公認心理師 2022-45

大学における合理的配慮に関する問題です。

過去問との絡みもあるので、比較的解きやすい問題だったのではないでしょうか。

問45 大学における合理的配慮について、最も適切なものを1つ選べ。
① 発達障害のある学生が試験時間の延長を申し出た場合には、理由を問わず延長する。
② 弱視のある学生による試験時の文字拡大器具の使用を許可することは、合理的配慮に含まれる。
③ 大学において何らかの支援を受けている発達障害のある学生は、我が国の大学生総数の約6%である。
④ 大学においてピアサポーター学生が、視覚障害のある学生の授業付き添いをする場合、謝金支払いは一般的に禁止されている。

関連する過去問

公認心理師 2019-97

解答のポイント

合理的配慮の基本的な理解を有している。

選択肢の解説

① 発達障害のある学生が試験時間の延長を申し出た場合には、理由を問わず延長する。

本選択肢の解説は「合理的配慮ハンドブック~障害のある学生を支援する教職員のために~」を参考にしていきます。

合理的配慮とは、以下のようにまとめられます。

障害者の権利に関する条約では、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されています。

障害者差別解消法において合理的配慮の規定は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないとき」にその社会的障壁を除去することとなっています。

例えば、運動機能に障害があって車椅子を使っている学生がいて、受講したい授業の教室が階段を使わないと行けない場所にあったとすると、階段が「社会的障壁」となり、授業への参加が制限されます。

この授業で使う教室を車椅子でアクセス可能な教室に変更すれば、社会的障壁が除去されたことになり、この場面での教室変更が合理的配慮に当たります。

合理的配慮の検討は、原則として学生本人からの申し出によって始まります。

障害者差別解消法 第7条第2項には「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」とありますが、教育機関もこちらの条項に倣っていると見て間違いないです。

障害のある学生で配慮が必要であるにもかかわらず、申し出がうまくできない状況にある場合には、本人の意向を確認しつつ申し出ができるよう支援します。

そして、その学生にとってどのような配慮が有効か、その配慮が妥当かを判断する材料として根拠資料を求めます。

根拠資料の例として以下があります。

  • 障害者手帳の種別・等級・区分認定
  • 適切な医学的診断基準に基づいた診断書
  • 標準化された心理検査等の結果
  • 学内外の専門家の所見
  • 高等学校・特別支援学校等の大学等入学前の支援状況に関する資料

これらの全てが必要ということではなく、何らかの資料で機能障害の状況と必要な配慮との関連が確認できるということがポイントです。

例えば、手先が不器用で書字に時間がかかるという機能障害が確認できれば、多くの文字を書かなければならない試験において試験時間を延長するのは妥当な配慮と言えます。

なお、発達障害のある受験生がセンター試験の受験上の配慮を受けるための根拠資料を見てみると、診断名に加え、申請日3年以内の心理・認知検査や行動評定の結果とともに、配慮が必要な理由を記述するようになっています。

合理的配慮の提供において、根拠資料は必須の条件というわけではなく、提供する人にとって負担とならない場合、特別な資料がなくても障害の状況が明らかな場合等は、根拠資料がなくても問題ありません。

なお、本人からの申し出があったからといって、その全てを受け容れるというわけではないことも理解できていると思います。

私が臨床実践をしていて、ここ数年で急に出てきた価値観として「本人の不快感に基づいて、対応を決める・対応の成否を判断する」というものです。

この価値観は「当人があらゆることを理解し、正しい判断を下せる」という前提がないといけないわけですが、当然そんなことはありませんね。

特に苦境の最中にいる学生では「ここを歪めてしまうと、そもそも教育でなくなってしまう」をいう線引きをすることが困難であることが多いので、配慮の要求が知らず知らずのうちに教育の枠組みを超えてしまうこともあり得ます。

教育機関が教育機関であるためには、この線引きを持ちつつ、その範囲の中で出来る限りの支援として合理的配慮を行っていくことが重要になるわけですね。

以上のように、合理的配慮に関しては本人からの申し出があった時点で開始するものとされています。

障害があったとしても周囲と同じように対応してもらうことを望む人も少なくないので、あくまでも「本人からの申し出」が起点となるということを忘れないでおきたいですね(良かれと思って、はたいていの場合マイナスに働きますね)。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 弱視のある学生による試験時の文字拡大器具の使用を許可することは、合理的配慮に含まれる。

こちらについては文部科学省が出している「合理的配慮の例」を抜き出しましょう。


  1. 共通
    ・バリアフリー・ユニバーサルデザインの観点を踏まえた障害の状態に応じた適切な施設整備
    ・障害の状態に応じた身体活動スペースや遊具・運動器具等の確保
    ・障害の状態に応じた専門性を有する教員等の配置
    ・移動や日常生活の介助及び学習面を支援する人材の配置
    ・障害の状態を踏まえた指導の方法等について指導・助言する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士及び心理学の専門家等の確保
    ・点字、手話、デジタル教材等のコミュニケーション手段を確保
    ・一人一人の状態に応じた教材等の確保(デジタル教材、ICT機器等の利用)
    ・障害の状態に応じた教科における配慮(例えば、視覚障害の図工・美術、聴覚障害の音楽、肢体不自由の体育等)
  2. 視覚障害
    教室での拡大読書器や書見台の利用、十分な光源の確保と調整(弱視)
    ・音声信号、点字ブロック等の安全設備の敷設(学校内・通学路とも)
    ・障害物を取り除いた安全な環境の整備(例えば、廊下に物を置かないなど)
    ・教科書、教材、図書等の拡大版及び点字版の確保
  3. 聴覚障害
    ・FM式補聴器などの補聴環境の整備
    ・教材用ビデオ等への字幕挿入
  4. 知的障害
    ・生活能力や職業能力を育むための生活訓練室や日常生活用具、作業室等の確保
    ・漢字の読みなどに対する補完的な対応
  5. 肢体不自由
    ・医療的ケアが必要な児童生徒がいる場合の部屋や設備の確保
    ・医療的支援体制(医療機関との連携、指導医、看護師の配置等)の整備
    ・車いす・ストレッチャー等を使用できる施設設備の確保
    ・障害の状態に応じた給食の提供
  6. 病弱・身体虚弱
    ・個別学習や情緒安定のための小部屋等の確保
    ・車いす・ストレッチャー等を使用できる施設設備の確保
    ・入院、定期受診等により授業に参加できなかった期間の学習内容の補完
    ・学校で医療的ケアを必要とする子どものための看護師の配置
    ・障害の状態に応じた給食の提供
  7. 言語障害
    ・スピーチについての配慮(構音障害等により発音が不明瞭な場合)
  8. 情緒障害
    ・個別学習や情緒安定のための小部屋等の確保
    ・対人関係の状態に対する配慮(選択性かん黙や自信喪失などにより人前では話せない場合など)
  9. LD、ADHD、自閉症等の発達障害
    ・個別指導のためのコンピュータ、デジタル教材、小部屋等の確保
    ・クールダウンするための小部屋等の確保
    ・口頭による指導だけでなく、板書、メモ等による情報掲示

このように、本選択肢の内容は上記のように合理的配慮に含まれていることがわかりますね。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 大学において何らかの支援を受けている発達障害のある学生は、我が国の大学生総数の約6%である。

こちらについては「障害のある学生等に対する大学の支援に関する調査‐発達障害を中心として‐ 結果報告書」を見てみましょう。

この結果報告書の中では、障害のある学生数および支援を受けている学生数の推移が示されており、平成27年度151人(割合は0.2%)、平成28年度225人(同0.3%)、平成29年度242人(同0.3%)、平成30年度307人(同0.4%)となっています。

その他、調査に加わった私立大学も含めても、学生数の割合としては平成30年度で0.3%とより低い水準にとどまっています。

本選択肢には「約6%」とありますが、実際はもっと少ない数字であることがわかりますね。

ただし、平成30年度のデータのみを示しますが(全部書くのは大変なので)、調査対象となった8国立大学法人に在籍する発達障害のある学生数ですが、まず学生総数が70559人、そのうち障害のある学生数が380人、その中でも発達障害のある学生数が121人、そして支援を受けている学生数が102人になります。

ですから、「障害のある人の中で支援を受けている人」という視点で言えば、それなりの割合の人が支援を受けているということになるかもしれません。

問題があるとすれば、そうした障害のある学生の割合自体が総学生数に比して少ないことかもしれません。

もちろん、高等教育なわけですから誰でも入れるということはあり得ず、能力が達していなければ入学は困難なわけですが、ポイントになるだろうと思うのが「発達障害があるために伸びるはずのものが伸びていない」という事態の有無でしょう。

それを考えていくともっと遡ることになるでしょうし、意見がいろいろ出るでしょうからまた別の機会に。

以上のように、本選択肢の内容は合理的配慮に関する記述として適切ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 大学においてピアサポーター学生が、視覚障害のある学生の授業付き添いをする場合、謝金支払いは一般的に禁止されている。

まずは以下の書籍を参考に(私が読んでいるのは旧訂版。新訂版の方が良いのかもしれないけど、読んでないからわからない)、大学におけるピアサポートに関して概説していきます。

ピアサポートとは、文字通り仲間による支援・援助活動を指します。

非専門家による対人的な支援という意味ではセルフヘルプ・グループと重なるところは多いですが、ピアサポートはピアサポーターとして訓練を受けた者が自覚をもって仲間を支援・援助するという点が概念的に異なるところです。

学校でのピアサポートは「悩みがあるときには多くの生徒は、まず友達に助けを求める」という事実(この点は自傷行為の相談でも同様ですね)に基づく生徒の援助方法の一つであり教育の一つの方法でもあります。

Cole(1999)は、学校のピアサポートの目的として以下の6つを挙げています。

  1. 生徒間に思いやりのある関係を確立する機会を提供する。
  2. 傾聴や問題解決スキルなど、他者を援助するスキルをトレーニングする。
  3. 生徒が多様な援助や支援を受けられるようにする。
  4. 生徒のリーダーシップ、自尊感情、対人スキルを向上させる。
  5. 学校内にお互いを助け合う環境を育む。
  6. 学校のガイダンス、カウンセリング・サービスの幅を広げる。

つまりピアサポートとは、訓練を受けるピア・サポーター生徒とサポーターの援助を受ける生徒の両社への教育的効果と、学校全体の援助力の向上を目指した活動と言えます。

ピアサポーターの具体的な活動は以下のように分類できます。

  • 先輩や友人:下級生に規範を示したり、友達がいない生徒の友達になる。
  • 相談相手:気軽な相談窓口となって話を聴く。
  • 調停者:生徒間のトラブルを収める。
  • 教育者:いじめや薬物依存などの問題について教える。
  • 学習支援者:学習面について助言したり指導する。

どの活動が主になるかは個々の学校のピアサポートを実施する目的によって変わるものと思われるが、いずれにしても相手の話を聴くことがベースになっていると言えます。

ピアサポートの実施主体は学生支援担当機関か学生相談機関になるが、いずれにしても大学のカウンセラーが何らかの形でバックアップすることになります。

ピアサポーターへの研修や運営は継続的な活動になるためある程度の時間とエネルギーが必要となり、カウンセラーが過重負担にならないか熟慮した上で関与した方が良いでしょう。

カウンセラーが行うピアサポーターへの研修では概ね以下のような内容が含まれます。

  1. ピアサポートの目的の理解
  2. サポーターのグループ作り
  3. 学生の諸問題の理解
  4. 傾聴スキルと相談の実施に関する実習
  5. 他の学内の相談窓口と連携の理解
  6. 守秘義務と限界設定の重要性の理解

ある程度経験を積んだサポーターが育てば、養成研修や継続研修の立案や実施はサポーター自身に手伝ってもらうこともあり得ます。

さて、本選択肢で焦点になるのは「謝金支払いは一般的に禁止されている」ということの是非になるでしょう。

こちらについて文部科学省などの公的な機関から明確な資料は見つけられなかったので、各大学の実践を紹介して解説とします。

まず「立命館大学のピア・サポート・プログラム」という論文では、かなりの数のピアサポート・プログラムの存在が明示されており、それぞれのプログラムにおいて謝礼の有無が明記されております。

また、青山学院大学のこのページでは、謝礼に関する明記が以下のようになされています。

  • 学生サポーターとして障がいのある学生の授業サポートを行った場合、1時間につき985円(両キャンパス共通、交通費の支給はなし)の謝礼金が支払われます。
  • 休講の場合は、謝礼金はお支払いできませんのでご了承ください。
  • 謝礼金をお支払いするにあたり、「学生サポーター登録申請書」とは別にアルバイト登録の書類を大学庶務部経理課に提出する必要があります。
  • 詳細は学生サポーター登録の際に、支援センター窓口にて説明します。

明確でわかりやすいですね。

更に、東海大学のこちらの資料でも、ピアサポートに関して謝礼が出るということが明記されています。

上記以外にも探せば各大学でのピアサポート活動に関して、謝礼金が支払われることがわかります(もちろん、交通費のみとか図書券などでの支給、薄謝であるとかはあり得るでしょうが)。

以上の実態から、ピアサポーター学生に対して謝金の支払いは禁止されていないと見てよいでしょう。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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