公認心理師 2019-82

問82は動物を対象としたうつ状態に関連する現象を選択する問題です。
基本的な問題と言えるので、落とさないようにしたいところです。

問82 動物を対象とした研究において、うつ状態に関連する現象として、最も適切なものを1つ選べ。
①負の強化
②学習性無力感
③嫌悪条件づけ
④受動的回避学習
⑤代理的条件づけ

少しややこしい表現が混ざっていますが、概ね、学習関係の基本的な用語で構成された問題と言えそうです。
ここで示されている選択肢は、その多くが学習理論にまつわるものですから、うつ状態の治療や説明として使われているものもあるでしょう。
しかし、正答を選ぶ上で大切なのは「その概念・現象の説明の中で、うつ状態を説明しているもの」であるという点で選んでいくことです。
「ちょっと関係がある」ということではなく、学習理論における「うつ状態の説明」として採用される概念を選ぶということですね。

解答のポイント

学習理論、条件づけ理論にまつわる各概念・現象を理解している。

選択肢の解説

①負の強化

こちらはスキナーの実験的行動分析の立場で説明していきましょう。
オペラント行動に対して負の強化刺激を随伴的に消失させることにより、当該オペラント行動の生起頻度を増大させる操作およびその過程を指して「負の強化」と呼びます。
例えば、ネズミがレバーを押すと、電気ショックが中断するという条件では、レバー押し反応は増大します。
この場合、レバーを押す行為はオペラント行動であり、電気ショックが負の強化刺激となりますね。

スキナーは抑うつについて行動分析を行っていましたが、理論的には深く掘り下げませんでした
これに対しFerster (1973) は、うつ病は、その人の行動に対する正の強化子がどのように出現するか、すなわち強化スケジュールの種類によって生じると主張しています。
Fersterは、強化スケジュールが比較的固定されていて、かつ強化されるまでに非常に多くの活動を必要とする環境では、うつ病を経験する確率が高くなると指摘しています。
さらに、そのような環境におかれることで、正の強化子を受ける行動 (正の強化随伴性) は減少し、嫌悪刺激や剥奪を避けるための行動 (負の強化随伴性) を取りやすくなります。
すると、回避的な行動パターンの増加と行動レパートリーの制限が生じ、うつ病が維持されると主張しています。

これらの主張は負の強化によって抑うつ状態が維持されるということを示していますが、「負の強化」という概念によって抑うつ状態が生じるという理路ではありませんね。
その意味で、最も適切と見なすことはできないでしょう。
よって、選択肢①は適切とは言えないと判断できます。

②学習性無力感

過去問では2018-232018追加-922019-75などで学習性無力感を取り上げていますね。
頻出問題と言えるでしょう。

セリグマンは、逃避も回避もできない電撃実験が、その後の回避訓練に重大な影響を与えることを実験的に明らかにしました。
イヌに電撃を与えて、それが回避可能か否かで群を分け、その後、回避可能な状況におかれた場合であっても、回避不能であった群のイヌは、解決を諦め受動的に苦痛を受け容れてしまったかのような状態になることが明らかにされています。
そしてこのような効果を「学習性無力感」と呼んでいます。

すなわち、強制的・不可避的な不快経験やその繰り返しの結果、何をしても環境に対して影響を及ぼすことができないという誤った全般的ネガティブな感覚が生じることにより、解決への試みが放棄され、あきらめが支配する結果となるということです。
セリグマンは、人間のある種の抑うつの形成にも同様なメカニズムが働くことを指摘しています。
すなわち、喪失体験等を通し、自身が無力であると知覚するということです

このように、学習性無力感はうつ状態を説明する概念として当初から示されていたことがわかります。
よって、選択肢②が最も適切と判断できます。

③嫌悪条件づけ

嫌悪条件づけでは、条件づけにおいて「嫌悪刺激」が用いられることで「ネガティブな情動」が条件づけられます。
こうした嫌悪刺激を用いての一連の条件づけ手続きによって、ある特定の対象なりイメージ等に嫌悪感を形成することを「嫌悪条件づけ」と称します

その一種として「味覚嫌悪条件づけ」があり、これは食物を摂取したことにより体調を崩すと二度とその食物を摂取しなくなるという条件づけを言います(生牡蠣にあたってしまうと、牡蠣が食べられなくなる。生牡蠣→焼き牡蠣もダメになれば般化ですね)。
これをガルシア効果と呼びます(ガルシアさんが発見したから)。

主としてこの嫌悪条件づけの原理や手続きを用いて、不適切な行動の抑制を狙う治療法が行動療法における嫌悪療法です。
嫌悪療法において、嫌悪感や不快感の形成のために用いられる嫌悪刺激としては、電気ショック、催吐剤あるいは悪臭を放つ化学薬品、その他嫌悪的なイメージなどさまざまなものが利用されます。

こうした嫌悪条件づけですが、偶然の経験によって生じることもあり、それによって不適切な不安や恐怖反応を形成する原因ともなり得るとしています。
ですが、嫌悪条件づけ自体がうつ状態に関連する現象というわけではないことがわかります。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④受動的回避学習

まず回避学習とは、オペラント条件づけの一種で、経験により回避反応を形成していくことを指します
代表的なのは往復箱の実験装置ですが、こちらではハードルで仕切られた二つの部屋の片方にラットを入れ床から電撃を与えると、さまざまな反応の後にラットはもう一方の部屋に逃避します。
電撃呈示の前に警告信号として光刺激を呈示する手続にして試行を繰り返すと、ラットの逃避反応潜時は次第に短くなり、ついには警告信号が呈示されると電撃呈示前に移動するようになります。
こうやって回避反応が形成されるということになります。

そして、受動的回避学習とは、動物が行動しないことにより、電気ショックを回避する学習行為です。
具体的には、明・暗の二つの部屋を行き来できる装置で、明室に入れた動物が暗室に入ったときに電気ショックを与えると、翌日以降、動物は電気ショックがなくても暗室に入らなくなる受動回避反応が生じます

学習性無力感の説明でもわかると思いますが、こうした回避をしても電撃を食らい続けるなどの状況に置かれ続けることで、あたかも無力感を学習した結果のように見え、ヒトのうつ病や無気力症のモデルと考えられていますので、受動的回避学習とは違いますね。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤代理的条件づけ

古典的条件づけやオペラント条件づけは、学習者が自分で行動し試行錯誤を重ねた結果学習することから直接経験と呼ばれます。
一方、自分では行動せずに他者の体験を見聞きすることは代理経験と呼ばれ、それによって生じる学習は観察学習あるいは社会的学習と呼ばれています。

学習される内容がレスポンデント行動である場合もあります。
毒蛇を知っている人が、恐怖反応を表すのを見れば、初めての人も容易にそれを恐れることを学習できます。
一般に動物嫌いの人は、実際に不快な目にあったためであるよりは、むしろ、それを恐れる親の姿を見て育った場合が多いとされています。

このようにモデルの情動反応を観察して、同じ情動反応を学習してしまうということをバーガー(1962)は実験的に示しています
モデルになった大学生が、条件刺激である音に対して電気ショックを受けます。
そして手を震わすという情動反応を表出します。
観察者の大学生はこれを見ているが、そのとき情動反応として皮膚電気反射が調べられました。
その結果、観察者は一度も条件刺激と電気ショックが対呈示されたという条件づけの直接経験がないのにも関わらず、モデルの条件づけの経験を見ただけで、自分も条件刺激に対して情動反応を起こすという条件づけができてしまいました。
これを「代理的(古典)条件づけ」と呼びます

このことを踏まえると、代理的条件づけはうつ状態を説明する概念には該当しないことがわかりますね。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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