職場のメンタルヘルス対策に関する問題です。
産業領域ではお馴染みとなっている資料を基にした問題になっていますね。
問102 職場のメンタルヘルス対策に関する内容として、最も適切なものを1つ選べ。
① 人事労務管理とは切り離して推進する。
② ストレスチェック制度とは独立した活動として進める。
③ 家庭や個人生活などの業務に直接関係しない要因は、対策の対象外とする。
④ 管理監督者は、部下である労働者のストレス要因を把握し、その改善を図る。
⑤ 労働者の心の健康に関する情報を理由として、退職勧奨を行うことができる。
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解答のポイント
「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」および「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を踏まえた職場のメンタルヘルス対策を理解している。
選択肢の解説
① 人事労務管理とは切り離して推進する。
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を踏まえて、人事労務管理が職場のメンタルヘルス対策にどう関わっていくかを見ていきましょう。
まず人事労務管理担当の役割を大まかに述べると「人事労務管理上の問題点の把握」や「労働条件の改善、配置転換・異動等の配慮」などになりますし、そもそも上記の手引きにおいて「事業場内産業保健スタッフ等」には人事労務管理スタッフが含まれています。
具体的なものを抜き出していきましょう。
- 職場復帰支援第1ステップ:管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡する。
- 職場復帰支援第3ステップ:職場復帰支援プランの作成に当たり、人事労務管理上の対応を行う。具体的には、配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性を検討する。
- 職場復帰支援第5ステップ:職場復帰後のフォローアップにおいては、職場復帰する労働者がよりストレスを感じることの少ない職場づくりをめざして、作業環境・方法や、労働時間・人事労務管理など、職場環境等の評価と改善を検討する。
- 主治医との連携:職場配置、処遇、労働条件、社内勤務制度、雇用契約等の適切な運用を行う必要があることから人事労務管理スタッフが重要な役割を担うことに留意する必要がある。
- 試し出勤制度:模擬出勤、通勤訓練、試し出勤などを指す。これらの制度の導入にあたっては、処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等についてあらかじめ労使間で十分に検討し、ルールを定めておくことになる。
より具体的には、「配置転換や異動の必要性」「本人の病状及び業務の状況に応じて、フレックスタイム制度や裁量労働制度等の勤務制度変更の可否及び必要性」「その他、段階的な就業上の配慮(出張制限、業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)、転勤についての配慮)の可否及び必要性」なども検討していくのが人事労務管理上の対応になりますね。
上記の通り、人事労務管理スタッフは、人事労務管理上の問題点を把握し、職場復帰支援に必要な労働条件の改善や、配置転換、異動等についての配慮を行う立場にあります。
職場復帰支援においては、人事労務管理スタッフが産業医等や他の事業場内産業保健スタッフ等と連携しながらその手続きが円滑に進むよう調整を行います。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② ストレスチェック制度とは独立した活動として進める。
③ 家庭や個人生活などの業務に直接関係しない要因は、対策の対象外とする。
こちらについては「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」に記載があります。
上記の「メンタルヘルスケアの基本的考え方」を抜き出してみましょう。
事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。
また、その実施に当たってはストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円滑に行われるようにする必要がある。これらの取組みにおいては教育研修・情報提供を行い、「4 つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにする必要があります。
さらに、メンタルヘルスケアを推進するに当たっては、次の事項に留意してください。
- 心の健康問題の特性
心の健康については、客観的な測定方法が十分確立しておらず、その評価には労働者本人から心身の状況に関する情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの把握が難しい。また、心の健康は、すべての労働者に関わることであり、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにもかかわらず、心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題や、心の健康問題自体についての誤解や偏見等解決すべき問題が存在している。 - 労働者の個人情報の保護への配慮
メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要である。心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件である。 - 人事労務管理との関係
労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、大きな影響を受ける。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多い。 - 家庭・個人生活等の職場以外の問題
心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず家庭・個人生活等の職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多い。また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多い。
上記の通り、職場のメンタルヘルスケアにおいてストレスチェック制度を活用することや、「家庭・個人生活等の職場以外の問題」も心の健康問題に影響を与える要因として見なすことが挙げられていますね。
ちなみにストレスチェック制度とは、労働安全衛生法第66条の10に基づく心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)及びその結果に基づく面接指導の実施、集団ごとの集計・分析等、事業場における一連の取組全体を指します。
以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。
④ 管理監督者は、部下である労働者のストレス要因を把握し、その改善を図る。
こちらについては「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」に記載があります。
上記より「メンタルヘルス不調への気付きと対応」の一部を抜き出してみましょう。
メンタルヘルスケアにおいては、ストレス要因の除去又は軽減や労働者のストレス対処などの予防策が重要であるが、これらの措置を実施したにもかかわらず、万一、メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合は、その早期発見と適切な対応を図る必要がある。
このため、事業者は、個人情報の保護に十分留意しつつ、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備するものとする。さらに、相談等により把握した情報を基に、労働者に対して必要な配慮を行うこと、必要に応じて産業医や事業場外の医療機関につないでいくことができるネットワークを整備するよう努めるものとする。
●労働者による自発的な相談とセルフチェック
事業者は、労働者によるメンタルヘルス不調への気付きを促進するため、事業場の実態に応じて、その内部に相談に応ずる体制を整備する、事業場外の相談機関の活用を図る等、労働者が自ら相談を行えるよう必要な環境整備を行うものとする。この相談体制については、ストレスチェック結果の通知を受けた労働者に対して、相談の窓口を広げ、相談しやすい環境を作るために重要であること。また、5(1)に掲げたとおり、ストレスへの気付きのために、随時、セルフチェックを行うことができる機会を提供することも効果的である。
●管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応等
管理監督者は、日常的に、労働者からの自発的な相談に対応するよう努める必要がある。特に、長時間労働等により疲労の蓄積が認められる労働者、強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者、その他特に個別の配慮が必要と思われる労働者から、話を聞き、適切な情報を提供し、必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努めるものとする。
事業場内産業保健スタッフ等は、管理監督者と協力し、労働者の気付きを促して、保健指導、健康相談等を行うとともに、相談等により把握した情報を基に、必要に応じて事業場外の医療機関への相談や受診を促すものとする。また、事業場内産業保健スタッフ等は、管理監督者に対する相談対応、メンタルヘルスケアについても留意する必要がある。
なお、心身両面にわたる健康保持増進対策(THP)を推進している事業場においては、心理相談を通じて、心の健康に対する労働者の気づきと対処を支援することが重要である。
また、運動指導、保健指導等のTHPにおけるその他の指導においても、積極的にストレスや心の健康問題を取り上げることが効果的である。
●労働者の家族による気付きや支援等
労働者の家族に対して、ストレスやメンタルヘルスケアの基礎知識、事業場のメンタルヘルス相談窓口などの情報を提供しましょう。
上記の通り、メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合は、その早期発見と適切な対応を図る必要があるとされ、その中には「管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応等」が含まれていますね。
「管理監督者は、日常的に、労働者からの自発的な相談に対応するよう努める必要がある」とされており、特に長時間労働などの配慮が必要な労働者には気を配ることが明示されています。
そして「話を聞き、適切な情報を提供し、必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努める」ことが示されており、こうした対応をもって改善を図っていくということになりますね。
もちろん、その際には、労働者の個人情報の保護に十分留意することが求められますね。
以上より、選択肢④が適切と判断できます。
⑤ 労働者の心の健康に関する情報を理由として、退職勧奨を行うことができる。
こちらについては「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」に記載があります。
上記より「心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止」を抜き出してみましょう。
(1)事業者による労働者に対する不利益取扱いの防止
事業者が、メンタルヘルスケア等を通じて労働者の心の健康に関する情報を把握した場合において、その情報は当該労働者の健康確保に必要な範囲で利用されるべきものであり、事業者が、当該労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。
このため、労働者の心の健康に関する情報を理由として、以下に掲げる不利益な取扱いを行うことは、一般的に合理的なものとはいえないため、事業者はこれらを行ってはならない。
なお、不利益な取扱いの理由が労働者の心の健康に関する情報以外のものであったとしても、実質的にこれに該当するとみなされる場合には、当該不利益な取扱いについても、行ってはならない。
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
- 退職勧奨を行うこと。
- 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること。
- その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。
(2)派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益取扱いの防止
次に掲げる派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益な取扱いについては、一般的に合理的なものとはいえないため、派遣先事業者はこれを行ってはならない。なお、不利益な取扱いの理由がこれ以外のものであったとしても、実質的にこれに該当するとみなされる場合には、当該不利益な取扱いについても行ってはならない。
- 心の健康に関する情報を理由とする派遣労働者の就業上の措置について、派遣元事業者からその実施に協力するよう要請があったことを理由として、派遣先事業者が、当該派遣労働者の変更を求めること。
- 本人の同意を得て、派遣先事業者が派遣労働者の心の健康に関する情報を把握した場合において、これを理由として、医師の意見を勘案せず又は当該派遣労働者の実情を考慮せず、当該派遣労働者の変更を求めること。
当然のことながら、メンタルヘルスの問題が生じた際に、事業者が、当該労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはなりません。
すなわち、労働者の心の健康に関する情報を理由として「不利益な取扱い」をしてはならないということであり、その「不利益な取扱い」の中には「退職勧奨」が上記の通り含まれていますね。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。