コミュニティ・アプローチに関する問題です。
完璧に解こうと思うとBloomの示した考えを把握しておくことが大切ですが、そこまで把握していなくてもボンヤリとでもコミュニティ・アプローチに関する理解があれば解きやすい内容だったと思います。
問54 コミュニティ・アプローチの説明として、正しいものを2つ選べ。
① 意思決定プロセスは、専門家が管理する。
② サービスの方略は、心理療法が強調される。
③ 病因論的仮定は、環境的要因が強調される。
④ サービスのタイプは、治療的サービスが強調される。
⑤ マンパワーの資源は、非専門家との協力が重視される。
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解答のポイント
Bloomが示した地域精神保健サービスと伝統的臨床サービスの対比を把握している。
選択肢の解説
① 意思決定プロセスは、専門家が管理する。
② サービスの方略は、心理療法が強調される。
③ 病因論的仮定は、環境的要因が強調される。
④ サービスのタイプは、治療的サービスが強調される。
⑤ マンパワーの資源は、非専門家との協力が重視される。
まずはコミュニティ・アプローチの概説をしてから、各選択肢の内容に入っていきましょう。
コミュニティ・アプローチは、1965年にボストン郊外のスワンプスコットで開催されたアメリカの地域精神保健センターの勤務者、関係者による「ボストン会議」で産声を上げました。
この会議では「コミュニティ心理学は、個人が生活している社会システムに焦点を当て、治療よりも予防を強調する、全く新しいメンタルヘルス・アプローチを目指す」という合意に至っています。
やや古いですがKorchin(コーチンの現代臨床心理学を読んでいる人は、かなり古い人でしょうね)がまとめたコミュニティ心理学の特徴が13項目あり、これを更にまとめると以下の通りです。
- 地域住民志向性が強く、コミュニティ成員のニードを優先させる
- 病者に対する治療よりも健常者に向けての予防あるいは成長志向性が強い
- クリニックでクライエントの来談を待っているという受け身の姿勢ではなく、こちらから現地に積極的に出向き、その場で援助活動をする。
- 他領域の専門家の協力および非専門家を含め社会資源をフルに活用する形をとり、地域住民への直接サービスよりもコンサルテーションや教育等を通して間接的に寄与する場合が多い。
- 精神健康に関係がある社会的問題を従来よりも幅広い範囲で扱い、社会改革を促進させるといった志向性を持つ。
- 自然場面での観察と生態学的アプローチを重視する点が特色である。
要するに、伝統的な臨床心理学や地域精神保健の領域が扱えなかった・欠けていた・抜けていた面に対して変革という構えで挑戦していこうという発想になります。
現在、コミュニティ・アプローチは以下の3つの特徴をもつとされています。
第一に、人と環境の相互作用を重視する点で、不適応行動を示す人について、その人の健康状態やパーソナリティに注目して援助するのではなく、その人と環境との適合度に何か問題があるのかもしれないと考えます。
よって、個人を援助する側面の他に、環境に働きかけて環境を調整する活動にも注力していくことになります。
そのため、援助者が個人を援助するために組織に積極的に働きかけたり、制度の変革に関わったりします。
第二の特徴は、問題が起こる前の予防的な活動にも注力する点が挙げられます。
Caplanでもお馴染みなように、予防は第一次予防(援助対象の地域や組織の精神疾患や問題発生の予防を目指す)、第二次予防(潜在的なニーズのある人たちや、将来発症もしくは課題に直面するであろう人たちを対象に行う)、第三次予防(発病したり問題に直面し不適応になった人たちを援助する活動を意味する)に分かれていますね。
第三の特徴は、様々な他職種とチームになり連携する点です。
例えば、いじめを訴える子どもの援助方法に悩む教師に対してコンサルテーションを行い、教師が援助ニーズの高い子どもを効果的に指導できるように関わるなどになります。
コミュニティ・アプローチの土台となっている地域精神保健サービスと、伝統的臨床サービスを対比的に示したのがBloom(1973)になります。
本問はこの内容を基盤に作成されています。
地域精神保健サービス | 伝統的臨床サービス | |
1.介入を行う場所 | 地域社会における実践 | 精神保健施設内での実践 |
2.介入のレベル | 全体、または限定された地域社会を強調 | 個人的クライエントを強調 |
3.サービスのタイプ | 予防的サービスを強調 | 治療的サービスを強調 |
4.サービスの提供のされ方 | コンサルテーションと教育を通しての間接的サービスを強調 | クライエントへの直接的臨床サービスを強調 |
5.サービスの方略 | 短期心理療法と危機介入を含む大人数の人々に接近することを目的とする方略 | 心理療法を強調 |
6.計画の種類 | 満たされていない要求、リスクの高い母集団をはっきりさせ、それに適合したサービスをするよう合理的に計画する。 | 無計画、地域社会全体を考えた個人的サービスではない。 |
7.マンパワーの資源 | 大学生、地付きの人のような非専門家を含む新しいマンパワー源と一緒に、目標となる人々の精神衛生専門家が取り組む。 | 伝統的な精神衛生専門家(精神科医、心理学者、ソーシャルワーカー) |
8.意思決定の場所 | 精神衛生プログラムについての管理と意思決定は地域社会と専門家の間で共有した責任で行う。 | 全ての精神衛生サービスを専門的に管理する。 |
9.病因論的仮定 | 精神障害の環境的原因 | 精神障害の心的原因 |
現場で求められているのは、伝統的臨床サービスもでき、必要であればコミュニティ・アプローチもできる心理支援者ということになりそうですね。
さて、このBloomの表を踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。
選択肢①の「意思決定プロセスは、専門家が管理する」ですが、こちらは「精神衛生プログラムについての管理と意思決定は地域社会と専門家の間で共有した責任で行う」とありますね。
これは以前にも示したコミュニティ・アプローチにおけるコンサルテーションの特徴を見るとわかりやすいかもしれません。
- コンサルタントとコンサルティは平等な関係
- コンサルタントは助言の段階に留まり、その助言をどのように活用するかはコンサルティ次第となる。すなわち、事例の状態への管理的責任を負うのはあくまでもコンサルティとなる。
- コンサルテーションの時間や回数は、一般にその度毎に頼まれてという形態が多く、何回か継続する場合もその期間が決まっているのが普通
上記の通り、専門家はコンサルテーションを行うわけですが、その専門家が意思決定のプロセスを管理するわけでもなく、責任を持つわけでもありません。
あくまでも当人らがその意思決定プロセスに関わっていくという捉え方になりますね。
ですから、選択肢①の内容はコミュニティ・アプローチの説明としては不適切と判断できます。
選択肢②の「サービスの方略は、心理療法が強調される」とありますが、コミュニティ・アプローチでは「短期心理療法と危機介入を含む大人数の人々に接近することを目的とする方略」となっています。
心理療法が強調されるのは、従来の臨床サービスの方ですね。
やはり「悩める人の援助は、コミュニティの人々との連携の中で」というのがコミュニティ・アプローチの基本的な発想と考えて間違いありませんから、個室にこもってのカウンセリングとは異なる方向性の支援であると考えてよいです(もちろん、どちらが良いとか悪いとかではありません)。
このように、選択肢②の内容はコミュニティ・アプローチの説明としては不適切と判断できます。
選択肢③の「病因論的仮定は、環境的要因が強調される」とされており、これは上記のBloomの表と一致していますね。
コミュニティ・アプローチでは、人と環境の相互作用を重視する点で、不適応行動を示す人についてその人の健康状態やパーソナリティに注目して援助するのではなく、その人と環境との適合度に何か問題があるのかもしれないと考えます
人は環境からの影響を、自覚・無自覚に関わらず非常に大きく受けているものであり、単に心的要因にのみ問題の起源を求めるのではなく、環境からの影響も含めて考えていけると臨床家としても望ましいと感じます。
以上より、選択肢③の内容はコミュニティ・アプローチの説明として適切と判断できます。
選択肢④の「サービスのタイプは、治療的サービスが強調される」に関してですが、コミュニティ・アプローチでは「予防的サービスが強調」されます。
既に述べた通り、コミュニティ・アプローチでは問題が起こる前の予防的な活動にも注力する点が特徴です。
この予防の概念に関してはCalpanのそれを見れば「単に「問題が起こる前だけ」を対象としているわけではない」ことがわかると思います(第三次予防など)。
以上より、選択肢④の内容はコミュニティ・アプローチの説明として不適切と判断できます。
選択肢⑤の「マンパワーの資源は、非専門家との協力が重視される」に関しては、上記のBloomの主張と一致しています。
クライエントは、地域社会の様々な人に支えられて、自身の生活を営んでいます(=クライエント・ライフ)。
この中心になるのが家族であり、更に親族、友人、近隣の人々、先輩、同僚等さまざまの人々によって支えられています。
クライエントはこうした人々と関わることが圧倒的に多く、カウンセラーは週に1回1時間というごくわずかな時間での関わりになります(もちろん、良いカウンセリングは1時間の面接が、それ以外の時間に効力を発揮するという点で、単純なクロノスの時間だけで考えてはいけない)。
コミュニティ・アプローチでは、こうした地域社会の人々の力を重視し、そうした人々との連携の中で当人を支えていくというスタンスを取ります。
以上より、選択肢⑤の内容はコミュニティ・アプローチの説明として適切と判断できます。