問39は情報提供、すなわち秘密保持義務の実践に関する設問です。
思春期のクライエントの心理的特徴も把握しておきたいところですね。
問39 学校生活で悩みを持つ思春期のクライエントとの面接に関して、保護者への情報提供に関係する対応として、不適切なものを1つ選べ。
①事前に、秘密や記録の扱いについて関係者と合意しておく。
②保護者から情報提供の依頼があったことをクライエントに知らせ、話し合う。
③クライエントの意向にかかわらず、秘密保持義務を遵守するために、保護者からの依頼を断る。
④相談面接において、特に思春期という時期に秘密が守られることの重要性について、保護者に説明する。
⑤保護者に情報提供することで、保護者からの支援を受けられる可能性があるとクライエントに説明する。
秘密にどう対応するかというテーマは、単に秘密保持義務の枠組みで語られるものではありません。
それ自体がカウンセリングであり、クライエントに「あなたを大切にしている」ということを伝える良い機会でもあるのです。
解答のポイント
思春期の特徴を踏まえた上で、情報提供の在り方について把握していること。
選択肢の解説
①事前に、秘密や記録の扱いについて関係者と合意しておく。
まず選択肢の「関係者」は誰を指すのかという認識が大切です。
第一にクライエントですね。
クライエントと、面接内容について情報提供があった場合にどのように対応するかを話し合っておくことです。
例えば、「情報提供があった場合にどこまで話していいか、それ自体を話し合いたい」「もしかしたら面接中にも、これは他の人と共有したいと思えることがあれば、それを相談させてほしい」といった形でしょうか。
第二に、SCであれば管理職等と話し合っておくことになるでしょう。
医療機関などでも子どもの面接を行う場合は、主治医や親担当と話し合っておくことが大切になりますね。
私の場合、よく関係者と面接について話をしますが、それは面接内容ではなく面接を経てのカウンセラーとしての見立てを伝えるようにしています。
もちろん、学校であれば、それが伝わることで支援になるような事柄に限定しますし、そのこともクライエントに了解をもらっておきます。
さて、いずれにせよ大切なのは「事前に」ということです。
上記で挙げた例では、本人に「事前に」情報提供の可能性や、それが生じたときの対応を明示してあります。
専門家は、当然それをしていない人よりも、これからの関係で生じ得ることについての視野が遠くまであるはずです。
ですから、そういう「事前に」やり取りする内容が細やかであるほど、自然と専門性を提示できる良い機会であると考えられます。
これはクライエントと関わる場合も、関係者とのコンサルテーションでも重要になります。
「事前に」やり取りすることを治療契約、インフォームドコンセントの文脈で捉えることも可能ですが、私は心理療法の一部と見なすのが実践上は良いと考えています。
なぜなら「治療契約」「インフォームドコンセント」という認識は、枠組みの提示であるのでそのやり取りの雰囲気に契約的な堅さを生じさせてしまいます。
それよりも支援の一環として、カウンセリングの一部として行うという認識が、特に思春期のクライエントには有効です。
情報提供の依頼があるという可能性を「事前に」考えておく、そしてその対応の大筋も共有しておくことで、いざその場面になったときに不備のある対応を避けることができます。
まったくノープランで、いきなり情報提供場面に出会うと焦り、混乱の中で対応してしまいがちです。
特に情報提供を求めている人が切迫して伝えてくれば尚更です。
焦りや混乱で下した判断はたいてい見落としがあるものですから、あとになってそのツケをクライエントとの関係の中で支払うことになってしまいます。
以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することが求められます。
②保護者から情報提供の依頼があったことをクライエントに知らせ、話し合う。
⑤保護者に情報提供することで、保護者からの支援を受けられる可能性があるとクライエントに説明する。
本選択肢によって「保護者から情報提供の依頼があった」ということがわかりますね。
クライエントに情報提供の依頼があったことを伝えるというやり方は、とても真っ直ぐなものだと思います。
ただし、私なら保護者からの依頼があった時点で「依頼があったこと自体を本人に伝えてよいか」ということを聞きます。
これによってカウンセラーがクライエントを一人の人間として尊重していること、それが支援において重要な態度であることを保護者に伝えることも可能ですし、それ自体が保護者のカウンセリングになることも重要な見立てが得られることもあります。
こういうクライエントの見えないところでカウンセラーが行動する時の原理は「それが後からクライエントに知れたとしても、問題がないような言動を取っておくこと」です。
人は人が陰でやっていることが本質であると思う傾向があります。
よって、カウンセラーが陰でやっていることが明らかになったとき、重要なのはクライエントの信頼が増すようなことをしておくことです。
また、こういう風に振る舞っていると、カウンセリング場面でクライエントを一人の人間として尊重している雰囲気が高まります。
これ自体が治療的な雰囲気であることは言わずもがなですね。
こちらで示された対応は真っ直ぐなものですが、大切なのはこうしたやり取りをいかにしてカウンセリングとして行っていくかです。
例えば、以下のようなことが話題になる可能性が考えられます。
- 情報提供の依頼があったことについてどう思うのか。
- 両親があなたに直接それを聞かないのは、何か理由があるのだろうか。
- どこまでなら話して良いか。その判断基準はどういうものか。
- カウンセラーとして伝えることに関する見解。
これらが選択肢にある「話し合う」ということの中身になります。
こういうやりとりによって、家族の関係性が見えてくること、それと主訴との関連、なども狙うことができます。
上記の「カウンセラーとして伝えることに関する見解」については、伝えることによるカウンセリング上のメリット・デメリットをクライエントと共有するということです。
クライエントの主訴が家族との関係に絡んでいる場合、面接内容を伝えることで環境調整を行うことがしやすくなります。
思春期のクライエントの場合(に限らず、それより年少のクライエントは全例において)、保護者の協力が重要になることが多いので、情報提供の依頼があった時点でこうしたアプローチの可能性も検討しておくことが重要になります。
以上より、選択肢②および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することが求められます。
③クライエントの意向にかかわらず、秘密保持義務を遵守するために、保護者からの依頼を断る。
公認心理師法には秘密保持義務が規定されていますが、その罰則部分の条項を振り返ってみましょう(第46条)。
- 第四十一条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
- 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
このように秘密保持義務違反はあくまでも「親告罪」ということになります。
これは当然クライエントが訴えなければ大丈夫、という意味ではありません。
その秘密の価値、範囲はクライエントによって様々であるので、クライエントの情報の取り扱いはクライエントと話し合う必要があるということです(そうすれば親告されないですよね)。
本選択肢にあるように「クライエントの意向にかかわらず」というのは、クライエントが伝えてもよいと言っている場合でも依頼を断るということになります。
それは上記の条項の精神に反している行為であると考えられますし、カウンセリング実践においても不適切な行為ですね。
もちろん「この情報を伝えてよい」と話題になったとき、そのことにカウンセラーが違和感を抱く場合もあるでしょうが、それはその違和感をどのように伝えるかが重要ですね。
事例によっては、特に思春期の事例では、本来クライエントが自分で伝えるべきことをカウンセラーに言わせることも少なからず見受けられます。
別バージョンとしては、カウンセリングでのカウンセラーの言葉を伝えることでクライエントが自分の思いを間接的に伝えるということも(先生もこう言ってたよ、と伝えるが、実際はそれはクライエントが言いたいこと)。
こういう事態も念頭に置きながら、思春期のクライエントと話し合うことが大切になります。
また、思春期の事例の場合、保護者の協力が重要になることも少なからずあります。
ルールを盾にとって断るというやり方は、保護者の態度を硬化させる可能性が高いので避けるべきでしょう。
もちろん、情報提供を断るという場面もあるでしょうけど、その場合であってもルールを盾にとるのではなく、専門家として伝えることが望ましくないと考える理由をきちんと説明するという態度が大切になります。
個人的な意見ですが、ルールを盾にとるというのは一種の逃げです。
本来なら専門家としての見解や倫理観で勝負すべきところを、ルールという外枠のものを使って対応してしまっているのです。
もちろん、ルールを盾にとらんとどうしようもないという場合もありますが、その場合でも「本来は専門家としての見解や倫理観で伝えるところを、外枠を使って伝えた」という自覚が重要になります。
以上より、選択肢③が不適切と判断できるので、こちらを選択することが求められます。
④相談面接において、特に思春期という時期に秘密が守られることの重要性について、保護者に説明する。
子どもに一人部屋を与えた方が、という意見が昔は多かったですが、今はあまりなされませんね。
一人部屋の価値として、子どもが自分だけの侵されない秘密を持てる場所を獲得するということがあります。
子どもへの心遣いは、子どもをしょっちゅう見ることだけではありません。
見すぎないことも子どもへの信頼の表明になります。
思春期はウチとソトの葛藤に悩みつつ、本音と建前を使い分けることができるようになってきます。
これは「誰にも知られない自分だけの世界」を持つということです。
これが生じることによって、親からは「子どもが何を考えているのかわからない」という事態が生じますが、これ自体は子どもが大人型の自我を備えた証拠ですから喜ぶべきことですね。
こういう心的状態にあるクライエントが、それでもその秘密を表明してくれたとき、そしてそれを誰にも言わないと約束したならば、それを守り通すことが人としての対応と言えるでしょう。
もちろん「誰にも言わないと約束」できないような内容ならば、その時点でそれを話し合えばよいのです。
特に思春期の事例において秘密を守るということは、クライエントの内的世界を守ることとイコールです。
先述したように、思春期になると保護者は「子どものこころが見えなくなる」ので、そのことに不安を覚える人も多いです。
ですが、このようなタイプの保護者の場合、選択肢にあるように秘密を守ることの価値を伝えること、そのように振る舞うことが本人の成長を促すことなどを伝えていくことになるでしょう。
カウンセリングにおいて秘密を守るということは「それはあなたにとって大切なことだと認識している」ということを伝える良い機会でもあります。
思春期の事例の場合、自分の内にあることの重要性を明確に認識していないことも多く、それを価値が無いものと振る舞うことも少なくありません(大切な秘密をペラペラしゃべってしまう、など)。
そのようなときにカウンセラーがクライエントの内面を大切にするという姿勢でいることは、クライエント自身が自分を大切に扱うようになるために必要なアプローチの一つとなります。
以上より、選択肢④は適切と判断できるので、こちらを除外することが求められます。