神経性やせ症に伴う身体の変化に関する問題です。
ただ「これが起こる」と覚えるのではなく、身体の仕組みを踏まえて「なぜ起こる」のかを理解しておくようにしましょう。
問36 神経性やせ症に伴う身体の変化として、適切なものを1つ選べ。
① 産毛の減少
② 血圧の上昇
③ 体温の上昇
④ 脈拍の増加
⑤ 骨密度の低下
解答のポイント
神経性痩せ症に伴う身体の変化を、身体のメカニズムと共に把握している。
選択肢の解説
① 産毛の減少
② 血圧の上昇
③ 体温の上昇
④ 脈拍の増加
⑤ 骨密度の低下
まずは神経性やせ症の身体の変化を列挙していきましょう。
低血圧、心拍数低下、低体温、無月経、便秘、下肢のむくみ、背中の濃い産毛、皮膚の乾燥、てのひらや足の裏が黄色くなるといった変化がみられます。
過食や嘔吐がある場合には、歯のエナメル質の溶解、唾液腺が腫れたり、手に吐きだこがみられたりもします。
血液検査では脱水、貧血や白血球減少、肝機能異常、低タンパク血症、高コレステロール血症などがみられます。
嘔吐や下剤を大量に使うことなどにより電解質異常をきたします。
また、骨粗しょう症や腎機能障害もみられます。
低体重が長期間続くと脳の萎縮もみられるようになります。
こうした身体の変化をしっかりと把握し、時にはクライエントに伝えられることが重要です。
なぜなら、彼女ら(彼ら)は、自身の身体について明らかな痩せがあるのに「太っている」などと認知の問題が生じているように見える一方で、それとは関係がない身体の不調に関しては過敏に反応し、気遣うことが多いからです。
脳の萎縮などは当人たちにとっても重大に受け取られることが多いため、脅しではなく事実の伝達として身体の変化を伝え、変化の意欲を引き出す手法の一つとして備えておくことが重要になります。
神経性やせ症では、体重減少に伴い甲状腺ホルモンが低下することで代謝が低下し、少ないエネルギーでどうにか生きていくことができるように調節されている状態といえます。
低体温や徐脈は、この甲状腺ホルモンの低下による作用になります(甲状腺機能低下症とは区別する必要があります)。
人間の体は食べ物を摂取することで甲状腺ホルモンが働き、細胞の体温を調整してくれていますが、栄養が不足していると甲状腺ホルモンが減少し体温が落ちることになります。
栄養が不足している身体は、残り少ないガソリンを省エネで使っていく状態にシフトしていくわけですが、身体の痩せと共に心臓が小さくなることも指摘されており、脈拍数も減少し(冬眠中の動物のようなものですね)、循環する血液量も少なくなります。
体温が1度下がると免疫力が30%低下し、代謝が12%下がると言われており、健康を保てなくなり、時には命に関わることも考えられます。
神経性やせ症では、体毛が細く柔らかくなる、体や顔の毛が濃くなるなどの症状がみられることがあります。
特に、産毛は体温を下げないために濃く密集すると言われています。
体毛はもともと体温調節のためや外傷から皮膚を守るために生えているため、産毛が濃くなるのは、体が危険な状態にあると察知した証拠ともいえます(骨折した箇所から毛が生えるなどはよく聞く話ですよね)。
日本人女性における神経性やせ症の発症は15歳以下が約25%を占めていますが、15歳以下といえば、身長が伸び、体重が増え、初潮を迎え、骨密度がピーク値となる大事な時期です。
性ホルモンの分泌能が著しく低下するために、身長の伸びの停止(本来160センチまで伸びる予定でも、140センチくらいで伸びなくなる場合がある)、骨粗しょう症、無月経などが生じます。
性ホルモンが低下すると骨密度も低下するので、成人になった時に骨粗しょう症発症のリスクが高くなります。
運動時病的骨折のリスクも高くなるので、特に激しく運動活動する人は注意が必要です。
14歳未満で神経性やせ症を発症して18歳までに回復した患者を対象に、正常範囲まで身長が伸びた患者と低身長患者で比較したところ、身長が伸びた患者ではBMI(肥満指数:18.5以下でやせ、17.6以下でやせ過ぎと判定される)16未満の期間が1年未満であること、低身長患者は最大骨量(骨密度)が低値のままであることが分かっています。
たとえ神経性やせ症が治癒しても、低体重期間が長いと低身長や低骨密度となってしまい、その後の人生にも大きく影響を及ぼしてしまうというわけです。
以上のように、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は神経性やせ症に伴う身体の変化として、逆の内容が記述されており、不適切と判断できます。
また、選択肢⑤が適切と判断できます。