目的に作成されるものです。

また、この教育的支援は、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面からの取組が必要であり、関係機関、関係部局の密接な連携協力を確保することが不可欠とされており、他分野で同様の視点から個別の支援計画が作成される場合は、教育的支援を行うに当たり同計画を活用することを含め教育と他分野との一体となった対応が確保されることが重要とされています。

本事例は「障害のある児童生徒」ではないことは明白ですから(成績は中程度だと明示されていますしね)、現時点において「個別の教育支援計画の作成」を検討することはありません。

もちろん、今後、Aに何かしらの障害の存在が認められ、それによって不適応が生じていると考えられるのであれば、個別の教育支援計画の作成を考えていくことにはなるでしょう(あくまでも問われているのは「この段階での学校の対応」ですからね)。

対して、文部科学省によると「児童生徒理解・支援シート」とは、支援の必要な児童生徒一人一人の状況を的確に把握するとともに、当該児童生徒の置かれた状況を関係機関で情報共有し、組織的・計画的に支援を行うことを目的として、学級担任、対象分野の担当教員、養護教諭等の教員や、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を中心に、家庭、地域及び医療や福祉、保健、労働等の関係機関との連携を図り、学校が組織的に作成するものです。

支援が必要な児童生徒が抱える課題には様々な要因・背景があり、教育のみならず、福祉、医療等の関係機関が相互に連携協力して支援を行うことが必要であり、中長期的な視点で一貫した支援を行うことが求められます。

また、児童生徒の抱える背景や状況が複雑で、長期的な支援が必要である場合や、一端支援が必要でなくなった後、再度支援が必要となる場合もあるため、進学・転学先の学校で以前の情報が共有されることは非常に重要です。

児童生徒理解・支援シートを活用することで、支援が必要な児童生徒に関する必要な情報を集約し、支援の計画を学校内や関係機関で共通理解を図るとともに、さらに、そのシートを進学先・転学先の学校で適切に引き継ぐことによって、多角的な視野に立った支援体制を構築することが可能となります。

本事例は「支援が必要な児童生徒」に該当しますから、先述の校内での支援会議などを経て、児童理解・支援シートを作成していくことになるでしょう。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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