問11は問題文の診断基準を特徴とするパーソナリティ障害名を選ぶ問題です。
やはりパーソナリティ障害群は出題する側としては出しやすいと感じます。
ぜひ押さえておきたい。
問11 秩序や完全さにとらわれて、柔軟性を欠き、効率性が犠牲にされるという症状を特徴とするパーソナリティ障害として、最も適切なものを1つ選べ。
①境界性パーソナリティ障害
②強迫性パーソナリティ障害
③猜疑性パーソナリティ障害
④スキゾイドパーソナリティ障害
⑤統合失調型パーソナリティ障害
DSM-5におけるパーソナリティ障害はA群・B群・C群に分類され、それぞれ3~4の障害が規定されています。
A群は奇妙で風変わりな群(統合失調症に近い群)、B群は演技的・感情的で移り気な群、C群は不安で内向的な群とされています。
本問ではDSM-5という記述はありませんが、DSM-5の診断基準をもとに解説を作っていきます。
解答のポイント
パーソナリティ障害群の診断基準を把握していること。
選択肢の解説
②強迫性パーソナリティ障害
強迫性パーソナリティ障害はC群に該当するものです。
診断基準を以下に示します。
秩序、完璧主義、精神および対人関係の統制にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上) によって示される。
- 活動の主要点が見失われるまでに、細目、規則、一覧表、順序、構成、または予定表にとらわれる。
- 課題の達成を妨げるような完全主義を示す(例:自分自身の過度に厳密な基準が満たされないという理由で、一つの計画を完成させることができない)。
- 娯楽や友人関係を犠牲にしてまで仕事と生産性に過剰にのめり込む(明白な経済的必要性では説明されない)。
- 道徳、倫理、または価値観についての事柄に、過度に誠実で良心的かつ融通がきかない(文化的または宗教的同一化では説明されない)。
- 感傷的な意味をもたなくなってでも、使い古した、または価値のない物を捨てることができない。
- 自分のやるやり方通りに従わなければ、他人に仕事を任せることができない。または一緒に仕事をすることができない。
- 自分のためにも他人のためにも、けちなお金の使い方をする。お金は将来の破局に備えて貯めておくべきものと思っている。
- 堅苦しさと頑固さを示す。
このように、問題文の内容と同様のものと見なすことが可能です。
よって、選択肢②が最も適切と判断できます。
①境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害はB群に属するものになります。
診断基準を以下に示します。
対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。
- 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
- 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
- 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
- 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
- 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
- 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
- 慢性的な空虚感。
- 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
- 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。
このように、問題文の内容とは齟齬があることがわかりますね。
境界性パーソナリティ障害は昔から「不安定の安定」と言われるくらい不安定な人格様式とされてきました。
特に、他者との関係性が近づくと、専門的に言えば二者関係の雰囲気が生じると、不安定性が前景に立つようになります。
この理由として、古くから精神分析学派では重要な他者との関係が不安定だった、すなわち「安定していてほしい人が不安定だったという経験があるために、その後に出会う「信頼したい」「安定しているように見える」人と出会った瞬間に「この人も不安定かもしれない」という疑念に無自覚の内に占められてしまう」という説明がなされます。
こういう知見の積み重ねによって現在のDSM-5等の基準を作り上げているので、きちんと学んでおきたいところです(どうも公認心理師試験では、そういう知見に関する問題は作らないようですけどね。今のところ)。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
③猜疑性パーソナリティ障害
こちらはA群のものになります。
診断基準を以下に示します。
A. 他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さが成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
- 十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を与える、またはだますという疑いをもつ。
- 友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
- 情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために、他人に秘密を打ち明けたがらない。
- 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると読む。
- 恨みを抱き続ける(つまり、侮辱されたこと、傷つけられたこと、または軽蔑されたこを許さない)
- 自分の性格または評判に対して他人にはわからないような攻撃を感じ取り、すぐに怒って反応する、または逆襲する。
- 配偶者または性的伴侶の貞節について、繰り返し道理に合わない疑念をもつ。
B. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、または他の精神病性障害の気渦中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
こちらも問題文の内容とは齟齬があることがわかりますね。
A群は統合失調症に近い群ですから、不安を背景としたC群とはずいぶん趣が違います。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④スキゾイドパーソナリティ障害
⑤統合失調型パーソナリティ障害
シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害はA群に該当します。
診断基準を以下に示します。
A. 社会的関係からの離脱、対人関係場面での情動表現の範囲の限定などの広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
- 家族の一員であることを含めて、親密な関係をもちたいと思わない、またはそれを楽しいと感じない。
- ほとんどいつも孤立した行動を選択する。
- 他人と性体験をもつことに対する興味が、もしあったとしても、少ししかない。
- 喜びを感じられるような活動が、もしあったとしても、少ししかない。
- 第一度親族以外には、親しい友人または信頼できる友人がいない。
- 他人の賞賛や批判に対して無関心に見える。
- 情動的冷淡さ、離脱、または平板な感情状態を示す。
B. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、他の精神病性障害、または自閉スペクトラム症の経過中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものでもない。
こちらも問題文の内容とは齟齬があることがわかりますね。
よく質問されることがシゾイドパーソナリティ障害と統合失調型パーソナリティ障害の違いです。
試験に向けてもきちんとその違いを把握しておくことが大切ですね。
統合失調型パーソナリティ障害の診断基準は以下の通りです。
A. 親密な関係では急に気楽でいられなくなること。そうした関係を形成する能力が足りないこと。および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
- 関係念慮(関係妄想は含まない)
- 行動に影響し、下位文化的規範に合わない奇異な信念、または魔術的思考(例:迷信深いこと、千里眼、テレパシー、または“第六感”を信じること:小児および青年では、奇異な空想または思い込み)。
- 普通でない知覚体験、身体的錯覚も含む。
- 奇異な考え方と話し方(例:あいまい、まわりくどい、抽象的、細部にこだわりすぎ、紋切り型)。
- 疑い深さ、または妄想様観念。
- 不適切な、または限定された感情。
- 奇異な、奇妙な、または特異な行動または外見。
- 第1度親族以外には、親しい友人または信頼できる人がいない。
- 過剰な社会不安があり、それは慣れによって軽減せず、また自己卑下的な判断よりも妄想的恐怖を伴う傾向がある。
B. 統合失調症、「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」、他の精神病性障害、または広汎性発達障害の経過中にのみ起こるものではない。
こうした特徴があり、両者の違いとしては、関係念慮を有するかなどが診断基準上は見受けられます。
ただ、勉強していく上で大切なのは「なぜそのような違いが生じるのか」について、一定の見解や仮説を持ちつつ進めていくことだと思います。
私の見解としては、シゾイドパーソナリティ障害は「他者との関係を結ぼうとしない」のに対して、統合失調型パーソナリティ障害では「他者と関わりたいがうまく関わることができない」ということだと考えています。
実際に統合失調型パーソナリティ障害では、関わろうとはするけど、風変わりで、疑い深くなってしまい、奇異な言動があることによってうまくいかないという診断基準の内容になっています。
生活臨床では、自分から積極的に社会活動をしようとする「能動型」と呼び、言われたことを与えられた枠の中で気のなさそうに活動する「受動型」という分類があります。
実際上は、能動型が妄想を有していることが多く、受動型が非妄想型と重なる部分が多いです。
これに沿って上記のパーソナリティ障害を分けると、統合失調型パーソナリティ障害が「能動型」であり、シゾイドパーソナリティ障害が「受動型」ということになるのかもしれません。
能動型では積極的に社会活動をしようとして自身への負担が大きくなってしまいますが、統合失調型パーソナリティ障害に関係念慮等の妄想的な認知が入ってくるのは、そういった無理が影響しているのかもしれません。
いずれにせよ、統合失調型パーソナリティ障害の基準も問題文の内容とは齟齬があることがわかります。
以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。