DSM-5に基づく病態の理解に関する問題です。
DSM-5TRが出ましたが、2023年度の問題はDSM-5を基準に作られていますから、当然DSM-5の内容で解いていきます。
問61 24歳の女性A、会社員。仕事や日常生活に支障が出るのではないかと心配した友人に連れられて、公認心理師Bのカウンセリングルームを訪れた。Aは、「気がついたら知らない場所にいて、普段着ないような派手な服を着ていて、戸惑うことがあり、ときには、大人から叱られている子どもの泣き声が聞こえてくることもある。自分の行動についての記憶がないので動揺するけど、生活にはそれほど支障はない」と言う。アルコールや他の物質乱用はない。
DSM-5に基づくAの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 統合失調症
② 双極Ⅰ型障害
③ 強迫症/強迫性障害
④ 境界性パーソナリティ障害
⑤ 解離性同一症/解離性同一性障害
解答のポイント
各診断基準の内容を把握している。
選択肢の解説
⑤ 解離性同一症/解離性同一性障害
まずは本事例の特徴について挙げていきましょう。
- 心配した友人に連れてこられた:そういう友人がいること、心理的支援への誘いに断らないことなどの意味を実践では見立てていく(本問とは関係なし)。
- 気がついたら知らない場所にいて、普段着ないような派手な服を着ていて、戸惑うことがある:記憶がないというエピソードから思い浮かべるべき病態とは。「普段着ないような」から何を連想するか。
- ときには、大人から叱られている子どもの泣き声が聞こえてくることもある:聞こえる、という症候が生じやすい疾患とは。
- 自分の行動についての記憶がないので動揺するけど、生活にはそれほど支障はない:記憶がない割には混乱が少ない。
- アルコールや他の物質乱用はない:これらは単なる除外診断。
これが事例の情報と、そこから何を連想すべきかという簡単な記述になります。
実際にクライエントに会うなら、もっと微細な情報も含めて見立てに加えていくことになるでしょうが、資格試験で問われるのはそういう「見立ての力」ではなく、「どの診断基準に該当するか」という頭の中のチェックリストが存在するか否かです。
各症候や疾患の「ストーリー」を理解するには、それなりの経験と知識、そして努力が必要ですから、それは資格を取得した後に現場の中でやってもらえればと思います。
まずは本選択肢である解離性同一性障害の診断基準を示していきます。
A.2つまたはそれ以上の、他とはっきりと区別されるパーソナリティ状態によって特徴づけられた同一性の破綻で、文化によっては憑依体験と記述されうる。同一性の破綻とは、自己感覚や意思作用感の明らかな不連続を意味し、感情、行動、意欲、記憶、知覚、認知、および/または感覚運動機能の変容を伴う。これらの徴候や症状は他の人により観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。
B.日々の出来事、重要な個人的情報、および/または心的外傷的な出来事の想起についての空白の繰り返しであり、それらは通常の物忘れでは説明がつかない。
C.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.その障害は、広く受け入れられた文化的または宗教的な慣習の正常な部分とは言えない。
注:子どもの場合、その症状は想像上の遊び友達または他の空想的遊びとしてうまく説明されるものではない。
E.その症状は物質(例:アルコール中毒時のブラックアウトまたは混乱した行動)や他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものではない。
解離性同一症とは、かつて多重人格障害と呼ばれた神経症で、子ども時代に適応能力を遥かに超えた激しい苦痛や体験(児童虐待の場合が多い)による心的外傷(トラウマ)などによって一人の人間の中に全く別の人格(自我同一性)が複数存在するようになることを指します。
解離とは、記憶・知覚・意識といった通常は連続してもつべき精神機能が途切れている状態で、軽いものでは読書にふけっていて他人からの呼びかけに気付かないことなどが当てはまります。
この解離が、非常に大きな苦痛に見舞われたときに起ることがあり、実際に痛みを感じなくなったり、苦痛を受けた記憶そのものが無くなることがあります。
これは、苦痛によって精神が壊れてしまわないように防御するために、痛みの知覚や記憶を自我から切り離すことを無意識に行っていると考えられています。
解離性同一性症はこの解離が継続して起こることによると考えられています。
長い期間にわたり激しい苦痛を受けたり、何度も衝撃的な体験をすると、その度に解離が起こり、苦痛を引き受ける別の自我が形成されてしまい、その間の記憶や意識をその別の自我が引き受けて、もとの自我には引き継がれず、それぞれの自我が独立した記憶をもつようになることが発生の原因と考えられています。
他人から見ると、外見は同じ人であるのに、まったく連続しない別の人格がその時々で現れます。
性格や口調、筆跡までもが異なりますので、性格の多面性とは別のものであることに注意する必要があります。
解離自体は太古の時代から人間に備わっている防衛反応の一つですが、これが頻発すること(頻発せざるを得ない状況)によって、不穏感情の切り離しの頻度が多くなってしまい、多くの人が耐えられるような不快な状況であっても解離という防衛反応が生じてしまうなど日常生活上の問題が出てきます。
ですが、当人にとっては「不快な感情を切り離している」ので、そうした日常生活上の支障に「気がついてしまう」ということは、切り離した不快な感情に目を向けることになってしまいますから、記憶を失っていたり、奇妙な状況におかれているにも関わらず「それほど困ったり、混乱することはない」という事実と反応の間に乖離が生じます。
これは解離性障害全般の特徴のようなものであり、本事例においても派手な服を着て知らない場所に居たり、記憶がないにも関わらず「生活にはそれほど支障はない」という言葉になっているのです。
また、不穏な体験を解離で対処するのは、ある程度なら問題ないのですが、一定以上を超えると自身の内に解離させた体験群やそれに伴う感情が溜まっていきます。
これはそういう人たちに接してきた私自身の仮説に過ぎませんが、人間には「不穏なものも含めて自分であると受け容れたい(受け容れてほしい)」という欲求があるような気がしていて、自我の安定のために解離させた体験群やそれに伴う感情を無意識領域に追いやったとしても、やはり「そういう感情も自分である」という突き上げがあるような気がします。
ですから、何かしらの形で解離したものが表に出てくるということになりますが、その際、解離させた体験・感情に即した姿で現れるように思います。
例えば、性的な暴力を受けた体験群が解離しているのであれば、「その体験が起こることが自然な文脈の姿」となります。
極端な薄着をしたり、派手な格好をするなどして「こんな私なら、そんな風に扱われても仕方ないよね」と自我が納得できる形での表出になるということです(本事例においても、そんな感じの表出の仕方になっていますね)。
私はこうした表出の仕方は、本人に無意識に備わっている改善への志向が「その体験を何とか人生史に組み込もうとしている」のだろうと考えていますが、それによって「自らの人生史を歪ませる:例えば、私はもともとそんなことをされても仕方のない人間なんだという自己規定を生じさせる」こともあり得ます。
この辺の仕組みをどう理解し、それをクライエントに伝えるかが、それぞれの支援者に求められることでしょうね。
さて、診断基準に明確な記述はありませんが、「ときには、大人から叱られている子どもの泣き声が聞こえてくることもある」をどう理解するかも大切です。
こうした幻聴っぽい反応は「解離した自分自身の声」と見なすことができなくはありませんね。
自分の内においておくと苦しいものを解離させ、「外」にあるものと見なすことで安定を得ようとするために起こるものであり、幻聴のように見えますが、統合失調症のそれとは本質的に異なるものです。
ただ、聴取している支援者側にはこれらの違いがわかりにくいとされています。
見分けポイントの一つですが、解離は本質としては生体の防御反応です。
あくまでも本質は自分を守ってくれるものなので、解離に係わる体験を語っている本人に「何となく安心した感じ」があり、それが語る内容と本人の危機感とのズレとして認識されます(本事例の場合、子どもの泣き声が聞こえると語るけど、それに対してそれほど混乱した様子は示さない)。
こちらは明確な診断基準に規定はされていないものの、過去のトラウマ体験がそのような形で表に出るという意味では知っておいて損はない特徴であると言えますね。
上記を総合すれば、本事例の見立てとして第一選択とすべきなのは解離性同一性障害になります。
「記憶がない」という状況ではてんかんの可能性も考える必要もありますが、その他の情報も踏まえれば、第一選択が解離性同一性障害であることは変わりありませんね。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。
① 統合失調症
DSM-5の診断基準を参照してみましょう。
A.以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)
B.障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
C.障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在する。この6か月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されている。
- 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
- 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その活動期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。
E.その障害は、物質(例:薬物乱用、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。
これらを踏まえて、本事例を見ていきましょう。
統合失調症の可能性を疑うかもしれないものとして「大人から叱られている子どもの泣き声が聞こえてくることもある」がありますが、統合失調症の初回エピソードであれば、自身を否定するニュアンスの幻聴になるのが一般的です。
それに事例のその他の情報から(同一性の問題と思しき事態が起こっているなど)、「大人から叱られている子どもの泣き声が聞こえてくることもある」については解離性のものを疑うことが自然ですね。
また、他の事例情報を踏まえれば、統合失調症を疑う妄想・幻覚・まとまりのない発語が見られないのは明白であり、統合失調症を第一選択とする理由は存在しません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 双極Ⅰ型障害
双極性障害に関しては、躁病エピソードと抑うつエピソードを見た上で診断基準を読んでいくことが求められます。
【躁病エピソード】
A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。
B.気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。
- 自尊心の肥大、または誇大
- 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
- 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
- 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
- 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
- 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
- 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)
C.この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。
D.本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達してそれが続く場合は、躁病エピソード、つまり双極I型障害の診断とするのがふさわしいとする証拠が存在する。
【抑うつエピソード】
A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。
- その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
- ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
- 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
- ほとんど毎日の不眠または過眠
- ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
- ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
- ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
- 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
- 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
C.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
【双極Ⅰ型障害】
A.少なくとも1つ以上の躁病エピソード(上記「躁病エピソード」A~D)に該当すること。
躁病エピソードと抑うつエピソードの発症が、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症
B.障害、妄想性障害、または、他の特定されるまたは特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害ではうまく説明されない。
これらを踏まえて、本問の事例を見ていきましょう。
本事例では、抑うつエピソードと躁病エピソード、そしてそれらの推移が見られませんね。
解離性と思われる事態以外では生活上の支障がないこと(友人が支障が「出るのではないか」と心配して連れてきている:現状ではそれほど支障が出ていないがいずれ出るのではという心配)からも、双極Ⅰ型障害は否定されます。
双極Ⅰ型になるとかなり生活上の支障が生じるのが一般的だからです(いきなり考えられないような買い物(家を買うとか)をしたり。あくまで一例ですけどね)。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 強迫症/強迫性障害
強迫症/強迫性障害の診断基準を見ていきましょう。
A.強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在
強迫観念は以下の1. と2. によって定義される:
- 繰り返される特徴的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
- その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。
強迫行為は以下の1. と2. によって定義される:
- 繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる、確認する)または心の中の行為(例:祈る、数える、声に出さずに言葉を繰り返す)であり、その人は強迫観念に対して、または厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うよう駆り立てられているように感じている。
- その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和すること、または何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかしその行動または心の中の行為は、それによって中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりをもたず、または明らかに過剰である。
注:幼い子どもはこれらの行動や心の中の行為の目的をはっきり述べることができないかもしれない。
B.強迫観念または強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)。または臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。
D.その障害は他の精神疾患ではうまく説明できない(例:全般不安症における過剰な心配、醜形恐怖症における容貌へのこだわり、ため込み症における所有物を捨てたり手放したりすることの困難さ、抜毛症における抜毛、皮膚むしり症における皮膚むしり、常同運動症における常同症、摂食障害における習慣的な食行動、物質関連障害および嗜好性障害群における物質やギャンブルへの没頭、病気不安症における病気をもつことへのこだわり、パラフィリア障害群における性的衝動や性的空想、秩序破壊的・運動制御・素行症群における衝動、うつ病における罪悪感の反芻、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群における思考吹入や妄想的なこだわり、自閉スペクトラム症における反復的な行動様式)
▶該当すれば特定せよ
病識が十分または概ね十分:その人は強迫症の信念がまったく、またはおそらく正しくない、あるいは正しいかもしれないし、正しくないかもしれないと認識している。
病識が不十分:その人は強迫症の信念がおそらく正しいと思っている。
病識が欠如した妄想的な信念を伴う:その人は強迫症の信念は正しいと完全に確信している。
▶該当すれば特定せよ
チック関連:その人はチック症の現在症ないし既往歴がある。
これらを踏まえ、事例を見ていきましょう。
事例では、強迫観念、強迫行為と思える情報は示されていませんね。
強迫人格というものも示されていますが(サルズマンを読むと書いてありますね)、本事例ではそうした傾向も見られません。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害の診断基準は以下の通りです。
対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。
- 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
- 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
- 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
- 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
- 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
- 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
- 慢性的な空虚感。
- 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
- 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。
この基準とAの特徴が一致するかを見ていきましょう。
上記と絡むような事例情報は示されていませんね。
ただ、解離性障害は間に自傷行為を挟み、境界性パーソナリティを感じさせるようなパターンもあり得ます。
自傷行為があるのであれば、その自傷の起こっているパターンを細やかに把握しておくと、その人の病理水準等が正確に把握することができるでしょう。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。