公認心理師 2023-49

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に関する問題です。

正解となる選択肢に、他の法律が間接的に関わっているように思えるので、非常に難しい問題と感じました。

問49 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律に基づいた取組として、最も適切なものを1つ選べ。
① 健康経営の推進
② ハラスメントの防止
③ 円滑な職場復帰の支援
④ 過重労働による健康障害の防止

解答のポイント

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について把握している。

選択肢の解説

④ 過重労働による健康障害の防止

まずは「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の概要について把握しましょう。

厚生労働省が以下の通り要点をまとめています(こちらのサイトより転載)。

  1. 働き方改革の総合的かつ継続的な推進:
    働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとする(雇用対策法)。
    ※(衆議院において修正)中小企業の取組を推進するため、地方の関係者により構成される協議会の設置等の連携体制を整備する努力義務規定を創設。
  2. 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等:
    A.労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)
    ・時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
    (※)自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外。
    ・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。また、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。
    ・高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化)
    ※(衆議院において修正)高度プロフェッショナル制度の適用に係る同意の撤回について規定を創設。
    ・労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならないこととする。(労働安全衛生法)
    B.勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
    ・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。
    ※(衆議院において修正)事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮する努力義務規定を創設。
    C.産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)
    ・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。
  3. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保:
    A.不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
    短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件※を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。
    B.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
    短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。
    C.行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
    Aの義務やBの説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。

よりわかりやすく大切なポイントだけを述べると、①時間外労働の上限規制が導入(時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則など)、②年次有給休暇の確実な取得(使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要がある)、③正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止(同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止)などになります。

こうした「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の要点は、選択肢④の「過重労働による健康障害の防止」のための取組であると見なすことが可能ですね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

① 健康経営の推進

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。

企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。

健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。

経済産業省では、健康経営に係る各種顕彰制度を通じて、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、社会的な評価を受けることができる環境を整備しています。

具体的には、2014年度から上場企業を対象に「健康経営銘柄」を選定しており、2016年度からは「健康経営優良法人認定制度」を推進しています。

大規模法人部門の上位層には「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位層には「ブライト500」の冠を付加しています(こちらの資料に詳しいです)。

こうした「健康経営」自体は、従業員の健康維持や回復において重要な取り組みであり、実践することで企業の将来的な利益率アップが見込まれるため推進されておりますが、法的な義務として設定されているものではありません。

ただ、労働安全衛生を保つこと、関連法規を遵守すること、具体的な健康保持・増進施策を設定することは「健康経営」を担っていると言えますから、産業医の設置、ストレスチェックの実施などに関わる労働安全衛生法は間接的に関係がありそうですね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② ハラスメントの防止

令和元年6月5日に「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正されました。

「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」では、女性をはじめとする多様な労働者が活躍できる就業環境を整備するため、女性の職業生活における活躍の推進に関する一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大、情報公表の強化、パワーハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務等の新設、セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化等の措置を講じています。

ハラスメント対策の強化のため、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法の改正も併せて行われることになったわけです。

特に2020年6月より施行された改正労働施策総合推進法は、その中に職場内のパワーハラスメントを防止する規定が盛り込まれていることからパワハラ防止法と呼ばれているのです。

この法律によると、パワーハラスメントとは、①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)をいうことを明記し、事業主にパワーハラスメント防止のため、相談体制の整備等の雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。

セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化として、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法では、以下のような点が改正されています。

  1. セクシュアルハラスメント等に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化:
    セクシュアルハラスメント等は行ってはならないこと等に対する関心と理解を深めることや、他の労働者に対する言動に注意を払うこと等を関係者の責務として明記する。
    ※パワーハラスメント、いわゆるマタニティハラスメントについても同様(2、4も同じ)
  2. 事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止:
    労働者が相談等を行うことに躊躇することがないよう、労働者がセクシュアルハラスメント等に関して事業主に相談したこと等を理由とした不利益取扱いを禁止する。
  3. 自社の労働者等が他社の労働者にセクシュアルハラスメントを行った場合の協力対応:
    事業主に対し、他社から雇用管理上の措置の実施(事実確認等)に関して必要な協力を求められた場合に、これに応じる努力義務を設ける。
    ※あわせて、自社の労働者が他社の労働者等からセクシュアルハラスメントを受けた場合も、相談に応じる等の措置義務の対象となることを指針で明確化する。
  4. 調停の出頭・意見聴取の対象者の拡大:
    セクシュアルハラスメント等の調停制度について、紛争調整委員会が必要を認めた場合には、関係当事者の同意の有無に関わらず、職場の同僚等も参考人として出頭の求めや意見聴取が行えるよう、対象者を拡大する。

厚生労働省のこちらの資料がわかりやすい内容でまとめられていますね。

以上のように、ハラスメントの防止については「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」ではなく、「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」に併せて行われた各法の改正(特に労働施策総合推進法)に基づいて行われている取組です。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 円滑な職場復帰の支援

厚生労働省は、平成16年からメンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表しており、当該手引きでは実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています。

手引きでは職場復帰支援の流れを以下の通り示しています。

  1. 病気休業の開始及び休業中のケア:
    労働者から管理監督者に、主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まります。管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。休業する労働者に対しては、傷病手当金などの経済的な保障や休業の最長(保障)期間等の必要な事務手続き、及び職場復帰支援の手順を説明します。
  2. 主治医並びに産業医による職場復帰の可否判断:
    休業中の労働者から事業者に対し職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。その際、主治医による職場復帰可能の判断が、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等の精査を経て、採るべき対応を判断することが重要です。
  3. 職場復帰の可否判断及び職場復帰支援プランの作成:
    安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰できるか否を適切に判断し、職場復帰を支援するためのプランを作成します。この具体的なプランは復帰中の就業上の配慮など個別具体的な支援内容を定めるもので、管理監督者、休業中の労働者の間で十分な打ち合わせをもったうえで定めます。
  4. 最終的な職場復帰の決定:
    上記内容を踏まえ、事業者が職場復帰の最終的な決定が行われ、具体的な支援が実行に移されます。
  5. 職場復帰後のフォローアップ:
    職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。

これらがおそらく「円滑な職場復帰の支援」に関する取り組みに該当すると思われますが、この指針の根拠となっているのは労働安全衛生法第70条の2第1項になります。


(健康の保持増進のための指針の公表等)
第七十条の二 厚生労働大臣は、第六十九条第一項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
2 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導等を行うことができる。


ですから、「円滑な職場復帰の支援」の大本としては労働安全衛生法になると見なすのが妥当でしょう。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

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