公認心理師 2020-104

神経性無食欲症の身体症状や精神症状についての理解を問う問題です。

過去問でも何度も出題がある神経性無食欲症ですから、きちんと押さえておきたい問題と言えますね。

問104 神経性やせ症/神経性無食欲症の病態や治療について、正しいものを1つ選べ。
① うつ病が合併することは少ない。
② 未治療時は、しばしば頻脈を呈する。
③ 無月経にならないことが特徴である。
④ 心理社会的要因に加え、遺伝的要因も発症に関与する。
⑤ 未治療時に、しばしばリフィーディング症候群を発症する。

解答のポイント

神経性無食欲症の精神症状や身体症状について把握している。

選択肢の解説

① うつ病が合併することは少ない。

神経性無食欲症に関してはDSM-5に診断に必要な情報が載っていますが、その症状はそれだけにとどまりません。

神経性無食欲症では、DSM-5にあるような低体重、肥満恐怖、認知の歪みだけでなく、多くの身体症状や精神症状が生じる可能性があります。

なお、身体症状に関しては他選択肢で詳しく述べていますから、ここでは精神症状について主に述べていくことにしましょう。

精神症状として、うつ気分や不安、こだわりが強くなるなどが見られやすいです。

元々、神経性無食欲症では強迫性や自己愛的な傾向がかなりの割合で見受けられることは指摘されております。

また、境界性人格との関連も見られる事例があり、こうした事例では見捨てられ不安が背景に控えていることも少なくありません。

強迫性にせよ自己愛性にせよ境界性にせよ、抑うつとの関連は深い心理的特徴と言えますし、神経性無食欲症でSSRIが効果ありとされているのは、こうした心理的特徴を有していることも一因と言えるでしょう。

抑うつ感と摂食障害のごく浅い意味での心因論を見てみましょう。

神経性無食欲症では、ある領域で一定の評価を得ていて、自分の自己愛的な満足を得ていた人が、次第に周囲が伸びてきて平均化されて、自分がみんなより上だという感覚が持てなくなったときに、しばしば不食が始まります(ある領域のアスリートに摂食障害が多いのは、こうした背景があるのかもしれません)。

不食は自分自身をコントロールするという確かな感覚があるので、最初は自己愛的な満足感があり(精神分析的に言えば躁的防衛)、まだ安定しているように見えます。

しかし、徐々に抑うつが強くなりますし、治療関係に入ると自己愛的思い込みや躁的防衛が衰え抑うつ的な傾向が完成し、Depressionに近い状態になって、継続的に落ち込むようなことが起こってきます(これが一概に悪いというわけではありません。心理療法自体が自分の現実に向き合うという側面がある以上、この抑うつは現実的な反応と言えます)。

だからと言って「うつ病だから」と不食を取り上げなかったりするのは避けた方が良いでしょう(抑うつのことばかり言って、食事の問題を話し合ってくれないというクライエントは少なからずおります。もちろん、うつ病の治療を行う中で良くなるクライエントもいるのでしょうが)。

神経性無食欲症にきちんと照準を当て、抗うつ剤も用いながら、心理療法的なアプローチを行っていくことが重要です。

以上のように、神経性無食欲症において抑うつ反応はかなりの頻度で見られるものです。

少なくとも私が見た事例では、すべてで抑うつ的な状態を経験しています。

それも、上記のような自己愛的、境界的、強迫的な人格特性とその背景にある歴史を理解すれば無理からぬことだと思います。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 未治療時は、しばしば頻脈を呈する。

本選択肢では、神経性無食欲症の身体症状に関する理解が求められています。

痩せや栄養不足による症状として、無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫などがあります。

選択肢にある頻脈は脈が速くなることであり、神経性無食欲症の症状にある徐脈は脈がゆっくりになることですから逆の意味になっていますね。

極度の痩せによる飢餓反応から甲状腺機能が低下します。

甲状腺ホルモンの分泌低下によって、低体温、低血圧、徐脈などが生じることになるのです。

心理支援というと、どうしても心理的な要因に目を向けがちですが、こうした身体症状についてもしっかりと目を向けておくことが重要です。

もちろん、公認心理師は身体的な治療はできませんが、カウンセリングにおいてそれを「話題にする」ということは可能ですよね。

そして、こうした身体症状についても理解し、時には心理教育を行うことができるくらいの知識を有していることは大切なことです。

彼女らに対して、身体症状を話題にし、その機序や治療法(もちろん単なる治療法というよりも、本人の意欲等も兼ね合わせた上での「治療法」ということ)をやり取りすることができるという姿は、彼女らに「知っている」と思わせ密かに信頼を高める可能性を上げてくれます。

どんな場合でも知識は力ですし、同時に知識をクライエントに惜しみなく公開できるという「情報の独占性を手放す力」も重要です。

以上より、神経性無食欲症で治療を行っていない場合、すなわち痩せが進行してくると、徐脈を呈することがわかりますね。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 無月経にならないことが特徴である。

こちらの選択肢は「DSMの改訂内容」を把握していると解きやすい問題です。

無月経は、DSM-Ⅳ-TRまで診断基準に挙げられていましたが、DSM-5では除外された項目になります。

この際、「DSM-5で除外されたということは、無月経は摂食障害の基準にならないからだろう」と考えるのは不適切です。

DSM-Ⅳ-TRでは「初潮後の女性の場合は、無月経、すなわち月経周期が連続して少なくとも3回欠如する(エストロゲンなどのホルモン投与後にのみ月経が起きている場合、その女性は無月経とみなされる)」という項目がありました。

一方で、DSM-5の日本語版での大きな変更点は、anorexia nervosa(AN)の日本語訳を「神経性食欲不振症/神経性無食欲症」から「神経性やせ症/神経性無食欲症」、bulimia nervosa(BN)を「神経性大食症」から「神経性過食症」としました。

ANは「食欲不振」よりも「ボディイメージの障害」や「やせ願望」である点を今回は考慮され、BNは「大食」よりも「過食」のほうが一般に受け入れやすいと配慮されたと推察されます。

これらを踏まえると、無月経という「食欲不振」に伴う状態よりも、「ボディイメージの障害」や「やせ願望」がその診断において重要であるという判断だろうと思います。

そこでDSM-5では、肥満への恐怖や低体重の深刻さへの認識の欠如は残す一方で、無月経の基準を除いたのだろうと思います(ほかにも「期待される体重の85%以下」が削除されていますね)。

もちろん、DSM-5で身体的な側面を軽視しているのではなく、重症度判定ではBMIを取り入れる等の変更を行っています。

あくまでも「神経性やせ症/神経性無食欲症」を判断するうえで重要なのは、上記のような「肥満への恐怖」や「低体重の深刻さへの認識の欠如」のような心理的傾向を有していることであると考えたということですね。

ただし、DSM-5では削除されたとはいえ、無月経は神経性無食欲症の女性に生じやすい反応であることは変わりありません。

痩せや栄養不足による症状として、無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫などがあります。

代表的な症状は以下の通りです。



こうした体重減少性無月経で起きてくる症状は、エストロゲン(女性ホルモン)の低下が原因とされています。

食事制限が過度になってくると、食事で摂取するより消費するカロリーの方がかなり多いため、エネルギー収支がマイナスになって体重現象が起こりやすくなります。

極端な痩せになると、視床下部における神経伝達物質の変調をきたし、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が低下した結果、脳下垂体からのゴナドトロピンの分泌が低下し、卵巣を刺激することができなくなるため、無排卵・無月経を招来することになります。

無月経は、痩せて女性ホルモンが減少している状態ですが、単純に女性ホルモンを足せば良いわけではありません。

診療ガイドラインでは、体力が十分に回復していない時に月経を再開させるべきではない、と提唱されています。

そもそも、無月経は治療による病状の好転と共に改善する傾向が高いので、まずは体重の回復が大切で、ある程度体重が回復してから月経の再開を目指すことになります(具体的には、体重が標準体重の70%以上の場合にホルモン治療を行う)。

以上のように、無月経は神経性無食欲症の代表的な身体症状です。

患者が既婚で子どもを望んでいる場合などは、その改善も重要な治療目標になりうることを理解しておくことが大切ですね。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 心理社会的要因に加え、遺伝的要因も発症に関与する。

こちらについては、厚生労働省のページに詳しく載っていましたので、まずは引用していきましょう。


摂食障害の発症には、社会・文化的要因、心理的要因、また生物学的要因が複雑に関与しており、以下に説明するように、遺伝子-環境因子の相互作用による多因子疾患と考えられています。

【社会・文化的要因】

摂食障害の心理的特徴の中核として、体重や体形へのこだわりや体形への不満があります。その点、近年のわが国における患者数増加の背景には「やせを礼賛し、肥満を蔑視する」西欧化した現代社会の影響がうかがわれます。つまり、スリムをもてはやす社会、文化の影響です。

わが国では、20代女性の平均体重は毎年低くなり、標準体重の-10%の一歩手前まできています。マスコミや雑誌などでは、スリムになるための広告を毎日のように目にします。個々人の病因は異なっていても、全体として考えると、昨今の摂食障害の増加には、こうした社会的影響も否定できません。

【心理的要因】

重要なこととして、摂食障害の原因としての心理的特徴と、摂食障害の発症後の患者に認められる心理的特徴は区別しておく必要があります。

従来、否定的な自己評価あるいは低い自尊心(自己評価)が摂食障害全体と、強迫性パーソナリティ傾向や完ぺき主義がANと、また、中でもとくに抑うつや不安などがBNならびにむちゃ食い障害の発症と関連があると報告されており、こうした心理的特徴が発症危険因子あるいは準備因子のひとつとして考えられます。

しかしながら、注目すべきは 1950年代に米国ミネソタ州で行われた、健康で若い志願兵に対する半飢餓研究です。半年で体重を平均25%減少させる程度の食事制限によってもたらされた飢餓、あるいはその後の復食期の観察で、健康人においても飢餓によって抑うつ、不安、過敏性、易怒性、あるいは精神病的症状が出現し、自己評価の低下や強迫性の増強など、一般に摂食障害患者に特異的とされた心理的変動が認められたということです。したがって、摂食障害患者にみられる心理的特徴でもって、それを心理的要因だとすることには慎重でなければなりません。むしろ、病気の維持因子あるいは増悪因子として作用している可能性も十分考えられます。

【家族環境】

両親の別居や離婚など両親の不和、あるいは両親との接触の乏しさ、親からの高い期待、偏った養育態度も発症推進的役割を果たすといわれています。家族のダイエット、家族その他からの食事や体形および体重についての批判的なコメントなども病前体験として、発症に関与している可能性が考えられています。

【遺伝的要因】

しかしながら、前記の心理・社会的要因が強いものは誰でも摂食障害となるわけではありません。発症に至るのはそのうちのごく一部です。

近年、摂食障害への罹患感受性に遺伝的要因が重要な役割を果たしていることが家族内集積の研究や双生児研究で示されてきました。それぞれ異なった遺伝子がANならびにBNの発症に関与しており、ANの遺伝率はBNよりおおむね高いと報告されてきています。

しかし、両者の間にも遺伝的関連が認められており(最近の大規模研究では、両者の遺伝要因の相関が.46、環境要因の相関が.42と報告されています)、ANで発症しても途中でBNに病型が変わること(頻度は少ないがその逆もある)、同一家族内に両者の病型が存在することなどから、ANとBNはまったく異なった病気ではないようであることがわかってきています。

いい換えれば、ANとBNはそれぞれ独立した罹患感受性遺伝子(病気への罹りやすさに関連している遺伝子)を有しているものの、まったく異なった遺伝的、環境的背景をもつ摂食障害ではなくオーバーラップしたものであることが示唆されているのです。


上記の通り、神経性無食欲症には遺伝的要因も係わることが明らかになっています。

カウンセラーのような心理支援者は、どうしても心理社会的な要因に目が向きがちですが、生物学的な要因も併せて考えられるようになることが大切ですね。

以上より、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤ 未治療時に、しばしばリフィーディング症候群を発症する。

リフィーディング症候群とは、 慢性的な栄養不良状態が続き高度の低栄養状態にある人にいきなり十分量の栄養補給を行うことにより発症する一連の代謝合併症の総称を指します。

第二次世界大戦後に、解放された捕虜が食料を十分に与えられたときに心不全症や神経症状を呈して死亡したことをきっかけに知られるようになりました。

再栄養時に、増加した循環血漿量に対する心筋の不適応、増加したインスリンによって水、糖、K(カリウム)、P(リン)、Mg(マグネシウム)の細胞内流入による電解質異常、ビタミンB1欠乏が起こり、低P血症が死因になります(リフィーディング症候群の症状は他にもあって後述もしますが、まずは死亡する仕組みについて知っておきましょう)。

よく絶食ダイエットを行ったときには、急に栄養を入れてはいけないと言われていますが、それはリフィーディング症候群の恐れがあるからですね。

ちなみに私は絶食ダイエットによって4か月で20kg瘦せたことがあります(別に疾患とかではなく、単なる我流のダイエットです)。

なお「diet」の「t」は「time」の「t」です。

つまり時間をかけずに行うと「t」が取れて「die(死)」になりますから、当然私のやり方はお勧めできるものではありませんね(私の場合、ダイエットの前後で食生活の改善(野菜を食べて美味しいと感じることが増えた)が生じたのはラッキーでしたが)。

リフィーディング症候群では、神経性無食欲症のような長期間栄養不良状態が続いている患者に積極的な栄養補給を行うことにより、低リン血症をきたし、発熱、痙攣、意識障害、心不全、呼吸不全などが現れます。

栄養補給開始直後ないし4~5日後に発症するとされています。

血中リン濃度を測定することと、投与エネルギーを減じ、直ちに静脈的なリン酸の補給が必要です。

この現象は長期間の飢餓によりエネルギー代謝が脂肪中心であったのが、栄養の投与により急激に炭水化物に変化し、それに伴って血中の電解質が細胞内に移行することによって生じます。

つまり、細胞の中に急に膨れたり水浸しになったりして浮腫(心臓や肺に水が溜まる)が起きたり、電解質異常のため不整脈が起き心停止に至る恐れもあるということですから、飢餓状態の時は少しずつ栄養を摂るようにすることが重要です。

こうした点を踏まえると、リフィーディング症候群の問題は本選択肢のような「未治療時」にではなく、むしろ治療を開始した後に生じる可能性を考える方が妥当でしょう。

具体的には、低体重のため栄養投与を行う必要があるときに、その栄養投与によって生じる懸念があります(つまり、救急治療と再栄養時に注意が必要になってきます)。

こちらでは、リフィーディング症候群のリスク因子について挙げられているので転載します。

  • 初診時での栄養不良(思春期の場合はBMI中央値の70%未満、成人の場合はBMIが15未満が最もリスクが高い)
  • 慢性的な栄養不良で、10日以上、ほとんどエネルギーを摂取していない
  • 過去にリフィーディング症候群になったことがある
  • 現在の体重に関係なく、体重減少のスピードが速い(直近3〜6ヵ月で、体重の10〜15%を上回る減少率)
  • 過量飲酒歴がある
    ⇒再栄養時にウエルニッケ脳症の発症リスクがあるため、再栄養開始前に①ビタミンB1(チアミン)、②葉酸の補給が必要。
  • 利尿剤、下剤、もしくはインスリンの不適切な使用がある
  • 再栄養開始前に電解質異常がみられる

経口、経管、経静脈性栄養のいずれでも起こり、投与エネルギーが多くて増量が早いほど起こりやすいです。

開始投与エネルギーの目安は30kcal/kg/日未満とされていますが、250kcal/日でも発症した報告があります。

リフィーディング症候群は、発症早期の臨床症状が非特異的で認識されにくいので、①発症の可能性を医療従事者が認識、②栄養状態のアセスメントで危険因子を把握、③栄養療法導入前から電解質の補正や高P含有補助食品の摂取、④水分やエネルギー量は少量から開始して漸増、⑤電解質、Zn(亜鉛)などの微量元素、ビタミンB1の補充、⑥導入早期のモニタリング、⑦血清P値の低下傾向が認められたら迅速にリン酸性製剤内服が勧められます。

上記の通り、リフィーディング症候群は、未治療時ではなく栄養投与(再栄養時)で注意する必要があります。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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