人がどのような他者を好きになるのか、このテーマについては社会心理学の対人魅力研究でいくつかの知見が出ています。
それを挙げていきましょう。
他者との関係については、友人関係、異性関係、仕事上の関係などさまざまですが、こうしたいくつかの場面で作用する対人魅力の規定要因は以下の通りになります。
近接性
Rubin(1973)の研究では、とある地区で結婚した5000例を調べたところ、3分の1が5区画以内に住んでいたということです。
この研究では、それ以外にも2人の人が友人であるかどうかを予測する最大の要因は近接性であるとしています。
すなわち、互いが近くにいるということですね。
親近性
こちらは有体に言えば「馴染む」ことを指します。
そもそも近接性が行為を生む理由のひとつは、それが馴染みの程度を増大させるためであり、馴染むことによって好意度を増加させることができると思われます。
この点に関する有名な研究としてZajonc(1968)の単純接触効果です。
これは、たとえ閾下であっても繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果で、熟知性の原則などとも呼ばれます。
顔写真提示の実験でも、提示回数が多いほどに、すなわち馴染むほどに好意度が高まることが示されております。
この辺は有名な実験ですが、やはり関わり方も大切でしょうね(ストーカーなどが良い(悪い?)例)。
あるアパートで最も好意度が高かった人は、ポストの近くに住んでいる人(朝、顔を合わせやすい)という研究結果もあります。
それ以外にも、とある音楽を繰り返し聞かせることでその音楽の作曲家への好意度が高まったり、無意味語を頻繁に見るとそれを好ましいと感じるなどが証明されています。
類似性
要は「類は友を呼ぶ」ということです。
自分と似た性質をもつ人に対して、人は魅力を感じやすいとされています。
信念や態度の似た人、価値感を共有できる人、似たような経験がある人、社会的地位が近い人、に対してそうでない場合よりも好きになりやすいということですね。
個人的な印象ですが、類似性が好意度を高めるかどうかは、その類似している特徴によるような気がします。
すなわち、その人が自分自身の特徴について「認めている」「理解している」ならば類似性はプラスに働きやすく、逆に自身の特徴について「認めていない」ならば周囲から見ていわゆる「同族嫌悪」という形になりやすいかなと。
重要なのは、自分自身が自らの特徴について「どう思っているか」ではなく、単に「自覚している」ことが大切な気がしています。
この辺は、そういう研究結果があるわけではない(あったとしても知らない)ので、あくまでも個人的な意見として受けとめておいてください。
転移
対人魅力は転移との関連も抜きには語れないかもしれませんね。
こちらは過去の対人関係(一応、原則としては両親だが、実際はもっと広く援用している)を思い出させるような他者と出会った場合、過去の対人関係の感情体験に基づいて反応してしまう、というものです。
似ている人に出会ったら、目の前の人も過去の人と同じような特徴を備えていると思いやすいですし、それに基づいて魅力を感じたり、嫌ったりしてしまうということです。
身体的魅力
外見が他者への第一印象に大きな影響を与えることは既に知られています(実感している人も多いでしょうね)。
そういった意味で人は完全に民主的ではあり得ないのでしょう。
意識調査では身体的魅力は上位に来ないのですが、実際の行動ではかなり上位に来ることが明らかにされています。
身体的魅力の重要性は最初のデートだけでなく、その後のデート(Mathes,1975)や結婚(Margokin&White,1987)にも影響するとされています。
ただし、生涯の伴侶となる人を選ぶ際には、身体的魅力の重要度は後退するともされています(Stroebe,Insko,Thompson&Layton,1971)。
上記の「結婚」と「生涯の伴侶」は違うのかな…?
身体的魅力が重要な理由のひとつとして、身体的魅力が高い人と一緒にいるのを見られることで、社会的名声や自己評価が高められるという説明がなされています。
実際に、男性も女性も、魅力的な恋人や友人と一緒にいるときの方が、そうでない場合よりもより好ましいと評価されるという結果があります。
これには例外があって、その相手が身体的魅力が高い「見知らぬ人」の場合は、より低く評価されるという結果が出ています。
比較されるということでしょうね。
この点に関しては、ブランド物を好んで身につける人の心理と近いような気がしています。
それを身につけることで自分の魅力が増すような気がする、ということかなと。
もちろん、ブランド物を身につける動機はそれ以外にもあるのでしょうけどね。
返報性
好きだと言われたら好きになっちゃう、というのを聞いたことがあります。
この点は研究でも証明されていて、自分に魅力を感じてくれる人に対して好ましい感情を抱きやすいとされ、これを「返報性」と呼びます。
近年、褒めることによって相手の自信をつける、自尊心を高められるという意見が多いですが、実際は怪しいものです。
それよりも、褒めることによって相手からの行為を獲得できるということの方が確実性があるように感じます。