公認心理師 2023-110

賛美されたい欲求の広範な様式を示すパーソナリティ障害を選択する問題です。

答えはそれほど難しくないので、あるパーソナリティ障害に関するDSM-5に含まれないけど知っておいた方が良い特徴について述べておきます。

問110 DSM-5のパーソナリティ障害のうち、賛美されたい欲求の広範な様式を示すものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 依存性パーソナリティ障害
② 演技性パーソナリティ障害
③ 境界性パーソナリティ障害
④ 自己愛性パーソナリティ障害
⑤ 反社会性パーソナリティ障害

解答のポイント

各パーソナリティ障害の全般的な特徴を把握している。

選択肢の解説

① 依存性パーソナリティ障害
② 演技性パーソナリティ障害
③ 境界性パーソナリティ障害
④ 自己愛性パーソナリティ障害
⑤ 反社会性パーソナリティ障害

まずDSM-5におけるパーソナリティ障害の分類を知っておくことが大切です。

A群、B群、C群に分かれていて、それぞれの群に特徴を有しています。

  • A群:統合失調症と関連する群
  • B群:派手な行動様式を有する群
  • C群:不安に基づいた反応が中核になっている群

大まかにこうした反応・行動様式ごとにA群~C群に分けられています。

となると、本問の「賛美されたい欲求の広範な様式を示すもの」という表現を読んだときに、まずは「A群およびC群よりは、B群に含まれるパーソナリティ障害が該当しそうだな」と思えることが大切になります。

ですから、C群に含まれる選択肢①の回避性パーソナリティ障害は除外できそうだと思えると良いわけですね。

とは言え、学びの上で大切なのは、それぞれの群にどのパーソナリティ障害が含まれているのかを知っていることでもありますから、その辺を挙げていきましょう。

以下に各群に含まれるパーソナリティ障害と、それぞれの中核的な特徴も併せて記載していきます。

なお、「中核的な特徴」とはDSM-5における(1)などで表現されるような細かい基準に関するものではなく、その手前に記述されている大まかな特徴のことを指します。

  • A群:統合失調症と関連する群
    【猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害】
    他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さが成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害】
    社会的関係からの離脱、対人関係場面での情動表現の範囲の限定などの広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【統合失調型パーソナリティ障害】
    親密な関係では急に気楽でいられなくなること、そうした関係を形成する能力が足りないこと、および認知的または知覚的歪曲と風変わりな行動で特徴づけられる、社会的及び対人関係的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
  • B群:派手な行動様式を有する群
    【反社会性パーソナリティ障害】
    他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以降起こっている。
    【境界性パーソナリティ障害】
    対人関係、自己像、感情などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【演技性パーソナリティ障害】
    過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【自己愛性パーソナリティ障害】
    誇大性(空想または行動における)、賛美されたい欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
  • C群:不安に基づいた反応が中核になっている群
    【回避性パーソナリティ障害】
    社会的抑制、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【依存性パーソナリティ障害】
    面倒を見てもらいたいという広範で過剰な欲求であり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
    【強迫性パーソナリティ障害】
    秩序、完璧主義、精神および対人関係の統制にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。

これらを踏まえれば、本問の「賛美されたい欲求の広範な様式を示すもの」が含まれているのは自己愛性パーソナリティ障害であることがわかりますね(共感の欠如などを入れていないところが意地悪ですね)。

ちなみにGabbard(1989/1994)は、自己愛性パーソナリティ障害には「周囲を気にかけない自己愛的な人」と「過剰に気にかける自己愛的な人」の2つのタイプがあるが、DSMの診断基準では「周囲を気にかけない自己愛的な人」しか示されていないとしています。

周囲を気にかけない自己愛的な人過剰に気にかける自己愛的な人
1.他の人々の反応に気づくことがない。1.  他の人々の反応に過敏である。
2.傲慢で攻撃的である。2.  抑制的で、内気で、あるいは自己消去的 でさえある。
3.自己に夢中である。3.  自己よりも、他の人々に注意を向ける。
4.注目の中心にいる必要がある。4.  注目の的になることを避ける。
5.「送信者であるが、受診者ではない」5.  侮辱や批判の証拠が無いかどうか、 注意深く、他の人々に耳を傾ける。
6.明らかに、他の人々によって傷つけられたと感じることに鈍感である。6.  容易に傷つけられたという感情をもつ。 羞恥や屈辱を感じやすい。

実践をしていても、確かに自己愛(パーソナリティ障害に該当するか否かに関わらず)は、周囲を気に掛けないタイプがクローズアップされがちですが、過剰に気に掛ける自己愛的なタイプがかなりの割合で存在します。

ですが、この「過剰に気にかける自己愛」というパターンは見逃される(=自己愛だと認識されない)ことが多いように思います。

「過剰に気にかける自己愛」のタイプは、一見して弱々しく、周囲に適応しているように見えるので、自己愛ではないだろうと評価されることが多いのです。

ですが、彼らが周囲に適応しているように見えるのは、自身の脆弱性が露呈しないように、指摘されないように、「周囲に過剰に適応することで防御している」という在り様の結果に過ぎませんし、この手の「過剰適応」については恐怖や不安に基づいたものになるので長期的に見ると不適応を生じさせる可能性を高めます(そして、本質的な問題は恐怖や不安を感じてしまう当人の脆弱性にあるので、本人のつらそうな姿に合わせて環境調整をしても改善に至ることは少ない)。

また、弱々しく見える彼らではありますが、内心は「自分がこんなに苦しんでいるのに、どうして対応してくれないんだ、変わってくれないんだ」という不満を世界に対して抱いていることが多いですし、多少面接を重ねれば、この「弱々しさの奥にある不遜」を察知することは容易いはずです(面接者が弱々しさに操作されていなければ、ですがね)。

実践上、こうした「過剰に気にかける自己愛」の存在を自覚し、見立てることができ、その対応も理解していることは欠かせません。

おそらく、現在の社会風潮などを踏まえれば、この手の自己愛は増加してくることが予測されますし、クライエントの年齢や状況によってはサポーティブなスタイルだけでは対処しきれない(変化しない)ことが多くなります。

いずれにせよ、本問の「賛美されたい欲求の広範な様式を示すもの」は自己愛性パーソナリティ障害の特徴であると言えます。

よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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