嚥下反射の中枢が存在する部位に関する問題です。
脳の各部がどういう機能を担っているかは頻出問題と言えそうですね。
問11 嚥下反射の中枢が存在する部位として、最も適切なものを1つ選べ。
① 延髄
② 小脳
③ 中脳
④ 辺縁系
⑤ 視床下部
関連する過去問
なし
※嚥下中枢に関しては「なし」だが、脳の各部に関する解説は多数あるので、それを見ておくと役立つだろう。
解答のポイント
脳の各部が担っている機能を把握している。
選択肢の解説
① 延髄
③ 中脳
脳幹は、中脳、橋、延髄の3つの部分から構成されており(つまり、中脳から延髄までの、系統発生的に古い部分(小脳を除く)を合わせて脳幹と呼ぶ)、脊髄と同じように脳と身体を結ぶ機能を持っています。
大脳半球と脊髄を結ぶ上行性、下行性伝導路が走っており、多くの脳神経が出入りしていて延髄、橋、中脳には脳神経の核(神経核)が多数存在しています。
延髄には生命維持に不可欠な自律神経の中枢が多数あり、呼吸中枢、心臓血管中枢、咀嚼・嚥下中枢、嘔吐中枢、唾液分泌中枢、発汗中枢などが存在しています。
それぞれについて少し詳しく見ていきましょう。
「呼吸中枢」についてですが、延髄の毛様体部分には、呼息時に活動する呼息性ニューロンと、吸息時に活動する吸息性ニューロンとがあります。
吸息性ニューロンは脊髄の吸息筋運動ニューロンに興奮性の信号を送ります。
この吸息性ニューロンと呼息性ニューロンの集まりを「呼吸中枢」と呼びます。
「循環中枢(心臓血管中枢)」についてですが、延髄の網様体は心臓血管系の機能を常時調節しています。
循環中枢は、延髄網様体の外側部の昇圧中枢(交感神経興奮性中枢)、内側部の降圧中枢(交感神経抑制性中枢)、迷走神経背側核と疑核に存在する心臓抑制中枢(心臓迷走神経中枢)に分けられ、これら3部位は相互に干渉し合います。
昇圧中枢と降圧中枢は、脊髄の心臓血管支配の交感神経節前ニューロンに対し、それぞれ興奮性および抑制性の影響を及ぼし、心臓抑制中枢は迷走神経を介して心臓を抑制します。
Alexander(1946)以来、これらの3つの部位が循環中枢に含まれていると考えられてきました。
続いて「嘔吐中枢」についてですが、延髄の孤束を含む外側網様体部分に存在する中枢であり、この部分を刺激すると嘔吐が起こります。
消化管粘膜や延髄の化学受容器が刺激されると、その情報は嘔吐中枢に伝えられ、その結果、迷走神経、交感神経、体性運動神経を介して嘔吐を引き起こします。
本問の「嚥下中枢」ですが、第四脳室底の延髄網様体に存在する中枢で、この中枢は咽頭、口蓋、舌からの入力によって興奮し、咽頭、食道、胃などの自律性効果器と呼吸筋に巧みに連動させて嚥下反射を起こします。
また脳幹の橋吻側部には排尿調節に重要な「排尿中枢」が存在し、仙髄の排尿中枢を下行性に調節して、残尿のない完全な排尿を行わせます。
上記は脳幹の延髄に存在する中枢に関してでしたが、続いては「橋」や「中脳」について簡単に述べます。
橋では前方に膨れた橋核において、大脳皮質からきた線維を中継して反対側の小脳皮質へ神経線維を送ります。
中脳では背側部の中脳蓋に上丘(視覚に関与)と下丘(聴覚に関与)、中間部の被蓋には赤核があり、腹側部の左右大脳脚には大脳皮質からの遠心路が太い神経束をなしており脊髄や橋に向かいます。
被蓋と大脳脚との境には黒質があり、パーキンソン病では黒質ドパミン神経細胞が著しく脱落しています。
脳幹には合目的的動作の発現に関わる領域があり、例えば、中脳にある上丘は外界の対象に対して眼球と頭を向ける(定位する)という動作を発現させ、中脳歩行誘発野は姿勢と歩行の調節(開始や停止など)に関わり、中脳中心灰白質は感情の変化(怒りなど)に伴うさまざまな運動、姿勢、自律神経性の変化を引き起こします。
ただし、これらの動作は基本的には生得的であり、学習によって獲得される動作はより上位の脳領域(大脳皮質、大脳基底核、小脳)などによって初めて可能になります。
以上より、嚥下反射の中枢が存在するのは脳幹にある延髄であることがわかりますね。
よって、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。
② 小脳
まずは自律神経系の中枢に関する問題ですから、その辺に関して述べていきましょう。
小脳の虫部前葉を刺激すると頸動脈結紮(結紮:けっさつ=結ぶこと、手術とかで縛ること)で起こる血圧上昇を抑制したり、視床下部外側部刺激で起こる骨格筋血流増大(防御反応の一つ)を抑制します。
小脳の室頂核への刺激は、脳血流の増大、交感神経の興奮による血圧上昇と心拍数増加をもたらします。
一方、同部位を破壊すると平均血圧は変化しないが、体位変換時の循環調節は障害されます。
このような事実から、小脳は緊張性に循環機能を調整しているのではなく、種々の循環反射時(例えば、運動時など)の心臓血管系の調節に関与していると考えられます。
また、小脳は系統発生学的、あるいは機能的区分に基づいて「前庭小脳」「脊髄小脳」「大脳小脳」の3つに分類することができます。
- 前庭小脳(前庭系):身体平衡と眼球運動を調節する。半規管と前庭神経核からの入力信号を受け取り、前庭神経外側核・内側核に出力する。また、上丘と視覚野からの視覚信号の入力を受け取る。前庭小脳の傷害は、平衡と歩様の異常を引き起こす。
- 脊髄小脳(脊髄系):体幹と四肢の運動を制御する。三叉神経、視覚系、聴覚系および脊髄後索からの固有受容信号を受信する。深部小脳核へと出力された信号は大脳皮質と脳幹に達し、下位の運動系を調節する。脊髄小脳には感覚地図が存在し、身体部位の空間的位置データを受け取っている。運動の最中に、身体のある部位がどこへ動くかを予測するため、固有受容入力信号の詳細な調節を行うことができる。
- 大脳小脳(大脳皮質系):運動の計画と感覚情報の評価を行う。大脳皮質(特に頭頂葉)からの全入力を、橋核を経由して受け取り、主に視床腹外側に出力する。信号は前運動野、一次運動野および赤核に達し、下オリーブ核を通って再び小脳半球へとリンクする。
平衡感覚や体幹と小脳が関わることについては、発達障害の知見でも知られていますね。
以上より、小脳に嚥下反射の中枢は存在しないことがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
④ 辺縁系
大脳辺縁系は大脳基底核と間脳を取り巻くように位置する領域で、Brocaが帯状回と海馬傍回を辺縁葉と呼び、その後MacLeanがパペッツの情動回路とヤコブレフの回路を統合し大脳辺縁系と呼ぶことで、その概念が形成されました。
大脳辺縁系は部位によって著しく異なる機能をもつので、機能面から大脳辺縁系として一つにまとめることは困難です。
自律機能への関わりとしては、大脳辺縁系は視床下部との密接なつながりのもとに、本能および情動行動とその際に伴う自律反応の協調と制御に関与すると考えられています。
例えば、扁桃体の摂食行動を引き起こす部位の刺激では、血圧上昇、腸の運動の促進、呼吸抑制、散瞳などが起こります。
帯状回のある部位の刺激では、骨格筋の弛緩による運動抑制とともに徐脈、血圧低下、立毛、呼吸抑制など、ある種の動物が緊急時に示す死に真似反応に似た反応が生じます。
中隔野の刺激では快感や報酬効果をもたらすとともに、徐脈、血圧低下、胃酸分泌と腸運動の抑制、呼吸抑制などが起こります。
以上より、辺縁部は嚥下反射の中枢部位ではないことがわかりますね。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ 視床下部
視床下部は間脳の下部、第三脳室の周辺の領域であり、多くの神経核から構成されています。
自律神経系や内分泌系を制御し、ホメオスタシスにおいて中心的な役割を担う脳領域です。
多くの神経核群が含まれており、これらが血液や脳脊髄液の組成などをはじめとする様々な内部環境に関する情報を受け取り、血圧、電解質組成、体温、睡眠‐覚醒サイクルの調整、摂食・飲水行動、生殖行動、防御行動などの制御を行っています。
例えば、視交叉上核は概日リズムの中枢であり、この核が破壊されると概日リズムが乱れます(「公認心理師 2020-86」参照)。
また、飲水行動には正中視索前核が、摂食行動には視床下部外側部や弓状核が関わることが知られています。
後部に位置する乳頭体は、脳弓を介して海馬、海馬台から神経連絡を受け取り、乳頭視床束によって視床前核に出力線維を送るパペッツの情動回路の一部となっています(「公認心理師 2021-89」参照)。
この回路は記憶や情動、さらに近年ではナビゲーション行動に関わるとも考えられています。
また、視床下部の重要な機能として、下垂体に信号を送り、様々な形で全身に作用するホルモン分泌を制御する機能が挙げられます。
下垂体前葉に作用してホルモンの分泌を調節するホルモンと後葉で分泌されるホルモンがあります。
下垂体前葉に対しては、そのすぐ上流の血管である下垂体門脈に下垂体からのホルモン放出ホルモンを分泌します。
主なものは以下の通りです。
- 成長ホルモン放出ホルモン
- 成長ホルモン抑制ホルモン(ソマトスタチン)
- プロラクチン抑制ホルモン(ドパミン)
- 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン
- 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン
- 性腺刺激ホルモン放出ホルモン
これらのホルモンはその名の通り、成長ホルモン放出ホルモンは下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌を促します。
ソマトスタチンは視床下部に存在し、下垂体門脈中に放出され、下垂体前葉の成長ホルモン分泌細胞に作用し、分泌を抑制します。
同様に、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンは副腎皮質刺激ホルモンを、性腺刺激ホルモン放出ホルモンは性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンは甲状腺刺激ホルモンおよびプロラクチンの分泌を促します。
これに対し、2つ目の様式として、視床下部からニューロンが直接その軸索を下垂体後葉に伸ばし、そこから下垂体後葉ホルモンを分泌するもので、バソプレシンとオキシトシンがあります。
以上より、視床下部は嚥下反射の中枢部位ではないことがわかりますね。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。