公認心理師 2021-49

いじめ防止対策推進法に関する問題です。

誰が何をする権利を持っているのか、を明確に把握していることが求められますね。

問49 いじめ防止対策推進法について、正しいものを1つ選べ。
① 学校は、いじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。
② 学校は、いじめの防止に資するものとして、体験活動等の充実を図る。
③ 学校は、地方公共団体が作成した、いじめ防止基本方針を自校の基本方針とする。
④ 学校は、いじめ防止等の対策を推進するために、財政的な措置を講ずるよう努める。

解答のポイント

いじめ防止対策推進法における、国、地方公共団体、学校の役割について把握している。

選択肢の解説

① 学校は、いじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。

こちらは第14条(いじめ問題対策連絡協議会)を見ていきましょう。


  1. 地方公共団体は、いじめの防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、条例の定めるところにより、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他の関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。
  2. 都道府県は、前項のいじめ問題対策連絡協議会を置いた場合には、当該いじめ問題対策連絡協議会におけるいじめの防止等に関係する機関及び団体の連携が当該都道府県の区域内の市町村が設置する学校におけるいじめの防止等に活用されるよう、当該いじめ問題対策連絡協議会と当該市町村の教育委員会との連携を図るために必要な措置を講ずるものとする。
  3. 前二項の規定を踏まえ、教育委員会といじめ問題対策連絡協議会との円滑な連携の下に、地方いじめ防止基本方針に基づく地域におけるいじめの防止等のための対策を実効的に行うようにするため必要があるときは、教育委員会に附属機関として必要な組織を置くことができるものとする。

上記の第1号に「いじめ問題対策連絡協議会」を置くことができるのは、地方公共団体とされていますね。

なお、地方公共団体とは、一定地域を存立の基礎とし、その区域に住む住民を構成員として、そこにおける事務を住民の自治によって処理する権能を認められた団体のことを指します。

具体的には、都道府県や市区町村などですね。

上記の通り、いじめ問題対策連絡協議会を置くことができるのは「学校」ではなく「地方公共団体」と言えます。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 学校は、いじめの防止に資するものとして、体験活動等の充実を図る。

こちらは第15条(学校におけるいじめの防止)を見ていきましょう。


  1. 学校の設置者及びその設置する学校は、児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない。
  2. 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを防止するため、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民その他の関係者との連携を図りつつ、いじめの防止に資する活動であって当該学校に在籍する児童等が自主的に行うものに対する支援、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員に対するいじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるものとする。

上記の第1号が本選択肢の内容に合致していると考えられます。

体験活動とは、文字どおり、自分の身体を通して実地に経験する活動のことであり、子どもたちがいわば身体全体で対象に働きかけ、かかわっていく活動のことです。

この中には、対象となる実物に実際に関わっていく「直接体験」のほか、インターネットやテレビ等を介して感覚的に学びとる「間接体験」、シミュレーションや模型等を通じて模擬的に学ぶ「擬似体験」があると考えられる。

この中でも直接体験が重要とされていますが、コロナ禍によって難しい面も出てきそうですね。

体験活動は、豊かな人間性、自ら学び、自ら考える力などの生きる力の基盤、子どもの成長の糧としての役割が期待されています。

つまり、思考や実践の出発点あるいは基盤として、あるいは、思考や知識を働かせ、実践して、よりよい生活を創り出していくために体験が必要であるとされています。

具体的には、次のような点において効果があると考えられています。

  1. 現実の世界や生活などへの興味・関心、意欲の向上
  2. 問題発見や問題解決能力の育成
  3. 思考や理解の基盤づくり
  4. 教科等の「知」の総合化と実践化
  5. 自己との出会いと成就感や自尊感情の獲得
  6. 社会性や共に生きる力の育成
  7. 豊かな人間性や価値観の形成
  8. 基礎的な体力や心身の健康の保持増進

近年の子どもをめぐる課題として、人間関係をうまく作れない、集団生活に適応できない子どもの増加やいじめの陰湿化に代表される規範意識の低下、物事に創意をもって取り組む意欲の欠如、いわゆる「キレる」子どもの問題など、これまで見られた問題の深刻化とともに新しい教育課題の発生も指摘されています。

こうした問題の背景にあるものとして、以下が挙げられています。

  1. 自然や地域社会と深く関わる機会の減少:身体全体で対象に働きかけ、関わっていく体験活動では、「見る(視覚)」「聞く(聴覚)」「味わう(味覚)」「嗅ぐ(嗅覚)」「触れる(触覚)」を働かせ、物事を感覚的にとらえることが大きな意味を持つ。自然体験は、こうした感覚を総動員し、感性を最大限伸ばす可能性がある。地域に住む人々との交流を経験することで、共存の精神、自他共に大切するということを学んでいく。しかし、各種調査結果から、こうした体験は都市化の進展等とともにどんどん減っている。
  2. 集団活動の不足(「集団」から「個イコール孤」へ):学齢期の子どもへの教育活動は集団での活動を基本として行われる。学校外での活動とあいまって、集団内の様々な人間関係の摩擦や集団で行動することで得られる独特の成就感・達成感等を通じて、集団を維持するために自らを律する精神や集団活動の意義を学び、社会性を徐々に体得していくものである。しかし、こうした体験が、少子化、都市化、情報化等の社会の変化に晒され、減ってきている。このため、集団行動を忌避し内に閉じこもる子どもや、集団の一員としての自覚や責任を十分認識できず、社会性ある適切な行動を選択できない、些細なことでも感情を制御できずいさかいを起こす子どもの増加が懸念されている。
  3. 物事を探索し、吟味する機会の減少:インターネットやマルチメディアの時代にあっては、情報を得ることが以前より非常に容易になるとともに、子どもが膨大な量の情報に晒されている。このような中で、情報の取捨選択が困難になるとともに、子どもが一つの物事に集中して考えたり、あれこれ思いをめぐらせる機会が減っている。
  4. 地域や家庭の教育力の低下:核家族化や共働き世帯の増加などの社会環境の変化に伴い、地域コミュニティが衰退するとともに、家庭の教育力の低下が指摘されている。本来は地域や家庭において育まれるべき早寝・早起きなどのしつけや基本的な倫理観・社会性の育成などが十分なされていないことがあるとされている。

これらが体験活動の意義として述べられているわけです。

いじめ対策としても、こうした体験活動が挙がっているわけですね。

選択肢の内容は条項を簡潔に述べてありますが、その内容は正しいものであると言えますね。

よって、選択肢②が正しいと判断できます。

③ 学校は、地方公共団体が作成した、いじめ防止基本方針を自校の基本方針とする。

この内容は第2章(いじめ防止基本方針等)の第11条~第13条の内容の把握が大切になります。


第11条(いじめ防止基本方針) 文部科学大臣は、関係行政機関の長と連携協力して、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「いじめ防止基本方針」という)を定めるものとする。
2 いじめ防止基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
 一 いじめの防止等のための対策の基本的な方向に関する事項
 二 いじめの防止等のための対策の内容に関する事項
 三 その他いじめの防止等のための対策に関する重要事項

第12条(地方いじめ防止基本方針) 地方公共団体は、いじめ防止基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体におけるいじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「地方いじめ防止基本方針」という)を定めるよう努めるものとする。

第13条(学校いじめ防止基本方針) 学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする。


これらをまとめると、いじめ防止基本方針は「文部科学大臣」が定め(第11条)、地方公共団体はそのいじめ防止基本方針を参酌(他と比べ合わせて参考にする)して地域の実情に合わせて基本的な方針(地方いじめ防止基本方針)を定めるよう努め(第12条)、学校は「いじめ防止基本方針」か「地方いじめ防止基本方針」を参酌して学校の実情に合わせて「当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」を定める(第13条)、という形になりますね。

本選択肢の「学校は、地方公共団体が作成した、いじめ防止基本方針を自校の基本方針とする」というのは、「地方いじめ防止基本方針」を学校の基本的な方針とするという意味でしょうから、上記の内容と齟齬があることがわかりますね。

国の「いじめ防止基本方針」を参酌しても良いですし、学校は実情に合わせて自校でいじめ防止のための基本方針を作る必要があります。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 学校は、いじめ防止等の対策を推進するために、財政的な措置を講ずるよう努める。

こちらについては第10条の内容を見ていきましょう。


第10条(財政上の措置等) 国及び地方公共団体は、いじめの防止等のための対策を推進するために必要な財政上の措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。


このように、財政上の措置を講ずるのは「学校」ではなく「国及び地方公共団体」になります。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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