公認心理師 2019-111

問111はヤーロムの集団療法の治療要因に関するものです。
集団療法においてヤーロムは有名ですね。
是非とも押さえておきましょう。

問111 I.D.Yalomらの集団療法の治療要因について、誤っているものを1つ選べ。
①他者を援助することを通して、自己評価を高める。
②他のメンバーを観察することを通して、新たな行動を学習する。
③集団との一体感を覚えることで、メンバー相互の援助能力を高める。
④現在と過去の経験についての強い感情を抑制することで、コントロール力を高める。
⑤他者も自分と同じような問題や悩みを持っていることを知り、自分だけが特異ではないことに気づく。

ヤーロムは、アメリカの医学者、精神科医であり、専門は実存療法、集団精神療法です。
作家としても知られています。
ヤーロムは基本的にサリヴァンの対人関係の障害という観点からグループを考えた人です。

解答のポイント

ヤーロムの集団療法の治療要因について把握している。

選択肢の解説

①他者を援助することを通して、自己評価を高める。
②他のメンバーを観察することを通して、新たな行動を学習する。
③集団との一体感を覚えることで、メンバー相互の援助能力を高める。
⑤他者も自分と同じような問題や悩みを持っていることを知り、自分だけが特異ではないことに気づく。

集団療法の近代的理論としては、「全体としての集団アプローチ」「対人関係論的アプローチ」「精神内界アプローチ」などがあります。
このうち、対人関係論的アプローチの研究者として、対人関係論に基づく集団療法を強調したYalomがおります。
彼は集団療法において変化への強い治療的推進力になるのは、凝集性と「今ここで」怒っている集団相互作用の中にあると考えます。
そして対人的学習はさまざまなレベルで起こり、その中でも感情修正体験が重要だと強調しています。

ヤーロムは集団療法の発展には、「依存性」「葛藤・支配・反抗」「受容・信頼感・親近感・凝集性」という3つの発展段階があると考えました。
更に彼は、以下の11項目を集団療法の治療因子として挙げています。

  1. 希望の注入:
    他の患者が良くなるのを見て、自分もという希望を持つこと。
    「ここに来るとホッとする」「なんとかやっていけそうな気がする」など、将来への希望が持てる場面を得ることができる。
  2. 普遍性:
    自分一人だけが悩んでいるのではないという感覚。
    様々な人々と接することで「自分だけではない」という安心感が得られる
  3. 情報の分与:
    病気の症状や日々の生活上の困りごとへの対処法など、他のメンバーから自分に役立つ情報を得ることができる。
  4. 愛他主義:
    他の患者を助けて、自分が役に立っているという感覚。
    グループでの自分の言動が誰かの役に立ち、誰かに喜ばれることで、自分自身が必要とされている存在だと感じることができる
  5. 原初的家族関係の修正的反復:
    自分の家族の中で体験したことの繰り返し。
    現実の家族と異なる許容的なグループで、受け入れがたい感情すら受け入れられる体験を通し、過去の圧倒的な感情の陰に隠されていた別の感情に気づくことができる。
  6. 社会化能力の発展:
    人づきあいが上手になる。
    安心感のあるグループのなかで、疑似的な社会体験を得て成長することができる。
  7. 模倣行動:
    人のまねをしながら、自分の行動を考える。
    生活技能、対人関係などにおいて、他のメンバーが持つパターンを参考にしたり、模倣して新しい対処法を得ることができる
  8. 人間関係の学習:
    対人関係から学ぶこと。
    グループのなかで言語的あるいは非言語的コミュニケーションが健全に機能することにより、安全な対人関係が体験できる。
  9. 集団の凝集性:
    グループがバラバラにならないこと。
    一体感の強いグループにおいて、受け入れられたという安心感によりコミュニケーションが活発化して、互いに強い影響を与えあう
  10. カタルシス:
    語ることによって重荷を下ろす。
    グループの中で受け入れられたと感じることで、奥底にしまっていた感情(特にネガティブな感情)に直面し、それを語ることでこころが癒されていく。
  11. 実存的要素:
    究極的には自分一人で現実に対決し、責任を取る。
    生きる意味や孤独、死などといった人生の真実について、ひとりではなくグループの中で探索することにより、次第に向き合っていけるようになる。
選択肢①は「愛他主義」を、選択肢②は「模倣行動」を、選択肢③は「集団の凝集性」を、選択肢⑤は「普遍性」のことを示していると捉えられます
以上より、選択肢①~選択肢③および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することが求められます。

④現在と過去の経験についての強い感情を抑制することで、コントロール力を高める。

これはヤーロムの因子で考えるならば「カタルシス」と逆のことが示されていると考えられます
他の集団療法の治療因子に関する知見を見てみましょう。

【Slavsonの示した治療因子】

  1. 転移
  2. カタルシス
  3. 洞察
  4. 現実検討
  5. 昇華
【Foulkesの示した治療因子】
  1. 他の患者にわかってもらえた
  2. 自分一人が悩んでいるのではない
  3. 人のふりを見て自分の問題について学ぶ
  4. 具体的な説明や示唆を受ける
  5. 集団全体の無意識が活発になる
【Corsini&Rosenbergの示した治療因子】
  1. グループに受け入れられたと感じる
  2. 他の患者を助けて、自分が役に立っていると感じる
  3. 自分一人が悩んでいるのではない
  4. 自分の行動パターンなどについて理解する
  5. 自分の考え方や、感じ方をグループで確かめる
  6. 治療者や患者に強い感情を持つ
  7. グループの中で対人関係を持てる
  8. 他の患者のしていることから、自分について学ぶ
  9. 人前で言えなかった気持ちを言う
  10. 共通経験を話したり、昇華、かまえない態度など
これらのように、本選択肢にあるように「強い感情を抑制する」ということは、治療因子として挙げられていないことがわかります。
よって、選択肢④が誤りと判断でき、こちらを選択することが求められます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です