自伝的記憶に関する問題です。
エピソード記憶が多いけど、エピソード記憶=自伝的記憶ではなく、また、意味記憶の中にも自伝的記憶に該当するものもあります。
問84 自伝的記憶に関する説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 自己に関する意味記憶は含まれない。
② 自己にとっての未来展望も含まれる。
③ 想起時期に近い時期ほど想起数が多い新近効果はみられない。
④ 生後3年間のエピソード記憶がほぼ欠落している幼児期健忘がみられる。
⑤ 高齢者においては、中年期の記憶が想起されやすいレミニセンスバンプがみられる。
解答のポイント
自伝的記憶の特徴を把握している。
選択肢の解説
① 自己に関する意味記憶は含まれない。
② 自己にとっての未来展望も含まれる。
自伝的記憶 (autobiographical memory) とは、自分の人生で経験した出来事に関する記憶の総体を指し、エピソード記憶の一種です。
自伝的記憶研究にはさまざまな方法が用いられていて、実験参加者の人生について、特定の出来事や時期について質問する方法がよく用いられます。
そして、自伝的記憶研究で用いられる代表的な研究法は日誌法で、これは日々の出来事を日誌に記録し、その記憶を追跡調査する方法です。
リントンは、この日誌法を用いて自分自身の記憶を6年間にわたって追跡調査しました。
具体的には、日々の出来事を毎日少なくとも2つ以上をカードに記録し、ファイルに収集し、毎月そのファイルのなかからランダムに2つのカードを取り出し、そこに記録されている出来事をどれだけ思い出せるかをテストしました。
その結果、自伝的記憶の忘却には次のような2種類があることが明らかになりました。
第1は、類似した出来事(たとえば定期的に出席した会議での出来事)の細かな事実が忘れられ、互いに区別がつかなくなるようなタイプの忘却です。
これに対し第2のタイプの忘却は、その出来事についてまったく思い出せなくなるような忘却であり、これは、あまり重要でない些細な出来事(たとえば2年前に指にけがをしたこと)の場合に多く見られました。
そしてリントンは、第1のタイプの忘却は、個々の出来事のエピソード記憶が意味記憶のなかに吸収・統合されていくプロセスを反映しているのではないかと解釈している。
つまり、はじめて会議に出席したときの経験はすべてが新奇な出来事であり、その出来事に固有のエピソード記憶が形成されますが、会議が定期的に繰り返されると、毎回の会議に共通な要素とパターンが抽象化され、しだいに会議の一般的スキーマ(意味記憶)に吸収されるわけです。
このことからもわかる通り、自伝的記憶には「自己に関する意味記憶」も含まれることになります。
個々の出来事のエピソード記憶が意味記憶に吸収・統合されることが示されていますから、単にエピソード記憶的なものだけが自伝的記憶になるというわけではないのです。
すなわち、自伝的記憶には「自らに関する意味記憶」も含まれることになり、具体的には「私とはこういう人間である」などのような記憶も自伝的記憶ということになります。
また、自伝的記憶=エピソード記憶と思いやすいですが、エピソード記憶の中には自身を含めないものもあるので(妻が何かをしていた、など)、エピソード記憶の全てが自伝的記憶にはならず、あくまでも「自分についてのエピソード記憶」が自伝的記憶とされます。
なお、選択肢②の「未来展望」ですが、こうした展望記憶(Prospective Memory)とは、これから先の未来に予定されていることについて、「いつ何をするのか」を覚えておくことなどを指しており、例えば「食事のあとに薬を飲む」「明日の朝ゴミ出しをする」といった予定についての記憶になります。
これらは自伝的記憶には該当しないことになりますね。
以上より、選択肢①および選択肢②は不適切と判断できます。
③ 想起時期に近い時期ほど想起数が多い新近効果はみられない。
④ 生後3年間のエピソード記憶がほぼ欠落している幼児期健忘がみられる。
⑤ 高齢者においては、中年期の記憶が想起されやすいレミニセンスバンプがみられる。
ルービンら(Rubin et al、1986)は、参加者にさまざまな手がかり話を提示し、想起された出来事を年齢ごとに整理して、全生涯にわたる自伝的記憶の分布を調べました。
その結果からは以下の3つの現象が示されています。
- 3歳以前の記憶は非常に少なく、この傾向を幼児期健忘(childhood amnesia) とよぶ。
- 10~30歳頃の出来事の想起件数が際立って多く、この現象はレミニセンス・バンプ(reminiscence bump)とよばれている。
※レミニセンス(reminiscence)は教育心理学の分野ではよく知られており、定義は「再学習をしないのに、忘れていたことを思い出す」になる。 - 現在から過去10~20年にわたる、標準的な忘却曲線が見られる。
幼児期健忘は、①海馬(hippocampus)を含む脳の記憶機能が未成熟であること、②言語が未発達であり、一般的な知識やスキーマが十分に形成されていないこと、③自己がほかとは分離しているという自己概念が未発達であることなどに起因すると考えられている。
また、10~30代に見られるレミニセンス・バンプの原因の1つは、青年〜成人期初期に起こった出来事の示差性 (distinctiveness)の高さにあるとされています。
10~30代における出来事は、自分が何者かという自我同一性を確立する上で重要であり、何度も繰り返しリハーサルを受け、記憶が精緻化されていると解釈できます。
また、想起した年齢から過去10~20年は、想起した年齢に近い記憶ほど思い出されやすくなることが確認されており、想起した年齢に近いほうが思い出しやすいという点で通常の忘却曲線と同様の現象です。
上記より、自伝的記憶には「幼児期健忘が見られる」「10~30歳頃の出来事の想起件数が際立って多いレミニセンスバンプが確認されている」「想起時期に近い時期ほど想起数が多い新近効果が存在する」という特徴があります。
選択肢⑤の内容は「高齢者においては、中年期の記憶が想起されやすい」とあり、実際のレミニセンスバンプの説明と異なっていることがわかりますね。
以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。