公認心理師 2023-59

事例の変化をもたらした心理的発達を選択する問題です。

お馴染みの問題という感じですが、毎回説明が長くなりますね。

問59 生後11か月の女児A。Aは3か月前から乳児保育所に入所している。入所当初は、登園の際の親子分離時に激しく泣いたが、1か月前頃から徐々に減少し、はいはいで園内を活発に動き回る様子が顕著に観察されるようになってきた。一方、目新しい玩具などを見た際には、未だに警戒し、回避することも多い。しかし、現在は、担当保育者の顔を覗き込み、保育者が自分と同じ玩具などを見て、にこやかな表情を浮かべている際には、接近し手に取って、積極的に遊ぶように変化してきている。
 こうしたAの変化の背景に想定される心理的発達として、最も適切なものを1つ選べ。
① 感情制御
② 共同注意
③ 社会的参照
④ 向社会的行動
⑤ アタッチメント行動

解答のポイント

心理的発達(共同注意や社会的参照など)の流れを把握している。

選択肢の解説

② 共同注意
③ 社会的参照
④ 向社会的行動

養育者が乳児が注視しているものに視線を向けること、そしてそれを重ねていくことで乳児も養育者の視線を辿って注意を向けるようになります。

これは互いが興味関心を持っているものを共有するという現象であり、発達心理学において「共同注意」と呼ばれています。

共同注意は「対象に対する注意を他者と共有する」現象であり、社会的コミュニケーション発達上重要な意味をもつと考えられています。

ブルーナーは乳幼児の共同注意行動に2つの段階があることを示しました。

  • 第1段階:2ヶ月頃の乳児が大人と視線を合わせる行動。この段階では、外界と関わるやり方として、大人と視線を合わせたりして関わる子ども―大人のやりとり(二項関係)と、モノと関わる子ども―モノのやりとり(二項関係)しかもっていない。
  • 第2段階:9~10ヶ月では、例えば大人が指さした対象(犬)を子どもも一緒に見るといった、外界の対象への注意を相手と共有する行動がみられるようになる。第1段階が乳児と大人という2者間の注意共有であったのに対し(二項関係)、第2段階では、自分-対象-他者の3者間での注意のやりとりが可能になる(三項関係)。 

トマセロは、9~10ヶ月頃の子どもは大人と同じ対象に注意を向けるだけだが、12ヶ月頃になると対象を指さした後、大人を振り返ってその対象を見ているかどうかを確認する行動が出現するとし、これを他者の意図を理解した行動と指摘しました。

また共同注意の発達は意図的行為主体としての他者理解の過程を示すものでもあるとし、その発達的変化を以下の通り、3つの段階に分類・記述されています。

  1. 対面的共同注意:生後2か月から半年の間に最も顕著に出現する。この時期には乳児の視線が他者の顔、とりわけ目をしっかりとらえ、更に社会的微笑の出現が明確になってくる。この乳児が他者と視線をしっかり合わせる状態を「2者の視線が出会う単純な共同注意」と呼び、共同注意の原型的形態と見なされている。
  2. 支持的共同注意:乳児と他者のいずれかが相手の視線を追跡して同じ方向を見たり、そこに存在する対象物を注目したりするときに生じる。このタイプの共同注意では、他者と同じ方向や対象物を見ていることに乳児が気づいているかは不明である。Butterworthらはこの誰かほかの人が見ているところを見ることを視覚的共同注意と呼んでいる。この共同注意は6か月頃より出現する。
    更に乳児があるものを凝視したときに、養育者がそれに気づき、その対象物に視線を向けるように作用する。これにより養育者は乳児の対象物に対する意図を感じ取り、それに促されるように一定の行動、例えば、対象物を見せたり動かしたり、手に持たせようとしたり、感情表現に合わせるようにするなど。このような行動は、乳児に対して対象物を目立たせ、母親自身や母親自身とのコミュニケーションチャンネルを浮かび上がらせ、乳児がそれに気づきやすくする方向に働く。このような母親の与える様々な情報に基づいた共同注意を支持的共同注意と呼んでいる。
  3. 意図共有的共同注意:生後9~12か月頃より乳児の共同注意に新たな質的変化が生じる。乳児は自分、大人、そしてこの両者が注意を共有する第三の対象物から三項関係をより緊密なものにし、参照的な相互作用に関わりだす。例えば乳児は自分の視線を柔軟に調整しながら、大人が見ているところを確実に見始める。子どもは自分の注意を対象物と大人にしっかり配分させながら共同注意をしている。そこには大人による乳児の意図理解と同時に、乳児による大人の意図理解がある。こうした他者への注意の配分を明確に伴う共同注意行動を「意図共有的共同注意」と呼ぶ。ここで共同注意が一応完成したと言える。これらによって視線追跡、社会的参照、模倣学習といったことが可能になる。さらにこの時期に身振りを使って、自分が関心を持った対象に大人の注意や行動を誘導しようとし始める。指さしの出現である。

このように、三項関係を表す共同注意行動には、指さし(見てほしいものを指差す)、参照視(既知の物を目にした場合にも母親の方を見る)、社会的参照(対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする)などがあります。

また、12ヶ月に出現する対象を含んだ社会的行動の中に、物を他者に見せる、または、手渡しをする行為が含まれることについては多くの研究報告があります。

12ヶ月に現れる提示・手渡しはその前後に出現する指さし理解と指さし産出の中間に位置しており、両者の発達的連鎖を橋渡しする役割を担っているのではないかとも考えられています。

指さしを含め、こうした手渡し・提示という行為については、子どもが自らの行動で他者の注意を自分の興味対象へと巻き込むための行動とされています。

共同注意の関連行動は以下の図の通りです。

共同注意との関連では、こうした行動が生じるとされています。

少しわかりにくいのが、共同注意と社会的参照の違いだと思います(本問では両方が選択肢として設定されている)。

共同注意とは「対象に対する注意を他者と共有する現象」であり、社会的参照とは「対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする」ということになります。

また、上記の図の中では「向社会的行動」もこうした共同注意の文脈の中で見られるようになることが示されていますね(他者の苦痛への応答やいたわり行動)。

本事例で求められているのは、新しいおもちゃを回避するなどしていたAが「担当保育者の顔を覗き込み、保育者が自分と同じ玩具などを見て、にこやかな表情を浮かべている際には、接近し手に取って、積極的に遊ぶように変化してきている」という流れを説明する概念を選択することです。

ですから、まずは選択肢④の向社会的行動は除外できますが、難しいのは共同注意と社会的参照のいずれを選択するかになります。

大枠では「同じものに興味を向ける」ということになりますから共同注意と言えなくもありませんが、より具体的に「保育者の顔を参照している」という意味で社会的参照を選択するのが適切でしょう。

以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

① 感情制御
⑤ アタッチメント行動

感情制御はそのまま「感情をコントロールすること」、アタッチメント行動は「愛着に基づいた行動」であると考えて解いていきましょう。

「入所当初は、登園の際の親子分離時に激しく泣いたが、1か月前頃から徐々に減少し、はいはいで園内を活発に動き回る様子が顕著に観察されるようになってきた。一方、目新しい玩具などを見た際には、未だに警戒し、回避することも多い」という記述から、前半に愛着に関連する内容(分離不安)、後半は状況を警戒する様子(目新しいおもちゃを回避)が見られます。

まず分離不安(というよりも「分離に伴う不安」とより一般的に言って良いでしょう)に関してですが、その後のAの変化「担当保育者の顔を覗き込み、保育者が自分と同じ玩具などを見て、にこやかな表情を浮かべている際には、接近し手に取って、積極的に遊ぶように変化」については、愛着行動による変化であると見なすのではなく、正常発達の中で生じる社会的参照現象であると捉えるのが自然です。

また、状況を警戒する様子を「感情制御」と考えるのは適切ではありませんし、ましてや「担当保育者の顔を覗き込み、保育者が自分と同じ玩具などを見て、にこやかな表情を浮かべている際には、接近し手に取って、積極的に遊ぶように変化」は感情を制御して生じているのではなく、社会的参照によって起こっていると見なすべきですね。

もちろん、社会的参照という発達を通して感情制御が促進されるという面もあるでしょうから、完全に無関係というわけではありませんが、少なくとも本事例で起こったことを「感情制御」や「アタッチメント行動」によって生じたと見なすのは不適切ですね。

よって、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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