公認心理師 2020-118

ここ数年の児童虐待の傾向と、その理由についての理解を問う問題です。

虐待事例に関わることが多い人であれば基本的な内容だと言えますし、どの領域にいても虐待は関わる可能性がある事態ですから理解しておきたいところです。

問118 児童虐待の防止等に関する法律〈児童虐待防止法〉が施行された2000年(平成12年から 2018年(平成30年)までの間、児童相談所における児童虐待相談対応件数は年々増加しているが、その背景として想定されるものの中で、不適切なものを1つ選べ。
① 警察との連携強化により、警察からの通告が急増した。
② 児童相談所全国共通ダイヤルの運用などにより、社会的意識が高まった。
③ 相談対応件数全体におけるネグレクトによる通告件数の割合が急増した。
④ 子どもの面前の家庭内暴力〈DV〉が心理的虐待に含まれるようになった。
⑤ きょうだい児への虐待は、他のきょうだい児への心理的虐待であるとみなされるようになった。

解答のポイント

近年の虐待の傾向の変化と、その要因について把握している。

平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数〈速報値〉」「厚生労働省子ども家庭局 児童虐待防止対策の取組状況について」を把握しておくと解きやすい。

選択肢の解説

本問に関しては、すべて「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数〈速報値〉」の中に正誤判断に使える記載がありましたね。

まずはここから抜き出してみましょう。


  • 心理的虐待に係る相談対応件数の増加(平成29年度:72,197件→平成30年度:88,389件(+16,192件))
  • 警察等からの通告の増加(平成29年度:66,055件→平成30年度:79,150件(+13,095件))
  • 心理的虐待が増加した要因として、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力がある事案(面前DV)について、警察からの通告が増加(平成29年度と比して児童虐待相談対応件数が大幅に増加した自治体からの聞き取り)。

上記の内容で本問の正誤判断はほぼ可能であろうと思います。

更に詳しい資料に関しては「厚生労働省子ども家庭局 児童虐待防止対策の取組状況について」になり、こちらも参考になるでしょう(というよりも、ここから出題されていると思われます)。

本解説では、上記のような傾向に至る社会背景等も含めて考えてみようと思います。

① 警察との連携強化により、警察からの通告が急増した。
④ 子どもの面前の家庭内暴力〈DV〉が心理的虐待に含まれるようになった。
⑤ きょうだい児への虐待は、他のきょうだい児への心理的虐待であるとみなされるようになった。

ここで挙げた選択肢は互いに関連しあっているので、まとめて解説していきます。

特に選択肢④および選択肢⑤に関しては、同じ文脈で説明が可能です。

これらに関わっているのはDV防止法の改正ですから、その歴史をざっとまとめておきましょう。


児童虐待防止法成立:2000年11月

DV防止法成立:2001年10月施行

児童虐待防止法・児童福祉法の改正:2004年10月以降順次施行

  • 児童虐待の定義の見直し:
    ①保護者以外の同居人による児童虐待と同様の行為を保護者によるネグレクトの一類型として児童虐待に含まれるものとすること。
    ②児童の目の前でドメスティック・バイオレンスが行われること等、児童への被害が間接的なものについても児童虐待に含まれるものとすること。
  • 通告義務の範囲の拡大(虐待を受けたと思われる場合も対象)
  • 市町村の役割の明確化(相談対応を明確化し虐待通告先に追加)
  • 要保護児童対策地域協議会の法定化

DV防止法 第一次改正:2004年5月公布・2004年12月施行

  1. 「配偶者からの暴力」の定義が拡大され、身体的暴力に限定されていたものから言葉や態度などによる精神的暴力も含むことになった。
  2. 保護命令制度が拡充され元配偶者も保護命令の対象とした。

DV防止法 第二次改正:2007年7月公布・2008年1月施行

  1. 保護命令制度の拡充
    (1)生命等に対する脅迫を受けた被害者に係る保護命令
    (2)電話等を禁止する保護命令:①面会の要求、②行動の監視に関する事項を告げること等、③著しく粗野・乱暴な言動、④無言電話、連続しての電話・ファクシミリ・電子メール(緊急やむを得ない場合を除く)、⑤夜間(午後10時~午前6時)の電話・ファクシミリ・電子メール(緊急やむを得ない場合を除く)、⑥汚物・動物の死体等の著しく不快又は嫌悪の情を催させる物の送付等、⑦名誉を害する事項を告げること等、⑧性的羞恥心を害する事項を告げること等又は性的羞恥心を害する文書・図画の送付等
    (3)被害者の親族等への接近禁止命令
  2. 市町村基本計画の策定:都道府県に策定義務を課していたが、市町村においても策定することを努力義務とする。
  3. 配偶者暴力相談支援センターに関する改正
    (1)市町村の適切な施設において支援センター機能を果たすようにすることを市町村の努力義務とする。
    (2)支援センターの業務として、被害者の緊急時における安全の確保を明記する。
  4. 裁判所から支援センターへの保護命令の発令に関する通知
    保護命令を発した旨及びその内容を、申立人が相談等した支援センターに通知する。
    市町村に努力義務を課すると組織の整備が進む一方で、対応に地域格差が生じたり、都道府県と市町村の役割分担が不明確と懸念する見方もある。

子ども虐待対応の手引き:2013年8月

  • きょうだいへの虐待を当該児童に対する心理的虐待であると例示した。つまり、保護者がきょうだいの一人に身体的虐待や心理的虐待、ネグレクト、性的虐待を行っているのを「見ている直接は手を下されていない他のきょうだい」は心理的虐待を受けていると明確に示した。

以下のDV防止法の改正に伴っての変化?:2013年12月

  • 警察がDV事案への積極的な介入及び体制を確立したことに伴い、警察から児童相談所への通告が増加した。

DV防止法 第三次改正:2013年7月公布・2014年1月施行

  • 法律名を「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」に変更(「等」を加えた)することで、これまで事実婚を含む配偶者や元配偶者からの暴力およびその被害者に限定されていた適用対象を、同居する交際相手からの暴力及びその被害者に拡大した。
  • 同居していない場合は依然対象外であり、デートDV(恋愛カップル間暴力)被害者の保護をどうするか、大きな課題が残されている。

児童相談所全国共通ダイヤルを3桁化:2015年7月

改正児童福祉法:2020年4月(2019.6 北海道札幌市で2歳女児の死亡事案が発生)

  • 児童虐待防止対策の強化を図るため、児童の権利擁護(体罰の禁止の法定化等)、児童相談所の体制強化(一時保護などの介入と、親権者支援を行う職員を分離)、児童相談所の設置促進、関係機関間の連携強化など、所要の措置を講ずる。
    ※DV対策との連携強化のため、婦人相談所及び配偶者暴力相談支援センターの職員については、児童虐待の早期発見に努めることとし、児童相談所はDV被害者の保護のために、配偶者暴力相談支援センターと連携協力するよう努めるものとする。

以上、大まかな流れをまとめてみました。

選択肢④および選択肢⑤に関しては、2004年の児童虐待防止法・児童福祉法の改正において、「保護者以外の同居人による児童虐待と同様の行為を保護者によるネグレクトの一類型として児童虐待に含まれるものとする」「児童の目の前でドメスティック・バイオレンスが行われること等、児童への被害が間接的なものについても児童虐待に含まれるものとする」が定められています。

また2013年の「子ども虐待対応の手引き」の中で、きょうだいへの虐待を当該児童に対する心理的虐待であると例示されたことも大きな契機となったと言えます。

よって、面前DVが心理的虐待として、保護者以外の者による児童への虐待は保護者のネグレクトであること(保護者が止めないからネグレクト)が定められたことになります。

こうした経緯もあり、その前から増加傾向にあった児童虐待件数は、更に増加の一途をたどることになりました。

もちろんこれは、「それまで虐待と呼んでよい状況だったのに除外されていた虐待」を正しく含めるようになったという意味で、実態に沿った数値に近づいているということになります。

また、2013年にはDV防止法の第三次改正の施行に先立って、警察がDV事案への積極的な介入及び体制を確立しました。

それによって、警察から児童相談所への通告が増加します。

なお、2016年には警察庁宛に「児童の安全確保を最優先とした児童虐待への対応について(通達)」が出されており、この中で「児童相談所に対する通告等の確実な実施等」が明確に示されており警察官が児童虐待を疑う状況の場合は即座に児童相談所へ通告という対応を取るようになったことが窺えます。

そのため、別件で警察官が臨場した場合であっても、特にそれがDV事案であれば児童相談所への通告も併せて行われることになるということですね。

そのためか、相談経路は警察等(45%)、近隣知人(14%)、家族(8%)、学校等(7%)からの通告が多くなっています。

これが選択肢①の「警察との連携強化により、警察からの通告が急増した」ということを意味していると言えます。

以上より、選択肢①、選択肢④および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

② 児童相談所全国共通ダイヤルの運用などにより、社会的意識が高まった。

2015年7月に児童相談所全国共通ダイヤルを3桁化したという変化があります。

児童相談所全国共通ダイヤルは10桁(0570-064-000)でしたが、「189」→「いちはやく」になりました。

全国の児童相談所における児童虐待の相談処理件数が増加の一途をたどるなか、国は、2009年10月1日より実施している児童相談所全国共通ダイヤルについて、2015年7月1日から3桁化を開始しました。

3桁化は、その覚えやすさから共通ダイヤルの社会的認知を飛躍的に拡大し、児童相談所に対する子ども虐待の通告をいっそう促進することが期待されます。

通告は児童相談所による子ども虐待対応の端緒となるものであるから、3桁化により通告が促進されることは高く評価されています。

2019年12月3日より、189の通話料が無料になったという変化がありました(というか、それまでは無料じゃなかったんですよ…。虐待の通告は国民の義務なのに。義務を課しておいて有料とはため息の出る話です(でした))。

ただ、このシステムにも課題はあります。

189にかけた時の主な転送パターンとして、以下のようになっております。

  1. 固定電話からかけた場合
    発信した電話の市内局番等から管轄が特定できれば、そのまま児童相談所へ転送。
    特定できない場合は、ガイダンスに沿って発信者にお住まいの地域情報を入力してもらい、管轄児童相談所を特定。
  2. 携帯電話から発信した場合
    オペレーターが発信者からお住まいの地域情報を聞き取り、管轄児童相談所を特定。

つまり、プッシュ信号を発信しうるNTTの固定電話から発信し、かつ、発信者の市外局番から管轄の児童相談所が特定できるという限られた場合には、電話はそのまま当該児童相談所に転送されるものの、その他の場合は自動音声案内により発信者に郵便番号を入力するよう求めるなど、一定の手間と時間を要求するシステムとなっているわけです。

そうだとすると、少なからぬ発信者が途中で電話を切ってしまうのではないかと懸念されます。

虐待の通告は慣れていない人にとって結構な不安を伴うものですから、こうした煩雑な手順を設けることで「やっぱり止めとこう」「勘違いかもしれないし」「もしも通告がばれて逆恨みされても嫌だし(実際には通告はばれないが)」などと思い、電話を切る可能性もあります。

また、児童相談所が対応すべきケースと市町村が対応すべきケースを適切に分類することも重要であるところ、通告の受付段階で適切なインテーク機能が設けられなければ、共通ダイヤルにかかった電話はすべて児童相談所に集中することになるから、現行法が想定し、かつ、これまで進められてきた児童相談所と市町村との役割分担にも混乱を及ぼす恐れがあるとされています(一般社団法人日本子ども虐待防止学会 児童相談所全国共通ダイヤルの三桁化に向けた緊急提言)。

上記のような課題はあれども、通告の件数が増えていることを踏まえれば、一定の効果はあったと評価してよい変化であったと思います。

よって、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 相談対応件数全体におけるネグレクトによる通告件数の割合が急増した。

統計としては、心理的虐待の割合が最も多く(51.5%)、次いで身体的虐待の割合が多い(26.0%)という結果になっています。

選択肢①、選択肢④および選択肢⑤の内容からも明らかなように、「保護者がきょうだいに虐待を行っていた時、それを見ている他のきょうだい」や「DVを受けている母親(父親)を見ている子ども」に関しては心理的虐待を受けていると判断されること、そしてそういう状況に臨場した警察が児童相談所に通告することが増えたことなどから、ここ数年は心理的虐待が急増しています。

統計を開始した当初は身体的虐待、ネグレクトが多かったのですが、これらは減少し、その分心理的虐待が増加しているという状況です。

個人的には、「これはどう考えてもネグレクトに該当するのだが」と思う事例でも児童相談所が対応しないこともあるので(それがなぜかもわかっているので、一概に悪いとは思っていない)、実態としてはもう少し異なるだろうという気持ちもあります。

いずれにせよ、心理的虐待の急増はここ数年の傾向として言われていることですから、しっかりと押さえておきたいところですね。

いわゆる「マルトリートメント」という概念が出回ったことも、こうした心理的虐待の認知件数の増加に寄与しているのかもしれません(マルトリートメントに関しては、友田明美先生の著作をチェックしておきましょう)。

以上より、選択肢③が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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