ロールシャッハ・テスト:第3回 反応領域

第3回は反応領域についてです。
ここから本格的なスコアやその解釈に入っていきましょう。

まずロールシャッハの解釈は以下を基盤に行われていきます。

  1. どこを見たのか?=反応領域:
    全体・普通部分・特殊部分・空白
    発達的な視点、継起型
  2. いかに(どのように)見たのか?=反応決定因:
    運動因子 色彩因子 濃淡因子
  3. 何を見たのか?=反応内容:
    特殊な内容分析法など
    人間像・動物像・自然物などなど
まずはこれが中核となるので、第2回でも述べたように、これらのスコアリングがしっかりとなされていることが解釈の前提条件になります。
そしてこれらを基盤にしつつ…
  • 反応数
  • 反応拒否・反応時間
  • 形態水準
  • サイン・アプローチ
  • 継起分析
  • 防衛解釈
  • 病理の特徴
などを加えて総合的に解釈をしていきます。
第3回は基盤となるものの一つ「反応領域」を中心に述べていきましょう。

反応領域の意味づけ

領域の反応の仕方をロールシャッハは「把握型」と名付けました。
こちらは各記号(W、D、Ddなど)の平均値で示されることが多いです。
これらについての知見は以下の通りです。

  • Beck(1949)…W:D:Dd=5.5:22.85:3.02
  • Klopfer(1954)…W:D:d:Dm= 20~30%:45~55%:5~15%:0~10%
  • 片口(1958)…W:D:Dd= 39%:50.8%:8.6%
  • 高橋・北村(1981)…W:D:Dd=54.3%: 39.4%:3.5%
調査する国や時期によってもかなり違いがあります。
日本では他国と比べてW反応が多めとされており、Dよりもちょっと少ないか同等程度ということが言われています。
反応領域の全般的な解釈として、被検査者の「課題への取り組み方」「思考の仕方」を見ることができるとされています。
一つひとつ、その意味を見ていきましょう。
【H5-36E、H8-44B、H10-49c、H8-43A、H19-38D】

全体反応 W(whole response)

W反応の解釈は大きく以下の2つに分けることができます。
  1. 課題に取り組む際、総合的・抽象的なものの見方をする。
  2. 目標達成への欲求や野心、すなわち要求水準の高さ。
  3. (知的水準の高さ)
W反応では、こうした特徴について見立てる上で重要な情報を与えてくれるのですが、大切なのは、なぜW反応でこうした特徴について把握することが可能なのか?という理路についてきちんと把握していることです。
常々思うのですが、「なぜそのように解釈されるのか?」を知らないままに、「このように解釈される」という知識だけを入れても実践で役立つ所見を創造することはできません。
細かいところにきちんとこだわっていきましょう。

なぜ「W反応を示すと総合的・抽象的なものの見方を有する」と解釈できるのか?

この疑問に答えるには、まずはW反応にも大きく分けて2種類あることを知っておくことが求められます。
一つは図版全体で1つの対象について述べているような場合です。
例えば、Ⅰ図版でコウモリや蝶(P反応ですね)、Ⅴ図版でコウモリ、などが代表的です。
これらは論理的に言えば「総合的・抽象的なものの見方」と直接結びつけることはできないタイプのW反応となります。
それはなぜか?
それはもう一つのタイプのW反応について知ることで明らかにできます。
もう一つのW反応のタイプは、図版の各箇所で別々のものを見て、それらをまとめる形で一つのW反応を示している場合です。
例えば、Ⅹ図版において、カニ、タツノオトシゴ、アメフラシ、海藻、水、などを見て、これらをまとめる形で「海の世界」と反応するなどが、このW反応に該当します。
つまりW反応=D+D+D+Dd+Ddのようになっている場合を指します。
重要なのは、このD反応やDd反応の共通点、上記の例で言えば「すべて海にいる動植物だ」という共通点を見つけ、それをもってW反応にできていることです。
これは一つ目のW反応である、1つの対象を見ている場合と明らかに異なる。
目の前にある図版から見えたものをそのまま答えている場合は「抽象的」ではないが、目の前にある図版から離れて共通点を見つけるという行為は「抽象的」な思考の世界です。
また、一つひとつの共通点をまとめるという意味で「総合的」な思考とも言えるでしょう。
これらがW反応を「抽象的・総合的なものの見方、思考の仕方」と解釈する理由となります。

(知的水準の高さ)について

W反応の考え得る解釈として、知的水準の高さが挙げられています。
わざわざ括弧で括ったのは、あまり資格試験向きの解釈ではないからです。
なぜW反応で知的水準の高さを見ることができるのか?
それは、先述のW反応=D+D+D+Dd+Ddという場合を考えてみればわかります。
この各部分の共通点を見つけるという思考の仕方、何かに似ていると思いませんか?
ウェクスラー式知能検査の下位検査の一つである「類似」に似ているのです。
AとBの共通点を見つける、という課題が「類似」ですね。
「類似」は抽象的な推理能力や概念化能力を示すとされているので、上記の「抽象的・総合的なものの見方」と重なる面が大きいことがわかります。
もちろん、これ1点のみで「知的水準が高い」と表現するのも極端であり、他にもいくつか指標を見ていくことが大切です。
その意味でも、括弧で括ったという形になります。

なぜ「目標達成への欲求や野心、すなわち要求水準の高さ」と解釈できるのか?

こちらも実はW反応=D+D+D+Dd+Ddという考え方とつながっています。
すなわち、こうした抽象的思考をロールシャッハ場面でやろうとするということは、被検査者の「目標達成への欲求や野心」が高い傾向があるということを指し示しているということです。
それはすなわち「要求水準が高い」ということを指します。
自分に求めるものが高いということですね。
こうした解釈は片口法で主に見られるものであり、エクスナー法ではもう一工夫なされています。
エクスナー法では、重要なのはその人の実生活上の現われ方と考えるので、単に「要求水準が高い」だけでは捉え方として不十分であると考えます。
単に「要求水準が高い」ことがわかっても、その人に備わっている能力が低い場合は「見果てぬ夢を追いかけている」という姿になるので常に欲求不満を抱えやすくなるでしょうし、能力が見合っていれば「能力に合った目標を掲げる人」となります。
つまりエクスナー法では、W反応という「要求水準」と「その人のもっている内的資質の高さ」とを比べることが重要と考えているのです。
よってエクスナー法では単純にW反応だけで解釈するのではなく、M反応(人間運動反応)という内的なエネルギーの指標と対比させて(W:M)解釈していきます。
もちろん解釈カテゴリーによってはW反応単体で見る場所もありますけど。
これらのような「総合的・抽象的な思考の仕方」「要求水準が高い」と判断するにあたって、どの図版でW反応が出たかが重要になります。
なぜなら、一般にW反応が出にくい図版でW反応を出した場合、それを示すためにより多くの力を割いているということが言えますね。
もちろん、そのW反応の質が悪ければ解釈も変わってくるのですが。
W反応が出やすい順番は、Ⅴ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅶになります。
【H12-27A、H17-36A、H17-47C、H21-48A、H23-34C】

普通部分反応 D(usual detail response)

D反応では「的確なDを多く示す場合、ものごとを現実的・具体的に処理していく能力が高い」と解釈されます。
こちらもW反応との対比で覚えておくと良いでしょう。
「総合的・抽象的な思考の仕方」を示すようなW反応に対して、D反応は「目の前にある図版から、具体的な何かを示した」反応となります。
目の前にある図版という現実的なものから、具体的に何か反応を示すということですね。
これらから、上記のような解釈がなされることが多くなります。
【H14-42D、H17-47D、H18-48A】

特殊部分反応 Dd(unusual detail response)

Dよりも、あまり一般的でない箇所についてみている場合などはDd反応と称されます。
解釈としては、社会的・常識的な思考の枠組みに捉われない、自由で活発な精神活動などのように好意的な解釈から、細部にこだわるため強迫神経症では多くなるといったネガティブな捉え方まで様々です。

「一般的でない部分を見ている」ということの背景にある事情によって、プラスにもマイナスにも捉え得るということですね。
少なくとも「物事の特異な見方」という解釈は共通で成り立つとも言えそうです。

片口法ではDd反応にdd、de、di、drの下位カテゴリーがあります。
  • dd(tiny detail):微小部分反応
    インク像自身の特徴からの反応だが、あまりに小さすぎて注目されない部分。
    些細な小事にこだわる気の小さい人に多い。
  • de(edge detail):外縁部分反応
    インク像の外縁のみを使った反応。
    何事にも深く入り込んでいくのを恐れ、問題や場面の核心に近づかずに、その周りに留まる人に多い。内気で臆病な生活態度で、人と距離をおこうとする人に見られる。
  • di(inside detail):内部部分反応
    インク像の構造を無視し、濃淡の使い方も主観的で、外縁を含まない反応。
    形態の不良な反応は、統合失調症の人に多い。
  • dr(rare detail):特殊区分反応、稀少部分反応
    インク像を無視し、自分の見ようとする概念によって任意に区切った反応。
    形態水準が高いdrを多く示す人は、知的で批判的な傾向を示すが、同時に強迫的な完全癖の特徴でもある。反応内容として「目」がある場合は、被害念慮・注察念慮・恐怖感を示す。
特にdr反応は、一昔前の臨床心理士資格試験では頻出でした。
ただdr反応自体は片口法限定の記号になるので、ここ数年は出題されておりませんし、今後も出題される可能性は低いと思われます。
【H12-27D、H12-29BD、H16-96B、H17-47B、H17-49B、H18-48B、H18-50B】

空白反応 S(white space response)

S反応は、図版の白い部分に対する反応を指します。
白い部分を組み入れている場合もSをコードします(Ⅰ図版で「化け物の顔」の場合は、目の部分にSを使っているので、WSとコードする)。
WやDやDdと組み合わせてコードされるものです。

S反応の解釈としては、以下のようなことが言われています。

  • 「この反応は、常になんらかの反対傾向を予想させる」(Rorshach)
  • 「知的な反抗的傾向(自分を認めさそうとする傾向)を示す」(Klopfer)
  • 「多くのSを示す人は彼自身の強さと個性に自信を持っている」(Brussel)
このように、多くの人が「地」と見るところを「図」として捉えるわけですから、「何らかの反対傾向」を示すということで一致しています。
人が見ないところを見ようとする傾向があるとも言え、会社間の交渉役として力を発揮するような人に備わっている特徴です。
平均は、高橋・北村(1981)によると3.1%とされています。
Rorshach :1S以上 Beck:2~4S Buhler:3.5S以上を好ましくないと考えました。
あまりに多いと、反発心が強いという解釈になるかと思います。
ただし、多少の反発傾向は必要であり、Rが30ぐらいでS反応が1個ぐらいなら、自主性・独立性・意志力・決断力といった自我の強さを表すともされています。
一見、力が無く見えるようなひきこもり・不登校事例においてS反応が見られる場合は、その人の内面に跳ね返す力があるということでプラスに解釈をしてよいと言われています。
10年くらい前に受けてみたときには5個くらいあったんですよね、私は。
今はもうちょっと少なくなっているだろうか。そんなことないか。

継起型(succession;sequence)

こちらは研究も少なく、資格試験にも出ていませんが重要な考え方だと思われるので提示しておきます。
「継起型」とは、ロールシャッハのW、D、Dd、Sを示す順番を表しています。
一般に図版を示された際、人はW→D→Dd→Sという順番で見ていくとされています。
このことは夏目漱石の「素人と玄人」という論考にも示されています。
引用すると以下の通りです。

あるものを観察する場合に、まず第一にわが眼に入るのはその輪郭である。その次はその局部である。次にはその局部のまた局部である。観察や研究の時間が長ければ長いほど、だんだん細かいところが眼に入ってくる、ますます小さい点に気が付いてくる。これはすべての物に対するわれわれの態度であって、ほとんど例外を許さないほど応用の広い自然の順序と見ても差支えない。

これは人の物事を見る際の順番を端的に表しています。
まずは全体、そして局部(D)、そしてその局部(Dd)という順番ですね。
このように、「W→D→Dd→S」という順番が基本となりますが、諸条件によってそれが順序することは当然あり得ることです。
例えば、Ⅷ図版のように、明確に目立つ部分がある場合は、そちらに目が行くのでD反応が先行することだって十分あり得ますね。
この「W→D→Dd→S」という順番がどの程度保持されているかによって、以下の4タイプに分けることができるとされています。
  1. 厳格型(rigid):
    W→D→Dd→Sの順序が守られている。形式的で頑なな人格。
  2. 秩序型(orderly):
    2、3の図版で順序に崩れ。厳格型よりも柔軟的。
  3. 弛緩型(loose):
    4~7枚の図版で順序に崩れ。情緒的不安定、知能が低い、知的で陽気な人。
  4. 混乱型(confused):
    順序通りが3枚以下。散漫で混乱状態にある。計画性のない人にも多い。
ただし、研究が少なく意味付けも十分でないため、1と4のときのみ実践では留意することが大切です。

反応領域における発達的視点

W反応やD反応が出てくる発達的順番というものがあります。
生理的な機能の向上や、知的能力の変化によって、捉え方に変化が出てくるということですね。

以下の順番で生じるとされています。

  1. 幼児の頃:単純なW反応が多い
  2. 小学生(前半)の頃:D反応が増加
  3. 小学生(後半)の頃:Dd反応、S反応が増加
  4. その後:複雑なW反応の出現
上記にある「単純なW反応」や「複雑なW反応」は、W反応の項目を読んでもらえればわかります。
ちなみに上記第4項の「複雑なW反応」が出現するのは、だいたい11歳くらいからであり、ピアジェで言う「形式的操作期」にあたります。
形式的操作期では「抽象的な思考」が可能になるとされ、それはW反応の項で述べたような「総合的・抽象的な思考の仕方」という解釈とも重なりますね。

記号の対応表(反応領域)

ここまででW、D、Dd、Sなどが示されました。
片口法とエクスナー法の記号対応表は以下の通りです。

やはり細かい記号が無い分、エクスナー法の方がすっきりしていますね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です