男女雇用機会均等法に関する問題です。
ある程度常識的な判断で解くことが可能だと思いますが、しっかりと条項を確認しておきたいですね。
問135 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律〈男女雇用機会均等法〉に基づいて事業主が行うべき雇用環境の整備として、適切なものを2つ選べ。
① 事業主が、女性労働者の婚姻、妊娠又は出産を退職理由として予め定めておくこと
② 労働者の採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
③ 男女労働者間に生じている格差解消を目的として、女性労働者のみを対象とした取扱いや特別な措置をすること
④ 事業主が女性労働者を深夜業に従事させる場合、通勤及び業務の遂行の際に男性労働者と同じ条件で措置を講ずること
⑤ 事業主が労働者から性別を理由とした差別的な取扱いに関する苦情の申出を受けた際に、苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねること
関連する過去問
なし(男女雇用機会均等法に関する問題は多いが、本問と関連する事項はなし)
解答のポイント
男女雇用機会均等法における「事業主の講ずべき措置等」について把握している。
選択肢の解説
① 事業主が、女性労働者の婚姻、妊娠又は出産を退職理由として予め定めておくこと
こちらは法の第9条に定められている内容に基づいています。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
このように第9条では、女性労働者の結婚・妊娠・出産退職制、女性労働者の結婚を理由とする解雇、女性労働者の妊娠・出産等厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。
また、女性労働者を妊娠中又は産後1年以内に解雇することは、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効とされています。
また、禁止される結婚・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに該当する具体的内容を指針(「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」)において示しています。
具体的な不利益な取扱いについては以下が挙げられます。
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 降格させること。
- 就業環境を害すること。
- 不利益な自宅待機を命ずること。
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 不利益な配置の変更を行うこと。
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
当然のことながら、これらの事項を行えば違反になるということですね。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② 労働者の採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
こちらは法の第7条に関する規定を見ていきましょう。
(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。
こちらは「間接差別の禁止」に関する条項であり、間接差別とは以下のような事項を指します。
- 性別以外の事由を要件とする措置であって、
- 他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、
- 合理的な理由がないときに講ずること。
つまり、間接差別とは、性別に関係がないように取り扱っても、運用の結果どちらかの性別が不利益になる制度や扱いを指します(対義語が、男女間でそもそもの取り扱いが異なる「直接差別」になります)。
例えば、「住宅手当の支給は世帯主に行う」という制度の場合、多くの家庭で世帯主が男性という実情があると、結果的に女性には手当が支給されないことになってしまいますね。
厚生労働省令で定める3つの措置については、合理的な理由がない場合「間接差別」として禁止されます。
- 厚生労働省令で定める措置①:労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とするもの。
- 厚生労働省令で定める措置②:労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
- 厚生労働省令で定める措置③:労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること
上記の②が本選択肢の内容になっていますね。
平成26年7月1日に改正「男女雇用機会均等法施行規則」が施行され、コース別の雇用管理において転勤要件が間接差別とされるケースとして、総合職の募集以外に職種の変更・昇進が新たに追記されました。
つまり、労働者の職種変更・昇進・採用・募集に対して、なんら合理的理由がないのに転勤要件を設けると、間接的に差別していると判断される可能性があります。
例えば、全国や海外など広域展開する支店や支社などがなく、予定も事業計画にも記載がないのに、全国や海外への転勤を採用条件や昇進条件に設定しているのは、間接差別になるのです。
間接差別に該当すると判断されてしまった場合、厚生労働大臣による助言や指導の対象になるケースもあり、場合によっては勧告を受けたり企業名を公表される事態も発生します。
また、対象となる労働者に対して、財産的・精神的に負担を与えた場合には、不法行為の賠償責任に発展する可能性もあります。
以上のように、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 男女労働者間に生じている格差解消を目的として、女性労働者のみを対象とした取扱いや特別な措置をすること
こちらは法の第8条に規定されている内容を指していますね。
関連のある条項も一緒に抜き出してみましょう。
(性別を理由とする差別の禁止)
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
第六条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三 労働者の職種及び雇用形態の変更
四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。
(女性労働者に係る措置に関する特例)
第八条 前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。
上記の第8条の規定は、要するに、男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置については、法違反とならない旨を明記してあるということです。
すなわち、これまでの女性労働者に対する取扱いなどが原因で職場に事実上生じている男女間格差を解消する目的で女性のみを対象としたり女性を有利に取り扱う以下の措置については、法第8条に定める措置として、法第5条及び第6条の規定には違反しないということですね。
国会議員とか内閣の男女比を何とかしてから言ってほしいと思うのは私だけでしょうか。
ちなみに、男性労働者については、一般にこのような状況にはないことから、男性労働者についての特例は設けられていません。
大学も男性社会ですが、求人公募情報を見てみると「本学では、男女共同参画を推進しています。「男女共同参画社会基本法」の趣旨に則り、業績や能力に関わる評価が同等と認められる場合には、女性を優先して採用します」という記述があります。
実際のところはどうなのかはわかりませんが、男女比と同じくらい大切なこととして、所属する研究者の雇い止めの問題があると思っています。
いずれにせよ、女性労働者についての措置に関する特例は、男女雇用機会均等法に基づいて事業者が行うべき雇用環境の整備に該当します。
よって、選択肢③は適切と判断できます。
④ 事業主が女性労働者を深夜業に従事させる場合、通勤及び業務の遂行の際に男性労働者と同じ条件で措置を講ずること
こちらについては男女雇用機会均等法ではなく、その施行規則の第13条に示されています。
(深夜業に従事する女性労働者に対する措置)
第十三条 事業主は、女性労働者の職業生活の充実を図るため、当分の間、女性労働者を深夜業に従事させる場合には、通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるように努めるものとする。
このように「男性労働者と同じ条件」ではなく「通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるように努める」とされていますね。
女性労働者は男性労働者と同様に深夜業に従事することが可能であり、女性が夜間に通勤したり、夜間、人気のない職場で業務を遂行しなければならないことも考えられます。
このため、事業主は、深夜業に従事する女性労働者の通勤及び業務の遂行の際における防犯面からの安全を確保することが必要です。
また、既に在職している女性労働者を新たに深夜業に従事させる場合には、子どもの養育又は家族の介護などの事情に配慮することが求められます。
具体的に事業主が講ずるべき措置については、「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」及び関係法令により定められています。
項目だけを抜き出すと以下の通りです。
- 通勤及び業務の遂行の際における安全の確保:女性の就業環境指針2の⑴
- 子の養育又は家族の介護等の事情に関する配慮:女性の就業環境指針2の⑵および育児・介護休業法第19条第1項、第20条、女性の就業環境指針2の⑵
- 仮眠室、休養室等の整備:労働安全衛生法第23条、女性の就業環境指針2の⑶
- 健康診断等:労働安全衛生法第66条、第 66条の5、女性の就業環境指針2の⑷
なお、妊産婦が請求した場合には、深夜業をさせてはならないことが定められています(労働基準法第 66 条、女性の就業環境指針2の⑷)。
重要なのは、男女の機械的な平等ではなく、男女の身体をはじめとしたさまざまな違いを考慮した上での「平等」ということですね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ 事業主が労働者から性別を理由とした差別的な取扱いに関する苦情の申出を受けた際に、苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねること
こちらについては法第15条の内容になります。
関連する条項も合わせて記述しておきましょう。
(性別を理由とする差別の禁止)
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
第六条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三 労働者の職種及び雇用形態の変更
四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十二条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
第十三条 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
(苦情の自主的解決)
第十五条 事業主は、第六条、第七条、第九条、第十二条及び第十三条第一項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。
こちらは、労働者と事業主の間に紛争が生じた場合の救済措置に関する条項になります。
苦情処理機関とは、労働者の不平不満・苦情および労働協約の解釈適用に関する紛争等を処理する機関です。
民間企業では、通常労働協約などに基づき職場に設置することが多く、労使間で解決を図り、不調の時は次第に上級機関に上げ、最終的には労働委員会など第三者の仲裁にゆだねる等の手続を定めています。
企業の自主的解決の方法として、企業内苦情処理機関の活用が例示されていますが、これは現実に、このような機関で労使間の問題解決を図っている企業が多いことや、このような機関を活用して労働者からの苦情を解決することが適当と考えられることによるものです。
以上のように、労働者から性別を理由とした差別的な取扱いに関する苦情の申出を受けた際に、苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねることは、男女雇用機会均等法に基づいて事業者が行うべき雇用環境の整備に該当します。
よって、選択肢⑤は適切と判断できます。