公認心理師 2021-68

アクティブラーニングの視点を用いた指導法に関する問題です。

不適切選択肢が特定の教授法を指していると思って解説しましたが、どうもその辺が怪しいですね。

こういう問題の解説は大変です(難しいわけではないけど)。

問68 45歳の男性A、小学校に勤務しているスクールカウンセラー。Aが勤務する小学校では、「ともに学び、ともに育つ」という教育目標のもとで、「支え合う学級集団づくり」に取り組んでいた。Aは、5年生の担任教師からクラスの児童同士の人間関係の改善や児童相互の理解を豊かにするための授業を実施してほしいと依頼を受けた。そこで、Aは児童がより主体的・対話的で深い学びができるように、アクティブラーニングを取り入れた授業を行うことにした。
 Aが行うアクティブラーニングの視点を用いた指導法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 児童の個性に合うように、複数の方法で教える。
② 学習内容が定着するように、内容を数回に分けて行う。
③ 全員が同じ内容を理解できるように、一斉に授業を行う。
④ 全員が正しく理解できるように、原理を積極的に解説する。
⑤ 具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせる。

解答のポイント

アクティブラーニングの特徴や定義を把握している。

選択肢の解説

本問の解説では以下の書籍を参考にしています。

⑤ 具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせる。

アクティブラーニングは2012年ごろから、文科省で用いられるようになった言葉です。

元々は大学における教育を、従来の一斉授業から質的に転換させることを目指す中で、学生の主体的な学びのあり方として、能動的学修(アクティブラーニング)という言葉が用いられました。

2012年8月28日の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」の中の用語集にアクティブラーニングの説明があり、それは以下の通りです。

「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」

こうしたアクティブラーニングの視点は、初等中等教育においても学習指導要領において「主体的・対話的で深い学び」という形で消化されています。

こうしたアクティブラーニングが取り入れられたのは、2008年の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」の中で、学士課程教育水準の維持・向上のために、大学教育の充実が図られるようになったのがきっかけです。

学士課程教育では、グローバルな知識基盤社会や学習社会における、21世紀型市民を育成する必要があるとされ、その教育方法として「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」に力点を置く教育が行われるべきであるとして改善の方向性が示されました。

学生が主体的に学ぼうとする姿勢や態度をもつように、双方向型の学習、体験活動を含む多様な教育方法が求められました。

この2008年の答申に基づいて出された2012年の答申において、課題解決型の能動的学修(アクティブラーニング)という表現が使われたという流れです。

アクティブラーニングの具体例として、2008年の答申ではその言葉自体は使われていませんが、その教育方法に関する具体的な改善方策として「学生の主体的・能動的な学びを引き出す教授法を重視し、例えば、学生参加型授業、協調・協同学習、課題解決・探求学習などを取り入れる。大学の実情に応じ、社会奉仕体験活動、フィールドワーク、インターンシップ、海外体験学習や短期留学等の体験活動を効果的に実施する」と述べられています。

さらに2012年の答申では具体的に「発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」と述べられています。

いずれにしても、学習者が能動的に学びに取り組むことで、従来の一斉授業形式の中で行われていた、暗記中心の教育を脱却していくことを目指しています。

その中で授業者は、単なる知識の伝達者であるだけでなく、学習者の学びをサポートする存在としても、質的に転換していくことが求められます。

さて、ここで本選択肢の教授法をみていきましょう。

こちらでは「具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせる」とありますね。

「登場人物のセリフを考えさせる」ことによって、児童らが能動的に授業に関わることを狙っているわけですし、児童らが授業に主体的に関わることにも狙えますから、こちらがアクティブラーニングの実践例と言えますね。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

① 児童の個性に合うように、複数の方法で教える。

こちらはいわゆる「個に応じた指導」のことを指しているのかもしれません。

文部科学省によると、「個に応じた指導」では児童生徒の発達段階に即し、ティーム・ティーチング、グループ学習、個別学習など指導方法の一層の改善を図りつつ、「個に応じた指導」の充実を図るよう提言されています。

本選択肢に関しては、上記以外には具体的な教授法やその概念を見つけることができませんでしたが、「児童の個性に合うように、複数の方法で教える」という方針は、「多様な個性を持つ学習者の学力を平等に向上させるためには、学習者の個性に応じた教授法を工夫することが重要である」という適正処遇交互作用の理念と一致しているように感じます(詳しくは「公認心理師 2021-42」で)。

適正処遇交互作用のことを言っている選択肢かもしれませんね。

いずれにせよ、「学生の主体的・能動的な学びを引き出す教授法」であるアクティブラーニングの実践例として本選択肢のやり方は合致しないと言えます。

授業を受けている児童が「主体的・能動的」になるようなやり方とは言えず、あくまでも授業をする側の工夫を述べているだけですね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

③ 全員が同じ内容を理解できるように、一斉に授業を行う。

こちらは「一斉授業」「一斉教授」「一斉指導」などと呼ばれている方法です。

一人の教師が多数の生徒を同じ時間内に教えていく教授の方式で、世界の多くの学校の大部分の教授はこのやり方で行われています。

最初のこのような教え方を提案したのはComeniusで、その著書「大教授学」で一斉教授について論じています。

産業革命期には、子どもの工場労働を禁じて義務教育を導入したため、教室が生徒で溢れかえり、この一斉教授が一般的な教育方法として受け入れられるようになりました。

共通の学力を形成できる、一度に共通の内容を教えられる、異なった経験や情報をお互いに出し合えて、集団思考ができるという利点がある反面、詰め込み教育になりやすく、個人差に応じた指導が困難で、取り残される子どもが出たり、足止めされる子あるという欠点もあります。

その後、Deweyが問題解決学習を提唱し、教師が子どもに学びを伝える形式から、子ども自身が端有する形式の授業形態が開発されるようになりましたが、授業形態としては一斉授業が一般的でした(Deweyの問題解決学習に関しては「公認心理師 2020-98」を参照)。

そんな中、Keppelが提唱したチーム・ティーチングなど、一斉授業型の授業形態にも変化がみられるようになり、そんな中で集団指導の教育方法として登場したのが、バズ学習やジグソー学習です(こちらに関しても「公認心理師 2020-98」を参照)。

さて、本選択肢の「全員が同じ内容を理解できるように、一斉に授業を行う」というのは一斉授業の形態を指していると思われます。

アクティブラーニングは、むしろこうした一斉授業の問題点(受身的になってしまいがち等)を改善するために導入されたと言えますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

② 学習内容が定着するように、内容を数回に分けて行う。
④ 全員が正しく理解できるように、原理を積極的に解説する。

ここに挙げた選択肢に関しては、教授法を特定することができませんでした。

教授法には以下のように様々なものがあります。

  • 実物教育:コメニウスによって提唱された。ある対象に対して、言葉や文字で教えることから始めるのではなく、まずは実物や絵などを提示し、見たり触れたりすることを通して対象を学んでいく。
  • 直観教授:ペスタロッチは、貧しい子どもたちが等しく教育を受ける学校を作ることを目指した。その中で重視したのが直観教授で、事象の名前を覚えることから始まる学習を止め、まず「数、形、語」に対する認識、すなわち直観から学習を始めることを提唱した。
  • 教授段階法:ペスタロッチの影響を受けたヘルバルトは、知識を理解する過程を「明瞭・連合・系統・方法」の4つの段階に分けた四段階教授を提唱した。これはツィラーの五段階教授法、ラインの五段階教授法へと引き継がれた。
  • ベル・ランカスター法:助教法とも呼ばれる。教師の指導を受けた年長の子どもの中から優秀な子どもを選んで助教とし、教師の代わりに助教が始動に当たるという方法。

これ以外にも問題解決学習、発見学習、プログラム学習、完全習得学習などがありますし、これらは過去問でも解説済みです。

ここで挙げた選択肢は、上記のいずれでもありませんね。

まず選択肢②の内容からは、行動療法でよく用いられるスモールステップが想起されます。

学習内容を分けて、容易なものから段階を踏みつつ徐々に難しくしていくというやり方ですね。

こちらに関しては、アクティブラーニングの手法ではなく、あくまでも教育者側の工夫の記述になっていますし、この工夫を通して子どもたちが「主体的・能動的に取り組む」と考えるのは根拠が薄弱ですね。

また、選択肢④に関しては、何かしらの心理学の概念すら浮かびません。

ただ、少なくとも子どもたちが主体的・能動的に学ぶというアクティブラーニングの実践ではなく、こちらも教育する側のやり方に関する記述になっていますね。

なお、確かに原理をしっかりと学ぶことで理解しやすい人もいるでしょうが、大半の子どもはそうではないと思ってもよいです。

むしろ、原理を詳しく伝えようとすることで、その途中で躓いてしまって、それ以上頭に入らなくなってしまう子どもたちが出てきてしまう恐れもあります。

「原理もしっかりと伝える」というのは、私自身も大切にしているやり方ではありますが、能力が未熟な児童に行うのは時と場合を選ぶ必要があるでしょう。

以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

これらの選択肢が何か特定の教授法を指しているのであれば、分かった時点で解説を修正しましょう。

個人的には、こういう問題を作るときに「別の教授法を不適切選択肢の内容として設定する」ものだと思っています。

そうでないなら、解説は「アクティブラーニングの定義から見て合致しません」としか言えませんね。

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