公認心理師 2019-86

問86はディスレクシアに関する問題です。
ディスレクシアに対する基本的な理解を問うていると言えますから、この問題を通してしっかりと把握しておきましょう。

問86 ディスレクシアに関する説明として、正しいものを1つ選べ。
①限局性学習症に含まれる。
②読み書き不能の状態である。
③言語発達に問題はみられない。
④音読はできるが理解ができない。
⑤読みの速度は速いが不正確である。

ディスレクシアの苦労は、多くの人が想像力を働かせることで共有可能であると思います。
ディスレクシアではないにしても、日によって「今日は字がうまく書けないな」というときはあるのではないでしょうか。
ファンデーションのノリと同じで、その日その日の脳の状態によって「字をスムーズに書けるか否か」も結構違うものです。
それがもっと困難な形で彼らには現れるのです。

また「頑張っても頑張っても、みんなと同じかそれ以下」という状態が長く続けば、当然やる気は失われます。
やる気のない児童がいたときには、養育環境等を考慮に入れた上で、ディスレクシアを疑うことも大切です。
特に学校での支援の場合は、彼らの書いたもの、書いている場面、読んでいる場面などの観察が可能です。
それらから見立て、対応を考えていくことが求められますね。

解答のポイント

ディスレクシアに関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

①限局性学習症に含まれる。

ディスレクシアは、学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害です。
知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、脳機能の発達に問題があるとされています。
そのため発達障害の学習障害に位置づけられており、2013年に改定された米国精神医学会の診断基準(DSM-5)では、限局性学習症(いわゆる学習障害)のなかで読字に限定した症状を示すタイプの代替的な用語としてdyslexia(ディスレクシア)を使用しても良いことになりました

DSM-5における限局性学習障害の診断基準は以下の通りです。

A. 学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6カ月間持続していることで明らかになる:

  1. 不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
  2. 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
  3. 綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
  4. 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
  5. 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
  6. 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

B. 欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床消化で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。

C. 学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に重い学業的負荷)。

D. 学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。

そしてこれらには学習領域と下位技能が以下の通り定められております。

  • 読字の障害を伴う(F81.0):読字の正確さ・読字の速度または流暢性・読解力
  • 書字表出の障害を伴う(F81.1):綴字の正確さ・文法と句読点の正確さ・書字表出の明確さまたは構成力
  • 算数の障害を伴う(F81.2):数の感覚・数学的事実の記憶・計算の正確さ又は流暢性・数学的推理の正確さ
これらに加えて、現在の重症度がいずれかを特定することも定められております。
上記の通り、ディスレクシアは限局性学習障害の中に含まれていることがわかりますね。
よって、選択肢①が正しいと判断できます。

②読み書き不能の状態である。
③言語発達に問題はみられない。
④音読はできるが理解ができない。
⑤読みの速度は速いが不正確である。

ディスレクシアの根底には音韻処理困難があり、表記された文字とその読み(音)の対応が自動化しにくく、それを司る脳機能の発達が未熟であるとされています。
ディスレクシアでは「文字が読めない」と表現されることが多いのですが、これは誤りであり、正しくは読むのが極端に遅いし、よく間違えるという表現となるはずです

1文字を読むのに時間がかかり、間違えることもあるといった状態では、読むだけで疲れてしまって、意味を把握する段階まで至りませんし、読書に対する拒否感が生じてしまうことになります
その結果、年齢が上がるに従って周囲との差はどんどん大きくなっていき、語彙や知識が不足して、学業不振が著しくなっていきます。
さらには心身症や不登校といった二次障害の状態になってしまうこともあります。

彼らの状態は、健常者が「じゃんけんグー」の「グー」の握りの強さで生きているとしたら、彼らは「壁を殴るときのグー」の「グー」の握りで生きているというイメージです。
多くの人がそこまで力を入れなくていい場面でも、彼らは力を入れてしかその場面をクリアすることができず、大変な疲弊・疲労が伴う毎日になってしまいます。
彼らの疲弊・疲労は、単純にその障害ゆえだけでなく、彼ら自身が「頑張ろう」「ちゃんと読もう・書こう」という意識と相まって生じるものです。
ですから、彼らの多くに「努力不足」という認識が付いて回りやすいですし、周囲の心無い言葉は酷く彼らを傷つけることになります。

国立成育医療研究センターのHPに記載されている、ディスレクシアの初期症状は以下の通りです。

【読字障害】

  • 幼児期には文字に興味がないし、覚えようとしない
  • 文字を一つ一つ拾って読む(逐次読み)
  • 語あるいは文節の途中で区切ってしまう
  • 読んでいるところを確認するように指で押さえながら読む
  • 文字間や行間を狭くするとさらに読みにくくなる
  • 初期には音読よりも黙読が苦手である
  • 一度、音読して内容理解ができると二回目の読みは比較的スムーズになる
  • 文末などは適当に自分で変えて読んでしまう
  • 本を読んでいるとすぐに疲れる(易疲労性)

【書字障害】

  • 促音(「がっこう」の「っ」)、撥音(「とんでもない」の「ん」)、二重母音(「おかあさん」の「かあ」)など特殊音節の誤りが多い
  • 「わ」と「は」、「お」と「を」のように耳で聞くと同じ音(オン)の表記に誤りが多い
  • 「め」と「ぬ」、「わ」と「ね」、「雷」と「雪」のように形態的に似ている文字の誤りが多い
  • 画数の多い漢字に誤りが多い

このような問題に対して、できる限り早く対応することが重要です(この点はディスレクシアに限らず、すべての発達障害で言えることでしょう)。

選択肢②は「読み書き不能」が誤りですね。
選択肢③は、言語発達に問題が見られるためにディスレクシアという発達上の課題として対応していくわけです。
ディスレクシアではその根底に音韻処理困難があるわけですから、選択肢④の内容は誤りと言えるでしょう。
選択肢⑤の「読みの速度は速いが不正確」というのは、むしろ「読みが遅く」となるはずです。

以上より、選択肢②~選択肢⑤は誤りと判断できます。

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