問106は自殺のリスク因子の高低を判断する問題です。
「自殺を予防する 世界の優先課題」という資料には、いろいろ詳しく載っているのでご参照ください。
問106 自殺の予防の観点から、自殺のリスクが最も低い因子を1つ選べ。
①精神障害
②自殺企図歴
③中年期の女性
④社会的支援の欠如
⑤自殺手段への容易なアクセス
自殺予防は精神科独自の問題と考えられがちですが、自殺の実施には精神科医療に導入されないうちに自殺行動に及んでいる人が圧倒的に多いです。
むしろ、自殺の危険の高い患者でもまずは精神科以外の科に受診している人が圧倒的に多いです。
そのため、医療に係わる多くの人が自殺の危険評価について正しい知識をもつことが望まれます。
我々も職業柄、しっかりと押さえておかねばならない事項であると言えるでしょう。
解答のポイント
自殺のリスク因子の高低を把握していること。
選択肢の解説
①精神障害
②自殺企図歴
④社会的支援の欠如
⑤自殺手段への容易なアクセス
自殺の危険因子については以下の通りまとめられます。
- 自殺未遂歴:自殺未遂は最も重要な危険因子。自殺未遂の状況、方法、意図、周囲からの反応などを検討する。
- 精神障害の既往:気分障害、統合失調症、パーソナリティ障害、アルコール依存症、薬物乱用など。
- サポート不足:未婚、離婚、配偶者との死別、職場での孤立など。
- 性別:自殺既遂者は男性>女性、自殺未遂者は女性>男性
- 年齢:年齢が高くなるとともに自殺率も上昇
- 喪失体験:経済的損失、地位の失墜、病気やけが、業績不振、予想外の失敗
- 他者の死の影響:精神的に重要なつながりのあった人が突然不幸な形で死亡
- 事故傾性:自己を防ぐのに必要な措置を不注意にも取らない。慢性疾患に対する予防や医学的な助言を無視する。
こちらの資料では、自殺手段への容易なアクセスを制限することが、重要な自殺予防になることを繰り返し述べていますね。
これらのような項目を参考にして、自殺の危険を疑ったら、早い段階で精神科治療へと導入することが重要になります。
治療の原則としては、
- 問題解決能力を高めるための精神療法
- 自殺の危険の背後に潜んでいる精神障害に対する適切な薬物療法
- 周囲の人々との絆の回復
③中年期の女性
WHOの調査では、唯一の例外(中国)を除き、首尾一貫して男性の自殺率が女性よりも高いことが示されています。
1950年以来の全世界の自殺率では、1950年~1995年の間に、男性では49%の、女性では約35%の自殺率の増加が認められます。
男性の自殺率は女性の自殺率よりも常に高いことが示され、男女比は、1950年は3.2:1、1995年は3.9:1、2020年は3.9:1(当時の推定値)となっています。
年齢に着目すると、加齢とともに自殺率が増加する傾向にあります。
年齢層別の自殺率は、5~14歳の0.9にはじまり、75歳以上の66.9まで増え続けます。
この傾向自体は女性にも認められ、5~14歳の0.5、75歳以上では29.7へと増加します。
厚生労働省のこちらの資料にもありますが、男性で自殺は10歳~44歳まで第1位、女性では15歳~29歳で第1位となっています。
上述した通り、男性は社会状況の変化による自殺もかなり見受けられるため、中年期の自殺が多く見られます。
古くからの日本の自殺では、二峰分布(若年と中年に山がある)となっていましたが、ここ数年は中年の山は下がってきているということですね。
以上より、もちろん中年期の女性でも自殺の可能性はあるのですが、男性の中年期よりも低いこと、本問で示されているその他の因子の方が自殺リスクという面では重要であることなどが言えそうです。
中年期の女性の場合は、がんなどの身体疾患によるリスクの方が大きそうですね。
よって、選択肢③は他の選択肢の要因に比べて自殺リスクは高いと言えず、こちらを選択することが求められます。