臨床心理士 ロールシャッハ:H7-36

継起分析に関する問題ですね。
明らかに片口法に偏った問題と言えるでしょう。
継起分析に欠かせない、各カードの特徴を問う内容になっています。

継起分析の方法に関して、一致した定式が存在しているわけではありません。
すでにRorschach(1921)、Rorschach(1976)は、把握型の問題に限定して、継起分析の観点を導入しており、更にKlopfer&Kelley(1942)は、このような観点を拡大・発展させ、以下の12項目を提唱しています。

  1. それぞれの図版におけるインクブロットそのものが、どのような反応領域、どのような決定因、どのような内容を生じやすいか知っておく
  2. 継起、構成などの点において、反応領域の選び方を検討する。
  3. 各図版に与えられる反応数に注意する。
  4. 継起・ブロットの属性に対する関係・反応領域・内容との関係において、決定因の用い方を検討する。
  5. 各図版ごとに形態水準の変化の様相をみる。
  6. 自由反応段階・質問段階・限界吟味段階、さらに検査が終わった後、被験者がもらす感想に注意する。
  7. 特定の図版、特定の反応に関係があると思われる、被験者の行動に注意する。
  8. 各図版ごとに、反応時間がどのように変化するかに注意し、反応の領域・決定因・内容との関係において、これを検討する。
  9. 検査時における色彩の力動的関係を、色彩反応そのものだけではなく、色彩因子に対する反応すべての面を考慮しながら検討する。
  10. 9と同様の視点から、陰影の力動的関係を検討する。
  11. 自由反応段階で生じた反応と、質問段階、あるいは限界吟味段階で生じた反応とを比較する。
  12. 被験者と検査者との関係が、検査にいかなる影響を及ぼすかを考慮する。

このように、継起分析的な解釈に際して、基本的かつ不可欠の条件は、各図版の知覚的特性や、それに対してなされる反応の特徴を知ることです。
換言すれば、継起的解釈は、各図版の諸特性に対する熟知の程度に応じて、臨床的有効性を発揮することになるということですね。
では、解説に移りましょう。

A.カードⅠは平凡反応として蝶や蛾やコウモリが与えられるが、普通の人では健康な人間性を反映するものとしてM反応も見られる。

カードⅠは、全体として「こうもり」「ちょう」に見られることが多く、この二つはP反応です。
また、WS領域に「動物の顔」「鬼の面」を見る人も多いです。
これに反して、「人間の顔」に見られることは少ないですね。

そのほか、D1に対して「人が立っている」という反応もよく生じます。
このHは女性であることが多いようです。
ここでは、全体反応のPが出現しやすく、被験者は緊張を解かれて反応するが、その上に、少し能力のある人であれば、Mの反応もできる可能性があります。
この図版によって被験者の能力を相当予測できるといってよいでしょう。

この図版は、他の図版に比べてWが多くDは少ないです。
ただしWが多いといっても、構成度の高い全体反応は少ないと言って良く、決定因はF、FM、M、FC′が生じやすいです。
なお、濃淡が目立つにも関わらず、材質反応は以外に生じにくいです。

不快・暗い・汚い・粗いなどの否定的印象が目立つ図版で、この図版は特にdislike cardになることはないが、like cardとして選ばれることもないとされています。
R1Tは5~20秒の間であり、特にショック現象が生じることも少ないです。
R1Tが40秒を超える者は、正常成人の10%以下であり、Rejは生じにくいです。

私はエクスナー法で学んだ人間なので、本選択肢は×を選んでしまいます。
なぜならエクスナー法において「蛾」はP反応ではないからです。
蝶は止まっているときに羽をたたみ、蛾は広げているでしょう?
そういう違いって大きいと思うのです。

本選択肢は公式解答では○となっていますから、片口法ではもしかしたら「蛾」でもPとするのでしょうか。
少なくとも当時はそれで良くても、現在のエクスナー法が広がってきた状況で本選択肢は不適切というべきでしょうね。

B.カードⅡは赤色部分が加わるので、色彩ショックを起こしやすい。従って、ここで反応に失敗しても対して問題ではない。

カードⅡでは、はじめて色彩(赤)が入ってきます。
色彩ショックを示す人は、この図版を「気味が悪い」といったり、R1Tの遅滞や形態質の低下を示しやすいです。
検査者はここで、被験者が赤色領域に対して、どのような態度をとるかに注意しなければなりません。
色彩ショックについては後述しましょう。

この図版では、全体に対する「人間が二人で踊っている」などの人間像を主題とする反応、Dに対して「熊」「犬」「象」などの四足獣が見られやすく、これらはP反応です。
色彩ショックの強いときにはP反応は生じにくいです。
他の図版でいくつかのMを示す人が、この図版で示さない場合、色彩が妨害的に作用したと考えるのが妥当でしょう。

カードⅠに比べて、Wに集中する傾向は減少し、WとDに分散します。
また、中央のSが選ばれやすいですね。
決定因としてはF、M、FMなどが生じやすいとされています。

不快な・汚い・うるさい・熱い・嫌いなど、カードⅠよりさらに否定的な印象が多くります。
like cardに選ばれにくく、dislike cardとして選ばれる可能性がもっとも高い図版です。
R1Tは個人差が激しいが、一般に遅滞する傾向が認められます。
R1T<5″の人が20%程度見られ、Rejは3%程度生じ、色彩・性ショックを示しやすい人にとっては、もっとも反応しにくい図版となります。

この図版の不快さは、黒と赤のインクが混合しているため、汚らしい不潔な印象を与えることによると思われます。
つまり、この図版で形態水準の高い構成的全体反応を与えることのできる人は、情緒的統制が優れているといえるでしょう。

ちなみに色彩ショック(color shock)とは、神経症の重要な指標と考えられており、何をもって色彩ショックが存在するかを示すかについてはBrosin&Fromm(1940)が以下を示しています。

  1. 初発反応時間の遅滞
  2. 感嘆の叫び
  3. いらだち・攻撃性・消極性などの防衛的態度、不安・緊張・ストレスを示すような注釈
  4. 反応数の減少
  5. 反応の形態質の低下
  6. 豊かさ・独創性・包容性・巧妙さの減退した貧弱な反応内容
  7. 反応の拒否・失敗
  8. 継起型の混乱
  9. P反応の認知の困難
  10. 決定因としての色彩因子の回避
片口(1987)は「色彩ショック現象は、本来、神経症者において認められた」「その有効性は、神経症者を対象として検討すべきであると考える」としています。

以上の事柄より、記述の「ここで反応に失敗してもたいして問題はない」は誤りですから×となります。

C.カードⅢでは、M反応が平凡反応として与えられる。従って、ここで平凡反応がないことは大きなマイナスとして評価される。

赤色領域は存在するが、それは黒の領域と完全に分離しているため、カードⅡほど色彩による障害は起こりにくいです。
カードⅡで色彩ショックがあった場合、その「回復性」をみる図版として非常に大切になります。

この図版のP反応は、Wに対する「人間」を主題とするものであり、その出現率は極めて高いとされています。
他の図版に、ほとんど「人間」を見ることのない被験者でも、ここでは、たやすくそれを見ることができます。
このP反応は、全図版中最も容易に生じるM反応でもありますから、決定因ではMが最高であり、80%以上の人が1Mあるいは、それ以上を示し、Fを大きく上回るので、Mが欠けるときは注意しなければなりません。
普通の大人であれば、まずMを示す場合がほとんどです。

幼稚園児などでは中央の「蝶」のほうが先に認知されることが多いです。
P反応の人間に、赤色部を含めて全体反応をする人は強迫傾向が強いという解釈もあり得ますが、その統合の仕方に無理があるときは、神経症であることが多いともされています。

河合(1969)は「成人の被験者が、この図版で平凡反応のM反応をしなかったとき、限界検査によって、その程度を知ることが絶対必要である」としています。
河合隼雄先生の博士論文はロールシャッハに関するものですよ、知ってましたか?

反応内容がHでなく(H)や(A)であれば、対人関係に円満さを欠くことなどが推定できます。
また、この「人間」を、ある人は男、ある人は女、と見るがその理由も様々です。
したがって、ブロットのどのような特徴によって、性別を決定したかを限界吟味段階で確かめておくのが良いです。
なお、赤色領域は「火」「蝶」あるいは、「蝶ネクタイ」に見られやすいですね。

珍しい・おもしろい・柔らかい・軽い、など比較的肯定的な印象が優位です。
R1Tは短く、Rejは生じません。

以上の事柄より、Mの有無は解釈上重要な意味を持つので○と判断できます。

D.カードⅣでは、大男や大きな木が見られるので父親カードといわれ、父親像を評価することができるが、濃淡もあるので母親への依存性もみることができる。

カードⅣのブロット全般にひろがった黒く重い陰影は、不安で抑うつ的な被験者には、少なからず衝撃を与えるとされています。
これをBochner&Halpern(1945)は「暗黒ショック」と呼んでおり、さらに彼らは、この図版が父親や権威者を表すといっており、この説はかなり一般に受け入れられています。
すなわち、このカードは「父親カード」と呼ばれ、カードⅦが「母親カード」と呼ばれるのと対照的です。
いずれにしても重苦しい、強そうな、いかつい男性的な印象を与える図版と言えるでしょう(現代でも男性イメージがそうであるとは言えないのでしょうけどね)。

Wに対する「毛皮」がP反応です。
また、Wに対しての「人間」「ゴリラ」「こうもり」なども生じやすいです。
子どもにおいては、テレビや漫画の影響のためか「怪物」の多発が見られます。

不快な・暗い・大きい・広い・淋しいなど主として否定的な印象が優位を占め、男性的・固い・悲しい・冷たいなどの印象がこれに次ぎます。
したがって、父親や権威像を象徴するという説は一応裏づけが取れています。
dislike cardに選ばれる可能性は2番目に高いです。
R1Tは一般に遅滞し50秒以上の人が13%も見られます。
単純なW反応が多く、この図版における反応の60~70%がこの種のものです。
決定因はFが多く全反応の約40%を占め、ついでFT、FM、M、C′の順に多くなります。
ちなみに、Linder(1952)はこのカードを「自殺カード」と名づけて、自殺念慮や自己否定的観念内容を持つ、重篤なうつ状態が現われることがあるとしています。

これらの事柄より、父親像の評価は可能であるが、「濃淡もあるので母親への依存性もみることができる」のはカードⅦのことを指しているので×と判断できます。

E.カードⅤは濃淡のために、毛皮が平凡反応として与えられる。従って、ここへきて混乱した被験者も安心して回復する。

カードⅤでの反応は一般に容易であり、Wの「こうもり」「蝶」がP反応です。
ちょうど、中間の休息地のような役割を持っているものです。
この図版に一つも反応を与えることができないときは、何らかの心的障害が存在することが考えられます。
とくにこれ以前の図版には、いくつかの反応を与えておきながら、ここにいたって突然Rejを示したならば問題です。
このような場合、現実との接触の薄さが考えられ、統合失調症か、かなり重篤な人格障害の存在を疑ってよいこともあるとされています。
W反応の最も生じやすい図版であり、このWは全く単純な性質のものであることが多く、この図版における全反応数の70%にも達します。

悲しい・淋しい・不快な・強い・重い・汚い・大きいなどどちらかといえば否定的な印象、あるいは力強さのような肯定的な印象を与えるようです。
そのためか、like cardにもdislike cardにも選ばれやすく、どちらか一方に偏ることはありません。
R1Tは全図版中最も短く、R1T<5”を示す人が被験者の半数に達するほどです。
そしてR1T>40”の人は約5%です。
決定因としてはFについでFMが多く「こうもり」反応の40%、「蝶」反応の20%がこれです。

選択肢にある「混乱した被験者も安心して回復する」という記述は正しいと言えるでしょう。
Ⅱ、Ⅲとカラー図版、Ⅳで濃淡の強い図版という流れの中で、中休み的な要素のあるのがカードⅤです。
ただし、記述にある「毛皮が平凡反応」はⅥ図版のことを指しているものと思われます。

以上より、本選択肢は×と判断できます。

※Ⅵ図版以降の特徴も以下に示します。これらの事柄が実施の際に重要になってくるので…。

【Ⅵカード】
陰影反応の最も生じやすい図版であり、従って、この図版にそれが全く欠けており、限界吟味でも否定されるときには注意が必要。この図版でのP反応は、Wの「毛皮」である。これはカードⅣの場合よりもFTあるいはTFである可能性が高い。現段階では、P反応ではないが、Wに対しての「楽器」は高確率で出現する。
この図版は「陰茎」や「膣」などの性的なイメージとしても見られやすい。しかし、これらのイメージは一般に直接的な表現が抑制されがちなため、別の表現に置き換えられたりするため、R1Tが遅滞することがある。また“性ショック”が強い場合にはすべての観念が制止されRejとなることも稀ではない。
不快な・悲しい・暗い・珍しい・静かな・広いなどの印象がある。like cardには選ばれにくい。しかしdislike cardに選ばれるわけでもない。R1Tは一般に遅く、50秒以上を示す人が18%みられる。W反応は全反応の半数を上回り、決定因はFが多く60%にも達する。FTが生じやすく、30~50%の人がこれを示す。Mは生じにくく5~10%程度であるが、運動性の弱いmは生じやすい。

【Ⅶカード】
いわゆる「母親カード」であり、女性的な印象を与える図版である。WあるいはDで「人間」の姿を見て、しかも多くの人はこれを女性と見る。カードⅣとは対照的に、この図版は、やさしさと軽快さを感じさせるものである。Dの「動物」(片口のみ)、Wの「人間」がP反応。
この図版は、漠然とした不安感を反映するとされるVやYを生じやすい。それゆえ、この図版に現われるVやYは、他の図版に現われたときよりもその意味は弱い。WやDが選ばれやすく、ときに中央のS領域が取り上げられる。またM、FM、VFなどを生じやすい。
女性的・軽い・柔らかい・なめらかな・弱い・面白い・薄いなど、肯定的な印象が圧倒的。全図版中、like cardに選ばれる可能性が最も高い。これに対して、dislike cardに選ばれることは少ない。R1Tはやや遅い。しかし50秒以上を示す人は稀で7%である。W反応は全反応中の約半数を占め、決定因としてはMが生じやすく、Pである人間反応の約95%がMである。FTは20%の人が示す。

【Ⅷカード】
まずこの図版は、最初の多彩色図版であること、ついでカードⅢ以降、はじめての彩色図版であることに留意しなければならない。この二つの条件によって、ほとんどの被験者は、多かれ少なかれ色彩による動揺を示す。それゆえ、この図版に全く感動を示さない人は、かえって注意しなければならない。情緒的衝撃に対して敏感な人は、この図版の色彩によってR1Tの遅滞、軽度の反応の制止を示す一方、多くの観念内容が誘発され、その結果、反応数の増大を見ることもある。過敏で神経症的な傾向を持つ人は、強い色彩ショックのために観念運動が停止し、ある程度の時間的猶予を与えても、ショックからの回復ができずRejに終わることもある。また、Rejに至らないまでも、著しく形態質の低下した反応を与えることも多い。Rorschach(1921)は、色彩ショックの判定に際し、この図版に最も重きを置いたことは妥当だが、何らかの理由で全体反応に固執する被験者が、この図版では失敗しやすいことも忘れてはならない。
女性的・軽い・熱い・不快な・弱い・細いなどの印象が強い。like cardには全図版中3番目に選ばれやすく、dislike cardには選ばれにくい。R1Tは一般に遅滞し、50秒以上は約10%である。またD領域が選ばれやすく、全反応中の40~60%を占める。決定因ではF、FM、FC、CFの順で多く、ことにFCは全図版の中で、最も高確率で見られる。ついでFTが多く、Mは稀である。

【Ⅸカード】
この図版は、きわめてRejを生じやすい反面、空想を多く誘発する性質を有している。Wにまとめる困難さは天下一品。強い色彩で構成され、しかも、これらが分割されずに相互に混合しているので、Dとしての独立性にも乏しい。これがRejを生じやすい原因をなすと同時に、この図版にP反応が欠如する理由ともなる(エクスナー法にはP反応はある)。思考が現実的な人と、空想的な人ではきわめて顕著な差が生じる。前者は、この図版のさまざまな色彩によって幻惑され、統覚に困難をきたし、1~2個の反応を与えるのが精一杯であるのに対して、後者は、不定形なさまざまの色彩によって、楽しく豊かな幻想的なイメージの世界に引き込まれていく。その結果、反応数はむしろ増大の傾向をとる。また、注意念慮や対人恐怖などの症状を持つ臨床群においては、「人の顔が隠されている」「こちらを見ている」などの反応がしばしば見られる。
珍しい・柔らかい・不快な・大きい・嫌い・淋しいなど、どちらかといえば否定的な印象に傾く。like cardあるいはdislike cardは、とくに偏らないが、dislike cardに選ばれる場合が多い。R1Tは全図版中最も遅く、50秒以上を示す人が25%にも達する。決定因では、F、CF、FC、Mが多く、ことに60%以上の人がCFを示す。mは全図版中最も多く出現し、30~50%の人がこれを示す。全図版中の中で最も反応内容に男女差が見られやすい。

【Ⅹカード】
片口法ではPは存在せず、エクスナーでは「クモ」がPである。そのほかにも「ウサギの顔」「虫」「動物」などは、ごく一般に見られる反応である。ここではFCがカードⅧとほぼ同程度に見られる。FCを一つも示さない被験者には、この図版を用いてFCの限界吟味を行うと良い。W反応を多く与えようとする被験者では、当惑しながらも、昆虫、動物、花などの集合体としてまとめようとする場合が多く見られる。
にぎやかな・軽い・柔らかい・うるさい・珍しい・速い・薄いなどの印象が特徴的。like cardに選ばれる可能性が高く、カードⅦについで2番目である。R1Tは遅いほうに属し、50秒以上を示すものが15%程度見られる。Wは少なく、全図版中の30%を占めるに過ぎない。
これらの事柄について熟知しておくことが実施には必要である。また、『新・心理診断法』のp234-p235に分かりやすい表が掲載されているので参考にされたし。

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