問33はストレスチェック制度、特に事業者に関する事柄を問うています。
労働安全衛生法に基づく制度ですし、実施者として公認心理師も名前を連ねています。
しっかりと把握しておきましょう。
問33 ストレスチェック制度について、正しいものを1つ選べ。
①事業者は、ストレスチェックの実施者を兼ねることができる。
②事業者は、面接指導の結果を記録しておかねばならない。
③事業者は、労働者の同意がなくても、その検査の結果を把握することができる。
④医師による面接指導を実施するにあたり、情報通信機器を用いて行うことは認められていない。
⑤事業者は、一定程度以上の心理的な負担が認められる全ての労働者に対し医師による面接指導を行わなくてはならない。
過去問で類似の内容がかなり問われていますね。
それほど大切な事項だということでしょう。
ストレスチェックは「労働安全衛生法の一部を改正する法律」により新たに設けられた制度です。
この制度により、雇用主である事業者や団体等に対し、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)と、ストレスの程度が高いと認められ、労働者本人が希望する場合の面接指導の実施等が義務づけられました。
他のところで示していますが、ストレスチェックに関しては以下を押さえておく必要があります。
- 労働安全衛生法:第66条の10
- 労働安全衛生規則:第52条の9~第52条の21
- 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
- 情報通信機器を用いた面接指導の実施について
特に第3項はストレスチェックに特化した指針となっておりますので重要です。
本問では第4項も見ておくことが求められていましたね。
解答のポイント
ストレスチェック制度について、その詳細を理解していること。
選択肢の解説
①事業者は、ストレスチェックの実施者を兼ねることができる。
まず、労働安全衛生法第66条の10第1項に「心理的な負担の程度を把握するための検査等」が以下のように記されております。
「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない」
この選択肢は「事業者が「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」である場合はどうなるのか?」を問うていると言えるでしょう。
この点について考えていきましょう。
労働安全衛生規則第52条の10第1項は、労働安全法第66条の内容を踏襲したものになっておりますが、第52条の10第2項には以下のように規定が定められております。
「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない」
当然事業者は「昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者」に該当しますから、ストレスチェックの実施者になれないことがわかります。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
②事業者は、面接指導の結果を記録しておかねばならない。
③事業者は、労働者の同意がなくても、その検査の結果を把握することができる。
⑤事業者は、一定程度以上の心理的な負担が認められる全ての労働者に対し医師による面接指導を行わなくてはならない。
労働安全衛生法第66条の10に「心理的な負担の程度を把握するための検査等」が以下のように記されております。
ちょっと長いですが、重要なので載せましょう。
- 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
- 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
- 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
- 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
- 事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
- 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
- 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
- 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。
- 国は、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持に及ぼす影響に関する医師等に対する研修を実施するよう努めるとともに、第二項の規定により通知された検査の結果を利用する労働者に対する健康相談の実施その他の当該労働者の健康の保持増進を図ることを促進するための措置を講ずるよう努めるものとする。
上記の下線部にここで挙げた選択肢についての記載があります。
まず選択肢②については、上記第4項に「事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない」とされています。
こちらは恐らくですが、第2項の「医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない」という箇所との混乱を狙っているものと思われます。
こちらについては「ストレスチェックを受けた労働者が、事業者に対して面接指導の申出を行った場合には、その申出をもってストレスチェック結果の事業者への提供に同意がなされたものとみなして差し支えないものとする」とされています(「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」より)。
選択肢③については、上記第2項に記載がありますね。
更に「規則第52条の12の規定に基づき、事業者は、実施者にストレスチェック結果を労働者に通知させるに当たっては、封書又は電子メール等で当該労働者に直接通知させる等、結果を当該労働者以外が把握できない方法で通知させなければならないものとする」と上記の指針で示されています。
選択肢⑤については、上記3項に「面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない」とあります。
すなわち、面接指導については労働者本人が希望することが重要になるということです。
ただし、労働安全衛生規則第52条の16第3項には「検査を行つた医師等は、前条の要件に該当する労働者に対して、申出を行うよう勧奨することができる」とあります。
この「前条の要件」とは、ストレスチェックの結果、心理的な負担の程度が高い者ということです。
また指針にも以下のような記載もあります。
「衛生委員会等で調査審議した上で、当該事業場における事業者へのストレスチェック結果の提供方法として、ストレスチェック結果そのものではなく、当該労働者が高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた旨の情報のみを事業者に提供する方法も考えられる」
要はストレスチェックの結果は事業者に伝わらないけど「高ストレス者だから面接指導は受けてもらった方がいいですよ」という実施者の見解を伝えることは可能だということです。
ただし、その場合でも労働者本人に個別に了承を得ることが条件になっていることは間違いありません。
以上より、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断でき、選択肢②が正しいと判断できます。
④医師による面接指導を実施するにあたり、情報通信機器を用いて行うことは認められていない。
面接指導を行う際に情報通信機器を使用する件に関しては、「情報通信機器を用いた面接指導の実施について」が示されているので、こちらを参考にしつつ解説を行っていきます。
こちらの「基本的な考え方」には以下のように記載されております。
- 法第66条の8第1項において、面接指導は「問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと」とされており、医師が労働者と面接し、労働者とのやりとりやその様子(表情、しぐさ、話し方、声色等)から労働者の疲労の状況やストレスの状況その他の心身の状況を把握するとともに、把握した情報を元に必要な指導や就業上の措置に関する判断を行うものであるため、労働者の様子を把握し、円滑にやりとりを行うことができるよう、原則として直接対面によって行うことが望ましい。
- 一方、情報通信機器を用いて面接指導を行った場合も、労働者の心身の状況を把握し、必要な指導を行うことができる状況で実施するのであれば、直ちに法違反となるものではない。
ただし、情報通信機器を用いて面接指導を行う場合には、労働者の心身の状況の確認や必要な指導が適切に行われるようにするため、以下に掲げる事項に留意する必要がある。
- 面接指導を実施する医師が、対象労働者が所属する事業場の産業医である場合。
- 面接指導を実施する医師が、契約(雇用契約を含む)により、少なくとも過去1年以上の期間にわたって、対象労働者が所属する事業場の労働者の日常的な健康管理に関する業務を担当している場合。
- 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、対象労働者が所属する事業場を巡視したことがある場合。
注:以下の考え方と留意事項は、労働安全衛生法第66条の8第1項の規定に基づく医師による面接指導(いわゆる長時間労働者に対する面接指導)及び同法第66条の10 第3項の規定に基づく医師による面接指導(いわゆるストレスチェック制度における面接指導)をテレビ電話等の情報通信機器を用いて遠隔で実施する場合に関するものです。 - 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、当該労働者に直接対面により指導等を実施したことがある場合。
- 面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。なお、映像を伴わない電話による面接指導の実施は認められない。
- 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。
- 労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。
- 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について、衛生委員会等で調査審議を行った上で、事前に労働者に周知していること。
- 情報通信機器を用いて実施する場合は、面接指導の内容が第三者に知られることがないような環境を整備するなど、労働者のプライバシーに配慮していること。