多職種チームによる精神科デイケアにおける公認心理師の業務を選択する問題です。
こういう問題は「それぞれの職種がどういう仕事を担っているのか」を知っておくことが求められている、非常に重要な基礎問題であると思います。
こういう問題が増えることは良いことだと思いますね。
問52 多職種チームによる精神科デイケアにおいて、公認心理師が主に行う業務として、適切なものを2つ選べ。
① 心理教育を行う。
② 作業プログラムを企画する。
③ 利用者にピアカウンセリングを行う。
④ 利用者の公的補助導入について助言する。
⑤ ストレスに関して個別相談を希望する利用者に面接する。
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あるが限定できない。
解答のポイント
各職種(資格)の役割について把握している。
選択肢の解説
② 作業プログラムを企画する。
③ 利用者にピアカウンセリングを行う。
④ 利用者の公的補助導入について助言する。
法律上のスタッフ配置に関しては厚生労働省の「精神科デイ・ケア等について」の「精神科デイ・ケア等の人員基準について」を見ておいてください。
デイケアだけを抜き出すと以下の通りです。
- 利用者30人:精神科医師1人(兼務可)、作業療法士or精神保健福祉士or臨床心理技術者のいずれか 1人(専従)、看護師 1人(専従)
- 利用者50人:精神科医師1人(兼務可)、作業療法士or経験有する看護師1人(専従)、看護師1人(専従)、臨床心理技術者or精神保健福祉士1人(専従)
- 利用者70人:精神科医師2人(兼務可)、作業療法士or経験有する看護師1人(専従)、看護師1人(専従)、臨床心理技術者or精神保健福祉士1人(専従)、精神科医師以外の従事者1人(専従)
ここでは、こうした人員(配置されている資格)のそれぞれの役割について述べていこうと思います。
既に述べた通り、精神科デイケアには医師、看護師、臨床心理技術者(臨床心理士・公認心理師)、作業療法士、精神保健福祉士などが主要なスタッフとして関わっていますが、最近、ピアスタッフも精神科デイケアのスタッフとして関わっています。
ピアスタッフというのは聞き慣れないかもしれませんが、「ピアサポートの活用を促進するための事業者向けガイドライン」にもあるように精神科デイケア等の領域で活動する精神疾患当事者のことを指します。
ピアスタッフの仕事は勤務先の状況によって様々ですが、自身が精神保健サービスを利用した経験を生かして支援を提供する、リカバリーの身近なモデルになるといった役割が期待されることが多いようです。
ピアスタッフ(精神障がい者ピアサポート専門員という表現が多いかな?)は、支援チームの一員として存在することで、これまで支援困難とされてきた患者との信頼関係が比較的早く容易に結べるようになる、サービスをより当事者中心にしていく原動力となりサービスの質の向上が期待できるなどの効果が見込まれています。
また、ピアサポート専門員の経験を生かして、「他者を勇気付け、希望を持てるように支援をする」という価値ある仕事をすることにより正当な報酬を得て経済的にも自立できる可能性は、精神障害者の自尊心と社会的な地位を向上させるとされています。
選択肢③にある「利用者にピアカウンセリングを行う」というのは、このピアスタッフ(ピアサポート専門員)の役割であると見なすのが妥当ですね。
そもそも「ピアカウンセリングを行う」のは、その障害などの当事者でなくてはなりませんから、公認心理師が行うのは難しいですよね(もちろん、公認心理師が当事者である可能性もあるわけですが、全ての公認心理師がそうでない以上、こうした国家試験の問題で適切と判断することはできないわけです)。
さて、続いては作業療法士の活動についても把握していきましょう。
作業療法士(Occupational therapist:OT)の主な仕事は、患者の日常生活を想定した、具体的な動作を用いて機能回復(基本的動作能力)、そして、より応用的・実践的な動作を用いて能力の開発や手段への獲得(応用的動作能力)、心身への機能回復ならびに生活の実現(社会的適応能力)に努めることになります。
法律的には「身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせること」を指して作業療法と呼びますね(理学療法及び作業療法士法第2条)。
そして、作業療法士は、①身体的、神経生理学的レベルに作用する因子、②心理的レベルに作用する因子、③人間関係に作用する因子、の視点から分析した「作業」を手段として用いるわけですね。
「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」によると、以下に挙げる業務については、作業療法に含まれるものであるこ とから作業療法士を積極的に活用されることが望まれるとされています。
- 移動、食事、排泄、入浴等の日常生活活動に関するADL訓練
- 家事、外出等のIADL訓練
- 作業耐久性の向上、作業手順の習得、就労環境への適応等の職業関連活動の訓練
- 福祉用具の使用等に関する訓練
- 退院後の住環境への適応訓練
- 発達障害や高次脳機能障害等に対するリハビリテーション
そして、こうした訓練等を通して「応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図る」わけですが、当然、そのプログラム内容も作業療法士が中心になって考えていくことになりますね(選択肢②の話ですね)。
続いて、精神保健福祉士の役割について述べていきましょう。
精神科デイケア(精神科リハビリテーション)において医師や看護師、作業療法士などとチームを組んでリハビリテーションプログラムを行っており、その中でも精神保健福祉士(PSW)は、経済的支援(障害年金の請求に関する支援や生活保護受給に関する相談など)や就労支援(就労支援施設やハローワークへの同行支援など)、訪問支援や各関係機関との連絡調整、社会資源利用に関する援助などのサービスを提供することで自分らしい自立した生活を送るための支援を行っています。
ですから、選択肢④の「利用者の公的補助導入について助言する」は主に精神保健福祉士が担う役割であることがわかりますね。
以上より、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。
① 心理教育を行う。
⑤ ストレスに関して個別相談を希望する利用者に面接する。
デイケアの利用者は統合失調症患者が中心であることが多いですが、気分障害、アルコール中毒、薬物依存、発達障害、認知症など、その対象は拡大しつつあり、更にうつ病やストレス関連疾患患者へのリワーク支援を中心に行っているものなど、多様なデイケアが展開されています。
多くの精神疾患や問題にストレスは大きく影響することから、デイケアでもストレスとの付き合い方に関するプログラムが行われることも珍しくありませんし、そういう場合には、臨床心理技術者(公認心理師や臨床心理士が該当する)が中心になってプログラムの計画・実施を行っていくことになります。
こうしたプログラムがSSTという形で行われている場合が多く、その場合は選択肢①の「心理教育」という表現になることも多いです(例えば、SSTという枠の中で、ある回の内容が「ストレスに関する心理教育」だったり「〇〇症に関する心理教育」という感じ。もちろん利用者に伝える表現は違うにせよ)。
また選択肢⑤の「ストレスに関して個別相談を希望する利用者に面接する」ということに関しても、デイケアにいる職員として医師もおりますが、ずっとデイケアに張り付いていない場合も多く、ストレスに関して専門的に話ができるという枠組みで言えば、当然、臨床心理技術者が該当すると言えますね。
心理に関する相談に限らず、症状や生活などで困ったときに専門スタッフに相談できるのは精神科デイケアならではのメリットといえるでしょう。
以上より、選択肢①および選択肢⑤が精神科デイケアにおいて公認心理師が主に行う業務として適切と判断できます。