文化的自己観など

社会心理学の文化的自己観に関して述べていきます。
臨床実践でも文化についてきちんと把握しておくことは大事だと思います。
特に田舎だと、家同士の力関係が子ども同士の力関係とイコールになることも多いですし。

文化的自己観

「自己」は文化や社会的状況また国や地域によって異なると考えられており、それを社会心理学では文化的自己観(cultural construal of self)と呼びます。
これは、ある文化圏で歴史的に共有されている標準的な自己像についての素朴理論です。
西洋文化と東洋文化における文化的自己観の二元論的な差異を記しました。

文化的自己観とは、文化によって「自己」についての考え方が異なるという理論に基づいて考えられた概念で、主に東アジア文化と西欧文化が比較されます。
その理論によると、日本を含む東アジア文化では自己が他者と重なりあって認識されており、そのような自己観を相互協調的自己観と呼ぶ。
逆に西欧文化では自己と他者が独立した存在として認識されており、相互独立的自己観と呼びます。
相互協調的自己観を持つ文化では人間関係の調和や集団内での責任や義務が重んじられ、相互独立的自己観を持つ文化では個人の目標を達成することが集団における責任などよりも重視されます。

西洋文化圏の相互独立的自己観(independent self)

西洋文化圏に生きる人たちは、個人の気質・性格においても社会の制度・規範においても、相互に「独立した個人」が判断と選択をしながら行動するという文化的自己観を持っています。
自己とは他人や周囲のものごととは区別される独立した存在であると考えます。
自身の特性を持ってアピールし、原因帰属では「自分の努力で」という感覚。

東洋文化圏の相互協調的自己観(interdependent self)

東洋文化圏に生きる人たちは、集団社会における自己の位置づけ(役割規範)や他者からどう見られているかという自意識(世間体)に影響されやすく、相互に「協調・依存する個人」によって社会生活が営まれるべきという文化的自己観を持っている。
自己は他人や周囲のものごととの結びつき、その関係を重視する存在です。
周囲との関係を持ってアピールし、原因帰属では「周囲のサポートで」という感覚。

H.R.マーカス&北山は文化的要因と心的プロセス(性格傾向)の相互作用について「文化的自己観」という概念を用いて説明しています。
図の通り、相互独立的自己観による人間関係は「個人」と「個人」の関係です。
すなわち、人は一人の個人として、他の自分のような個人と付き合っていく人間関係のモデルになります。
一方、相互協調的自己観は、人が他人と何らかのつながりで共通の組織に属し、その中での協調的関係を維持することを大切にする人間関係の形になります。
ここでの組織、集団とは「世間」であると考えられています。

個人主義と集団主義

西洋文化の文化的自己観は「相互独立的自己観の個人主義」とされるが、それと同時に「個人志向性の強い社会状況」があります。
また、東洋文化の文化的自己観は「相互協調的自己観の集団主義」とされるが、それと同時に「対人志向性の強い社会状況」がそこにはあります。
その社会状況の様式について「個人主義-集団主義」という枠組みで捉える視点が昔からあります。
集団の統制と個人の自律性欲求が衝突する葛藤関係において、集団全体の統制を優先する考え方を集団主義と呼び、反対に個人の自律性の主張の方を優先する考え方を個人主義と呼びます。
集団主義はアメリカ、オーストラリア、西欧諸国の多くがその文化とされ、個人主義は東アジアの多く、ラテンアメリカ、アフリカの国々がその文化とされます。
個人主義的な人は、個人の自由意思の相互尊重に動機づけられ、必要以上の競争は抑制し、合理的ならば協同も積極的に行います。
他方、集団主義的な人は、集団が意識される状況では協同を強く志向する反面、群集状況のような集団の枠組みが意識されない状況では、一転して過度に競争的、利己的に振る舞う傾向が高いことが指摘されています。

分析的思考と包括的思考

ニスベットは、H.R.マーカス&北山の「西洋文化圏・東洋文化圏の文化的自己観の二元論」を参照して、この社会的・文化的な差異が生み出してきた文化的自己観の分類を「認知パターンの違い」にも応用できると考えました。

分析的思考(analytic mode of thought)

さまざまな刺激の中から最も関心のある刺激だけに注意を向けて、その刺激から得た手がかりを元にして仮説演繹的に対象の心的表象を作り上げていく思考プロセスです。
ノイズは無視されることが多く、個人主義の文化に特徴的とされています。

包括的思考(holystic mode of thought)

特定の刺激だけではなくその刺激を取り囲むコンテクストにも広く注意を向けて、さまざまな手がかりを得ながら全体的配置・記憶を検索(照合)しながら心的表象を作り上げていく思考プロセスです。
集団主義の文化に特徴的とされています。

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