ここ数年の痛ましい児童虐待による死亡事件によって、その対策として児童相談所の体制や連携強化の重要性が指摘されています。
この問題は、その点について明確に示した資料をもとに作られています。
問111 児童虐待防止対策における、児童相談所の体制及び関係機関間の連携強化について、不適切なものを1つ選べ。
① 児童心理司を政令で定める基準を標準として配置する。
② 第三者評価など、児童相談所の業務の質の評価を実施する。
③ 都道府県は、一時保護などの介入対応を行う職員と、保護者支援を行う職員を同一の者とする。
④ 学校、教育委員会、児童福祉施設等の職員は、職務上知り得た児童に関する秘密について守秘義務を負う。
⑤ 家庭内暴力〈DV〉対策と児童虐待対応の連携を強化し、婦人相談所や配偶者暴力相談支援センターなどとの連携・協力を行う。
解答のポイント
「児童虐待防止対策の抜本的強化について」の内容・要点を把握している。
選択肢の解説
2018年に目黒区で起こった虐待死の事件を覚えている人も多いと思います。
毎日午前4時に起こして勉強を強いたり、感情にまかせて顔面を殴ったり、冷水を浴びせかけたりするといった凄惨な虐待の末に、栄養失調がもとで敗血症を起こすなどして僅か5歳の女児が死亡した事件です。
女児がしたためた親にあてた手紙が公開され、その内容が非常に印象的でしたね。
この事件や虐待事件の増加を契機に子ども虐待への対応が積極的に進められ、2019年3月19日に開催された児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議において「児童虐待防止対策の抜本的強化について」が決定されました(少年法や児童虐待防止法の改正等は、いつもこうした「悲惨な事件」の後の世論の動きに合わせて起こっていることが多いです)。
これは、児童虐待防止対策のための制度改正や、緊急総合対策をはじめとした関係閣僚会議における決定等のこれまでの取組の実施について、改めて徹底するとともに、児童虐待防止対策の抜本的な強化を図るために決定されました。
本対策を実施するため、児童虐待防止対策を強化するための児童福祉法等の改正法案を今国会に提出するとともに、2020年度予算に向け、さらにその具体化を図ってきました。
本問は、この対策に関する内容が問われています。
この対策の内容に関しては、いくつかかいつまんだ形で報道されてはいますが、専門家としては「かいつまんだ理解」ではなく、きちんと基となっている資料に触れ、内容を把握しておくことが求められます。
以下では、この対策の内容を踏まえつつ解説していきましょう。
① 児童心理司を政令で定める基準を標準として配置する。
② 第三者評価など、児童相談所の業務の質の評価を実施する。
③ 都道府県は、一時保護などの介入対応を行う職員と、保護者支援を行う職員を同一の者とする。
こちらは上記の対策の「3 児童虐待発生時の迅速・的確な対応」の「(1)児童相談所の体制強化」に記載されている内容です。
「(1)児童相談所の体制強化」の内容は以下の通りです。
① 介入的な対応等を的確に行うことができるようにするための体制整備
- 法・一時保護等の介入的対応を行う職員と支援を行う職員を分けるなどの児童相談所における機能分化を行う。
- このため、児童相談所において、機能に応じて部署や職員を分けることのほか、専門人材の確保及び育成に関する方策など、体制整備を推進することについて、国において、その取組内容を示すとともに、都道府県等において、体制整備に関する計画策定を進める。
- 国において、介入的な対応等に着目した研修の充実、アドバイザーの派遣や助言を行う。
② 児童相談所において常時弁護士による指導又は助言の下で対応するための体制整備
- 法・児童相談所が措置決定その他の法律関連業務について、常時弁護士による助言・指導の下で適切かつ円滑に行うため、弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行うものとする。
- 併せて、関係団体の協力も得た採用活動や研修の充実、弁護士に係る体制整備に必要な財政支援等の拡充を図る。その際、より速やかに体制整備が図られるような支援を行う。
③ 児童相談所における医師・保健師の配置の義務化
- 法・児童相談所に、医師及び保健師のいずれもの配置を義務化する。
- 併せて、関係団体の協力も得た採用活動や研修の充実、医師・保健師の配置や日常的に医師とともに対応できる体制の整備について、必要な財政支援等の拡充を図る。その際、医師等に係る児童相談所の体制整備と併せ、小児科医、精神科医、法医学者など事案に即した専門性を有する医療関係者との連携体制の強化を図る。
- 医師などの医療関係者と児童相談所や市町村・要保護児童対策地域協議会における情報共有や研修などによる連携体制を強化する。
④ 子どもの安全確保を最優先とした適切な一時保護や施設入所等の措置の実施、解除
- 一時保護や施設入所等の措置の実施及び解除の判断に用いるリスクアセスメントシートについて、信頼性、妥当性を科学的に検証するとともに、その活用方法の在り方を含め検討し、より実践的に活用できるものに見直す。
- 家庭復帰の際には、その条件として、あらかじめ家庭訪問の頻度や通所指導の頻度を示すなど、安全を確認することを保護者に提示し、それに基づき指導する。
- 法的・医学的知見を踏まえた対応ができるよう、一時保護や施設入所等の措置の実施及び解除の判断等の意思決定に、日常的に弁護士や医師等が関与し、児童福祉司と共に対応する。
⑤ 第三者評価など児童相談所の業務に対する評価の実施
- 法・第三者評価など児童相談所の業務に対する評価を実施するよう努めるものとする。
- 既に取り組んでいる自治体の例や海外の例等も参考とし、国において、標準的な指標や実施方法等についてガイドラインを策定し、地方自治体における取組を支援する。
⑥ 新プランに基づく児童福祉司の 2000 人増等に向けた支援の拡充
- 新プランに基づき、児童福祉司、児童心理司、保健師等について、計画的に人材確保が進むよう、採用活動に関する支援や関係団体への働きかけ等、必要な支援の更なる拡充を図る。
- 児童福祉司等の専門人材確保、専門性確保のため、都道府県等に対し、児童相談所OBの活用や専門職採用、一定の経験年数を積んだ職員が確保できるような人事ローテーションへの配慮等が行われるよう要請する。
⑦ 児童福祉司等への処遇改善
- 児童相談所の児童福祉司等の職員は、児童虐待に関する通告への対応、介入的な対応や夜間及び休日の緊急的な対応に備えが必要となる。こうした精神的・肉体的負担が大きい業務の性質や専門性を有する人材の確保が求められていること等を踏まえ、手当などによる処遇改善を図る。
⑧ 児童心理司の配置基準の法定化
- 法・都道府県は、児童心理司の数について、政令で定める基準に基づき定めることを法律上規定する。
※児童心理司とは、子どもや保護者等に対し、心理に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導(心理療法、カウンセリング、助言指導等)を行う者。現行は、通知において、児童福祉司2人につき1人を配置することを定めている。
⑨ 児童福祉司の任用要件の見直し等による職員の資質向上
- 法・児童福祉司及び児童相談所長の任用要件として、精神保健福祉士、公認心理師を法律上規定する。
- 法・児童福祉司の任用要件のうち、社会福祉主事として従事したことがある者に係る要件について、児童福祉事業の経験に代えて、相談援助業務の経験を必要とすることとする。
- 法・児童相談所における指導及び教育を行う児童福祉司(スーパーバイザー)の配置を規定するとともに、その任用要件について、児童福祉司として概ね5年以上勤務した者であることに加え、厚生労働大臣が定める基準に適合する研修の修了者でなければならないこととする。
⑩ 児童相談所の業務の外部委託等の推進
- 児童相談所が行っている業務のうち、里親養育支援業務や保護者支援プログラムの実施等、外部への委託により、業務が適切かつ効果的に実施することが期待される業務について、民間団体等への委託を推進する。
- 療育手帳の判定業務について、その一部等を児童相談所以外の機関が実施している事例等を把握した上で、障害児・者施策との整合性にも留意しつつ、事務負担の軽減につながる方策を検討する。
⑪ 児童虐待による死亡事例等の検証の活用等
- 国が実施する死亡事例検証において、保護者の状況等を含め、虐待の要因等について引き続き分析を深めるとともに、検証結果を踏まえた体制強化等の対応状況をフォローアップする。また、検証結果等が十分活かされるよう、これを活用した実践的な研修をきめ細かく実施する。
ここで挙げた選択肢については、上記の中に記載がありますね。
選択肢ごとに見ていきましょう。
まず選択肢①についてですが、こちらは上記の「⑧ 児童心理司の配置基準の法定化」に「法・都道府県は、児童心理司2の数について、政令で定める基準に基づき定めることを法律上規定する」とありますから、選択肢の内容と相違ないことがわかりますね。
そもそも児童心理司は、児童福祉法第12条の3⑤に基づいて児童相談所に配置されている心理分野の専門職員であり、療育手帳交付にあたっての心理判定業務をはじめ、子供とその家族の相談に応じ、診断面接、心理検査、観察により対象者の状況を評価し、これに対応した心理療法やカウンセリング、助言指導などを行いますが、法律上は特定の名称はなく「判定をつかさどる所員」と表記されています。
つまり、現状では児童心理司は法律で定められた職員ではないということですから、これを法定化し配置基準を明確にするというのが、本対策の一つということになります。
続いては、選択肢②の内容を見ていきましょう。
こちらについては、上記の「⑤ 第三者評価など児童相談所の業務に対する評価の実施」に示されていますね。
虐待の件数が増えていて、社会の関⼼・意識が⾼まってきたことが本対策の背景にあると述べましたが、もう一つ重要な事柄として「児童相談所が相談・受理をしながらも、死亡・重症に⾄った事例」が発生していることです。
国では平成30年7⽉20⽇に児童虐待防⽌対策に関する関係閣僚会議において「児童虐待防⽌対策の強化に向けた緊急総合対策」を決定、同年12⽉18⽇に児童虐待防⽌対策に関する関係府省庁連絡会議において「児童虐待防⽌対策体制総合強化プラン」を策定する等してきました。
しかし、平成31年1⽉に関係機関が関わりながらも児童虐待による死亡事件が発⽣したことを受け、同年2⽉8⽇に「『児童虐待防⽌対策の強化に向けた緊急総合対策』の更なる徹底・強化について」を決定し、同年3⽉19⽇に「児童虐待防⽌対策の強化を図るための児童福祉法等の⼀部を改正する法律案」が国会に提出されました。
今回の改正案では、「都道府県知事は、児童相談所が⾏う業務の質の評価を⾏うことその他必要な措置を講ずることにより、当該業務の質の向上に努めなければならないこと」とされました。
また、改正案の閣議決定に先⽴ち、閣僚会議において決定された「児童虐待防⽌対策の抜本的強化について」の中においても「第三者評価など児童相談所の業務に対する評価を実施するよう努めるものとする」とされており、児童相談所の業務の質を評価する仕組みとして、第三者評価の実施が求められています。
このように、選択肢②の内容は「児童相談所の体制強化及び設置の促進」の一環として定められたものであることがわかりますね。
こちらについては、正直理解できる部分と難しいだろうと思う部分があります。
児童相談所とそれ以外の機関との間で起こる齟齬として「ある事例を一時保護するか否かの判断の線引き」があります。
「児童相談所に相談しながらも死亡した事例が出た」という事態も、児童相談所の一時保護の判断が遅かったり事態を甘く見たためという捉え方が多いでしょう。
学校その他の機関にいると、明らかに虐待であろうと思えたり、そこまで酷い状況でなくてもこれから明らかに悪化することが目に見えている事例があり、こうした事例に対して一時保護をしてほしいと思うことは確かにあります(ここら辺が「理解できる部分」ですね)。
しかし、児童相談所は他機関が思うようには一時保護してくれません。
ただし、それもきちんと考えれば理解できます。
一時保護は確かに子どもの生命を安全な場所に強制的に移動させることができますが、それは親と強制的に分離させるということを意味しています。
まず、どのような親であろうと子どもにとってはその親しかおらず、その親から強制的に分離させるということは心理的な傷つきを子どもに生じさせます。
これは「親の質」とは無関係であり、決して虐待をする親だから引き離しても子どもに精神的な傷つきが生じないというわけではないのです。
そこで生じた子どもの傷つきは下手すれば生涯にわたりますが、多くの「早く一時保護すれば良かったんだ」という意見の人は、この傷つきに対して無頓着・無関係な立場です。
おそらく「命が最優先だから仕方ない」という人もいるでしょうが、親からの分離によって生じる足元から世界が崩れるような感覚を持ち続けることは、場合によっては「死ぬことよりも生きることの方が苦しい」という心的世界を生じさせるということも理解しておくことが大切です。
ここまでは子どもの心理的な傷つきの話ですが、親側にも問題が生じます。
虐待をする親の一定の割合で、いったん一時保護してしまうことで養育する意欲を減退させる結果につながるのです。
残念ながら、精神的に親であるという状態とは程遠い人が親をやっているという事態が認められ、彼らにとっては一時保護を契機にその後の養育を明確ではないにせよ拒否するということがあるのです。
もちろん「そういう親に育てられるよりはマシ」という意見もあるでしょうが、子どもに「親から捨てられた」という感覚が生じることは否めず、この傷つきは深いものです。
それよりも、親の元に子どもを置き、親を支援していくことで安全で子どもが成長できる環境を構築するという考えが先に立つこともあるわけですね。
このように、児童相談所が軽々に一時保護しないのにもきちんと理由があるわけで、危険があれば何でもかんでも一時保護してしまえばよいというわけではないのです。
もちろん、相談しながら死亡してしまったという事件に関しては、明確に「見立てが甘い」と言わざるを得ませんから、その点で第三者がチェックするというのはありかもしれません。
しかし、第三者として入る人たちが、上記のような「軽々に一時保護しない理由」を軽く見ることがありはしないか懸念もあります(第三者なので、より「安全」な対応を志向するのは間違いない)。
いずれにせよ、子どもを一時保護するという強権をふるうということには、いろいろなリターンが生じるということを理解しておくことが重要ですね。
さて、最後に選択肢③についてを見ていきましょう。
こちらについては、上記の「① 介入的な対応等を的確に行うことができるようにするための体制整備」に記載があります、選択肢の内容が間違いであることがわかりますね。
一時保護を行う職員と支援を行う職員が同じであることで、一時保護された時に敵意をもってしまって支援しづらいという背景があります。
ですから、ここを分けることで支援する職員がやりやすい環境を作るということですね。
いわゆる「A-Tスプリット」の考え方であり、管理者(administrator)と支援者(therapist)を分割(split)して対応しやすくするということです。
こちらの対応には、課題として単純にコストがかかるということがまずは挙げられます。
人を増やすということですから、それにかかる税金も単純に増えるということですからね(怖いのは、人員を変えずに行えという流れです。これが一番可能性が高い)。
それと、これは心理的な視点からの懸念ですが、「実生活では管理者と支援者は分けられていない」のが自然なのです。
つまり、介入という厳しい現実的な面と、心理的に支えるという面は、本来は1人の人間の中に内包されているものなわけです。
もちろん、取っ掛かりとしてこれらを分けておいた方がやりやすいのは誰でも想像できると思いますが、この「本来は分かれていないものを分けて対応する」ことによる弊害は、その後の支援過程の中でひっそりと現れてくる類のものです。
具体的に言えば、介入者へのネガティブな感情は、その人が支援に入らない以上修正される機会がないわけですから、そのネガティブな感情がどこかに対して投影されるという恐れもあるわけです(それが支援者に向かうこともあれば、児童相談所全体に向かうこともあるでしょう)。
いずれにせよ、誰が見ても懸念のない対応なんて存在しないということですから、少なくともここで挙げた程度の可能性は頭の中に入れつつ対応していくという在り様が支援者には求められるだろうと思います。
以上のように、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、選択肢③が不適切と判断できます。
④ 学校、教育委員会、児童福祉施設等の職員は、職務上知り得た児童に関する秘密について守秘義務を負う。
こちらについては「3 児童虐待発生時の迅速・的確な対応」の「(7)関係機関間の連携強化等」に記載がありますね。
内容は以下の通りです。
① 学校・福祉施設等の職員に関する守秘義務の法定化
- 法・学校、児童福祉施設、病院、都道府県警察及び教育委員会等は児童虐待の早期発見に努めることとするとともに、学校・児童福祉施設等の職員について、業務上把握した児童虐待に関する情報について守秘義務を規定する。
② 児童相談所・市町村における情報共有の推進
- 転居ケース等における引継ぎを含め、児童相談所・市町村の情報共有をより効率的・効果的に行うため、全都道府県においてシステム整備の構築を進める。このため、国において、情報共有するための標準的な仕様を示すとともに、システム構築に必要な費用に関する支援を行う。
- 加えて、全国の都道府県間の情報共有システム構築に向けた検討を進める。その際、ICTを活用した、より効果的な情報共有システムの在り方についても検討する。
- 虐待事案に関するデータを収集し、その結果をAIで解析することにより、緊急性の判断に資するツールの開発を加速化する。
③ 児童相談所・市町村における連携・役割分担の推進
- 児童相談所・市町村が市町村送致等の際に活用することとして作成された共通リスクアセスメントツールについて、活用方法の在り方等を含め検討し、児童相談所・市町村がより実践的に活用できるものに見直す。
- 国において、面前DV通告への対応に関するガイドラインの策定、活用方法等を示すことにより、児童相談所と市町村の間の通告を受けた後の対応等に関する役割分担とそれに応じた効率的かつ効果的な対応を行うことができる枠組み作りを進める。
④ 保護者支援プログラムの推進
- 保護者支援プログラムについて、諸外国の先行事例の把握を進めるとともに、活用方法等を周知する。また、専門医療機関や民間団体と連携して治療や保護者支援プログラムを実施する場合の支援を拡充する。さらに、保護者支援プログラムの実施を担う専門人材の養成に取り組む。
- 死亡事例をはじめとした重大事例の分析を行い、これを踏まえた対応策を検証の上、保護者支援プログラムの活用方法を検討し、活かしていく。
- 家庭裁判所による都道府県等に対する保護者指導の勧告など司法関与の仕組みの活用を促進する。
⑤ 児童虐待対応における歯科医師との連携強化
- 乳幼児健診や学校健診などにおいて、歯科医師が虐待の疑いのある子どもに適切に気づき、児童相談所や市町村等の関係機関との連携が強化されるよう、関係団体とも協力しながら、児童虐待防止対策に関する歯科医師向けの研修の実施に向けて取り組む。併せて、研修の状況も踏まえ、該当する子どもに気づいた場合の歯科医療機関向けの対応の手引きを作成する。
⑥ 生活困窮世帯に対する支援
- 生活困窮者自立支援制度において、関係機関と連携しつつ、生活困窮世帯の子どもに対する学習・生活面の支援や、その保護者に対する就労、家計、子どもの養育等に関する支援を含め、世帯の抱える様々な課題の解決に向けた支援を行う。
⑦ 児童相談所と警察の連携強化
- 児童の安全確保に向けた警察と児童相談所との円滑な連携を強化するために、都道府県等の児童福祉担当部局と都道府県警察が連携し、児童相談所への警察OBの常勤的な配置や警察職員の出向等を進める。このために必要な財政支援等の拡充を図るとともに、警察における知識経験を活かした威圧的、暴力的な保護者への対応や警察との連携に役割を果たせるよう配置等に関する活用方策をまとめて全国に周知する。
- 児童相談所と警察との連携を強化するため、情報共有や連携に関する協定等の締結を促すとともに、ケース検討や訓練等の合同研修を実施する。
- 緊急総合対策を踏まえた児童相談所と警察の情報共有を徹底し、情報提供を受けた警察は、児童相談所の援助要請に応じた立入調査等への同行など、関係機関と連携して迅速・的確に対応する。
- 警察において、児童虐待への対処を適切に行うことができるよう、各種研修等を通じて対応力の強化に取り組む。
⑧ 児童相談所・市町村、学校・教育委員会と警察との連携強化
- 要保護児童等の情報の取扱いに関し、学校及び教育委員会が保護者に児童虐待に係る情報元を明かさないこと及び保護者から開示の求めがあった場合に児童相談所等と連携して対応することについて、周知徹底を図る。
- 学校・教育委員会における虐待通告等の対応に関し、保護者による威圧的な要求や暴力の行使が予想される場合、学校と教育委員会が組織的に対応すること、市町村・児童相談所・警察等の関係機関と速やかに情報共有し、連携して対応することについて、周知徹底を図る。
- 要保護児童等が休業日を除き引き続き7日以上欠席した場合、学校等が市町村・児童相談所に速やかに情報提供することについて、周知徹底を図る。
⑨ 家庭裁判所における保護者指導勧告の仕組みの活用の周知、児童福祉法第 28 条措置や親権制限の申立ての適切な運用の促進
- 家庭裁判所における保護者指導勧告の仕組みの活用について、速やかに児童相談所に対する周知徹底を図るとともに、活用事例を収集し、横展開することなどにより、保護者支援を進める。
- 親権者等の意に反する場合の施設入所等措置(児童福祉法第28条措置)や親権停止・喪失の申立て等について、適切な運用を促す。
⑩ 協同面接(代表者聴取)の適切な実施と情報共有の推進
- 子どもの負担軽減を図りつつ、児童虐待に適切に対処し、子どもの2次被害を防止するため、児童相談所、警察及び検察による協同面接(代表者聴取)を引き続き適切に実施する。また、必要な情報共有を含め、より良い連携の在り方を検討していく。
- 児童の再被害を防止する観点から、協同面接(代表者聴取)の実施後においても、検察による刑事処分の際などに行う打合せなど適宜の機会を通じ、検察、警察及び児童相談所の間で、必要な情報の共有を図る。
⑪ 非行のある子どもへの支援の充実強化
- 少年院や保護観察所において、各種研修等を通じて被虐待経験を有する者への対応力の向上に取り組むとともに、引き続き、少年院在院者や保護観察対象者の実状を的確に把握し、関係機関と連携しつつ、一層の適切な指導や支援に取り組む。
⑫ 人権侵犯事件としての調査救済
- 法務局・地方法務局において、人権相談等を通じ、虐待を含む人権侵害の疑われる事案を認知した場合は、速やかに人権侵犯事件として調査を行い、緊急対応を要する場合は、児童相談所、警察、学校及び教育委員会等の関係機関と連携を取りつつ、事案に応じた適切な措置を講じる。
このように、本選択肢の内容に関しては「① 学校・福祉施設等の職員に関する守秘義務の法定化」に記載がありますね。
こうした項目が設定された背景を理解しておきましょう。
虐待と情報漏洩で思い浮かぶのが、2019年1月に千葉県野田市で当時小学校4年生だった女児が父親による虐待で死亡した事件です。
この事件では、もともと学校のアンケートに子どもが父親の暴力を訴え児童相談所が一時保護ましたが、父親の圧力で一時保護を解除し、しかも、野田市教育委員会が被告にアンケートの写しを渡していたことが発覚するなど、行政の対応に強い批判が出ましたね(教育委員会や関係する同市職員12人に対し懲戒処分が行われた)。
これ以外にも突っ込みどころが多すぎて、嫌になる事件でしたね。
上記の事件が2019年1月、本問のもととなった資料は同年3月ですから、緊急性等を踏まえれば関連していると見なしても良いでしょう。
こうした事態もあったため「学校・児童福祉施設等の職員について、業務上把握した児童虐待に関する情報について守秘義務を規定する」ということになったと言えます。
もともと職業的な守秘義務は存在するのですが、それをより明確に示すような意味合いがあるのだと思います。
以上より、選択肢④は適切と判断できます。
⑤ 家庭内暴力〈DV〉対策と児童虐待対応の連携を強化し、婦人相談所や配偶者暴力相談支援センターなどとの連携・協力を行う。
こちらについては「3 児童虐待発生時の迅速・的確な対応」の「(6)DV対応と児童虐待対応との連携強化等」で示されています。
内容は以下の通りです。
① DV対応と児童虐待対応との連携強化
- 法・児童相談所と婦人相談所・配偶者暴力相談支援センターとの情報共有・連携体制を強化する。
- 配偶者からの暴力がある家庭とその家庭における児童虐待について、DV対応を行う機関と児童虐待への対応を行う機関のそれぞれの情報を包括的にアセスメントするリスク判断の手法や、各機関の連携方法を含めた適切な対応の在り方について、調査研究し、ガイドラインを策定する。その際、DVに関する有識者や支援を実際に行っている者を含め、実践を踏まえたよりよい支援の在り方を、ケーススタディに基づき検討する。
- 法的問題の解決が必要な児童虐待事案及び児童虐待を伴うDV事案について、法テラスの法律相談援助等の利用を促進する。
- 配偶者暴力相談支援センター及びDV被害者支援のための民間シェルター並びに児童相談所を対象として、DVと児童虐待の特性・関連性に関する理解の促進や、関係機関における的確な連携強化により、被害の早期発見・早期介入に向けた支援に資する取組を進める。
- 民間シェルターにおけるDV被害者とその子どもに対する支援の実態を把握するとともに、民間シェルターにおけるDVと虐待の特性や関連性への理解を拡大する取組を推進する。
- DV被害者が、児童虐待がある場合にも安心して早期に配偶者暴力相談支援センター、民間シェルター等に相談できるとともに、被害親子に寄り添った保護が行われるよう、配偶者暴力相談支援センター等の対応力向上のための取組を支援する。
- DV被害者支援における、危険度判定(リスクアセスメント)及び加害者対応(加害者プログラム等)の在り方の検討及び実証的研究を進めることにより、機関間連携及び加害者による虐待の危険性の把握も含めた支援体制の充実を図る。
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの主管部(局)の行政職員を対象として、性虐待に関する専門的知識や関係機関との連携の在り方等に関する研修を強化するとともに、ワンストップ支援センターにおいて児童相談所と連携して性虐待に対応した好事例を収集し、全国の支援センター・関係機関に共有する。
- 関係機関の連携をより強化するため、内閣府において作成したDV被害者支援に係る手引き・マニュアルを改訂するとともに、児童相談所を始めとする関係機関への周知徹底を図る。
② 婦人相談所・一時保護所の体制強化
- 婦人相談所において、DV被害者に同伴する子どもの支援の充実を図るため、児童相談所、教育機関、福祉部門及び要保護児童対策地域協議会等の関係機関と連携するコーディネーターを配置する。
- 一時保護を必要とするDV被害者と同伴する子どもを適切な環境において保護できるようにするため、心理的ケアや個別対応を含めた体制整備を促進する。
- 一時保護した子どもが適切に教育を受けられる体制整備を進めるとともに、委託一時保護された子どもが安心・安全に通学するために必要な支援を行う。
③ 婦人相談員の配置の促進
- 婦人相談員が設置されていない市において、DV対応と児童虐待対応との連携強化に資するよう、婦人相談員の配置について検討するよう要請する。
④ 婦人保護施設の機能の充実
- 婦人保護施設に入所した子どもが適切に教育を受けられる体制整備を進めるとともに、安心・安全に通学できるよう、必要な支援を行う。
- 中長期的な保護を必要とするDV被害者と同伴する子どもを適切な環境において保護できるようにするため、心理的ケアや個別対応を含めた体制整備を促進する。
本選択肢の内容は、上記の「① DV対応と児童虐待対応との連携強化」に該当しますね。
児童虐待とDVとは密接な関係にありますから(DV場面を見せるのも虐待ということもありますし、DVする人は虐待もしやすいですね)、ここの連携をもっと強くするということになります。
どの項目を見てもですが、アセスメントをしっかりとできるような形にしていこうという思惑が見て取れますし、それは大切なことだろうと思います。
制度や体制を変えることで、どのくらいアセスメントの力が上がるかは私にはわかりませんが、少なくとも「アセスメントするためのチェック項目を作る」ことでアセスメントの力が伸びるわけではないことも知っておく必要がありますね。
こうしたチェック項目はアセスメントの前提に過ぎず(前提だから知っているのは当たり前で、知っているから終わりではない)、実際の見立ては目の前にある微細な情報をどのように認識・意味づけを行うかになります。
こうした力は、不断の学びと、継続的な臨床実践と、その臨床実践の内容をチェックする機会と、臨床実践で得たストーリーを伝えることで、徐々に身についていくというのが私個人のイメージです。
いずれにせよ、選択肢⑤は適切と判断できます。