マインドフルネスに基づく認知行動療法を選択する問題です。
正答の把握はもちろんですが、正答以外の選択肢が設定された背景についても考えておくと良いでしょう。
問54 マインドフルネスに基づく認知行動療法として、適切なものを2つ選べ。
① 内観療法
② 応用行動分析
③ 弁証法的行動療法
④ アサーション・トレーニング
⑤ アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉
解答のポイント
「マインドフルネスに基づく認知行動療法」の大まかな特徴と、それに類する技法とその概要を理解している。
選択肢の解説
① 内観療法
内観療法は過去問でも出題がありますから、併せて見ておきましょう(「公認心理師 2018-128」など)。
浄土真宗の精神修養法をもとに、吉本伊信が1960年代後半に考案した日本独自の心理療法を指します。
内観療法では、自分の身の回りの人々に対して、自分が何をしたか、どういう態度を取ったかを、以下の3つのテーマに沿って、できるだけ具体的な経験や情景を思い出しながら調べていきます。
- してもらったこと
- して返したこと
- 迷惑をかけたこと
これらを「内観3項目」として、具体的に想起してカウンセラーに報告させるのが主な手法です。
自己省察やカウンセラーとの関わりを通して、、行為への責任感を獲得し、人格形成が促されたり、生活へのプラスの影響が見られます。
医療としての適用は、アルコール依存や薬物依存、神経症、心身症、不登校、摂食障害など、広範囲な精神的・行動的問題の回復を促すとされており、統合失調症の一部にも適用されています(医療者側が勧めるというよりも、一部の患者がもってくるイメージが私は強いです)。
内観の方法には「集中内観」「日常内観」などがあり、集中内観が基本とされています。
集中内観では、ほとんどの場合、内観研修所などに1週間宿泊して行われます。
内観についての説明を受けたのち、静かな個室や広い部屋の隅に屏風を立てて空間を区切り、楽な姿勢で座ります。
そこで1日約15時間、1~2時間おきに指導者による面接を挟みながら集中して行います。
この1週間はテレビや新聞といった外的な刺激からは離れ、日常的な会話も厳禁とされます。
一方で、集中内観での気づきが日常で見えなくなることもあるため、日常的に内観を行うことが重要とされます(日常内観)。
やり方は集中内観と同じですが、内観を習慣化していくよう無理なく続けていくことが重要です。
日常内観には指導者がいないことが継続を難しくさせるため、内観経験者の定期的な集まりなどが活用されることも多いようです。
最後に「なぜ内観療法が選択肢に加えられたか」を考えておきましょう。
本問は「マインドフルネスに基づく認知行動療法」を答えるもので、当然内観療法は該当しませんが、禅の思想に基づいているという点で共通する面が見られます。
特に、あるがままを受け容れる、といった点はマインドフルネスの基本的な考えと同じですね。
こういう背景があるので、それも踏まえて選択肢に加えたと考えられます。
以上より、本選択肢の内観療法は「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には該当しないことがわかります(似ている面は有しているけど)。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 応用行動分析
行動療法には以下の通り、いくつかの理論モデルが提示されています。
代表的な研究者と、それぞれのモデルに該当する技法も併せて示しておきますね。
- 新行動SR仲介理論モデル(Wolpe、Eysenck):系統的脱感作(逆制止、不安階層表、漸進的弛緩法)、エクスポージャーやフラッディング(フラッディングは最初から最大強度でいきます)
- 応用行動分析モデル(Skinner):正負の強化法、トークンエコノミー、タイムアウト、バイオフィードバック法、シェイピング
- 社会学習理論モデル(Bandura):モデリング、セルフモニタリング
- 認知行動療法モデル(Beck、Ellis):合理情動(論理)療法、思考修正法、認知再構成法。「第2世代の行動療法」とも呼ばれる
本選択肢の「応用行動分析」とは、上記の2.応用行動分析モデルのことを指します。
なお、マインドフルネスに基づく認知行動療法は、上記とは別の「第3の(認知)行動療法」などと称されていますから、上記の理論モデルに該当するものは本問の「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には属さないことになります。
応用行動分析とは、徹底的行動主義のスキナーから出てきた流れであり、三項随伴性(先行条件(A:どういった状況で)‐行動(B:どのような行動が起こり)‐結果(C:どのような結果が伴ったか、どのように環境が変化したか)という3つの枠組みで行動を捉えること)のアセスメントをもとに支援を行っていきます。
ABAや行動修正学とも呼ばれ、ヒトを含む動物の行動と環境との因果関係を研究対象とする行動分析学(特に実験室など統制された環境において検証する実験的行動分析学)があり、人間の行動も環境との相互作用によって学習されたものと理解します。
主に人間の問題行動が対象となる臨床実践では、これらの理論に基づき、対象となる問題行動の出現と維持について分析し、問題行動の消去及び適応行動の形成に向けて取り組むことを基本的立場としています。
人間の行動は環境との相互作用によって規定されていると考える応用行動分析の介入では、個人を取り巻く環境や、環境との関係に働きかける技法が中心となります(環境調整やトークン、随伴性コントロールなど)。
なお、応用行動分析の「行動」には、観察が難しい思考や意識、生理的な反応といった人間の皮膚内で生じる内的環境も含まれます。
こうした応用行動分析ですが、その後の関係フレーム理論(ざっくりと言えば「実際経験していないのに、学習が成立することを説明する理論」のこと)の出現によって臨床行動分析として発展し、行動活性化療法、弁証法的行動療法、ACTなど、第3世代の行動療法へと展開が見られます。
このように、本選択肢の応用行動分析は「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には該当しないことがわかります(発展に寄与はしたけど)。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 弁証法的行動療法
さて、選択肢②では行動療法における4つの理論モデルを示しました。
これら4つの理論モデルは本問の「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には該当しないことになります。
行動療法は、第一世代(レスポンデントやオペラント条件づけに基づいたもの)、第二世代(認知行動療法)と分けられており、マインドフルネスに基づくものは第三世代と称されています。
私の感覚では、「行動療法」という文脈で捉えることが多いのですが、最近は「認知行動療法」という枠組みで全部を捉える傾向にあるように思います(本問でも「マインドフルネスに基づく認知行動療法」としてあり、「行動療法」ではなく「認知行動療法」されていますね)。
もしかしたら、上記のような第一世代~第三世代に分けるような表現はもうしないのかもしれないですね(認知行動療法の枠で捉えたら、第一世代を「認知行動療法」の枠で捉えるのは矛盾が出てくるから)。
さて「マインドフルネスに基づく認知行動療法」とか「第三世代の(認知)行動療法」など呼び名は様々かもしれませんが、これらの枠組みに共通する特徴をまずは述べていきましょう。
これらには認知の機能に注目し、マインドフルネスとアクセプタンスを重視しているという共通点があると指摘されています。
仏教や禅などの東洋文化の流れを取り込んだ「マインドフルネス」とは、「今、この瞬間に、判断を加えずに、意図的に、注意を向けること(Kabat-Zinn,1994)」を指します(その後は、そのように注意を向けることで培われる「瞬間瞬間の、判断を入れないアウェアネス(気づき)」と変更されていますね)。
そして、「アクセプタンス」とは「体験を変えたり回避しようとせずに留まり十分に体験する」ことを指します。
これらは別々のものというよりも、例えば、マインドフルネスでは、その瞬間の体験に意図的に注意を向け続け、今の瞬間の体験に対して心を開いて好奇心をもってアクセプト(そのままにしておく)することで、結果的に思考や感情に対して脱中心化視点を獲得し、主観的で一過性という心の性質を見極めていくわけです。
こうした「文脈的な視点に立ち」「これまでの直接的な変容に加えて、間接的な方略を採用し」「変化の焦点を広く取る」のが、こうしたマインドフルネスやアクセプタンスを重視した第三世代の(認知)行動療法の特徴と言えるでしょう。
さて、本選択肢の「弁証法的行動療法」は、このマインドフルネスに基づいた認知行動療法に該当する技法です。
まず「弁証法的」とは、一見すると相反する2つ以上のものを統合していくことで、より良い状態にたどり着こうとする様子を指します。
すなわち、弁証法的行動療法とは、クライエントの現在の感情や行動に対する「受容」と「変化」の間での揺れ動きや、それらの統合を重視した認知行動療法のことを指し、主に境界性パーソナリティ障害の治療法としてLinehanが開発、提唱しました(ボーダーに対するエビデンスが確認されている数少ない方法の一つ)。
弁証法的行動療法では境界性パーソナリティ障害に特徴的な症状を取り上げ、それを系統立てて是正しようとしていきます。
特に境界性パーソナリティ障害に不足していると考えられる4つのタイプのスキルの習得を目指します。
- マインドフルネススキル:失敗や好ましくない状態もあるがままに受容する
- 対人関係スキル:コミュニケーションの問題パターンに気づき修正する
- 情動制御スキル:感情のメカニズムを理解し、コントロールする
- 苦痛耐性スキル:マインドフルネスの応用で、苦痛耐性をアップする
クライエントは、認知療法的アプローチや行動療法的アプローチなどを組み合わせて学習していき、それらの土台として、禅の思想を取り入れたマインドフルを身につける中で、境界性パーソナリティ障害に特徴的とされている衝動性や対人関係の問題に取り組んでいきます。
最近では、パーソナリティ障害に限定せず、一般的なリラクセーション、セルフコントロール・スキルとして紹介され始めてもいますね。
以上のように、本選択肢の「弁証法的行動療法」は「マインドフルネスに基づく認知行動療法」に該当することがわかります。
よって、選択肢③は適切と判断できます。
④ アサーション・トレーニング
アサーション・トレーニングは、自分と相手の権利を尊重しながら、適切で建設的な自己主張・自己表現(アサーション)を身につけるためのトレーニングを指します(自己主張トレーニング、主張性訓練と呼ばれることもある)。
元々は、アサーティブ(主張的)な行動をトレーニングすることで、不安反応を抑制することを目指した行動療法の技法として開発されました。
理論モデルで言えば「認知行動療法モデル」に該当する技法とされることが多いですね(レスポンデント条件づけベースの技法なのですけどね)。
その後、相手の権利を尊重しつつ、自らの考え、感情、権利を適切に主張するためのコミュニケーショントレーニングへと発展しました。
コミュニケーションにおける行動は以下のように分類されます。
- 自分の考えや感情を表現しなかったり抑制したりする「非主張的行動」
- 相手の考えや感情を無視して自分の考えや感情を相手に押し付ける「攻撃的行動」
- より適切な方法で自分の考えや気持ちを相手に伝える「アサーティブ行動」
アサーション・トレーニングでは、上記の「アサーティブ行動」の習得を目標とし、講義やロールプレイ、観察、ホームワークなどから成るプログラムが開発されています。
既に述べた通り、マインドフルネスに基づく認知行動療法は、4つの理論モデルとは別の「第3の(認知)行動療法」と称されていますから、これらの理論モデルに該当するものは本問の「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には属さないことになります。
つまり、本選択肢のアサーション・トレーニングは「マインドフルネスに基づく認知行動療法」には該当しないことがわかります。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉
クライエントが豊かで充実した意義のある人生を送るために、避けられない苦痛は受け容れながら、自らの人生を進められるよう援助するセラピーがACT(アクト)になります。
ACTは、行動分析学や関係フレーム理論(上述のとおり、ざっくり言えば「実際経験していないのに、学習が成立することを説明する理論」のこと)を理論的基盤として、スキナーの徹底的行動主義を再検討し、機能的・文脈的要素を強調したものとして、Hayesによって提唱されました。
Hayesらが提唱した言語行動の行動分析理論に基づいて、行動活性化とアクセプタンスを並立させており、個人的な印象としてはマインドフルネスの宗教的な要素をできる限り除いた感じがします。
「思考はコントロールできないが、行動はコントロールできる」という立場を取っており、他の第三世代のやり方の中で、いちばん行動に焦点を当てている感じがありますね。
ACTの「アクセプタンス」と「コミットメント」について少し触れておきましょう。
ACTでは、「問題・苦悩・ネガティブな感情」は生きている以上あって当たり前であり、それらを解決・管理・対処することを手放し受け入れる(アクセプタンス)ことが重要で、その姿勢こそが変化へのパワーを生む、と考えます。
また、苦悩・問題を抱えたままでも「高次の価値」「自分が人生で本当に実現したいこと」を発見・強化・行動していく「コミットメント」の姿勢を持つことで幸福になれる、と考えるのがACTの立場です。
ACTでは、人間は言語を使用するが故に、悩みや不安などの心理的苦痛を抱えることは当然であるが、そのような苦痛をなくそうとコントロールしすぎることによって問題に発展すると考えます。
そして、人間の機能と適応に関する統合的なモデルとして、心理的柔軟性モデルが採用されており、これは、心理的な健康は「今この瞬間への柔軟な注意」「価値」「コミットされた行為」「文脈としての自己」「脱フュージョン」「アクセプタンス」という6つのコア・プロセスによって心理的柔軟性が生じた状態であるとされます。
それぞれは以下の通りです。
- 今この瞬間への柔軟な注意:「いま、ここ」に注意を向ける
- 価値:自分にとって一番大切なことを明らかにする
- コミットされた行為:価値に従った目標をセッティングし、確実に実行する
- 文脈としての自己:超越的な自己の感覚とつながる
- 脱フュージョン:思考やイメージ、記憶を「本物である」と思い込んでしまう傾向を低減する方略を学ぶ
- アクセプタンス:望ましくない私的経験(思考、感覚、衝動)でも追い払おうとせず、やってきて去っていくままにする
ACTにおいて精神病理は、これら6つが適切に機能していない(非柔軟な注意、価値の混乱、行為の欠如または衝動性、概念としての自己に対する執着、認知的フュージョン、体験の回避)心理的非柔軟性が生じた状態と見なします。
特に、言語の字義通りの内容に囚われ、頭の中で生じる不快な思考や感情に巻き込まれる「認知的フュージョン」と、それらとの接触を拒み、コントロールしようともがく「体験の回避」が精神病理の中核とされています。
ACTは、心理的に柔軟でない状態のクライエントに対して、アクセプタンスとマインドフルネスのプロセス、そしてコミットメントと行動活性化のプロセスを用いて、心理的柔軟性を生み出すことを目指します(こちらからもACTがマインドフルネスに基づく行動療法であることがわかると思います)。
その際、巻き込まれている思考や感情の内容を言語的に検討するのではなく、メタファや体験的エクササイズを通して、思考や感情の行動への影響力を弱め、「今ここ」での体験に触れることで、実際の環境に合わせて柔軟に行動できるように援助するアプローチと言えます。
以上のように、本選択肢の「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」は「マインドフルネスに基づく認知行動療法」に該当することがわかります。
よって、選択肢⑤は適切と判断できます。