健康日本21(第二次)に関する問題です。
こちらはブループリントに記載がありますから、「こころの健康」に関する項目に関しては把握しておきたいところです。
勉強するうえでは、正答以外の選択肢についてどのようなことが述べられているか理解しておきましょう。
問135 健康日本21(第二次)において、こころの健康として数値目標が設定されている精神障害として、適切なものを2つ選べ。
① 依存症
② 気分障害
③ 適応障害
④ 発達障害
⑤ 不安障害
解答のポイント
健康日本21(第二次)で定められている「こころの健康」に関する事項を把握している。
選択肢の解説
健康日本21(第二次)は「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」によって以下の通り示されています。
この方針は、21 世紀の我が国において少子高齢化や疾病構造の変化が進む中で、生活習慣及び社会 環境の改善を通じて、子どもから高齢者まで全ての国民が共に支え合いながら希望や生きがいを持ち、ライフステージに 応じて、健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、その結果、社会保障制度が持続可能なものとなるよう、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な事項を示し、平成25年度か ら平成34年度までの「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」を推進するものである。
このように、上記の方針によって健康日本21が推進されていることがわかりますね。
ちなみに、この方針は健康増進法に基づいて公表されています。
「厚生労働大臣は、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針を定めるものとする(健康増進法第7条第1項)」→「厚生労働大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するものとする(健康増進法第7条第4項)」となっていますので、これが「健康日本21(第二次)」として公表されたわけです。
そして、健康日本21では「国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向」として、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」「生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCDの予防)」「社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上」「健康を支え、守るための社会環境の整備」「栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善」の5つが定められています。
さらに「国民の健康の増進の目標に関する事項」として、国民の健康増進の取組を効果的に推進するため、国が具体的な目標を設定することを明示しています。
具体的目標については、おおむね 10 年間を目途として設定することとし、国は当該目標を達成するための取組を計画的に行うとしていますね。
これらの点を踏まえて、選択肢の解説に入っていきましょう。
① 依存症
健康日本21(第二次)では、「依存症」という枠組みでの具体的数値目標は定められていません。
ただし、アルコールについて達成されるべき3つの目標が設定されており、それは2010年の基準値に比べて2022年までに生活習慣病のリスクを高める量(純アルコール換算で男性40g/日以上、女性20g/日以上)を飲酒している者の割合を15%削減すること、未成年者の飲酒と妊娠中の飲酒を2022年までにゼロにすることです。
これらについては具体的な目標が設定されているということですね。
まずは「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の減少」についてです。
がん・高血圧・脳出血・脂質異常症などの飲酒に関連する多くの健康問題の危険性は、1日平均飲酒量とともにほぼ直線的に上昇することがわかっており、生活習慣病を防ぐためには飲酒量は低ければ低いほどよいことになります。
一方で全ての要因による死亡率、脳梗塞及び虚血性心疾患については、飲酒量との関係がほぼ直線的に上昇するとは言えませんが、その場合でも男性では44g/日(日本酒2合/日)程度以上の飲酒(純アルコール摂取)で非飲酒者や機会飲酒者(たまにしか酒を飲まない者)に比べて危険性が高くなります。また女性では22g/日(日本酒1合/日)程度以上の飲酒で、危険性が高くなります。
摂取量の目安としてのわかりやすさを考慮して以下のような指標が設定されています。
続いて「未成年者の飲酒をなくす」についてです。
未成年者の飲酒は、体内に入ったアルコールが身体の発達に悪影響を及ぼし健全な成長を妨げること、臓器の機能が未完成であるためにアルコールの分解能力が成人に比べて低くアルコールの影響を受けやすいことなどから好ましくありあません。
このような健康問題のみならず、未成年者の飲酒は事件や事故に巻き込まれやすくなるなど、社会的な問題をも引き起こします(もちろん法的にも禁じられています)。
こちらの具体的数値目標は以下の通りです。
最後に「妊娠中の飲酒をなくす」についてです。
妊娠中の飲酒は、胎児性アルコール症候群(アルコールの影響で胎児に脳の発達障害等がおこる疾患)や発育障害を引き起こすため、妊娠中あるいは妊娠しようとしている女性はアルコールを断つことが求められます。
なお授乳中も血中のアルコールが母乳にも移行するため飲酒を控えることが望ましいとされています。
こちらの具体的数値目標は以下の通りです。
以上のように、「依存症」に関しての数値目標は定められていませんが、アルコールに関する数値目標は定められています。
また、「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」の「今後必要となる対策」において、以下のような表記も見られます。
こころの病気への対策は、自殺予防活動がモデルとして参考になる。 自殺の一次予防には、こころの健康を高め孤立を防ぐ地域づくり、一般住民向け、地域のキーパーソン向けの普及啓発がある。国民の健康増進の総合的な推進という観点からは、職場や学校、地域などを通じ、うつ病やアルコール依存症、統合失調症など、自殺と関連が強いとされる精神疾患に対する住民の理解を深めることが重要である。そのため、各種の連絡会議や研修会、講演会等を通じて、偏見の是正を幅広く行うことが必要である。また、啓発を行う際は、単なる情報発信にとどまるだけでなく、相談者や受診者にきちんと対応できるような受皿作りを同時に行うことが極めて重要である。
このようにアルコール依存症に関しては「今後必要となる対策」として考えられているということですね。
他にも、たばこに関する数値目標が定められているなど、「依存症」自体は数値目標が定められていなくても、それと関連する物質に関しては健康日本21(第二次)において触れられているということになりますね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 気分障害
⑤ 不安障害
こうした精神疾患に関する目標については、健康日本21の「社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上」で示されています。
少し長いですが、この内容を引用します。
少子高齢化が進む中で、健康寿命の延伸を実現するには、生活習慣病の予防とともに、社会生活を営むための機能を高齢になっても可能な限り維持することが重要である。
社会生活を営むために必要な機能を維持するために、身体の健康と共に重要なものが、こころの健康である。その健全な維持は、個人の生活の質を大きく左右するものであり、自殺等の社会的損失を防止するため、全ての世代の健やかな心を支える社会づくりを目指し、自殺者の減少、重い抑鬱や不安の低減、職場の支援環境の充実及び子どもの心身の問題への対応の充実を目標とする。
また、将来を担う次世代の健康を支えるため、妊婦や子どもの健康増進が重要であり、子どもの頃からの健全な生活習慣の獲得及び適正体重の子どもの増加を目標とする。
さらに、高齢化に伴う機能の低下を遅らせるためには、高齢者の健康に焦点を当てた取組を強化する必要があり、介護保険サービス利用者の増加の抑制、認知機能低下及びロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防とともに、良好な栄養状態の維持、身体活動量の増加及び就業等の社会参加の促進を目標とする。
上記に係る具体的な目標は別表第三のとおりとし、当該目標の達成に向けて、国は、メンタルヘルス対策の充実、妊婦や子どもの健やかな健康増進に向けた取組、介護予防・支援などの取組を進める。
上記の別表に示されている②に「気分障害・不安障害」とありますね。
これらについて策定時には「10.4%」であったのを、平成34年度(元号が変わったので令和4年度)には「9.4%」にするのが目標であるということですね。
つまり国は「こころの健康の健全な維持は、個人の生活の質を大きく左右するものであり、自殺等の社会的損失を防止するため、全ての世代の健やかな心を支える社会づくりを目指し、自殺者の減少、重い抑鬱や不安の低減、職場の支援環境の充実及び子どもの心身の問題への対応の充実を目標とする」のために気分障害や不安障害の改善が重要であると考えているということになります。
ここで把握しておかねばならないのは、健康日本21(第二次)が策定された時のDSMの版です。
健康日本21(第二次)は2013年から2022年までであり、この時点では「DSM-Ⅳ-TR」であったことを踏まえると、その時の「気分障害」「不安障害」を把握しておくことが重要です(DSM-5の日本語版は2014年から。疾患名がDSM-Ⅳ-TRの表記なので、たぶん英語版を基準にしていないと思われる)。
気分障害に分類されているのは「うつ病性障害」「双極性障害」「その他の気分障害」であり、不安障害に分類されているのは「パニック発作」「広場恐怖」「特定の恐怖症」「社会恐怖」「強迫性障害」「外傷後ストレス障害」「急性ストレス障害」「全般性不安障害」となります。
これらはDSM-5ではかなりの改変が加えられ、別立ての分類になっているものも多いですね。
具体的には、旧うつ病性障害は「抑うつ障害群」と「双極性障害群」に分けられ、旧不安障害は「不安障害群」「強迫性障害群」「心的外傷後ストレス障害群」に分けられています。
ですが、健康日本21(第二次)の策定時には、これらの疾患すべてを含めて減少させようと目標を設定したということです。
そのように考えると、「自殺等の社会的損失を防止するため、全ての世代の健やかな心を支える社会づくりを目指し、自殺者の減少、重い抑鬱や不安の低減」のために、気分障害および不安障害に具体的数値目標を定めたのは、それほどおかしな話ではないだろうと考えられますね。
以上より、選択肢②および選択肢⑤が適切と判断できます。
③ 適応障害
健康日本21(第二次)に適応障害自体に関する数値目標は定められていません。
ただし、「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」の「今後必要となる対策」として、以下のように示されています。
ストレス対策としては、①ストレスに対する個人の対処能力を高めること、②個人を取り巻く周囲のサポートを充実させること、③ストレスの少ない社会を作ること、が必要であるとされている。特に個人の対処能力を高めるためには、ストレスに関する正しい知識の習得、健康的な生活習慣による心身の健康の維持、自らのストレスの状態の把握、リラックスや気分転換などに柔軟に取り組む、などが重要であり、こうした情報を広く提供していくことが必要である。
適応障害とは「外界との適応」に課題がある状態なわけですから、ストレスの少ない社会の構築などは適応障害改善と係わる内容と言えるでしょう。
ただし、適応障害という具体的な疾患名に関しての記述は見られませんね。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 発達障害
健康日本21(第二次)に発達障害自体に関する数値目標は定められていません。
ただし、これと関連する項目として「小児人口 10 万人当たりの小児科医・児童精神科医師の割合の増加」は定められています。
小児保健医療では、育児不安や小児の成長発達上の相談、親子の心のケア等を行うほか、近年増加する児童虐待や発達障害をはじめ、様々な子どものこころの問題への対応を行う必要がある。そのため、母子保健と精神保健活動の連携を図るとともに、小児科医や児童精神を学んだ医師の割合が増加することによって、子どもの心身の問題への対応が充実することが期待されることから、小児科医・児童精神科医師の割合を指標として設定する。
具体的な目標に関しては、選択肢②および選択肢⑤の解説で示した表の④に該当します。
こちらは増加傾向にあるということですね。
また、発達障害の一般的な理解として器質的な要因も挙げられていることから、具体的な数値目標を定めたとしても、減らす算段が難しいのではないかと感じますね。
もちろん、児童虐待によって生じる「ADHD様の反応」を減らすために、虐待事案を減らすことは重要ですし、こちらについては健康日本21(第二次)の一翼を担う「健やか親子21(第二次)」で示されていますね。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。