公認心理師 2021-22

感覚運動学習に関する問題です。

ピアジェの「感覚運動期」、エアーズの「感覚統合」など似たような名称がありますから、それらと間違えないようにしたいですね。

問22 感覚運動学習について、最も適切なものを1つ選べ。
① 運動技能学習の効果は、短期的である。
② 感覚運動段階は、児童期の特徴である。
③ 感覚運動学習は、感覚系と運動系による連合学習である。
④ 一定の休憩を入れて運動技能を学習する方法は、分習法である。
⑤ 感覚運動学習においては、課題にかかわらず全習法が効果的である。

解答のポイント

技能の学習について把握している。

そもそも、本問が「技能の学習について問うている」ということがわかる。

選択肢の解説

① 運動技能学習の効果は、短期的である。
③ 感覚運動学習は、感覚系と運動系による連合学習である。

まず本問の分類について理解しておきましょう(問題を解くときに「自分が解いているのは〇〇の分野に関する問題だな」と理解できることは非常に大切ですね)。

本問は「学習心理学」の中の「技能の学習」に関する問題です。

ここでは、まず「技能」の意味の理解から入っていきましょう。

英文タイピングの練習過程を例にとってみると、そこには次のような行動の質的な変容が認められます。

学習者はキーの位置を覚える段階から始まり、練習を重ねるにつれてキーと文字の位置関係が成立してタイプ速度がやや増してきます。

さらに進むと、しばしば出てくる短い単語や接頭語、接尾語が一息でタイプできるまでに指の運動が1つのまとまりをもってきます。

なおも練習を続けると、よく出る句もひとまとまりとして自動的に打てるようになり、熟練した段階では、見慣れた語や句と見慣れない語や句のタイプ速度に差がなくなり、いずれも同じくらいの速度で打てるようになります。

このように、最初はまとまりの少ない断片的、部分的な行動が次第に小さなまとまりをもついくつかの部分行動になり、更にそれらが1つの大きな統一的全体行動としてまとめられるようになっていきます。

このようなまとまりをもつ全体反応を「技能」や「技能行動」と呼びます。

つまり、技能行動とは、状況に即した感覚系と運動系の密接な協応を必要とする行動であり、この協応関係が最初の極めて低次な段階(未熟練技能)から練習に伴って漸次高次の段階へと変容していく学習過程を「技能の学習」と呼びます(他にも、運動学習、知覚‐運動学習、感覚‐運動学習とも呼ぶ)。

なお、一口に技能学習と言っても、実際には、その学習形式は多様です。

例えば、まったく新しい感覚‐運動協応が要求されるような技能の学習もあれば、既に確立している運動技能を新しい感覚刺激に統合することが要求される学習、更には、手先の器用さ正確さの発達、既習の技能の拡大と洗練などのように、既に確立された基本的な感覚‐運動技能の質的発達が要求されるような学習もあります。

運動技能学習には様々な段階があるとされていますが、Fittsはこれを以下の3つの相に分けて論じました。

  1. 初期相(認知相):何を行うかを理解するところから運動学習は始まる。この時期に得られるのは宣言型知識になる。自動車の運転では、自動車とはどういうものか、動かすにはどうするのかを知り、各所の名前と場所を覚える。しかし、これだけでは自動車の運転はできない。この相では、言語的に考え、運転が巧みになるようになるいくつかのやり方を試みる。Adamsはこの相を「言語‐運動段階」と呼ぶ。
  2. 中間相(連合相):この時期には個々の運動が滑らかな協調運動パターンに融合していく。運転中の感覚情報フィードバックと結果の知識(KR)が重要であり、それらによって初期理解の誤りが見いだされ、修正され、余剰運動は除去される。この相では、「何を行うか(宣言型知識)」から「どのように行うか(手続型知識)」への変化があり、自分の運動を言語的には説明しにくくなります。この時期を「運動段階」とも呼びます。
    ※「結果の知識」は技能学習で非常に重要とされている。運動技能の正確さに関しては、強化ではなく情報のフィードバック(=結果の知識)が影響している。
  3. 最終相(自動相):この相は連合相の延長であり、運動は高度に統合され、無駄なく滑らかになる。手続きは自動化し、運動に対する注意は減少、言語は運動遂行に不要になる。このレベルに至った運動技能は失われにくい。

上記のように、運動技能が知識だけの段階から、認識と運動の連合の相へと移行していることがわかりますね。

上記では、技能の学習は長期間練習しなくても非常によく保持されると考えられています(ただし、ピアノを弾く技能のように、練習しないでいると著しく減退を示す技能もあります)。

Ammonsらが示した研究では、ある装置の操縦技能の訓練を15分ずつ32回計8時間行った後、24時間、1か月、6か月、1年、2年の間放置して、それぞれの技法の保持の程度をテストしたところ、保持の時間が長くなるにつれて忘却の程度が大きくはなっているものの、2年後においてもかなり覚えていることが示されています。

ちなみに、24時間放置の場合、成績がよりよくなるという現象がみられますが、こちらは「レミニッセンス」という現象として知られています。

こうした技能学習については、言語学習(英単語を覚えておくとか)よりもずっと保持の程度がよいことが示されています。

以上より、感覚運動学習は、感覚系と運動系による連合学習であり、この効果は長期的なものであることが示されています。

よって、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢③は適切と判断できます。

② 感覚運動段階は、児童期の特徴である。

まず、本選択肢も「技能の学習」に関する問題と捉えて解いていきましょう(まさかこの選択肢だけ、ピアジェの感覚運動期をもってくるという訳のわからないことをしないと考えて)。

本選択肢の「感覚運動段階」というのが、いったいどういった段階を指すのか、見つけることができませんでした。

ですが、他選択肢で示したFittsの相で言えば、中間相(連合相)のことを指すと考えるのが妥当でしょう。

この段階では、個々の運動が滑らかな協調運動パターンに融合していくとされており、感覚系と運動系の密接な協応が出来上がる段階ということになります。

より一般的な段階分けでは「認知の段階(学習者がまず課題についての知識を得る段階)」「連合の段階(練習により遂行の誤りが減少し、遂行の速度も増す。感覚と運動の連合が生じる)」「自律の段階(一連の動作はまとまって遂行されるようになり、動作の遂行はスムーズになる、反応が自動的に行われる段階)」がありますが、これの「連合の段階」であると言えます。

ただ、実は上記のような「感覚運動段階が技能学習のいずれの状態を指しているのか?」という疑問は、本選択肢を解く上では重要ではありません。

なぜなら、他選択肢で示したように「技能の学習」に関しては、児童期に限られることは当然あり得ず、どのような時期であろうと生じうるものであると言えるからです。

本選択肢のように「児童期の特徴である」と限定的な現象と見なすのは適切ではありませんね。

むしろ、一般に複雑な運動技能を習得する能力は、成熟に至るまで成長に伴って進歩していくものです。

これは子供の成長に伴い運動間の協応、統合などが進歩するとともに疲労に対する抵抗も増し、注意や興味をより長く持続することが可能となるためです。

従って、神経‐筋肉系がまだ発達過程にある幼児や児童においては、技能学習を規定する一要因としての成熟を見極めることが大切になってきます。

幼児期や児童期での技能学習に対する成熟要因は重要なものであるとMattsonの研究では示されており、ある成熟段階に達すると容易に獲得されるような比較的単純な技能がある反面、複雑な技能になると、一定の成熟水準に達することを前提に、さらに学習を反復しなければ獲得と熟練が期待されないことが推察されます。

従って、技能学習では特に「レディネス」が十分に配慮されることが求められるということです。

以上より、感覚運動段階は(というよりも技能の学習それ自体が)児童期の特徴であるというのは間違っていることがわかります。

むしろ、児童期であれば目標とする技能へのレディネスの程度が重要になるぶん、難しい面も考えられます。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

④ 一定の休憩を入れて運動技能を学習する方法は、分習法である。
⑤ 感覚運動学習においては、課題にかかわらず全習法が効果的である。

技能学習では、特に熟練段階に至るまでに反復練習が必要とされています。

その場合、いかなる練習方法が最も学習効率が良いかが問題になります。

この問題は従来、全習法と分習法、集中練習と分散練習の問題として多くの学習課題について研究が行われてきています。

これらについて述べていきましょう。

「全習法」とは、その技能に含まれる一連の反応をひとまとめにして始めから終わりまで練習し、それを反復する方法であり、「分習法」とは、それぞれの部分反応を別々に練習していく方法です。

分習法における分割の方法は3通り示されています。

  • 完全分習法:全体がABCの部分から成り立っているとして、A・B・Cの部分をそれぞれ練習し、最後に全体をまとめる方法。
  • 累進分習法:A・Bをそれぞれ練習し、次のA+Bを練習する。次にCを練習し、その後A+B+Cを練習する。
  • 反復分習法:Aの練習、次にA+Bの練習、次にA+B+Cを練習する方法。

全習か分習のいずれがよいかは必ずしも断定できないが、実験的なデータからは、どちらかというと全体としてまとめてできるものならば、分割しない方がよいという結果になっています。

あまりにも複雑で最初からひとまとめで練習できない技能の場合には、分割して練習する方が効率的とされていますが、それでも、その人のできる範囲内で可能な限りまとめて行った方が学習は進みやすいとされており、あまりにも分割しすぎるのは効率を低めるとされています。

続いて、集中と分散について述べていきましょう。

練習は動作を反復していくわけですが、その反復の仕方について、一定量の練習をまとめて休みなく行うのが「集中(練習)」であり、休みを入れて小刻みに行うのを「分散(練習)」と呼びます。

このいずれが効率的であるかについては、常識的には集中的に行った方が効率的と思われがちですが、実験的な研究ではどちらかと言えば分散の方で良い結果が得られています。

ある作業の休みを短く取った群(集中)と長く取った群(分散)とでは、明らかに分散でやった方が毎日の成績は良く、その差は練習の日数が進むほど大きくなるとされています(特に1日の練習による成績の伸びは分散の方が著しい)。

ただし、作業の内容によっては分散の方がよいとは必ずしも言えないとされてはいますが、特に激しい運動を伴う技能学習の場合には、休みの時間分だけ全体の練習時間が長くかかることになり、休み時間がむだなように感じられるなど、結果的には効率が良いとされています。

こうした現象の理由としては、動作の反復は、その動作を形成するだけでなく、阻害する要因(わかりやすいところでは、疲労や飽き)も生み出しており、集中ではこれが溜まりやすく、分散では休み中にこれが解消されるので成績がよくなるとされています。

上記を踏まえ、ここで挙げた選択肢をみていきましょう。

まず選択肢④の「一定の休憩を入れて運動技能を学習する方法は、分習法である」ですが、分習法は技能を部分に分けて練習することを指していますから、この選択肢の説明は間違っていますね。

「一定の休憩を入れる」というのは、集中‐分散の分散の説明になっており、本選択肢は「全習法‐分習法」と「集中‐分散」をごっちゃにしていると言えます。

また選択肢⑤の「感覚運動学習においては、課題にかかわらず全習法が効果的である」ですが、上記の通り、どちらかと言えば全習法の方が効果的であることは示されていますが、それはやはり課題によって変わってくるものだとされています。

あまりにも複雑な課題だと、全習法で行おうとするのは無理がかかる場合があるということですね。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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