事例の状況を踏まえた学校の対応に関する問題です。
虐待対応の「さなか」において、学校ができること・できないことの境目を知っていることが大切ですね。
問154 9歳の男児A、小学3年生。Aの両親はけんかが絶えず、父親からの母子に対する暴力のため警察が出動することもあり、要保護児童対策協議会で支援が検討されていた。ある日、Aが提出したテストの余白に、「しばらく前にママがいなくなりました。たすけてください」との記述を担任教師が発見した。これを受けて学校は直ちに、管理職、学年主任、担任教師、スクールカウンセラーなどを交えて対応を検討し、担任教師がAに声掛けをするとともに、市の虐待対応担当課に通告することになった。
この状況における学校の対応として、適切なものを2つ選べ。
① 記述の内容について、Aの父親に確認する。
② 通告に至る事実関係を、時系列に沿って具体的に記録する。
③ 声掛けの際には、AがSOSを出すことができた力を支持する。
④ 担任教師がAに声掛けした後、管理職が現状を A に詳細に確認する。
⑤ 声掛けの際には、Aの発言内容は誰にも言わないことをAに保証する。
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解答のポイント
事例の状況で学校ができることを理解している。
選択肢の解説
① 記述の内容について、Aの父親に確認する。
② 通告に至る事実関係を、時系列に沿って具体的に記録する。
一般的な相談活動において、児童に関わる問題については保護者に確認するという手順を取ることになります。
例えば、本事例のような教育領域においては、学校で児童生徒に面接を行うにしても、可能な限り保護者に了承を得ることになります(突発的な相談についてはその限りではありませんが、そこから継続面接になる場合は了承を得るという手順が重要です)。
ただし、本事例は「父親からの母子に対する暴力のため警察が出動することもあり、要保護児童対策協議会で支援が検討されていた」とありますから、①心理的虐待(父親が母親に暴力を振るう場面を見せている)、②身体的虐待(父親が子どもに暴力を振るっている)、という状況にあります。
こうした状況を踏まえて、今回の事態は「「しばらく前にママがいなくなりました。たすけてください」との記述を担任教師が発見した」ということになります。
「しばらく前にママがいなくなりました。たすけてください」について、どういう意味があるのかは様々な可能性が考えられます。
母親が暴力に耐えかねて出ていった、母親がいない状況でAが父親からの暴力を一身に受けている、母親の代わりに家庭のことをAがさせられている、など色々な可能性は考えられますが、現時点では特定することはできません。
特定することはできませんが、少なくとも、①もともと要対協にあがっていた虐待家庭であること、②本人が明確に助けを求めていること、などを踏まえれば、虐待の通告を行うのは判断として妥当と言えます。
こうした状況で「学校でまず事情を聞くか否か」は検討事項の一つでしょうが、本事例のように訴えを受けて直ちに通告し、併せてどのような対応をその日に取るのかを検討することが手順としては適切でしょう。
全国的には虐待通告から48時間以内の対応ということになっていますが、本事例のような切迫している可能性が高い事例の場合、通告から保護までのスピードも変わってくることが多いので、まずは通告しすぐに対応してもらえるかどうかの確認の上、学校の対応(例えば、その日家庭に返すか否か、学校で待機している間に家庭状況を本人から聞くかどうか、など)を検討することになります。
そして、こうした対応の経緯全てを時系列に沿って、主語を明確にしつつ(これが苦手な人は案外多いので気をつけること)、具体的に記録をしていくことが求められます。
通告の判断自体はたとえ間違っていたとしても責められるものではありませんが(本事例に限らず)、学校組織がどういう経緯や判断のもとで対応してきたのか客観的に記録されたものがあることで、教職員が「適切な対応をしている」という実感が得やすく、また、他機関に経緯を説明する上でもやり易さが段違いになります。
そして、具体的な判断として「記述の内容について、Aの父親に確認する」ということは事例の性質上あり得ないと言えます。
上述の通り、母親がいなくなったことが示されていること、本人が助けを求めていること、ということが示されているのみではありますが、父親がその加害の中心である可能性は状況からみても非常に高く、父親に内容を提示することによってAへの危害が増加する可能性も否めません。
以前、学校等が虐待の疑いのある事例の保護者に対して情報を提示し、それが虐待死にまで至ったという事件があったと思いますが、保護者が虐待の加害者である可能性がある以上、保護者に本人の訴えを提示するということはあり得ないと言えますね。
以上より、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢②は適切と判断できます。
③ 声掛けの際には、AがSOSを出すことができた力を支持する。
④ 担任教師がAに声掛けした後、管理職が現状をAに詳細に確認する。
⑤ 声掛けの際には、Aの発言内容は誰にも言わないことをAに保証する。
さて、上記の通り、本事例の状況においてAに学校側が声掛けをするか否かは、微妙なところです。
虐待に関する調査は児童相談所の業務である以上、学校ができることはそれ以外の内容になるのは間違いありません(自然に語られるものを阻む必要はないが、こちらから情報を聞き出すというスタンスは良くない)。
とは言え、こうした状況においてAを一人で別室に置いておくというわけにもいかないものです(基本的に学校機関では、子どもを一人にしておくということはできない。特に、本事例のような危機状況であればあるほど。いきなり学校からいなくなるということだって想定せねばならない)。
教職員とAが何かしらのやり取りをすることは、状況的に前提となると言ってよいですから、どういったやり取りを心掛けるかが大切になってくるわけですね。
まず選択肢⑤の「声掛けの際には、Aの発言内容は誰にも言わないことをAに保証する」ですが、こちらは避けるべき対応になります。
なぜなら、こうした虐待事例において「あなたの話したことは秘密にします」とは断言することができません。
ですから、そういう保証ができない以上、選択肢⑤のような対応を取るのは不適切ということになります。
仮にそういう保証をしてしまえば、その後の対応でAと父親との関係が悪くなったときに「あの時、秘密にするって言ったのに」ということになってしまい、子どもと学校との関係構築が困難になることも想定されます。
これは虐待事例に限らずであり、自傷行為をしている場合にも「すべてを秘密にすることはできない」という形になるわけで、当然のことながら、その秘密にする・しないという境目で様々な反応が考えられるわけですが、それも含めて心理臨床活動であると言えます。
そして、選択肢④「担任教師がAに声掛けした後、管理職が現状をAに詳細に確認する」という対応ですが、こちらは上記の通り学校が行う対応ではありません。
こうした対応は、基本的に児童相談所等の虐待の対応を行う機関が、しかるべき状況を設定して行うものになります。
もちろん、Aが自然と語った内容は記録し、そうした機関に伝達されることになります。
一方で、児童相談所等の機関は、そういう伝聞の情報を基にして措置等の対応を決めるわけにもいかないものです。
きちんと自らの機関の中で行った調査に基づいて対応を決めるというのが、児童相談所に限らず多くの機関の基本的なスタンスになりますから、選択肢④のような「学校」と「虐待対応機関」の線引きができていない対応を取るのは不適切と言えます。
そうした線引きがあいまいな対応を取ったとしても、結局その情報を外部機関が重要な判断の基盤に置くことはできませんから、再び同じことをAに聞かねばならないことになり、それ自体がAの負担になることは想像に難くありません。
ある機関にいる専門家は、その機関と自らの役職に付されている責任の範囲で活動することが求められるということですね。
さて、Aは「たすけてください」と訴え、すぐに周囲が対応したという形ですね。
このように「Aの訴えにすぐに反応した」という事実自体がAを支えるものになります。
この時点のAは、自分がこれからどうなるのか、父親はどうなるのか、など色んな思いがあるでしょうから、これらについて安心を与えたくなりますが、現時点ではそれは困難と言えます。
まだ児童相談所等の一時保護も決まっておらず、学校としても「学校外の機関の出方によって対応が変わる」という曖昧な状況です。
こうした状況の中でできることは、選択肢③のような「声掛けの際には、AがSOSを出すことができた力を支持する」ということになるでしょう。
こうした声掛けをすることで、①Aの訴えによって起こった現状が適切なものであると伝える、②対応した教職員がAの味方である、対応を煩わしく思っていないということを伝達する、③どうなるかわからない曖昧な現状にいるAを支える、④今後同じようなことが起こったときに、きちんと苦境を訴えてくれる、などを暗に伝えることになります。
Aの支援という視点で、現状においてできる範囲のことを精一杯行っていくことが求められる状況ということですね。
以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。
ゆう様
第5回公認心理師試験問題の復習を、やり果せることができました。
この度も、丁寧な解説を参考に、自分の至らなすぎるところの穴埋めをさせていただきました。
ありがとうございます。
なれど、未熟さ加減はそうそう軽減できそうもありませんので、今後もこのサイトを訪問させていただきたいと思います。
目下、土居健郎先生や神田橋條治先生諸先生方の著作を、牛歩で拝読しております。
日常の諸々と加齢にめげず、これからも修養を重ね、子供たちの支援に関わっていきたい所存です。
ゆう様、本当にお世話になりました。
ゆう様のご健康とご多幸を、心よりお祈り申し上げます。
りべるて
りべるて様
コメントありがとうございます。
復習、お疲れさまでした!
>目下、土居健郎先生や神田橋條治先生諸先生方の著作を、牛歩で拝読しております。
おいくつになられても学ばれる姿勢、素晴らしいと思います(おいくつかは知らないのですけど…)。
私自身も学ぶ姿勢を忘れずに取組んでいきたいと思っております。
また当サイトをご活用くださると幸いです。
宜しくお願い致します。