公認心理師 2022-113

生後1年目までにみられる社会情動的発達に関わる(関わらない)現象を選択する問題です。

公認心理師 2018追加-124」の内容を復習しておくと、非常に解きやすかったと言えます。

問113 生後1年目までにみられる社会情動的発達に関わる現象として、不適切なものを1つ選べ。
① 恥の表出
② 人見知り
③ 怒りの表出
④ 社会的参照
⑤ 社会的微笑

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公認心理師 2018追加-124

解答のポイント

LweisやSpitzの発達理論を把握している。

選択肢の解説

③ 怒りの表出

子どもはごく初期から様々な情動を表現しますが、それは無意味なものではなく、特定の出来事の意味を認めて経験・表出されるものとされています。

それを考える上で、出来事‐認知的評価‐表出という観点で情動の出現を把握しようとするLweisの情動発達モデルは示唆に富むものです。

ここでは本選択肢の内容を踏まえて、一次的情動と認知能力の関係を見ていきます。

まず生後3か月ごろになると「喜び」が出現します。

そのほとんどは他選択肢でも解説している生理的微笑(3か月微笑)と呼ばれるものですが、3か月を過ぎると、乳児はそれまでとは異質な、親近性の高い対象に対する微笑やポジティブな興奮状態を示すことがわかっています。

また、このころには、親とのやり取りが中断したり、好みの対象が消えたりすると「悲しみ」が表出し、更には「嫌悪」が、口の中に入った味の好ましくないものを吐き出したり排出したりする原始的な形で出現すると言われています。

このように生後3か月前後までには「喜び」「悲しみ」「嫌悪」がそれぞれ適切な状況と結びついて出現するようです。

続いて、生後4~6か月ごろになると、「怒り」が手や腕を押さえて動くことができないフラストレーションの事態で出現すると言われています。

怒りという情動は何らかの障害を克服しようとする際に形成される反応で、それにある特定の目的とそれを達成するための行動を理解していることが求められ、怒りの出現には目的と手段の関係についての知識が関与している可能性があります。

「恐れ」は、怒りより少し遅れて出現するとされ、それまでに様々な事象・対象を記憶し、その記憶内容と現前の事象・対象を比較する能力が生じることで、恐れは出現するようです。

また、「驚き」も生後6か月ごろから出現するとされ、ある特定の出来事を目の前にして、それまでの期待が裏切られることで喚起されると言われています。

そう考えると、驚きも恐れと同じように、記憶・比較能力の発達に伴って出現すると考えられます。

上記の通り、怒りの表出は生後1年以内に見られる社会情動的発達に関わる現象であると言えます。

よって、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

① 恥の表出

Lewisの情動発達モデルによれば、1歳半ば以降になると、選択肢③で述べた一次的情動とは異質の、複雑な認知的活動が関与する二次的情動が現れるとされています。

二次的情動とは、客観的に自分を見つめるといった自己意識や、自分の行いに対する善悪の判断のような自己評価が関与する情動のことです。

従って、この二次的情動の発達は自己の発達と切り離して語ることができません。

ここでは、1歳半ばごろに自己意識が成立するというKaganやLewisといった研究者の見解に従って、二次的情動について述べていきましょう。

1歳半ごろになると自己意識が芽生えるとともに、自分が他者に見られていることを認めることで生じる「てれ」という情動が出現します。

この頃になると鏡に映った自分の姿を自分だと認識していると考えられ、これを利用し見知らぬ人との反応を比べたところ、鏡に映った自分を見たときにてれ反応が多かった(子どもの顔にルージュを塗っておく)ことが明らかになっています。

これは、自己意識の成立によって「てれ」が出現してくることを示唆しています。

また、「共感」も同じ時期に自己意識の成立に伴って出現してくると言われています。

一般に共感は、他者の悲しみや苦痛に接した際に引き起こされ、その他者に対して慰めたり援助したりする行動として表出すると考えられています。

共感については、鏡像認知課題における反応と、実験者が悲しみを演じている時の反応を観察した結果、鏡像認知の可能な子ほど共感反応を示しやすいことがわかりました。

つまり、自己意識の成立を待って共感が出現するということが言えそうですね。

他者の苦痛に対する共感は、その苦痛と類似した自分自身の過去の経験に注意を向けて、自分自身を他者の立場に置く能力が必要であり、その能力には自己意識の成立が不可欠とされています。

更に、自己意識の成立とともに、特定の物や性質が他者には合って自分にはないことを意識することが可能になって「羨望」という情動が出現すると考えられています。

2歳頃になると、他者のものを欲しがったり、自分のものと他者の物の弁別ができているなど、自己意識の成立と羨望の出現は関係しているように見えます。

2歳を過ぎると、親など他者から叱責や賞賛を受けて、あるいは自ら取り込んだ基準やルールに基づいて、自分の行動の良し悪しを評価する能力が発達し、それに伴って「恥」「罪悪感」「誇り」といった情動が出現してきます。

2歳を過ぎて自己評価が可能になると、ある失敗や過失に対して事故全体をネガティブに評価することで生じるとされる「恥」が出現します。

簡単な課題で失敗したときには、難しい課題で失敗したときよりも恥反応が多いとされており、3歳頃になると恥を思わせるような、顔をしかめる反応や周囲から自分を閉ざしたような反応が増えてくることもわかっています。

近年の子育ての一般的感覚では、この恥に対して「かかせないように」という意識が強すぎる気がしています。

恥を感じて、それを感じている子どもをしっかりと受けとめるという体験は、それこそ乳幼児期に一番しやすいと言えますから、あまりそうした「恥体験自体を避ける」ということをしすぎるのも問題であると言えます。

同じような時期に「罪悪感」も出現するとされていますが、恥との違いは「自己のどのような面をネガティブに評価するか」であるとされています。

罪悪感の場合、自己全体ではなく、自己のその時その場の行動をネガティブに評価する時に生じるとされています。

ただし、この点については観察から認められるという面が大きく、確たる証拠はありません。

更に、2歳過ぎから自己評価が可能になると、ある種の達成や成功において自己へのポジティブな評価によって生じる「誇り」という情動が出現すると言われています。

簡単な課題と難しい課題の反応を調べた結果、3歳児は難しい課題に成功したときの方が誇り反応が多く見られるとされています。

2歳過ぎにはこうした反応は認められており、自己評価の発達と関連して生じてくると見て良いでしょう。

上記の通り、恥の表出は生後1年以内に見られる社会情動的発達に関わる現象ではなく、2歳を過ぎて自己評価が可能になった段階で出現する感情であるとされています。

よって、選択肢①は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

② 人見知り
⑤ 社会的微笑

本選択肢に関してはSpitzの「8か月不安」を踏まえて解説していきましょう。

スピッツは精神分析理論を基盤に母子を観察し、乳児は精神・肉体的に未分化な存在から、生理的微笑で示される精神的機能の芽生え(第1の組織因)、リビドー対象が定まる8か月不安(第2の組織因)を経て発達すると述べました。

上記の「8か月不安」は一般に乳児期後半の子どもが人見知りをする様子を指し、正常な発達過程において、特定の養育者と見知らぬ人物とを区別できるようになったため生じる分離不安であると言えます。

つまり、親などの重要な他者について「馴染む」ことによって「安心できる対象」が出てきたわけですが、「安心できる対象」が出てきたが故に「それ以外が安心できない」という形になっていると言えます。

この現象、すなわち人見知りに関しては、上記のような正常な発達過程で起こることされ、歓迎すべき事態と言えます。

子どもの人見知りに悩む親に対しては「子どもが人見知りして怖がっていたら、お母さんが笑顔で「大丈夫だよ」と声をかけて、お母さんがその人と楽しそうに話したり関わるのを見せるのも良いでしょう。そうすることでお母さんに対して抱いている「安心」を他の人にも拡大させることができます」などと助言することが多いですね。

さて、スピッツは上記の「8か月不安」に先立ち「3か月微笑」の存在も指摘しています。

この「3か月微笑」は、まだ特定の相手を意識しての微笑ではなく、「顔」という形への反応と考えられています(その前には生後1か月くらいから、声掛けなどに合わせて微笑が観察され、これを外発的微笑と呼ぶ)。

誰の顔に対してでも無差別に微笑み、顔でなくても、円形の真ん中に黒点が二つ並んでいる図形でありさえすれば、赤子は微笑むことが実験的に証明されています。

ですから、この「3か月微笑」は選択肢⑤の社会的微笑ではなく無差別的微笑であると言えますが、親はそんな風には受け取りません。

まさに自分への愛の表情と捉えて、微笑み返したり抱っこしたりを繰り返します(言い換えれば、3か月微笑があることによってそういった親子間の関わりが増大する。社会的なやり取りを展開させる潤滑油として機能している)。

その結果、数か月くらいから、養育者の顔を他の人の顔とは明らかに区別して、養育者へ向けての微笑(選択的微笑)が生じてくるわけですが、これが対人交流的な意味をはらんだ「社会的微笑」の始まりと言えます。

この養育者など特定の人物への選択的な微笑はだいたい生後5か月くらいに出現するとされており、親との遊びの中でははっきりとした微笑や笑いが頻繁に見られるようになってきます。

もしかしたら人類の歴史の最初の方では、こうした「3か月微笑」が備わっていない個体もいたかもしれませんが、そうした個体は養育者との関わりがうまくいきにくく、数を減らしていったのではないか…などと考えてみると面白いかもしれません。

上記の通り、人見知り(8か月不安)や社会的微笑(3か月微笑の後に出てくるもの)などは生後1年以内に見られる社会情動的発達に関わる現象であると言えます。

よって、選択肢②および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

④ 社会的参照

社会的参照とは、新奇な、あるいは曖昧な出来事に遭遇したときに、養育者など傍らにいる他者の感情表現(些細な表情や声の変化など)から情報を得ようとすることを指します。

共同注意に見られる行動の一つであり、他者の主観性を覚知し、外界と関わろうとするときに他者を媒介とするようになったことを示唆する現象です。

言い換えれば、共同注意は「対象に対する注意を他者と共有する」現象であり、社会的コミュニケーション発達上重要な意味をもつと考えられています。

ブルーナーは乳幼児の共同注意行動に2つの段階があることを示しました。

  • 第1段階:2ヶ月頃の乳児が大人と視線を合わせる行動。この段階では、外界と関わるやり方として、大人と視線を合わせたりして関わる子ども―大人のやりとり(二項関係)と、モノと関わる子ども―モノのやりとり(二項関係)しかもっていない。
  • 第2段階:9~10ヶ月では、例えば大人が指さした対象(犬)を子どもも一緒に見るといった、外界の対象への注意を相手と共有する行動がみられるようになる。第1段階が乳児と大人という2者間の注意共有であったのに対し(二項関係)、第2段階では、自分-対象-他者の3者間での注意のやりとりが可能になる(三項関係)。 

トマセロは、9~10ヶ月頃の子どもは大人と同じ対象に注意を向けるだけだが、12ヶ月頃になると対象を指さした後、大人を振り返ってその対象を見ているかどうかを確認する行動が出現するとし、これを他者の意図を理解した行動と指摘しました。

また共同注意の発達は意図的行為主体としての他者理解の過程を示すものでもあるとし、その発達的変化を以下の通り、3つの段階に分類・記述されています。

  1. 対面的共同注意:生後2か月から半年の間に最も顕著に出現する。この時期には乳児の視線が他者の顔、とりわけ目をしっかりとらえ、更に社会的微笑の出現が明確になってくる。この乳児が他者と視線をしっかり合わせる状態を「2者の視線が出会う単純な共同注意」と呼び、共同注意の原型的形態と見なされている。
  2. 支持的共同注意:乳児と他者のいずれかが相手の視線を追跡して同じ方向を見たり、そこに存在する対象物を注目したりするときに生じる。このタイプの共同注意では、他者と同じ方向や対象物を見ていることに乳児が気づいているかは不明である。Butterworthらはこの誰かほかの人が見ているところを見ることを視覚的共同注意と呼んでいる。この共同注意は6か月頃より出現する。
    更に乳児があるものを凝視したときに、養育者がそれに気づき、その対象物に視線を向けるように作用する。これにより養育者は乳児の対象物に対する意図を感じ取り、それに促されるように一定の行動、例えば、対象物を見せたり動かしたり、手に持たせようとしたり、感情表現に合わせるようにするなど。このような行動は、乳児に対して対象物を目立たせ、母親自身や母親自身とのコミュニケーションチャンネルを浮かび上がらせ、乳児がそれに気づきやすくする方向に働く。このような母親の与える様々な情報に基づいた共同注意を支持的共同注意と呼んでいる。
  3. 意図共有的共同注意:生後9~12か月頃より乳児の共同注意に新たな質的変化が生じる。乳児は自分、大人、そしてこの両者が注意を共有する第三の対象物から三項関係をより緊密なものにし、参照的な相互作用に関わりだす。例えば乳児は自分の視線を柔軟に調整しながら、大人が見ているところを確実に見始める。子どもは自分の注意を対象物と大人にしっかり配分させながら共同注意をしている。そこには大人による乳児の意図理解と同時に、乳児による大人の意図理解がある。こうした他者への注意の配分を明確に伴う共同注意行動を「意図共有的共同注意」と呼ぶ。ここで共同注意が一応完成したと言える。これらによって視線追跡、社会的参照、模倣学習といったことが可能になる。さらにこの時期に身振りを使って、自分が関心を持った対象に大人の注意や行動を誘導しようとし始める。指さしの出現である。

このように、三項関係を表す共同注意行動には、指さし(見てほしいものを指差す)、参照視(既知の物を目にした場合にも母親の方を見る)、社会的参照(対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする)などがあります。

そして、こうした現象は生後9~12か月で生じ、生後2年目ごろからは、行動が適切かどうかの判断基準を子どもが獲得する手がかりとなり、他者からの賞賛はプライドの源泉になり得ます。

また、出来事に対する評価を他者と比べることによって葛藤が引き起こされるようにもなります。

上記の通り、社会的参照は生後1年以内に見られる社会情動的発達に関わる現象であると言えます。

よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

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