公認心理師 2021-98

病初期のAlzheimer型認知症の所見を選択する問題です。

大きな枠組みの所見(遠隔記憶の障害)と具体的な所見(同じ話の繰り返し)が混ざっていて、やや選択肢間の水準の違いを感じましたね(別にその辺を合わせなきゃいけないという決まりはないですけどね)。

問98 病初期のAlzheimer型認知症の所見として、最も適切なものを1つ選べ。
① 徘徊
② 錐体外路症状
③ 着脱衣の困難
④ 遠隔記憶の障害
⑤ 同じ話の繰り返し

解答のポイント

アルツハイマー型認知症の病初期の所見を把握している。

選択肢の解説

① 徘徊
③ 着脱衣の困難
④ 遠隔記憶の障害
⑤ 同じ話の繰り返し

アルツハイマー型認知症はきわめて緩徐に発症し進行します。

病期の分け方は研究者によって多少の差異はありますが、ここでは以下の書籍にある4期に分けて論じていきます。

アルツハイマー型認知症は、進行した段階では大脳全域に変化の及ぶ疾患ですが、もっとも初期には側頭葉底面や海馬などにおいて、まず病変が現れます。

この部位は、記憶の獲得に重要な部位なので、記憶障害のうちでも記銘の困難が最も初期から出現しやすいと言えます。

病変はさらに広範な領域に及ぶため、クリューヴァー・ビューシー症候群(側頭葉の障害)、ゲルストマン症候群(頭頂‐後頭葉の障害)、バリント症候群(後頭葉の障害)などが目立つようになります。

病変が大脳のほぼ全域に及ぶ時期になっても、大脳皮質運動野、知覚野の神経細胞の変化は軽微であることはアルツハイマー型認知症の特徴です。

ただ、最も進行した段階では、大脳の広範な変化を反映して失外套症候群を示すことがあります。

さて、アルツハイマー型認知症の経過は次のように分けることができます。

  1. 前駆期:特徴的な認知障害が明らかになる前に、頭痛、めまい、不安感、自発性の減退、不眠などの軽度の神経衰弱様症状がみられる時期があります(軽度神経精神症候群)。軽度の人格の変化が明らかになり、頑固になったり、繊細さが見られなくなったり、自己中心的な傾向が見られたりします。また、思考力や集中力の低下があって、物忘れに患者自身で深刻に悩むことがありますし、うつ気分、不機嫌、不活発、焦燥感などの感情や意欲の変化も見られます。
  2. 初期:近時記憶の障害が目立ってくる時期で、時間的な見当識障害や自発性の低下などを認めます。また、新しく経験した事柄や情報を記憶しておくことが困難となりますし、昨日や今朝の当然覚えているはずと思われるような出来事を覚えていないため、周囲の人たちとトラブルを生ずることがあります。
    この中でも記憶記銘障害に関しては、近時記憶が最も初期に障害されやすく、具体的には「反復して同じことばかり聞く」「金銭、通帳など収納した場所を忘れて大騒ぎする」「繰り返し同じものを買ってくる」などが挙げられます。なお、即時記憶は近時記憶に次いで障害されやすく、比較的初期に見られるものとされています。
    また時間的な見当識の低下も初期から見られ、1日の時間帯を間違うなどが起こり得ます。
  3. 中期:この時期になると、近時記憶に留まらず、自己および社会における古い情報に関する記憶が障害されます。見当識では、外出しても道を間違えて家に帰れなくなったり(地理的失見当)、自宅にいても他人の家にいると思い込んだり(場所に関する見当識障害)します。判断力が低下して、簡単な問題の解決も困難となり、日常生活でも着衣、摂食、排便などで介護が必要になります。
    妄想を形成することもありますが、その内容は断片的です。運動面では、多動があり、徘徊や常同行為があって、行動に混乱が多くなります。この時期には、しばしば、失語、失行、失認などの神経心理症状、筋トーヌスの亢進(筋の緊張状態を指し、筋を受動的に伸長したときの抵抗として表現される)、けいれんなどが見られます。
    ただ、この時期には自分の意思を言葉で他人に伝えるということは可能です。このことは行動障害が出ないで生活できるというためには重要な意味があります。
  4. 後期:言葉によって自分の意思を人に伝えることができない段階です。そのために自分の意思や気持ちを不適切な故魚津で表現することが行われます。記憶障害は最も著明で、近時記憶はもとより、自分の出生地、両親、きょうだいの名前、更には、自分の名前まで忘れてしまうことがあります。人物に対する見当識障害もあって、目の前にいる人が誰かわからないということも起こってきます。さらには、鏡に映った自分の顔もわからず、一日中、鏡に向かって話しかけているといったこともあります(鏡徴候)。摂食、排泄、着衣いずれにおいても介護が必要となりますし、失禁も見られます。感情は鈍麻し、まとまった思考は困難です。また自発性の低下は著しく、臥床するようになります。さらに失外套症候群も見られることがありますが、これはもっとも重篤な段階であると言えます。

このような経過を踏まえて、各選択肢について見ていきましょう。

記憶に関しては、選択肢④の「遠隔記憶の障害」と選択肢⑤の「同じ話の繰り返し」があります。

記憶に関しては、即時記憶(入力された情報が数秒から数分間、干渉が入らずに常に意識に上げておく機能)‐近時記憶(適切に入力された情報を一度脳裏から消し去った後、数分から数日たった後に思い出す機能)‐遠隔記憶(記銘してから想起までの間隔が数日から年単位の記憶です)といった分類があります。

遠隔記憶に関しては、障害されるのは中期以降であるとされているのに対し、近時記憶がアルツハイマー型認知症ではもっとも初期から障害される記憶とされています。

そして、この近時記憶の障害によって生じやすいのが「同じ話の繰り返し」になるので、アルツハイマー型認知症の病初期から見られる所見であると言えます。

選択肢①の「徘徊」は、場所の見当識が障害されることによって生じる所見になります。

見当識障害のうち、時間に関する見当識は病初期から障害されるとされています(1日の時間帯を間違うなど)が、場所の見当識に関しては中期から見られるものであり、徘徊も中期以降の所見であると言えます。

徘徊は、この他にも記憶障害(何のための外出か忘れた)、判断力の問題(人に道を聞くなどができない)も含まれているとされています。

更に、選択肢③の「着脱衣の困難」ですが、アルツハイマー型認知症において着脱衣の困難は中期以降に生じやすいとされており、そこには様々な要因が絡んできます。

平衡感覚あるいはボタンを留めたりジッパーを閉じたりするのに必要な運動技能に問題があったり、着衣の着方に関する記憶の問題、場合によってはプライバシーの無い環境が影響していることもあります。

いずれにせよ、着脱衣の困難は中期以降の所見とされています。

以上より、選択肢①、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤がアルツハイマー型認知症の病初期の所見として適切と判断できます。

② 錐体外路症状

錐体外路症状について簡単に述べ、生じやすい疾患を挙げていきましょう。

錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多く、これらは運動過少と運動過多の2種類に大別されています。

運動過少を呈する症状は、固縮、無動などであり、パーキンソン病や、パーキンソン病に類似した症状を呈するパーキンソン症候群でしばしばみられる症状です。

運動過多を呈する症状は、振戦、舞踏運動、片側バリズム、アテトーゼ、ジストニアなどであり、しばしば不随意運動として扱われます。

ここで、振戦、固縮、無動はパーキンソン病の三大徴候であるため、これらの症状を2つ以上有する場合には、これらの症状を総称してパーキンソニズムと呼びます。

ちなみに、私の中で錐体外路は「動きをなめらか」にしてくれているというイメージで捉えています(無意識にカクカクせずにスムーズな動きができるのはそのため)。

パーキンソン病は、筋肉の運動や緊張を調整する働きをもつ錐体外路系に異常が発生して、手足の運動障害が起こる病気です。

錐体外路の黒質で作られる神経伝達物質(ドパミン)が何らかの障害によって減少するため、線条体(運動に関係する組織)からの指令が正しく伝わらなくなるために起こるとされています。

また、レビー小体型認知症でも錐体外路症状が出やすいとされています。

レビー小体型認知症では(パーキンソン病とは異なり)、通常認知機能の症状と錐体外路症状は互いにいずれかの発生後1年以内に始まります。

また、錐体外路症状はパーキンソン病のものと異なり、レビー小体型認知症では早期に振戦はみられないが、歩行不安定を伴う体軸筋の強剛が早期からみられ、機能障害が対称性となる傾向があります。

また、繰り返す転倒がよくみられます。

他に、錐体外路症状を示す疾患としてはCreuzfeldt-Jakob病が考えられます。

これは、初老期に発症し、筋委縮、錐体路症状、錐体外路症状、認知症などをきたし、多くは数カ月の経過をとって死亡する特異な疾患です。

今日では、羊のスクレーピー、牛の海綿状脳症、ヒトにおける異型クロイツフェルド・ヤコブ病などとともにプリオン(prion)によって発症する疾患であるとされています。

なお、錐体外路症状は薬の副作用で出現することも知られており、フェノチアジン系薬剤によって錐体外路症状、抗コリン作用、起立性低血圧、過鎮静を示すことが指摘されています(この辺は「公認心理師 2020-133」で解説済みですね)。

上記の疾患等では錐体外路症状は見られやすいとされていますが、アルツハイマー型認知症における特徴的な症状には該当しないものです。

よって、選択肢②はAlzheimer型認知症の病初期の所見として不適切と判断できます。

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