公認心理師 2021-107

児童福祉法に定められている内容に関する問題です。

実際は2019年の法改正に関する理解が問われていますし、学ぶ上では正答以外の選択肢の根拠法を知っておくことが大切ですね。

問107 児童福祉法に定められているものとして、正しいものを1つ選べ。
① 保護観察
② 合理的配慮
③ 子どもの貧困対策
④ 児童福祉施設における体罰の禁止
⑤ 日本にいる子どもとの面会交流を実現するための援助

解答のポイント

2019年の体罰に関する法改正を理解している。

選択肢の解説

① 保護観察

まず保護観察とは、犯罪をした人または非行のある少年が、社会の中で更生するように保護観察官及び保護司による指導と支援を行うものです。

刑務所等の矯正施設で行われる施設内での処遇に対し、施設外、つまり社会の中で処遇を行うものであることから「社会内処遇」と言われています。

保護観察の根拠法は「更生保護法」になります。

更生保護法に「第三章 保護観察」が設けられており、以下のような条項が設定されています。

  • 第一節 通則(第四十八条‐第六十五条)
  • 第一節の二 規制薬物等に対する依存がある保護観察対象者に関する特則(第六十五条の二‐第六十五条の四)
  • 第二節 保護観察処分少年(第六十六条‐第七十条)
  • 第三節 少年院仮退院者(第七十一条‐第七十四条)
  • 第四節 仮釈放者(第七十五条‐第七十八条)
  • 第五節 保護観察付執行猶予者(第七十八条の二‐第八十一条)

当然ですが、児童福祉法には保護観察に関する規定はありませんね。

なお、保護観察については、他の法律として少年法(第二十六条の四:保護観察中の者に対する措置など)や心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:医療観察法(第四節 保護観察所:第十九条―第二十三条)などが設けられています。

この辺の理解を問う問題も過去に出題されていますから、きっちり押さえておきたいところですね。

以上より、保護観察は児童福祉法に定められているものではありません。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 合理的配慮

合理的配慮に関しては、過去にまとめていますから、こちらを転載しつつ解説としましょう。

合理的配慮に関しては、いくつかの法律に渡っているのでわかりにくいところがあります。

合理的配慮については、障害者基本法がいわゆる「基本法」になり、それに準じて「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」の中でも条項が定められています。

まとめると以下の通りです。

【障害者権利条約 第2条】

この中で「「合理的配慮」とは障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように、物事の本質を変えてしまったり、多大な負担を強いたりしない限りにおいて、配慮や調整を行うことである」としています。

ポイントは2点で、

  1. 障害者が他の人と同じように社会で生きることができるようにすること
  2. そのための配慮が度を超えていたり、する側の負担が大きすぎないことが重要

…ということです。

この定義については、以下の法律でも同様と捉えて良さそうです。

ちなみに他の法律で「合理的配慮」について明確な定義を示している箇所はありません。

【障害者基本法 第4条第2項】

この中では「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」としています。

要点は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約の批准に向けた部分で、以下の通りです。

  1. 障害者の定義の拡大:いわゆる3障害(知的、身体、精神)に加え、「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」が追加され、性同一性障害などが含まれるようになっている。
  2. 合理的配慮概念の導入:上記の部分。これを受け障害者差別解消法の中でも、「合理的配慮」の実施について示されるようになった。

障害者基本法では「合理的配慮をしなくていはいけませんよ」という大枠を定めており、細かい部分については以下の法律になってきます。

【障害者差別解消法 第7条第2項】

この法律では「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」という記載があります。

ここで重要なのが「合理的配慮をしなければならない」と「法的義務」が定められているのが「行政機関等」であることです。

つまり、国や地方自治体などは合理的配慮を行う義務があるということになりますので、この辺に関して次の条項との違いを理解しておきましょう。

【障害者差別解消法 第8条第2項】

この法律では「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」とされています。

この記載は合理的配慮が「努力義務」であることを示しています。

「努力義務」の対象は「事業者」であり、日本の国税法令等での「事業者」とは、個人事業者(個人事業主・事業を行う個人)と法人や団体を指します。

ここを「努力義務」にしている理由としては「教育、医療、公共交通、行政の活動など、幅広い分野を対象とする法律ですが、障害のある方と行政機関や事業者などとの関わり方は具体的な場面によって様々であり、それによって、求められる配慮も多種多様です」「このため、この法律では、合理的配慮に関しては、一律に義務とするのではなく、行政機関などには率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、民間事業者に関しては努力義務を課した上で、対応指針によって自主的な取組を促すこととしています」としています(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答〈国民向け〉)。

これらの違いが明確に現れるのが、国立大学と私立大学で、前者では法的義務が、後者だと努力義務となります。

ですが、これは教育機関としては、ほぼ法的義務と言ってよいものです。

この法律では、民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者の事業を担当する大臣が、民間事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導、勧告を行うといった行政措置を行うことができることにしています。

ちなみに「会社では合理的配慮は努力義務なのか?」と問われるとそうではありません。

次に示す障害者雇用促進法で示されています。

【障害者雇用促進法 第36条2】

この法律では「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」とされています。

記載にあるとおり、「必要な措置を講じなければならない」としている以上、労働者として障害者を雇う場合には「法的義務」が生じます。

ちなみに職場における合理的配慮の例としては、以下のようなものがあります(厚生労働省の「合理的配慮サーチ」より)。

  • 業務指示・連絡に際して、筆談やメール等を利用する
  • 机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行う
  • 感覚過敏を緩和するためのサングラスの着用や耳栓の使用、体温調整しやすい服装の着用を認める等の対応を行う
  • 本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整する
  • 本人のプライバシーに配慮した上で、他の職員に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明する

【その他のポイント】

「障害者差別解消法」では、国の行政機関や地方公共団体、民間事業者などを対象にしており、一般人が個人的な関係で障害のある方と接するような場合や、個人の思想、言論といったものは対象にしていません。

また、重要なのが各法律で共通して「障害者自身からの申し出」という文言を入れているところです。

もちろん「申し出なければしなくて良い」というわけではなく、障害者と合理的配慮を提供する側の相互のやり取りをもって、その内容は定められるべきという前提があるのでしょうね。

なお、法定雇用率については、以下のようになっています。

  • 民間企業:2.2%
  • 国、地方自治体:2.5%
  • 都道府県等の教育委員会:2.4%

平成33年4月の前に、更に0.1%ずつの引き上げの予定だそうです。

教育機関での合理的配慮の例としては以下のようになります。

  • 聴覚過敏の児童生徒のために机・いすの脚に緩衝材をつけて雑音を軽減する
  • 視覚情報の処理が苦手な児童生徒のために黒板周りの掲示物の情報量を減らす
  • 支援員等の教室への入室や授業・試験でのパソコン入力支援、移動支援、待合室での待機を許可する
  • 意思疎通のために絵や写真カード、ICT機器(タブレット端末等)を活用する
  • 入学試験において、別室受験、時間延長、読み上げ機能等の使用を許可する

このように合理的配慮に関しては、多くの法律にわたって記載がありますが、その根拠法は障害者基本法になりますし、児童福祉法の中に合理的配慮に関する記載はありません。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 子どもの貧困対策

こちらに関しては「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が基本法になると思われます。

この第8条において「政府は、子どもの貧困対策を総合的に推進するため、子どもの貧困対策に関する大綱を定めなければならない」とありますが、この大綱は内閣府から「子供の貧困対策に関する大綱」として出されています。

子どもの貧困に関する条例等は内閣府のこちらのページにまとまって載っています。

午前問題「公認心理師 2021-55」でも、子どもの貧困に関する内容は示されていますから、出題があった内容くらいは押さえておきましょう。

児童福祉法には、子どもの貧困対策に関する条項はありません。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 児童福祉施設における体罰の禁止

こちらについては、児童福祉法の中に以下の通り規定されています。


第四十七条 児童福祉施設の長は、入所中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。

② 児童相談所長は、小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親に委託中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。

③ 児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童等の福祉のため必要な措置をとることができる。ただし、体罰を加えることはできない

④ 前項の児童等の親権を行う者又は未成年後見人は、同項の規定による措置を不当に妨げてはならない。

⑤ 第三項の規定による措置は、児童等の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、その親権を行う者又は未成年後見人の意に反しても、これをとることができる。この場合において、児童福祉施設の長、小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親は、速やかに、そのとつた措置について、当該児童等に係る通所給付決定若しくは入所給付決定、第二十一条の六、第二十四条第五項若しくは第六項若しくは第二十七条第一項第三号の措置、助産の実施若しくは母子保護の実施又は当該児童に係る子ども・子育て支援法第二十条第四項に規定する教育・保育給付認定を行つた都道府県又は市町村の長に報告しなければならない。


本選択肢の内容は上記の条項を指していると言えるでしょう。

ちなみに体罰については最近の痛ましい事件等を受けて、児童虐待防止法第14条に「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えることその他民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない」という条項が追加されましたね。

児童福祉法の第33条の2の②でも「児童相談所長は、一時保護が行われた児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置を取ることができる。ただし、体罰を加えることはできない」という条項が定められています。

上記の太字部分が、2019年6月に成立した法改正によって追加されたものです。

私にとって体罰は「親の弱さの表れ」です。

詳述すれば「本来ならば、恐怖や痛み以外の「関わり」を以って対応せねばならないところを、それをやりきる力がないために体罰という恐怖や痛みを伴う対応を以って接してしまっている」という捉え方です。

こういう「親の弱さ」が現れているところは、他にもたくさんあって、よく使われているものが「ゲーム機などの制限機能」です。

あれも本来ならば、親子の「関わり」によって制限をせねばならないところを、「機械の力を使って強制的」に制限を行っているわけです。

「ゲーム機などの制限機能」は、子どもが「あ、そろそろやめなきゃいけないタイミングだ」という自覚を促すため、言い換えれば、子どもが未熟なために自分でコントロールできない機能を補うために用いるのが正しい使い方であり、親がやるべきことの「外注」として使用するのは不適切です。

その場ではうまく機能しているように見えますが、その奥にある「関わりによって制限させる力がない」という親の弱さは、いつか子どもに見透かされてしまいますし、子どもが親を軽く見るような形で制限を守らなくなった事例をたくさん見てきました。

いずれにせよ、「親が関わりを通してやるべきこと」を暴力や恐怖や報酬や機械の力を使って行うのは、長い目で見れば、必ず子どもの精神に未熟なところを残す結果になると断言することができます。

ですが、未熟な人ほど「精神的にその日暮らし」になってしまう傾向があるので、長い目で見るという視点を持つこと自体が困難であることも多いですね。

以上のように、児童福祉施設における体罰の禁止に関しては、2019年に児童福祉法(他には児童虐待防止法にも)に加えられた条項になります。

よって、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤ 日本にいる子どもとの面会交流を実現するための援助

こちらについては「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)」で定められている事柄であると考えられます。

外務省のこちらのページに詳しいですね。

1980年に採択されたハーグ条約は、国境を越えた子どもの不法な連れ去り(例:一方の親の同意なく子どもを元の居住国から出国させること)や留置(例:一方の親の同意を得て一時帰国後、約束の期限を過ぎても子どもを元の居住国に戻さないこと)をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして、子どもを元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力等について定めた条約です(ハーグ条約では、①監護権の侵害を伴う、②16歳未満の子どもの、③国境を越えた移動を適用対象としています)。

日本人と外国人の間の国際結婚・離婚に伴う子どもの連れ去り等に限らず、日本人同士の場合も対象となります。

2014年4月1日に日本が締約国となって以来、外務省(日本の中央当局)では、ハーグ条約に基づく返還援助申請及び面会交流援助申請の受付・審査や当事者間の連絡の仲介、外務省の費用負担による裁判外紛争解決手続機関(ADR)の紹介、弁護士紹介制度の案内、面会交流支援機関の紹介等の支援を行っています。

そして、ハーグ条約を実施する上では「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」が定められています。

ここでは各用語の定義が示されている第2条を挙げておきましょう。

  1. 条約締約国 日本国及び日本国との間で条約が効力を有している条約の締約国(当該締約国が条約第三十九条第一項又は第四十条第一項の規定による宣言をしている場合にあっては、当該宣言により条約が適用される当該締約国の領域の一部又は領域内の地域)をいう。
  2. 子 父母その他の者に監護される者をいう。
  3. 連れ去り 子をその常居所を有する国から離脱させることを目的として当該子を当該国から出国させることをいう。
  4. 留置 子が常居所を有する国からの当該子の出国の後において、当該子の当該国への渡航が妨げられていることをいう。
  5. 常居所地国 連れ去りの時又は留置の開始の直前に子が常居所を有していた国(当該国が条約の締約国であり、かつ、条約第三十九条第一項又は第四十条第一項の規定による宣言をしている場合にあっては、当該宣言により条約が適用される当該国の領域の一部又は領域内の地域)をいう。
  6. 不法な連れ去り 常居所地国の法令によれば監護の権利を有する者の当該権利を侵害する連れ去りであって、当該連れ去りの時に当該権利が現実に行使されていたもの又は当該連れ去りがなければ当該権利が現実に行使されていたと認められるものをいう。
  7. 不法な留置 常居所地国の法令によれば監護の権利を有する者の当該権利を侵害する留置であって、当該留置の開始の時に当該権利が現実に行使されていたもの又は当該留置がなければ当該権利が現実に行使されていたと認められるものをいう。
  8. 子の返還 子の常居所地国である条約締約国への返還をいう。

この方面はこれから精緻化されていく領域な気がしますね。

児童福祉法には「日本にいる子どもとの面会交流を実現するための援助」に関しての規定はあります。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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