公認心理師 2022-57

学校におけるいじめへの対応に関する問題です。

法律や指針の内容に沿ったものになっていますね。

問57 学校におけるいじめへの対応として、適切なものを2つ選べ。
① 加害児童生徒に対して、成長支援の観点を持って対応する。
② 被害者、加害者、仲裁者及び傍観者といういじめの四層構造に基づいて事案を理解する。
③ 当事者の双方に心身の苦痛が確認された場合には、苦痛の程度がより重い側へのいじめとして対応する。
④ 保護者から重大な被害の訴えがあったが、その時点でいじめの結果ではないと考えられる場合は、重大事態とはみなさない。
⑤ いじめの情報が学校にもたらされた場合には、当該校に設置されている学校いじめ対策組織を中心に情報収集や対応に当たる。

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解答のポイント

法律や指針等によって示されているいじめの対応について理解している。

選択肢の解説

① 加害児童生徒に対して、成長支援の観点を持って対応する。

こちらについては、まずいじめ防止対策推進法の第13条「学校いじめ防止基本方針」にある「学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする」に基づく、学校いじめ防止基本方針の策定についての理解が求められています。

いじめの防止等のための基本的な方針」によると、学校いじめ防止基本方針を定める意義として次が挙げられています。

  • 学校いじめ防止基本方針に基づく対応が徹底されることにより、教職員がいじめを抱え込まず、かつ、学校のいじめへの対応が個々の教職員による対応ではなく組織として一貫した対応となる。
  • いじめの発生時における学校の対応をあらかじめ示すことは、児童生徒及びその保護者に対し、児童生徒が学校生活を送る上での安心感を与えるとともに、いじめの加害行為の抑止につながる。
  • 加害者への成長支援の観点を基本方針に位置付けることにより、いじめの加害者への支援につながる。

また、いじめの加害児童生徒に対する成長支援の観点から、加害児童生徒が抱える問題を解決するための具体的な対応方針を定めることも望ましいとされています。

加えて、より実効性の高い取組を実施するため、学校いじめ防止基本方針が、当該学校の実情に即して適切に機能しているかを学校いじめ対策組織を中心に点検し、必要に応じて見直す、というPDCAサイクルを学校いじめ防止基本方針に盛り込んでおく必要があるとしていますね。

教育に携わらない人、その中でも短絡的な人は「加害者への成長支援」に対して違和感を持つ人もいるかもしれません(そもそも本選択肢はそういう考えを持っている人が外してしまう選択肢になっている)。

ですが、教育は所属する全ての子どもに対して成長支援を行っていく機関であり、いじめの加害者(本来、教育の場で加害・被害という表現もそぐわないことを支援者は理解しておく必要がある)であろうとその支援の範疇であることは間違いないわけです。

そして「いじめの加害者」に対する、最も大切な支援の一つは「自分が行った事実と、その事実によって起こるさまざまな事柄をきちんと体験し、それらを「自分が行った事実の結果」と認識できるよう最大限の努力をすること」であると思います。

すなわち、いじめを行った人に対して、状況や情報を固めて「あなたがやったことに誰が見ても間違いがない」という形を作り(誰のせいにもできない状況を作って、認めざるを得なくする)、きちんとその事実に応じた対応(指導を受ける、保護者を呼ばれる、謝罪をするなど)を行っていくことが重要になるわけです。

こうした一連の作業を担うのが生徒指導主任であり、上記のような対応をきちんと行うには「危機管理」に対する意識を持っていること、生徒指導は「一発勝負」という特徴があることをよく理解しておくことが必要になります(例えば、金曜日の放課後の出来事に対して、土日を挟むことで加害者が周囲の人間に連絡を取って証言を歪めてしまうなどの恐れがある。なので、週を跨がずに対応することが肝要になる)。

こういう風に書くと厳しい対応に聞こえるかもしれませんが、「自分が行った事実と、その事実によって起こるさまざまな事柄をきちんと体験し、それらを「自分が行った事実の結果」と認識できるよう最大限の努力をする」という目標は、言い換えれば「自分の人生に責任を取る」ということであり、そうした成熟した人間を育てるために教育機関は存在するわけです。

というわけで、加害者に対しても成長支援の観点を持って対応することが、教育機関では当然のことと言えるわけですね(そして、成長支援の観点は、多くの人が想像するような甘いものではないということです)。

よって、選択肢①は適切と判断できます。

② 被害者、加害者、仲裁者及び傍観者といういじめの四層構造に基づいて事案を理解する。

これは社会学の知見である「いじめの四層構造」に関する理解が問われています。

森田洋司1986年に提唱した考え方であり、いじめは、「被害者」を中心とし、「加害者」「観衆(囃し立てる子)」「傍観者」の4層で構成され、いじめの持続や拡大には、加害者と被害者以外の「観衆」や「傍観者」の立場にいる子どもが大きく影響しているというものです。

4層構造の各立場は互いに影響を与えており、傍観者の中から仲裁者やいじめに否定的な者が現れれば、いじめに対する抑止となり、逆に、面白がったり見て見ぬふりをしたりすれば、いじめを増幅させるといいます。

すなわち、この構造に風穴を開ける、具体的には傍観者や観衆が変化していくことで、いじめの構造が破綻し、いじめが生じにくくなっていくという考え方になるわけですね。

ですから、選択肢の「被害者、加害者、仲裁者及び傍観者」というのはそもそも間違いであり(仲裁者ではなく観衆ですね)、一般的には傍観者が仲裁者になっていくことでいじめの構造が変化するというパターンが多かろうと思います。

さて、上記の「いじめの四層構造」は非常に有名なものではありますが、あくまでも社会学の知見であり「いじめという現象を、外から眺めて明らかにされたもの」になります。

もちろん、この視点を持って構造を変化させていくというのは非常に重要になっていきますが、カウンセラーという心理支援を行っていく立場は「人間がいじめを行うのはなぜか?」という根本的な問いに自分なりの考えを持っておくことが重要です。

言い換えれば、社会学という外から捉えた現象としての「いじめの四層構造」だけではなく、人の心という内側からいじめという現象を捉えることが重要になってくるわけです。

こうした「いじめを人の心という内側から捉える」ということに取り組んだ仕事の一つとして、中井久夫先生の「いじめの政治学」があります。

私は「いじめを人の心という内側から捉える」という方向性のものとして、これ以上のものはないと考えており、いじめの研修を行うときにもこれを骨にして簡単な肉付けするのみという形にならざるを得ないというのが正直なところです(それほどに「いじめの政治学」は優れていると思います。加えようがない)。

いじめの対応される方には是非一読してほしいものの一つですね。

以上より、選択肢の内容は「いじめの四層構造」について誤った内容となっていますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 当事者の双方に心身の苦痛が確認された場合には、苦痛の程度がより重い側へのいじめとして対応する。
④ 保護者から重大な被害の訴えがあったが、その時点でいじめの結果ではないと考えられる場合は、重大事態とはみなさない。

選択肢③については「双方向の行為」をどう認識するかという論点になっています。

双方向の行為がある事案については「いじめの防止等のための基本的な方針」にあるとおり、「けんかやふざけ合いであっても、見えない所で被害が発生している場合もあるため、背景にある事情の調査を行い、児童生徒の感じる被害性に着目し、いじめに該当するか否かを判断する」ことが必要となります。

こうした事態への対応として、例えば青森県教育委員会の「いじめ対応の手引き」では、以下のような対応を示しています。

  • 双方向が被害児童・加害児童になるような場合、まず被害児童としての立場を尊重した事実確認を行う。
  • 双方が被害を訴えている場合には、いじめの認知件数を2件として対応する。
  • 当該児童生徒2名には、被害児童生徒・加害児童生徒の両方の立場で指導と支援を行う。

こうした対応は実際には難しい面もあるでしょうが、いじめについて「常に一方向的である」と考えるのはそもそもの間違いで、人間関係である以上、必ず双方向性が含まれていると捉えて関わっていくことが重要です。

ちなみに「いじめは常に双方向である」と言うと必ず「被害者にも問題があるということか」という意見が出ますが、そういうことを言う人はそもそも「不穏な出来事も活用して人を育てる」ということの価値を理解していないのだと思います。

子どもにとって不穏な事態が起こったとき、その不穏な事態を起こした子どもの要因を見極め、それを伝えていくことは「二度と余計な火の粉が子どもの身に降りかからないようにするための生き方を伝えていく機会」になります。

こうした機会を「いじめの対応」だと思って考えるから上記のようなズレた意見が出てしまうのであって、いじめという状況での対応を、①いじめの対応:事実確認、謝罪、締めくくりの儀式など、②賢い生き方を身につける機会:二度と余計な火の粉が子どもの身に降りかからないようにするための生き方を伝えていく、という2つのパラダイムで考えていくことが重要になります。

①は学校と協力しつつやっていけばよいのですが、②については家庭が中心になって担うべきポイントになりますね。

もちろん、一方的ないじめ(犯罪と言っても良いでしょうね)という状況ならば、その際の子どもへの助言は「そういう人に近づかない」ということになるかもしれませんが、いろんな人の文章を読む限り、武道の道を進んでいくとそういう「ヤバい感じ」に敏感になれるそうですよ(例えば、2つの道があってトラブルに遭いそうな道を感じて避けるとか、そういう感じになれるそうです)。

さて、選択肢③の解説に戻ると、こちらでは「苦痛の程度がより重い側」という表記がありますが、これは定量的に観測することが困難であるという前提を踏まえれば、不適切な内容と言えるでしょう。

「常識的に見て」という考え方もあるでしょうが、そうやって「双方向のやり取り」において一方を「加害者」とすることを、加害者とされた側の保護者は納得するかと言われれば、そうではないパターンが多いです(こういう「万が一、訴えられた場合」のことを考えることが大切です)。

重要なのは、こうした「双方向のやり取り」については、「どちらか一方を被害者でもう一方を加害者」という認識の仕方をしようとすればうまくいかないと考えることだろうと感じます。

実践上は「お互いにこういうことをするのは止めなさい」ということでしょうし、そういうことはいじめ対応以前からあったものではありますが、これらについて「いじめ」とラベリングせねばならない時代がきたということでしょうね。

ですから、絶対に気を付けねばならないこととして「双方向の行為なので、これはいじめではない」という捉え方をしてはいけないということです。

いじめ問題の対応について」の「いじめの重大事態に関する誤った対応事例」にもあるように、双方向であってもいじめの疑いが見られる場合(つまり、当人からの被害性の訴え)、それはいじめの重大事態として対応していくことが求められるわけです。

なお、重大事態として見ていくのは、こうした本人からの訴えだけではなく、「いじめの防止等のための基本的な方針」によると、保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったときは、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たることが求められています。

保護者からの申立ては、学校が知り得ない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないままいじめの重大事態ではないとは断言できないことに留意する必要があるということですね。

選択肢④にある「保護者から重大な被害の訴えがあったが、その時点でいじめの結果ではないと考えられる場合は、重大事態とはみなさない」というのは、「その時点で判断してはならず、重大事態と同様の調査に当たるべき」というのが正誤判断のポイントですね。

一応、これまで各教育委員会等で重大事態と扱った事例を挙げていきますが、これらを下回る程度の被害であっても、総合的に判断し重大事態と捉える場合があることに留意する必要があります。

  1. 児童生徒が自殺を企図した場合
    軽傷で済んだものの、自殺を企図した。
  2. 心身に重大な被害を負った場合
    リストカットなどの自傷行為を行った。
    暴行を受け、骨折した。
    投げ飛ばされ脳震盪となった。
    殴られて歯が折れた。
    カッターで刺されそうになったが、咄嗟にバッグを盾にしたため刺されなかった。
    心的外傷後ストレス障害と診断された。
    嘔吐や腹痛などの心因性の身体反応が続く。
    多くの生徒の前でズボンと下着を脱がされ裸にされた。
    わいせつな画像や顔写真を加工した画像をインターネット上で拡散された。
  3. 金品等に重大な被害を被った場合
    複数の生徒から金銭を強要され、総額1万円を渡した。
    スマートフォンを水に浸けられ壊された。
  4. いじめにより転学等を余儀なくされた場合
    欠席が続き(重大事態の目安である30日には達していない)当該校へは復帰ができないと判断し、転学(退学等も含む)した。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ いじめの情報が学校にもたらされた場合には、当該校に設置されている学校いじめ対策組織を中心に情報収集や対応に当たる。

まずは本選択肢と関連のあるいじめ防止対策推進法の条項を抜き出しましょう。


第二十二条(学校におけるいじめの防止等の対策のための組織) 学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする

第二十八条(学校の設置者又はその設置する学校による対処) 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
3 第一項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。


上記のうちいずれが本選択肢の「学校いじめ対策組織」に該当するかというと、前者の条項になります。

後者の条項は重大事態に際して組織されるものですから、「いじめの情報が学校にもたらされた」という時点では、既に存在している第22条の組織が活動することになり、これが学校いじめ対策組織と称されているわけです(重大事態に際して組織される場合でも、メンバーは重なることが多いのですが、当該クラスの担任などが加わることも多いので全く同じというわけではないですね)。

さて「いじめの防止等のための基本的な方針」によると、学校いじめ対策組織の具体的な役割としては以下が挙げられています。

【未然防止】
・いじめの未然防止のため、いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割

【早期発見・事案対処】
・いじめの早期発見のため、いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割 いじめの早期発見・事案対処のため、いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録、共有を行う役割
・いじめに係る情報(いじめが疑われる情報や児童生徒間の人間関係に関する悩みを含む)があった時には緊急会議を開催するなど、情報の迅速な共有、及び関係児童生徒に対するアンケート調査、聴き取り調査等により事実関係の把握といじめであるか否かの判断を行う役割
・いじめの被害児童生徒に対する支援・加害児童生徒に対する指導の体制・対応方針の決定と保護者との連携といった対応を組織的に実施する役割

【学校いじめ防止基本方針に基づく各種取組】
・学校いじめ防止基本方針に基づく取組の実施や具体的な年間計画の作成・実行・検証・修正を行う役割
・学校いじめ防止基本方針における年間計画に基づき、いじめの防止等に係る校内研修を企画し、計画的に実施する役割
・学校いじめ防止基本方針が当該学校の実情に即して適切に機能しているかについての点検を行い、学校いじめ防止基本方針の見直しを行う役割(PDCAサイクルの実行を含む)

このように、いじめの情報が学校にもたらされた場合には、学校いじめ対策組織が中心になって情報収集や対応に当たることが示されていますね。

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

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