公認心理師 2023-79

十分な説明を受けた上でのクライエントの自発的な合意を示す概念名を選択する問題です。

心理学の問題というよりも、一般教養問題でしたね。

問79 十分な説明を受けた上でのクライエントの自発的な合意として、最も適切なものを1つ選べ。
① プライバシー
② ディセプション
③ デブリーフィング
④ セカンド・オピニオン
⑤ インフォームド・コンセント

解答のポイント

選択肢で示されている各概念を把握している。

選択肢の解説

⑤ インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセントとは「医師と患者との十分な情報を得た上での合意」を意味する概念です。

まずは医療領域(医師‐患者)におけるインフォームドコンセントについて述べていきましょう。

治療を受けるかどうかを決定するにあたって以下の3つの要素が要求されます。

  1. 医師からの情報が開示されること
  2. 自発的な選択ができるような環境でなされること
  3. 患者に治療を受けるかどうかを判断する能力が備わっていること

これらの要件は、治療関係の在り方に関する原則であり、医師と患者の対話を通して治療関係をより信頼のあるものとし、共同の意思決定を行うことで患者自身が主体的に治療に取り組んでいくことを目的とします。

医師と患者との間に存在する情報の差を可能な限り縮小させ、最終的には、実際に治療を受ける患者自身の意思や価値観などに基づいた患者の自己決定権が優先されなければなりません。

上記の通り、一般に「インフォームドコンセント」は医師による治療について行うものですが、その内容を述べていくと、検査や治療についての目的や内容、病状と診断結果(病名)、治療方針、治療内容 (投薬内容など)、予測される死亡や身体障害のリスク、見通し(予後)、検査や治療行為に伴って生じる生活上の変化、治療のために利用可能な各種の保健福祉サービスについての情報、かかる費用などになります。

これらは方針を自己決定するために必要とされる情報であり、患者は説明を元に自身の価値観に基づいて方針を選択することになります。

カウンセリング場面で行うインフォームドコンセントの内容も、医師が行うものと本質的に異なるものではありません。

金沢(2006)は心理面接におけるインフォームド・コンセントの具体的内容として、①援助の内容・方法について (援助の効果とリスク、援助を行わない場合のリスクと益など)、②秘密保持について(秘密の守られ方とその限界についてなど)、③費用について(費用と支払い方法など)、④時間について(時間帯・相談時間、場所、機関など)、⑤カウンセラーの訓練などについて(カウンセラーの訓練、経験、資格、職種、理論的立場など)、⑥質問・苦情などについて(カウンセリングはいつでも中止することができることなど)、⑦その他、の7点を挙げています。

これらは以下のように分類することができます。

  1. 援助の根拠や援助方法、予想される結果に関する説明:
    アセスメントやケース・フォーミュレーションをクライエントと共有しつつ、幾つかの援助方法を提案する。 クライエントは与えられた情報と自身の価値観を照らし合わせて援助方法を選択し、その実施に同意することになる。
  2. 臨床心理学的援助の実施者である心理臨床家自身に関する説明:
    有効な援助方法が複数ある場合、カウンセラーの訓練経験や専門領域等の情報は、クライエントの選択に影響を与える可能性が高い。 また、カウンセラー自身について説明することは、インフォームド・コンセントに留まらない向治療的な効果も期待できる(カウンセラー側からの適度な自己開示は相手を尊重し対等な人間であることを伝える意味がある)。ただし、クライエントの知る必要のない情報が含まれる過度の自己開示は適切な治療関係からの逸脱になるため、その自己開示が客観的に見て援助プロセスに必要なのか吟味する必要がある。
  3. 時間帯や場所、費用など実施機関やシステムに関する説明:
    援助方法やカウンセラーの能力には満足しているが、平日は仕事をしているために日中の来談ができない、といった場合にはクライエントの来談可能な時間に実施可能な施設へのリファーを考える必要がある。 クライエントやその家族の経済的な負担も無視できない要因である。

インフォームドコンセントの内容はすべて説明することが望ましいが、現実的には時間の制約等があり全てを行うことが困難な場合もあります。

しかし、インフォームドコンセントでは説明に基づいた意思決定を可能にする情報が重要であるとされ、伝えられる情報には優先順位があることになり、ここで優先されるのは、その人の自由な意思決定につながる情報ということになるわけです。

例えば、リスクが気になるクライエントであればリスクに関する情報やリスクを減らす方法、費用を重視するクライエントであれば手続きにかかるコストや費用面をサポートする制度などです。

また、リスクについて積極的に尋ねるが費用面については気がついていない、など意思決定につながる可能性があるが、クライエントが目を向けていない面があれば、それを伝えることも必要になります。

もちろん、正確に伝えることが前提となるが、納得した上での意思決定に至るために、クライエントの価値観や心情に配慮したわかりやすい説明も必要となるのは言うまでもありませんね。

上記の通り、インフォームド・コンセントとは「医師と患者との十分な情報を得た上での合意」を意味する概念ですから、本問の「十分な説明を受けた上でのクライエントの自発的な合意」に合致すると言えます。

出自が医療領域の概念ですから、主語が「医師」「患者」というかたちになりますが、カウンセリングの領域で使われる際には「カウンセラー・セラピスト」「クライエント」と変換することになります。

もちろん、用いられる領域が変わって主語の変換があろうとも、本質的な意味としては「十分な説明を受けた上で、支援を受ける側の自発的な合意」であることに変化はありません。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

① プライバシー
② ディセプション
③ デブリーフィング
④ セカンド・オピニオン

正答以外の選択肢については、簡単に述べていきましょう。

まず選択肢①の「プライバシー」は、個人や家庭内の私事・私生活およびそれを他の個人や社会に知られず、干渉を受けない権利のことを指します。

個人情報保護の文脈では、他者が管理している自己の情報について訂正・削除を求めることができる権利(積極的プライバシー権)を指します。

元々は「一人でいさせてもらう権利」という定義がなされていました(心理学で言われる「一人でいられる力」に似ていますね)。

少なくとも本問で示されている「十分な説明を受けた上で、支援を受ける側の自発的な合意」ではないことがわかりますね。

選択肢②の「ディセプション」とは、他者に対して意図的に偽であることを真であるように信じ込ませることを指し、大別すると以下のパターンに分かれます。

  1. ウソをついてだますこと。
  2. 不正確・不完全な情報の伝達。
  3. 必要な情報や事実の隠ぺい。

社会心理学では、有力な研究法の一つとして用いられてきました。

ディセプションの目的と機能としては、「複雑で流動的な現実の社会的状況を実験室に再現し、実験参加者のさまざまな不安や期待が実験室での反応や行動に影響されるのを防ぐこと」とされています。

社会心理学では、人が置かれる状況を操作する(変化させる)ことによって生じる態度や行動の変化を知ることが重要です。

しかし参加者が、状況が「操作されている」と認知することで態度や行動を変化させることがあり得ます(例えば、要求特性:要求に応えようとする、など)。

デセプションは、真の目的を伝えることによって参加者に実験参加に対する「構え」が生じることで、結果に影響がでることを避けるための手続きとなります。

以上のように、研究目的等を伝えることで、研究結果が歪まないように被験者に偽りの仮説や目的を告げることを「ディセプション」と言います。

選択肢③の「デブリーフィング」とは、災害や精神的ショックを経験した人々に対して行われる、急性期(体験後2、3日~数週間)の支援方法のことで、心理的デブリーフィングとも呼ばれます。

デブリーフィングは元来、軍隊用語で「状況報告、事実確認」を意味し、前線から帰還した兵に任務や戦況を質問し、報告させることを指しており、これが転じて、大規模災害や悲惨な死傷事故を目の当たりにした人々が、自身が体験した状況を正しく認識することが、ストレスによって引き起こされている自身の異常反応(不安感、抑うつ感など)が正常な反応なのだと認識することにつながり、ひいては回復へと繋がっていくことを目指して行われるアプローチです。

デブリーフィングでは、トラウマとなるような出来事を体験した人がグループで2~3時間話し合い、互いを理解しあう雰囲気のなかで心に溜まったストレスを処理することを目指すという形が多いですね。

ただ、現在ではデブリーフィングはPTSDの症状を悪化させるという報告が示されており、災害直後の心理的デブリーフィングには否定的な見解が示されるようになりました。

関係性のない中で、そして、当人の意思に反した形でなされる「トラウマ体験を話す」というアプローチはしない方が良いのは間違いありません。

選択肢④の「セカンド・オピニオン」とは、診断や治療選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に求める「第2の意見」のことを指します(そのまんまですね)。

セカンド・オピニオンを聞くことで、それぞれの医師の意見をもとに、患者自身が病気や治療への理解を深め、最善の治療方法を選択できるのです。

主治医に「全てを任せる」という従来の医師患者関係を脱して、複数の専門家の意見を聞くことで、より適した治療法を患者自身が選択していくべきという考え方に沿ったものです。

セカンドオピニオンを受けるきっかけの例としては以下のようなものがあります。

  • ほかの治療方法の可能性がないかを聞きたいとき
  • 主治医の診断について、ほかの医師の意見を聞きたいとき
  • 主治医の説明に納得のいかない部分があるとき
  • 主治医の説明について別の角度から検証したいとき
  • 治療方法を選ぶ際のアドバイスが欲しいとき

これらの要望は、特にがんや進行性の難病など、治療方法が高度で、長期化する病気の場合によく発生します。

セカンド・オピニオンは、こうした要求を解決し、患者が良質な医療を受けられるように認められている権利です。

セカンド・オピニオンを求める場合、まずは主治医に対し、他医への紹介状(診療情報提供書)、画像診断フィルム、検査の記録の作成等の情報提供を依頼する必要があります(意見を求められた医師は、これまでの治療経過や病状の推移を把握しないことには適切な助言をすることが難しいから)。

その上で紹介先を受診し意見を求めることになりますが、このとき新たな検査を必要とする場合もあることを知っておきましょう(双方の医療機関がこういうことを説明することを通して、患者自身も「なんで新たな検査をしなきゃいけないんだ、おかしい!」ということを言わないような形になるといいですね)。

なお、保険医療機関を受診し保険証を提示して、患者が一般外来での保険診療を希望する場合は、保険診療の取扱いとなります(ですが、診療情報がなければオピニオンを求められませんから、現機関に黙ってこっそりと受診するのはセカンド・オピニオンにはなりません。また、治療方針に納得できていないから別の医療機関に行くというのもセカンド・オピニオンではありません)。

セカンド・オピニオン外来では、主治医に対する報告書を作成し、主治医から提出された資料も返却します。

セカンドオピニオンは原則として全額自費診療となります( 診療行為は行わず、健康保険は使えない。だから生活保護受給者の場合でも、自費で全額支払う必要がある)。

医師は患者が持参したデータを見て意見を述べることになり、医療機関によってさまざまではありますが面談時間は30分〜1時間で予約制、費用は1〜3万円くらいが多いようです。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

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