公認心理師 2023-12

バイアスに関する問題です。

こちらは過去問でも取り上げられているような内容ですから答えやすかったですね。

問12 良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向を表す概念として、適切なものを1つ選べ。
① ポジティブ幻想
② 自己奉仕バイアス
③ 根本的な帰属の誤り
④ 自己中心性バイアス
⑤ インパクト・バイアス

解答のポイント

さまざまなバイアスについて把握している。

選択肢の解説

① ポジティブ幻想

自分を肯定し高めようとすることを「自己高揚動機」と呼びますが、これを満たす方法の一つは、自分自身および自分に連なる事象をバラ色の眼鏡を通して見ることによって、肯定的な方向に歪めるということが考えられます。

これまでの研究によれば、人は自分自身を肯定的方向から把握し、自分の統制力を実際以上に大きいと感じ、そして自分の将来に対して楽観的に考える傾向があり、これを「ポジティブ幻想」と呼びます。

人は一般に、自分は他者より長所がたくさんあり、そのような自分が働きかければ良い結果が生まれ、将来も順調にいくだろうと思っているということですね。

ポジティブ幻想を提唱したのはTaylor&Brownですが彼らは、程度の差はあるが、誰にでもこのような傾向があり、私たちの精神的健康が保たれていると論じています。

精神的健康に寄与するだけでなく、ポジティブ幻想は「できる」と思えることによって、課題へ持続的に取り組むことを促し、結果的に成功確率を高めたり、自分のパートナーを現実よりも好ましく思うことで、その関係が良好に保たれるというポジティブな効果があります。

テイラーらは、精神的健康だけでなく、身体的健康についてもポジティブ幻想を持つことが有益であるとも論じており、例えば、HIV患者を対象とした研究の中には、将来について楽観的であることが病気の進行を遅らせるという報告もあります。

ただし、ポジティブ幻想のポジティブな効果を取り上げる研究では、必ずしもポジティブな自己評価や、将来予測や、コントロールについて実際にそれらが現実よりも好ましいのかという点が測定されていないことも多く、幻想がポジティブな効果をもたらすという点については反論もあります。

上記の通り、ポジティブ幻想は「現実よりも好ましい自己評価、現実よりも好ましい将来に対する予測、現実よりも自分の周囲の出来事をコントロールできると思うこと」を指し、本問の「良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向」とは合致しないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 自己奉仕バイアス

達成課題における成功や失敗など自己評価に直接結びつくような事態では、自分に都合が良いように因果関係の認知が歪められやすいです。

他者から非難されそうな行為、自分にとって不都合な結果は、その原因を外部要因に求めて自尊心の低下を防ぐのに対し、他者から賞賛されるような行為、自分にとって都合の良い結果が生じた際には、それを自分自身に帰して自尊心を高めようとします。

前者は「自己防衛的帰属」、後者は「自己高揚的帰属」と呼び、この両方を合わせて「自己奉仕的バイアス」といいます。

こうしたバイアスの存在は、欧米社会で広く容認されていますが、それが常に表面化するとは限りません。

例えば、事前の期待に反する結果は、それが期待以上の成功であっても、期待外れの失敗であっても外部要因に帰属されやすいですし、成功を期待しにくい状況では、不利な条件を自らに課したり、故意に努力を怠って失敗したときの逃げ道をあらかじめ作り、自尊心の低下を防ぐ「セルフハンディキャッピング」が採用されることもあります。

少なくとも日本においては「成功は周囲のおかげ、失敗は自分のせい」とした方が社会的に許容されやすく(自分は野球をしていてキャッチャーでしたが、抑えたらピッチャーのおかげ、打たれたら自分のせいと考えるようにしていました)、実際に自己奉仕的バイアスとは反対の傾向(これを自己批判的バイアスという)が示されることが多いです。

このように欧米で自明視されてきた判断バイアスが、日本や他のアジア諸国で認められないことから、文化と心の相互構成過程を重視する文化心理学というアプローチの必要性が強く認識されるようになりました。

上記の通り、自己奉仕的バイアスとは、成功したときは自分自身の能力によるものであり、失敗したときは自分ではどうしようもない外的な要因によるものだと思いこむ考え方であり、これは本問の「良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向」と合致すると言えます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 根本的な帰属の誤り

状況の影響力に比較して行為者の内的属性を過大評価する傾向を、「根本的帰属エラー:根本的な帰属の誤り」もしくは「対応バイアス」と呼び、状況の影響力を明らかにしようとする社会心理学において特に重要な概念とされています。

Ross(1977)によるクイズに答えさせる実験では、実験者が用意したクイズの問題を出す人、回答者、それに観察者の役割を参加者に割り当て、それぞれに出題者の回答者の知識レベルを評定させました。

その結果、回答者と観察者は出題者のことを「物知りな人」と判断しました。

クイズを出題する人は、回答者が手こずるような問題を出すという役割のために「物知りな人」に見えるだけであり、実際はそうとは限らないにも関わらず、回答者と観察者はそうした状況を考慮せず、個人の内的属性(知識量の豊富さ)へ帰属したということです。

このように、人は他者の行動からその人の属性を推論するときに、その人のおかれている状況(外的な要因)を十分に考慮せず、取られた行動に対応した属性を推論しやすいということになります。

このような推論傾向を「根本的な帰属の誤り」もしくは「対応バイアス」と呼ぶわけです。

上記のような現象は、本問の「良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向」とは合致しないことがわかりますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 自己中心性バイアス

自己中心性バイアスは、自分の内部で起きている経験、自分の過去の体験、自分の視点から見た空間的位置、それに伴う注意やリソースの配分のあり方・量などのような、自分しか持ち得ない情報に強く規定された知覚や理解をしてしまうことを指します。

このバイアスがかかっていても、当人にはそのことに気づくことができず、他者もまた自分と同じ知覚や理解を行っているだろうと錯覚してしまう点で対人関係上の問題も生じさせる要因になり得ます。

具体的には「自分だけが知っている情報」に左右されて、他者の感情の強さを歪めて判断してしまうわけですが、例えば、夫婦の家事分担について、お互いの全ての行動を把握できていないのに自分ばかりが頑張っていると思ってしまったり、高い服を着ているときに周りから注目されていると感じてしまうなどです。

何かの食い違いやトラブルが生じて、そのときに自分と相手の視点にズレがあったり、自分の知識とは違った考えを相手が持っていたということが分かって、早とちりに気づくという経験は誰にでもあることでしょう。

こうしてみると自己中心性バイアスはネガティブなことばかりに思えるかもしれませんが、他者を理解するときに、その端緒となる「取っ掛かり」は常に必要です。

理解が難しい状況になったときに、とりあえず手持ちの情報(自分の考えや感情)を前提としてその状況に対応しようとすることは、なにもおかしい点は無いと言えるでしょう。

自己中心性バイアスが問題になるのは、周囲とのずれが生じたときに、そのずれがトラブルにまで発展する前に修正できない状況と言えますね。

このように、自己中心性バイアスは「相手が知らない情報から、相手の感情の強さを誤って判断する」というものですから、本問の「良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ インパクト・バイアス

ある出来事が起きたときのことを想像して、出来事が起きた後のことを実際よりもずっと良く、あるいはずっと悪く予測することをインパクト・バイアスと呼びます。

提唱者はハーバード大学教授のGilbertであり、彼はこの現象を「人間がトラウマ的な出来事に遭遇した際に、心を守るために心理的免疫システム(人間が幸福感を自ら想像したり、作り出したりすることができる能力)が働く」と主張しました。

つまり「良い出来事を想像して考えた幸福の度合い」は実際にそのシチュエーションになったときの幸福度よりも大きく予想され、反対に「悪い出来事を想像して考えた不幸の度合い」も実際にそのシチュエーションになったときの不幸度よりも大きく予想されているのです。

例えば、「宝くじが当たった」という良い出来事の瞬間は幸福度合いは高いわけですが、これが未来のことになればなるほど過大評価をしてしまう(「宝くじが当たったのだから10年後までずっと幸せだろう」などと考えるということ。実際には不幸になる人はとても多いのですが)のです。

上記の通り、インパクト・バイアスとは「人間が自分自身の将来の幸福度の強弱を、実際よりも過大評価してしまうこと」であり、本問の「良い出来事は自身の内的属性に、逆に悪い出来事は自身の置かれた外的状況に、原因帰属する傾向」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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