公認心理師 2021-48

この問題は平易な内容と言えますが、ちょっと意地悪な設定になっています。

類型の順番が、A型→B型→D型→C型と並んでいるので、曖昧な記憶だとCとDをごっちゃにしてしまいかねません。

こうした小手先のやり口に惑わされないように、きちんと覚えておきたいところですね。

問48 ストレンジ・シチュエーション法におけるアタッチメントの類型の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 回避型は、養育者との分離場面で激しく泣きやすい。
② 安定型は、養育者との分離場面で泣きの表出が少ない。
③ 無秩序・無方向型は、養育者との再会場面で激しく泣きやすい。
④ アンビバレント型は、養育者との再会場面でしばしば激しい怒りを表出することがある。

解答のポイント

ストレンジ・シチュエーション法で示されている4類型の特徴を把握している。

必要な知識・選択肢の解説

ストレンジ・シチュエーション法に関しては「公認心理師 2018-90」でも出題がありましたが、今回の問題はかなり平易で基本的な内容になっています。

エインズワースは、ボウルビィの共同研究者の一人で、生後12~18か月の子どもの愛着の安定性を評価する実験室用の手続きとしてストレンジ・シチュエーション法を考案しました。

以下のような手続きにおいて赤ちゃんは観察窓から、活動水準、遊びへの関わり、泣くなどの苦痛の程度、母親への接近と母親の注意を得ようとする試み、見知らぬ女性への接近や相互作用への意思などを記録されました。

  1. 母親と乳児が実験的に仮設された部屋に入る。母親は乳児をおもちゃが並べられた床に置き、部屋の反対側に離れて座る。
  2. 見知らぬ女性が部屋に入ってきて、1分間静かに座る。そして1分間母親と会話する。その後その女性は乳児とおもちゃ遊びを試みる。
  3. 母親は不意に部屋から出ていく。乳児が泣かないなら、見知らぬ女性は再び静かに座り直す。もし気が動転して泣いたなら、あやしてなだめるようにする。
  4. 母親が部屋に戻ってきて乳児と遊ぶ。その間に見知らぬ女性は退室する。
  5. 母親は再び退室する。その時点で乳児は独りで部屋に取り残されることになる。
  6. 見知らぬ女性が再び戻ってくる。もし赤ちゃんが動転しているなら、あやしてなだめるようにする。
  7. 母親が再び部屋に入り、見知らぬ女性は退室する。

こうした手続きに沿って得られた記録から、愛着のタイプ分類が行われたわけです。

タイプは、回避型、安定型、アンビバレント型、無秩序・無方向型が示されていますが、無秩序・無方向型は後になって追加された型になっています(A:回避型、B:安定型、C:抵抗/アンビバレント型、D:無秩序・無方向型、と表記されることが多いです。この順番は、養育者と子どもとの心理的距離の遠い→近いの順番と見なすと良いでしょう。近いから良いわけではないです)。

各タイプの子どもの特徴および養育者のパターンを踏まえつつ、選択肢の検証を行っていきます。

① 回避型は、養育者との分離場面で激しく泣きやすい。

研究者たちは、子どもに見られる愛着の違いを説明するために、主たる養育者、すなわち母親のとる行動に多くの関心を寄せました。

その主なものとして、子どもの欲求に対する養育者の「応答感受性」が安定した愛着を生み出しているという知見があります。

安定型の愛着を持つ子どもの母親は、ふつう子どもが泣くとすぐに反応し、子どもを抱き上げ、愛情深く行動したり、自分たちの応答を子どもの欲求に密接に合わせようとします(例えば、授乳において、乳児が示す信号を読み取り、いつ授乳し始め、いつ終えるべきかを決め、食べ物の好みに注意を払うなど。いわゆるマザリングもこの中に含まれていると思われる)。

一方で、回避型やアンビバレント型のような愛着不安定型を示す子どもの母親は、子どもからの信号に対して応じるというよりも、母親自身の思いや気分に基づいて反応する傾向が強いとされています。

子どもの泣き声に注意を払って反応するのは母親が抱きたいと思っている場合に限られており、それ以外では泣き声を無視する、などが特徴ですね。

特に回避型では、全般的に子どもの働きかけに拒否的にふるまうことが多く、他のタイプの養育者と比較して普段から子どもと対面しても微笑むことや身体接触することが少ないとされています。

子どもが苦痛を示すと、それを嫌がって子どもを遠ざけてしまうような場合や、子どもの行動を強く統制しようとする働きかけが多く見受けられるとされています。

ストレンジ・シチュエーション法における回避型の子どもは、再開場面において母親に対して相互作用することを明らかに回避する傾向があり、母親を無視する場合もあります。

また相互作用しようという試みと、それを回避しようとする試みの混合を示す子どももいます。

回避する子どもは、母親が部屋に居てもほとんど注意を払うことなく、母親が出ていこうとしても苦痛を感じているようにも見せず、仮に苦痛を示しても、見知らぬ女性によって容易になだめることが可能という特徴をもちます。

こうした現象がなぜ起こるのかを考えてみると、子どもの動向に対して「反応しない」ということの影響だと考えるのが自然です。

前述には「子どもからの信号に対して応じるというよりも、母親自身の思いや気分に基づいて反応する傾向が強い」とありますが、回避型は「反応しない」が中心であり、アンビバレント型は「手前勝手な反応の仕方」が中心というのが個人的な印象ですね。

子どもの動向に反応しないということがどのような経路を辿るのか、例を挙げながら説明していきましょう。

例えば、あなたが皿洗いをする状況で「パートナーに洗ってほしいな」と思ったとします。

しかし、過去の経験から言っても洗ってくれないだろうと考えて、言わずに皿洗いをしたとします。

こうした状況であなたの中に何が起こるのかを考えてみればわかりやすいのですが、この状況ではパートナーに「洗って」と言っていないにも関わらず、あなたの内面では「洗ってくれなかった」という心情になることが多いのです。

実際に、パートナーに「洗って」と言っていないし、パートナーが実際はやってくれる可能性があるにも関わらず、です(恋愛関係で、こういう時に出てくる言葉が「察してほしかった」ですね)。

そして、それが繰り返されると「どうせパートナーは助けてくれない」といった認識を自己生成・醸造していくことになります(つまり、現実からずれた(ずれているかもしれない)認識を持ち、それを強化していくという流れになってしまう)。

これを子どもと母親に当てはめて考えると、母親が子どもの内側から出てくるものに対して「反応しない」というパターンで接することで、子どもの内面では「自分の欲求に反応してくれないから出さない」となるのではなく、子どもは出していないのに「自分の欲求に反応してくれなかった」という心持になり、それを自己強化していくわけです。

なお、「子どもの内側から表出するもの」の原型として見なすことができる(と私が思っている)のが「甘え」という感情です。

甘えは、「愛されることを求める」と表現されるような感情であり、相手が受け取るか次第という非常に繊細な側面があります(出す側は無防備な形で表出し、その受け取りは相手に委ねられるということ)。

すなわち、甘えが適切に受けとめられない場合、子どもが「自分の内側から何かを表出する」という根本的なところでの傷つきが生まれる可能性があるので、その後の発達や対人関係に多大な影響が出る可能性があるということですね。

回避型が示す、母親とのコミュニケーションを避ける様子は、こうした流れによって生じると個人的には考えています。

回避しているように見えて、その奥には強く求める気持ちも存在しているため、その部分が別の形となって現れると、それが「問題」や「症状」とラベリングされることもあるわけですね。

いずれにせよ、本選択肢の「養育者との分離場面で激しく泣きやすい」というのは、回避型を表した内容とは言えないですね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 安定型は、養育者との分離場面で泣きの表出が少ない。

この点に関しては「公認心理師 2018-90」でも問われましたね。

安定型の子どもは、母親(正確には養育者)が戻ってくると母親との相互作用を求めます。

セッション全体においては、母親から離れられず、母親が出ていこうとすると激しい苦痛を示した子どももおります。

母親への近接や接触によって否定的情動が落ち着き、母親を安全基地として探索行動を行うのが安定型の特徴です。

要は、親と機嫌よく遊び、分離時に不安になり、再会時に親を歓迎し、安心して再び遊ぶようになるという「親との愛着が出来始めているけど決定的にはなっていない子どもの自然な反応」が示されるのが安定型ということになりますね。

本選択肢にある「養育者との分離場面で泣きの表出が少ない」というのは安定型の特徴には合致せず、むしろA型(回避型)の特徴であると考えられます。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 無秩序・無方向型は、養育者との再会場面で激しく泣きやすい。

ストレンジ・シチュエーション法では、当初は回避型・安定型・アンビバレント型の3つが示されていましたが、その後の研究で、再会時にはっきりとした親に向けた行動がなく、また首尾一貫せず、極端に混乱した様子が見られるタイプとして「無秩序・無方向型」が示されました(Main&Solomon,1986)。

前述の3類型のいずれにも属さない、一定のパターンを見出せないということで「無秩序・無方向型」という表現がなされているということですね。

この型の子どもは、突然のすくみ、顔を背けて親に接近するなど、不可解な行動パターンや本来は両立しない行動が同時に活性化され、観察者に個々の行動がバラバラで組織立っていない印象を与えます。

この型は、不適切に養育された子どもや両親が精神障害の治療を受けている家庭の子どもに高い割合で出現しています。

いわゆる虐待家庭の子どもに多い反応であるとされているものですね。

何らかの問題を抱えた臨床群や社会的経済的地位の低いグループで増えるという知見もあります。

上記を踏まえると「養育者との再会場面で激しく泣きやすい」という「一定の反応を見せる」という時点で、「無秩序・無方向型」には該当しないと見なすのが自然です。

「養育者との再会場面で激しく泣きやすい」という反応は、安定型とアンビバレント型に見られがちな反応と言えます。

ただし、安定型はその後すぐに落ち着いてくるのに対し、アンビバレント型は後述もしますが同時に怒りを示すなどの特徴があります。

いずれにせよ、「一定の反応が想定できる」という時点で「無秩序・無方向型」の反応ではないと判断できますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ アンビバレント型は、養育者との再会場面でしばしば激しい怒りを表出することがある。

アンビバレント型(C型)は、否定的感情が落ち着きにくく、親に両価的態度を見せることから名づけられました(両価的=ambivalent)。

アンビバレント型では、最初から不安で親から離れることができず、近接と怒りや拒否が入り混じる行動を表すとされています。

こうしたアンビバレント型が近年、増えているような気がしています。

本来ならば、否定的感情は親との関係の中で消化されていくところを、親がそれを外に向け直すことで、自身の不穏感情を外に向ける傾向が強くなってきたように思うのです。

ストレンジ・シチュエーション法での再会場面で言えば、親に近接することで安心を得ようとすると同時に、それまでの不安を怒りとしてぶつけてきているという感じでしょうか。

どんどん社会が外罰的な方向に偏ってきていることに加え、子どもに「不快な思いをさせてはならない」という誤った認識が拡大しているように見受けられ、今後もこの傾向は広がっていくだろうと思います。

以上のように、アンビバレント型の特徴として「養育者との再会場面でしばしば激しい怒りを表出することがある」というのは当てはまると言えますね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

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