免疫担当細胞に関する問題です。
アニメやマンガで人気の「はたらく細胞」の中で、赤血球、白血球(たぶん好中球)、ヘルパーT細胞、B細胞、単球、マクロファージ、などが出演しております。
問44 免疫担当細胞に含まれないものを1つ選べ。
① 単球
② 好中球
③ 赤血球
④ B細胞
⑤ T細胞
解答のポイント
免疫担当細胞の基本的な種類と役割を把握している。
選択肢の解説
まず免疫機能に関連する細胞のほとんどは造血幹細胞に由来する血液系の細胞であり、骨髄内で分化したのち、血液中を循環して末梢組織やリンパ組織に分布します。
血液を流れる免疫細胞たちは「白血球」と呼ばれます。
造血幹細胞は、骨髄でまず骨髄球系前駆細胞とリンパ球系前駆細胞に分化します。
骨髄球系前駆細胞は、赤芽球、巨核球に加えて「顆粒球」「単球」「樹状細胞」に分化していきます。
赤芽球が脱核したのち赤血球へ、巨核球は血小板へと分化します。
赤血球は酸素や二酸化炭素を全身に運ぶ役割、血小板は出血をとめる役割をしていますね。
顆粒球はいずれも細胞内に顆粒をもち、好中球、好酸球、好塩基球に分類されます。
顆粒球の中で最も多く代表と言えるのが「好中球」になります。
単球は血液中を循環し、末梢組織に到達すると主にマクロファージと呼ばれる貪欲細胞に分化します。
リンパ球系前駆細胞は、主にリンパ球(B細胞およびT細胞)、NK細胞に分化します。
B細胞は骨髄内で分化し、血液中を循環したのち、主にリンパ組織に到達します。
T細胞は骨髄内で分化したのち、胸腺で教育(正の選択、負の選択)を受けてから、血液を介して主にリンパ組織へと到達します。
正常な成人の末梢血(血管の中を流れている普通の血液のこと。骨髄などの造血臓器にある血液や、 臍帯血 、リンパ液・組織液などの体液と区別するために用いられる)には、血液1uLあたり3500~9500個の白血球が含まれています。
白血球においては、好中球が60~70%、リンパ球系が20~40%を占めています。
そのほかに、好酸球は2~4%、好塩基球は0.2~0.5%、単球は3~6%を占めており、樹状細胞は非常に少なくて0.5%いかに過ぎません。
また、リンパ球系のうち、T細胞が50~80%、B細胞が10~40%、NK細胞が約10%を占めています。
上記の絵がわかりやすいかと思います。
ここまでのまとめとしては、血液中を流れる免疫担当細胞たちは「白血球」と呼ばれ、白血球は大きく顆粒球、単球、リンパ球に分けられ、リンパ球は更にT細胞、B細胞に分けられることになるわけですね。
ここまでで本問を解くための知識は揃っていますが、以下では各選択肢の解説の中でそれぞれの細胞について詳しく述べていきましょう。
① 単球
前述の通り、単球はマクロファージの前身です。
骨髄内では「単球」と呼ばれますが、単球が血流を離れて組織に移動すると「マクロファージ」になります。
ですから、単球は免疫担当細胞ではありますが、その主な機能の説明はマクロファージのものになってきますから、そのつもりで読んでください。
マクロファージは、19世紀の終わりにMechnikov(メチニコフ:ロシアの微生物学者および動物学者。白血球の食作用を提唱し、免疫系における先駆的な研究を行ったことで有名)により発見されました。
メチニコフは無脊椎動物で微生物を貪食する細胞を発見し「マクロファージ」と命名しました。
マクロ=大きい、ファージ=食べるという意味のギリシャ語に由来します(つまり、マクロファージは大きくて食いしん坊な細胞という意味になる)。
前述の通り、マクロファージは単球に由来し、血液中を循環してきた単球がさまざまな末梢組織で分化して生成されます。
末梢組織に常在するマクロファージはそれぞれ組織特有の名称で呼ばれています(以下のような感じ)。
- 肝臓:クッパー細胞
- 脾臓:赤脾髄マクロファージ
- リンパ節:被膜下洞マクロファージ
- 中枢神経:ミクログリア細胞
- 肺:肺胞マクロファージ
- 腹腔:腹腔マクロファージ
- 結合組織:組織球
- 骨:破骨細胞
マクロファージは微生物や宿主由来の死細胞を貪食します。
貪食された微生物や宿主由来の死細胞は小胞(食胞)内に取り込まれて、食胞がリソソーム(真核生物が持つ細胞小器官の一つ)と融合したのち、タンパク質分解酵素、活性酸素、一酸化窒素などにより消化され、残渣は細胞外に排出されます。
マクロファージは身体の組織で門番のような役割をしており、異物を食べるように細胞内に取り込み(これが上記の「貪食」のこと)、その異物が戦うべき病原体だと気づくと炎症性サイトカインと呼ばれる物質を放出して炎症反応を起こします。
また、病原体を処理しきれないと、ヘルパーT細胞に病原体の断片を見せて助けを求めますが、こういう行動を「抗原提示」と呼びます。
このように、①貪食すること、②炎症反応を起こすこと、③ヘルパーT細胞に抗原を提示すること、がマクロファージの仕事になるわけです。
マクロファージの前身である単球が免疫担当細胞であることが、以上からわかると思います。
よって、選択肢①は免疫担当細胞なので、除外することになります。
② 好中球
細胞質に顆粒を持つ白血球を顆粒球と呼びます。
顆粒球は多核で、その核の形態が多形性を示すため、多核白血球あるいは多形核白血球と呼ばれます。
顆粒球は顆粒の染色様式から、中性色素で染まる好中球、酸性色素で染まる好酸球、塩基性色素で染まる好塩基球に分類されます。
好中球は末梢血白血球の60~70%を占めます。
顆粒球の約95%が好中球であるため、多核白血球は好中球の意味で使用されることも多いです。
マクロファージと同様に、好中球は生体内に侵入した病原体や異物を貪食し、マクロファージとともに病原体感染時に防御的に機能します。
好中球の機能障害により個体の感染抵抗性は低下し、いわゆる易感染性をきたしてしまいます。
好酸球は末梢血白血球の2~4%を占めます。
寄生虫感染やI型アレルギー反応の際にIL-5(好酸球の分化、成熟、アレルギー性の炎症部位における好酸球の動員および活性化で重要な働きをする造血サイトカイン)などの作用により増加します。
好酸球の明確な役割はわかっていませんが、顆粒中に存在する主要な塩基性たんぱく質の作用により寄生虫を傷害します。
好塩基球は末梢白血球に0.2~0.5%存在します。
肥満細胞は好塩基球の分化段階の早期に末梢組織に移行して分化、成熟した細胞であり、その寿命は週から月単位とされています。
好塩基球が特定の抗原に出会うとヒスタミンなどが放出され、アレルギー反応を引き起こすとされています。
また、好中球と好酸球を問題部位に引き寄せる物質を作ります。
以上のように、好中球は白血球(というか免疫細胞)の中でも非常に数が多く、高い遊走性を有しており、主に生体内に侵入した病原体や異物の排除を担当しています。
よって、選択肢②は免疫担当細胞なので、除外することになります。
③ 赤血球
赤血球は血液細胞の一つで色は赤く血液循環によって体中を回り(血が赤いのはこいつが赤いから)、肺から得た酸素を取り込み、体の隅々の細胞に運び供給する役割を担い、また同様に二酸化炭素の排出も行います。
血液の主な働きはとしては、①酸素や栄養分、老廃物を運搬する、②外からの進入してきた菌やウイルスを防衛する(こちらが免疫担当細胞の役割ですね)、③熱や酸・アルカリを調整する働き、などがあります。
免疫担当細胞が上記の②を担当しているのに対して、赤血球は上記の①を担当しているわけですね。
以上より、選択肢③は免疫担当細胞ではないので、こちらを選択することになります。
④ B細胞
さて、選択肢④および選択肢⑤の解説に続きますが、これらはいわゆる「適応(獲得)免疫」になります。
まずはこの「獲得免疫」について説明していきましょう。
病原体と戦う免疫応答(生体防御反応)は「自然免疫応答」と「適応(獲得)免疫応答」との二段構えになっています。
自然免疫応答は「生まれながらに備わっている免疫応答」で、戦うべき病原体を大まかに認識し、素早く反応することができます(分~時間単位)。
そして、同じ病原体が二度目に来たときには基本的に同じ反応をします。
これに対して獲得免疫応答は「特定の病原体に適応する免疫応答」で、ある特定の相手だけに反応し、他の相手には見向きもしません。
獲得免疫応答が発動するには時間がかかりますが(日~週単位)、同じ病原体が二度目に来たときには強くて素早く応答することができます(これを「免疫学的記憶」と呼びます)。
この「特異性の高さ」および「免疫学的記憶」が獲得免疫の際立った特徴と言えます。
これら2つの免疫応答は協力し合っています。
自然免疫応答は、からだのすべての細胞によって担われていると言っても過言でもありませんが、特に活躍するのが、からだの表面や粘膜の表面にいる上皮細胞と、その下で控えているマクロファージです。
そして獲得免疫応答を担うのは、リンパ球すなわちT細胞とB細胞になります。
獲得免疫応答は自然免疫応答が発動してはじめて働くのですが、この間を橋渡しをする役割を持っているのが樹状細胞になります。
なお、獲得免疫応答はさらに体液性免疫と細胞性免疫の二段構えになっています。
体液性免疫とは抗体が主体となって働く獲得免疫応答で、体液の中に溶けています。
一方、細胞性免疫とはT細胞が主体となって働く獲得免疫応答です。
これらを踏まえ、以下ではB細胞について解説していきましょう。
前述の通り、B細胞は骨髄のリンパ球系前駆細胞から分化する獲得免疫系の細胞です。
哺乳類のB細胞は胎生期に肝臓で産生されますが、誕生後は骨髄で産生されるようになります。
B細胞は、リンパ球の約20-40%を占め、その重要な役割は体内に侵入した病原体を排除するために必要な「抗体」を作り出し、体液性免疫に関わることにあります。
1つのB細胞は1種類の抗体しか作れないため、抗体遺伝子の組み合わせを変化させたりすることで1億種類以上の抗体を作り出し、多種多様な病原体の侵入に備えます。
後述のT細胞と関連するヘルパーT細胞は免疫応答の司令官ともいえる細胞であり、ヘルパーT細胞はマクロファージなどから助けを求められると、さまざまなサイトカイン(細胞が放出して、自分自身や他の細胞を刺激するたんぱく質。細胞と細胞の間で交わされる「言葉」のようなものと理解しておくと良いでしょう)を放出して、免疫担当細胞を活性化します。
こうしたヘルパーT細胞の指令を受けて抗体を発射する、いわば「実働部隊」がB細胞の位置づけです。
1度病原体に反応したB細胞は、一部が記憶細胞として体内に長く維持され、同じ病原体が再度侵入したときに迅速に反応します(これは「2度無し現象」などと呼ばれ、予防接種などに応用されている)。
抗体を発射できるようになったB細胞は抗体産生細胞もしくは形質細胞と呼ばれるようになります。
以上のように、選択肢④は免疫担当細胞なので、除外することになります。
⑤ T細胞
T細胞もB細胞と同じく、骨髄のリンパ球系前駆細胞から分化し、血中リンパ球の60~80%を占めます。
骨髄由来の未熟なリンパ球が胸腺で分化・成熟し血流や末梢組織に移行するため、胸腺(Thymus)のTをとってT細胞と名づけられました。
T細胞は、細胞表面に発現するT細胞抗原受容体を介して、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞から抗原情報を受け取り、さまざまな機能を発揮するようになります。
T細胞は、キラーT細胞とヘルパーT細胞の2種類に大別されます。
キラーT細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷し排除する細胞性免疫に関わります。
一方、ヘルパーT細胞は抗原刺激に応答して、他の免疫細胞のはたらきを調節する司令塔の役割を果たします。
エイズウイルスは、このヘルパーT細胞に感染して破壊してしまうので、これが起こると免疫系の司令官がやられた状態となり、免疫応答は総崩れとなってしまうわけです(様々な免疫担当細胞がいる中で、このヘルパーT細胞に感染して破壊するところがHIVのずる賢いところです)。
以上のように、選択肢⑤は免疫担当細胞なので、除外することになります。