公認心理師 2021-21

児童養護施設の入所児童の特徴や傾向に関する問題です。

児童養護施設で働いていれば肌感覚でわかることも多いのでしょうが、それ以外の方は(もちろん、施設で働いている方も)きちんと資料を踏まえて理解を深めましょう。

問21 2018年(平成30年)時点において、児童養護施設における入所児童の特徴や傾向として、正しいものを1つ選べ。
① 入所児童は、年々増加している。
② 家族と交流がある入所児童は、半数を超える。
③ 被虐待体験を有する入所児童は、半数に満たない。
④ 幼児期に入所し、18歳まで在所する児童が年々増加している。
⑤ 入所児童の大学・短期大学などへの進学率は、おおむね60%以上である。

解答のポイント

児童養護施設入所児童等調査の概要(平成30年2月1日現在)」の内容を把握している。

近年の社会的養護の傾向に関する理解を有している。

選択肢の解説

本問に関しては、厚生労働省子ども家庭局 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部が出している「児童養護施設入所児童等調査の概要(平成30年2月1日現在)」から出題されていると考えられます。

こちらを引用しつつ、以下の選択肢の解説を行っていきましょう。

① 入所児童は、年々増加している。

こちらについては「児童の現在の年齢」の項目に記載がありました。

こちらによると児童数は児童養護施設が27,026人となっており、前回の調査では29,979人であったことから、減少していることがわかりますね(こちらのサイトを見ると、年々減少傾向にあることがわかりますね)。

対して、里親が 5,382人(前回4,534人)、ファミリーホーム(里親型のグループホームのようなイメージですね)が1,513人(前回829人)が増えており、社会的養護の在り方の見直しが進んできていることがわかります。

こちらは里親のデータですが、年々増加傾向にあるのが見て取れますね。

上記の通り、児童養護施設への入所児童は年々減少傾向にあります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 家族と交流がある入所児童は、半数を超える。

こちらについては「家族との交流関係」の項目を参照しましょう。

なお「交流あり」には、「電話・メール・手紙」「面会」「一時帰宅」などが含まれることになります。

それぞれの割合に関しては、「電話・メール・手紙」が9.0%、「面会」が28.8%、「一時帰宅」が33.8%、「交流なし」が19.9%となっています。

つまり、「交流あり」の割合は70.6%になるわけですね。

なお、施設入所児童では「交流あり」のうち「一時帰宅」の割合が比較的高く、児童養護施設で 33.8%(前回 45.9%)となっています。

次に家族との交流頻度であるが、「電話・メール・手紙」において「年2回~11回」が高く、児童養護施設で 58.7%(前回 61.6%)となっています。

「面会」において高かったのは「年2回~11回」という頻度であり、児童養護施設 64.3%(前回 68.0%)となっています。

さらに、「一時帰宅」において割合が高かったのは「年 2 回~11 回」であり、児童養護施設 65.2%(前回 71.9%)となります。

このように、児童養護施設において家族と交流がある児童の割合は半数を超えていることがわかります。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 被虐待体験を有する入所児童は、半数に満たない。

こちらについてはまず「養護問題発生理由」という項目を見ていきましょう。

養護問題発生理由について、一般的に「虐待」とされる「放任・怠惰」「虐待・酷使」「棄児」「養育拒否」を合計すると、児童養護施設は45.2%(前回37.9%)となります。

これだけを見ると「半数に満たない」が正しいように感じますが、重要なのは「児童の被虐待経験の有無、虐待の種類」という項目になります。

こちらでは、「虐待経験あり」の割合をみると、児童養護施設で65.6%(前回59.5%)となっており半数を超える割合となっています(なお、虐待なしは30.1%で、他は不明になります)。

なお、虐待種としてはネグレクトが最も多く63.0%(前回63.7%)となっております(なお、児童心理治療施設及び児童自立支援施設では身体的虐待が最も多いという結果になっています)。

虐待全体で言えば、心理的虐待が最も多いわけですが、児童養護施設入所要件として多いのはネグレクトということですね。

個人的な印象ですが、「身体的虐待」や「心理的虐待」に関しては、形は歪んでいても「やり取り」であることに変わりはなく、この「やり取り」をしようという意欲の存在は認められるわけで、この意欲をどのように適正化していくかを考えることができます。

一方で、「ネグレクト」に関しては「やり取り」の意欲自体が薄いため、支援が非常に難しくなる印象を持っています。

児童養護施設の入所理由としては、虐待の他にも父母の傷病や入院、死亡、離婚、精神疾患、破産などの経済的理由など様々なものがあり、例え、虐待が入所理由でなくても虐待が内包されている事例が多くあるということですし、そうした家族状況の悪化が虐待を招きやすいとも言えますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 幼児期に入所し、18歳まで在所する児童が年々増加している。

こちらについては2つの資料を見ていくことにしましょう。

まずは「児童の委託(入所)時の年齢」という項目です。

児童養護施設において、入所時に最も多い年齢が2歳になっており、これは乳児院からの移行も大きいでしょう(入所経路は、家庭からが62.1%、乳児院からが22.3%ですね)。

また、6歳未満で委託または入所した児童は、児童養護施設で 50.2%(前回 52.9%)にまで上ります。

上記に加えて「児童の委託(在所)期間」という項目を参照にしていきましょう。

資料によると、児童の委託期間または在所期間は「1年未満」が多く、期間が長くなるに従い児童数が漸減する傾向となっています。

また平均委託(在所)期間は、児童養護施設 5.2 年(前回 4.9 年)と微増であることがわかりますね。

つまり、「6歳未満での児童養護施設入所が50.2%」であること、「児童の平均在所期間は1年未満であり、平均で言えば5.2年」であることを踏まえれば、本選択肢の「幼児期に入所し、18歳まで在所する児童が年々増加している」という記述が事実ではないことがわかるはずです。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 入所児童の大学・短期大学などへの進学率は、おおむね60%以上である。

こちらについては「年長児童の就学状況」の項目を見ていきましょう。

資料によると、就学状況別の年長児童数は、「中学 3 年生」は 2,225 人(26.5%)、「高校生」(通信制を含む)は 5,705 人(67.8%)であり、それ以外では、大学・短期大学には 48 人(0.6%)、専修学校には 72 人(0.9%)が通っています。

このように大学や短大への進学率は(一般家庭と比すると)非常に低いものと言えますね。

それ以外にも「児童の就学状況」という項目も参考にしておきましょう。

資料によると「大学・短大(公立)」は全体の0.1%、「大学・短大(私立)」は全体の0.2%に過ぎず、非常に低い水準であることがわかります。

こちらの資料については、あくまでも「現在の就学状況」ですから、児童養護施設にいる入所児童の進学率を示すものではありません。

また、原則として児童養護施設は18歳までですから、上記の数字だからと言って単純に進学率が低いとは言えませんが、少なくとも入所児童で大学や短大に言っているパターンは非常に少ないと言えます。

また、「大学(短大)進学希望」を見てみましょう

中学3年生以上の年長児童全員の大学又は短期大学への進学希望については、「希望する」が31.8%(前回 27.0%)、「考えていない」が 29.2%(前回 30.1%)、「希望しない」が 32.6%(前回 37.2%)となっており、前回調査より進学希望が増加しています。

こちらの内容は、あくまでも「大学や短大への進学希望」ですから、進学率を示すものではありませんが、希望者自体が30%程度ということで、実際に進学できる人数はもっと少なくなりますし、実際にそうなっていますね。

以上、本選択肢の解説に相当する資料と、それに関連する資料を示しました。

上記の通り、大学・短大への進学率は0.6%と低い水準であることがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

なお、ここ数十年で国公立大学の学費は恐ろしいほどに跳ね上がっています。

かつてはアルバイトをすれば学費と生活費をまかなえていたのが、現在はそれが到底不可能な状況になっており、いわゆる「苦学生」というあり方自体が不可能になっています。

必然的に家族の収入によって進学の可否が左右されざるを得ず、また、進学できる場合でも親の意向を無視することが難しいというのが正直なところでしょう(後者に関しては親のマナーによって強度が異なるでしょうけどね)。

こうした状況は、金銭的に不利な状況であることが多い入所児童の進学を難しくさせるだろうと想像に難くありません(これを「奨学金もあるじゃないか」「本人の頑張り次第」というのはあまりに酷な気がします)。

年々、格差が広がっているというのが間違いないところなので、何とかならんかなと思いますが、できるのは政策等を見極めてきちんと選挙に行くことくらいでしょうかね。

ちなみに私の投票行動の基準は「この政治家のこの言動はどういった心理的背景によるものか」を見立てて、その誠実さや醜悪さを見通して決めています(この仕事に就いていれば、ある言動がどういった背景によって生じるかわかりますし、それが「性根」に近ければちょっと任せたくない人になりますからね)。

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